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 清冽な飛沫を浴びて咲くネコノメソウ

 二日目は、一日早く帰る予定の小玉氏とともに、家まで車のスペアーキーを取りに行くことにする。車止めまで、真っ直ぐ歩いて2時間、車で2時間、往復すれば合計8時間もかかる。たった一つのスペアーキーを手にするのに丸一日かかる。天気はこれ以上ない小春日和なのに、実に情けない山ごもりとなってしまった。それにしても余計な時間を空費させてしまった小玉氏には、恐縮せざるを得なかった。スミマセン!
 芽吹き・・・初日は殺風景な風景だったが、昨日の好天で低木類の芽吹きも始まった。
 私は、迷惑をかける小玉氏のおみやげ用にと、山菜を採りながら小沢を登った。何度採取しても、次から次へと顔を出す山菜たち・・・汲めども尽きぬ恵み、生命踊る千変万化のドラマは、数日間山にこもらないと決して見ることのできない連続ドラマだ。
 振り返ると、日当たりの良い東側斜面のブナは、早くも新緑が芽生え出した。背後の残雪をバックに淡い新緑が眩しい。テン場8時半出発、車止め着10時30分。スペアーキーを持って、再度車止めに着いたのが午後3時。車で帰る小玉氏と別れ、一人山に向かった。一度も休まず、テン場へ向かった。下る途中、今晩の山菜を摘む。
 我が会では、ビールは重いので山には持ち込み禁止。しかし、車のキーを落としたお陰で、ビールを6本調達できた。雪代の流れで冷やすと、しこたま冷たく美味かった。
 早春の山の幸。ザルは直径30cm、まずまずの良型が揃った。翌朝早く、長谷川福会長が釣りに出掛け、何と、私が落とした車のキーを拾ってきたのだった。落差200mの急斜面に落としたとばかり思っていた。ところが、一日目の岩魚釣りを撮影している際に、沢筋の砂場に落としていたらしい。それにしてもラッキーとしか言いようがない。ハプニング続きの幕開けだったが、終わってみれば、運が良く、全て二重丸だった。感謝、感謝!
 最後の三日目も快晴。ニリンソウも白花をたくさん咲かせ、下を流れるせせらぎもキラキラと輝いた。
 テン場を綺麗に片付け、山菜を採りながらのんびり急な小沢を登る。ブナの根元に座り、森を360度見渡す。すると、さえずる鳥たちも、林床に咲く山野草の群れも、林立するブナたちも・・・早春の陽光に踊っているようにも見えた。
 初日は、まだ芽吹いていなかったブナも、暖かい陽射しに至る所で芽吹きが始まった。灰色から萌黄色へ・・・その生命のドラマは、驚くほどのスピードで展開される。「山笑う」とは、まさにこのことを言うのだろう。
 ブナは、葉が開く前に、丸く膨らんだ花芽が開く。オス花は、大量の花粉を放出して落下する。つまりブナは、風で花粉を飛ばす風媒花である。その内の数億分の一とも言われる超低確率で、メス花と受粉、やがて果実に成長することができる。
 初日・4月29日撮影「ブナの峰走り」初期
 三日後・5月1日撮影「ブナの峰走り」中期

 上に同一場所で撮影した写真二枚「新緑の峰走り」を並べてみた。上は初日、新緑は谷底からまばらに始まっているが、まだ尾根まで達していない。下の三日後の写真は、新緑の波が尾根まで達し、さらに谷の上流部へと、大きく広がっているのが分かる。これが「新緑の峰走り」と呼ばれる現象だ。もう一週間も過ぎれば、全山燃えるような新緑に包まれることだろう。
 逆光に映えるブナの新緑、色はまさに萌黄色。やっぱり美しい。葉は卵型からやや菱形、枝に互生する。若葉は、葉の縁に白い毛が密生する。
 下る途中、山中でよく見掛けるハシボソガラスを撮る。カラスは、ハシブトとハシボソの二種類いるが、下界で残飯を食い荒らすカラスはハシブトガラスだ。ハシブトは悪臭が強く不味いが、ハシボソは、山間渓流に生息し、昔は食用としてよく食べたと記録されている。香ばしく鶏肉のような味で美味いらしい。
 地元のマタギ・・・熊鈴をやたら鳴らしながら下ってきた我々を見て「熊を追っ払っているんだもんな。これじゃ熊っ子一匹見えやしにぇ」とぼやかれてしまった。「上にまだ誰かいるが」「いや、誰もいませんよ」と言うと、気を取り直し山の奥に向かって歩き出した。
 春クマが冬ごもりを終え、穴から出るのは、4月中旬から5月初旬。ただし、その冬に出産したメスグマは、山々の草木に葉や花が芽吹くまで穴から出てこない。従って5月下旬頃に穴から出てくることもある。

 穴から出たばかりのクマは、まず雪の残っている山の少し高い方に移動する。前の年に落ちたドングリや雪崩で死んだカモシカの肉を食べる。草木が芽吹く頃になると、タムシバの花、ブナの葉や花芽を夢中で食べる。クマは、新緑の峰走りに合わせるかのように、山の高い方へ登っていく。
 ヒトリシズカ・・・地表から6本の茎が伸び、白いブラシのような花を包み込むように咲く。暖かい陽射しを浴びると、花穂を優しく包み込む4枚の緑葉は横に大きく広げて光を取り込む。急に冷え込みがきつくなる早朝と夕暮れともなれば、きっと寒さから白い花穂を守るように包み込むに違いない。
 ブナ越しに、新緑の波が広がり始めた山並みを望む。ふと下の斜面を見れば、山菜が至る所に顔を出していた。急遽荷を降ろし、山菜採りモードへ。アイコ、シドケ、コゴミ、タラノメを買い物袋一杯に採る。
 水辺で遊んでいたシノリガモのオス。色鮮やかな紋様に彩られた鳥で、遠くからでもよく目立つ。その美しい姿を横から撮れなかったのが残念!野生の生き物は、カメラを構えるとポーズをとるどころか逃げ出してしまう。やっぱり、ベストショットを撮るのは難しい。
 車止め付近の山は、まさに春爛漫。ブナの萌黄色に、白と淡いピンクのヤマザクラが混在し、新緑の美はクライマックスに近い。
 車のキーを落としたハプニングは、よく考えると、ある不思議なことから始まった。昨年3月、京都の鞍馬寺でお守りの鈴を買った。昨年の山釣りでは、常に釣りベストに下げて、チリン、チリンと鳴らしながら歩いていた。今回もそのお守り鈴を使うべく、車に積んだはずだが、釣りベストに付けるのを忘れていた。二日目、スペアキーを取りに車まで戻ると、そのお守り鈴は、何と車の外に無造作に落ちていた。それを見た瞬間、何となく罰が当たったような予感がした。

 スペアキーを家から持ち帰り、テン場に戻る時は、そのお守り鈴を釣りベストに下げて山に入った。すると、翌日、長谷川副会長が偶然にも落とした車のキーを拾ったのだ。お守り鈴を下げて山に入った途端、ラッキーなことが起こった。単なる偶然にしては出来過ぎたドラマのようにも思う。これまでお守りを信じたことはなかったが、京都・鞍馬寺のお守り鈴だけは信じようと思う。
水陸両用アイテム試用記
 これまで沢を歩く時は渓流足袋、山越えルートを歩く時は磯用スパイクシューズあるいはスパイク付地下足袋を履いていた。この欠点は、二種類の靴を持参しなければならず荷が重くなること。今回、T氏が愛用している4本爪アイゼンを試用してみた。コンパクトでかつ値段が1500円程度と安いのが特徴。落とした車のキー探しなど、4本爪アイゼンを着用した急斜面の上り下りを、通常の何倍も繰り返した。その結果、やたら欠点だけが目立った。(実は右と左を逆に着用していた(笑))

 滑り止めの効果としては十分だが、急斜面の上り下りでは、ズレやすい。ズレないようにきつく締めると足が痛い。歩き過ぎたせいもあるが、足裏が真っ赤になるほど痛かった。帰る途中で、T氏に逆だと指摘され、履き直すと、確かに痛みは多少少なくなった。それでもハードでかつ長時間の山越えでは、疑問符をつけざるを得ない。ただし、軽量・コンパクトで着脱が簡単なだけに、ちょっとした高巻きには、かなり有効である。

 今度は、渓流用に開発された新製品ピンソールをぜひ試してみたいと思う。 

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