残雪の春山Part1 残雪の春山Part2 山釣り紀行TOP



穴から出たクマの行動、根開き、多様な源流岩魚、タラノメ、カタバミ、ニリンソウ、キケマン、ウルイ、アイコ・・・
 二日目、急登の脇尾根を登り、一気に源流へ。
 急斜面の尾根筋には、ブナの大木が林立している。
 芽吹く前の乾いた林床には、春の陽光が一杯に降り注ぐ。

 大量の落葉の中から、イワウチワが一面に顔を出し満開に咲き誇っている。
 早春のブナ林を美しく彩る光景は圧巻だ。
 残雪がある早春の一時だけしか見られないだけに、
 イワウチワの大群生はなかなかお目にかかれない。
 寒々しい鉛色の風景

 振り返ると、対岸には大量の雪渓が連なり谷を埋め尽くしている。
 いつもなら芽吹きが始まる時季だが、今年はかなり遅い。
 白神山地は、標高が低くなだらか。
 だから、谷や斜面、尾根、山頂までブナが占めている。
 ブナに特化した極相林は、他の山系にはみられない特異な風景だと思う。
 小雨がちらついていた空が一転、ブナ林に柔らかい陽射しが射し込んできた。
 苔生すブナの根元で一休み。
 そろそろクマも穴から出る頃だ。
 クマたちは、雪崩地に集まり、
 秋に落ちたブナやミズナラの実、カモシカの死骸を食べる。

 昨年はブナの実が大豊作だったから、今年は不作の年。
 早くも、クマ出没注意報が発令されている。
 ちなみに、ブナの実が豊作の年は、産卵率がアップする。

 出産したばかりの親子グマが穴から出るのは、
 深山の森が新緑に包まれる5月下旬頃と遅い。
 こうした親子グマの行動は、丸見えの危険な季節を
 回避しようとする野生動物の本能に違いない。
 ブナの大木を縫うように歩く

 全員クマ避け鈴を鳴らしながら歩く。
 この季節、クマを追うマタギに会うと、必ず怒られる。
 我々は奥山のクマを追っ払いながら歩くのだから、
 クマに会いたい人にとっては迷惑千万なのも当然か。
 ブナの根周り穴(根開き)

 マタギは、これを「根開き」と呼び
 春クマ狩りのタイミングを判断する重要な尺度としている。
 4月下旬〜5月上旬の残雪期は、見通しが良く
 白い雪の上は、黒いクマを発見しやすい。
 左:ブナが林立する小沢には、残雪が沢沿いに残っている。
 右:雪崩で埋まった沢は、SBのトンネルから雪解け水が流れ出ている。
 小沢付近は、急な雪崩斜面で危険、
 不用意に足を滑らすと、沢まで一気に落ちてしまう。
 先頭は、堅い雪斜面に、足場を作りながら慎重に進む。
 日当たりの良し悪しで風景は一変する。
 苔生す杣道は見通しも良く快適、
 その両サイドにはピンクのイワウチワが咲き乱れ美しい。 
 裸木の森をゆく
 ブナ林が芽吹く前は、枝先の奇妙な形や樹形の全体像がよく分かる。
 奇妙奇天烈な樹形は、豪雪と日本海からの季節風の凄まじさが伝わってくる。
 分厚い雪渓に覆われた渓を俯瞰する。
 沢沿いは、山菜も山野草もまだ土の中に眠っている。
 雪代に逆巻く渓では、岩魚が淀みの岩陰に微動だにせず隠れている。
 中村会長と章氏は本流へ
 私と金光氏は、滝を攀じ、小沢に出る。
 沢は、雪渓に埋まり、釣るポイントは極端に少ない。
 そのわずかなポイントを狙って竿を出す。
 瀬に出る前の岩魚釣りは、線ではなく点で底を探るのが鉄則。
 春一番だけに、良型の岩魚が竿を絞った。
 顔が真っ黒にサビついた岩魚。
 早春にしては、意外に魚体は白っぽいのが印象に残った。
 潜む場所によって、岩魚も千差万別・・・
 全身真っ黒にサビついた岩魚
 岩魚は冬の間、暗い岩陰に仮死状態で越冬する。
 岩魚は保護色だから、残雪期は、こうした全身真っ黒が標準タイプ。
 胸ビレの白い縁どりが岩魚の大きな特徴だ。
 いつも尺クラスの岩魚が潜む滝壺。
 階段状の渓に生息する岩魚たちは、
 こうした巨岩の滝壺深くに大挙潜んでいる。
 手前にブナの倒木もあり、越冬するには最適の場所。
 ポイントは、真ん中の巨岩の岩穴・・・
 狙ったとおり、尺クラスの岩魚が竿を満月に
 う〜ん、見事な魚体だ。
 全身、橙色に染まった黄金岩魚が早春の光にキラリと光った。

 胸ビレ、腹ビレ、尻ビレとも白い縁どりになっている点に注目。
 これが岩魚属の大きな特徴。
 さらに魚体が大きくなるにつれて、パーマークが消え
 斑点が不鮮明になるのも源流岩魚の特徴と言える。
 高度がグングン上がる沢では、
 わずか数百メートル進むと、雪渓に埋まって釣るポイントはなくなる。
 その最後のポイントで釣り上げた岩魚。
 光が降り注ぐ岸に寄せて、シャッターを切る。
 精悍な面構えをしたオス岩魚・・・この一尾に出合えただけで満足、満足。
 小沢で竿を納め、本流に入った二人を追い掛ける。
 分厚いSBを数回越えると、仲間二人に追いつく。
 山菜も山野草もないだけに、ひたすら岩魚釣りに没頭していた。
 早春の岩魚・・・白い雪の上に置くと、黒っぽくサビついているのが良く分かる。
 小沢の岩魚と違って、斑点が大きく鮮明だ。
 岩魚を釣り上げた瞬間・・・右の水面に顔を出した岩魚の姿が見える。
 雪渓を吹き抜ける寒さも忘れ、心躍る瞬間だ。
 この感激は、釣り師にしか味わえない至福のひととき。
 顔から胸ヒレ、腹ヒレ、尻ヒレ、尾ヒレが黒くサビついている。
 側線より下には、薄っすらと橙色に染まったニッコウイワナ系
 魚体は黄色ぽく、腹部は柿色に染まった陸封岩魚の特徴をよく示している。

 各個体をよく観察すれば、同じ水系でも
 遺伝子の多様性に富んでいるのがよく分かる。
 それが養殖岩魚と天然岩魚の大きな違いだ。
 雪渓に埋め尽くされたわずかなポイントを丁寧に探る中村会長。
 長大な雪崩斜面を見上げては、穴から出たクマの姿を追う。
 クマ避け鈴を鳴らしていれば、ほぽ100%クマの姿を見ることはないのに・・・。

 クマは穴に入る前に、ヤニの多い木を食べて、ケツ穴に栓をする。
 越冬を終えたクマは、必ず栓と呼ばれるフンをする。
 これは太く大きく、水気がとても少ないという。
 ほどほどに早春岩魚と遊び、竿を納める。
 釣り上げたばかりの岩魚二尾を刺身にして遅い昼食とする。
 雪代で締まった身は、コリコリした食感がたまらなく美味い。
 昼食メニュー・・・昨晩、飯盒で炊いたご飯に塩焼き岩魚とフリカケ
 汁物は、ミニチキンラーメン、これに岩魚の刺身が加われば言うことなし。
 食事が終わると、雪渓に埋まった渓を360度眺めながら
 のんびり熱いコーヒーを飲む。
 下界のストレスもあさっての方向にすっ飛ぶのを感じながら・・・
 釣り上げた岩魚を美味しくいただくために
 全て生かしたまま種モミ用の袋に入れて移動する。
 釣りが終わると、頭部を岩に叩きつけ野ジメにする。
 袋ごとビニール袋に二重にくるみ背中に背負い、急ぎ足でテン場に戻る。
 テン場に戻ったら、素早く岩魚をさばく。
 雪代水で内臓や血合いを取り除く作業は、凍て付く寒さに耐えねばならない。
 大きい順に6尾の岩魚を刺身(4人分)に・・・
 皮を剥ぎ、三枚におろす。
 ピンク色に染まった旬の刺身は、食欲をそそる。

 残りは塩をふり竹串に刺して焚き火に並べる。
 豪勢な焚き火の炎、燃え残った炭火の遠赤外線で、
 一晩じっくり燻製にした岩魚は、木の香りが中まで沁みこみ、最高の味になる。
 三日目、昨晩降り続いた雨もやみ、雲間から太陽が顔を出し始めた。
 連休後半、また同じテン場で三日間山ごもりの予定・・・
 ならば、テントやブルーシート、炊事道具といった共同装備一式を
 そのまま残すことに。やたら軽い荷を背負い、小沢を登る。
 西陽が当たる右の斜面には残雪
 東の陽射しが当たる左の斜面は、雪が皆無だった。
 しかし、解けて間もないだけに、山菜はほとんど見当たらなかった。
 下流部では、早くもブナの芽吹きが始まっていた。
 もしかして・・・伐採跡地の日当たりの良い斜面に、アイコやシドケを探す。
 しかし、土から顔を出しているのは、猛毒のトリカブトやニセホンナのみ。
 やむなく、タラノキの若芽をつむ。
 天ぷら粉を全体にまぶして、カラリと揚げる。
 塩を振って食べると美味い。
 しかし、雪国の山菜の中では本命の味ではない・・・
 帰路、雪解けの早い沢に入って、アイコやシドケ、山ワサビを探すことに。
▼ミヤマカタバミ・・・葉を生でかじると酸っぱい味がする。何となく疲労回復に効くような感じがする。 ▼ニリンソウの群生・・・これも食用だが、本命の山菜ではないので、手は出さない。
▼ミヤマキケマン・・・黄色い花を多数穂状につけ、株となって群生する。 ▼ウルイ(オオバキボウシ)・・・葉をちぎって茎だけ採取する。一夜漬けがヌメリとシャキシャキとした食感があって美味い。茹でたものを酢味噌やゴマ和えに。
▼エンレイソウ・・・早春の草花の中では大型で、原始的な風貌は、一度覚えると忘れられない花の一つ。大きな葉が三枚、その真ん中から一本の花柄を出し、先端に花をつける。写真のように数本咲き並ぶと、ついついシャッターを押したくなる。 ▼アイコ(ミヤマイラクサ)・・・私の本命は、このアイコ。サッと湯がいて冷水にさらし、皮を剥いてマヨネーズで食べる。毎日食べても飽きないほど美味い。シドケ(モミジガサ)は、クセがあるので春の香りを楽しむ程度に少々摘む。

 急斜面の岩穴から湧水が湧き出る小沢
 その清冽な流れをスローシャッターで切り取る。
 手前に白いツボミがまばらに見える緑の群落は、ニリンソウ
 未だニリンソウの群落が満開になっていない。
 山菜の始まりは、深山のニリンソウが満開に咲き誇る頃がスタートだ。
 新緑には程遠い残雪の春山を歩けば、歩くほど
 新緑と山の恵み・山菜が恋しい・・・

 「一年中で最も自由に、山歩きを出来るのは勿論夏であるが、
 初夏ほど山や谷の色彩の豊かな溌剌たる気分の満ちる時はない・・・
 日は長く自然は明るく、山は残雪に、霞に、谷は新緑に。
 小川のささやき、小鳥の囀り、何処を見ても、何を聞いても、
 それは皆歓楽に満ちた自然でないものはない」
 (「山の紀行 峰と渓」冠松次郎、河出書房新社)

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