残雪の春山Part1 残雪の春山Part2 山釣り紀行TOP



残雪の渓谷、スミレサイシン、フクジュソウ、カタクリ、バッケ、サシボ、ヨモギ、エンレイソウ
イワウチワ、クレソン、テン場選定、焚き火、ネコヤナギ、残雪の岩魚釣り、岩魚料理、廃油ランタン
 2006年4月下旬、三日間の荷を背負い、半年間待ちに待った早春の春山へ。半年間鈍った体に鞭打って、ブナの裸木が林立する残雪を喘ぎながら登る。ギラギラ輝く残雪と林間を吹き抜ける風に、眠っていた五感が活き活きと働きはじめる。何度訪れても、四季折々違う表情を見せてくれるブナの森・・・やっぱ、白神の山と渓谷は何にも代え難い宝だ。
 源流部は、雪崩で谷を埋め尽くした雪渓が延々と連なり、釣りのポイントは極端に少ない。それでも、例年同様、惚れ惚れするような美しい岩魚が竿を絞った。乱獲を避け、大事に見守ってきた秘渓だけに、サイズもワンランク大きい。岩魚を育むブナの恵みに感謝、感謝!
 春の陽光を全身に浴びて、ブナが林立する杣道をゆく。意外にも下流部は残雪が少なく、昨年より春の訪れが早いように感じた。もしかして山菜も・・・と期待したが、奥に入るに連れて分厚いSBが谷を埋め尽くし、その期待は完全に粉砕されてしまった。
 樹幹から「ホーホケキョ・・・」と、春を告げるウグイスの美声が響き渡る。小沢では「チャッチャッ・・・ピャピャ」と、大きな声を出す割りには最も小さな鳥・ミソサザイが、巣作りに忙しい。時折、「ギャー、ギャー」とうるさいカケスの声も。

 それを聞いた中村会長曰く
 「子どもの頃だば、馬の尻尾でカケスをつかまえで良ぐ食べたなぁ」
 「そんなに美味いの」
 「いや、昔は食えるものなら何でも食べだぁ」
 「それもそうだ、犬も食べたもんな」
 「犬は最高の味だでぇ、あんな美味いものはねぇ」・・・
 これにはまいった。
 昔、ウサギの肉だと騙され、犬鍋を食わされたのを思い出してしまった。
 スミレサイシン・・・車止めから斜面を登り始めると、杣道沿いに群生していた早春の草花。雪国を代表するスミレの一つ。時に良く手入れされた明るい杉林にも群生する。淡い紫色の花とハート形の大きな葉が特徴。花や葉はおひたしや天ぷらに。根はすりおろすとトロロ状になり、春の土の香りがするという。
 フクジュソウ・・・急な斜面を登り切ると、幸福を呼ぶ黄色の草花・フクジュソウが早春の陽射しを浴びて満開に咲き誇っていた。雪解けの早い日本海側では3月が見頃だが、大雪の年は4月下旬でも旬の花を観賞できる。
 カタクリ・・・残雪が解けたばかりの斜面には、黄色のフクジュソウと並び、赤紫に染め上げるカタクリの群落が目を楽しませてくれる。嬉しさのあまり、斜面に寝そべってデジカメのシャッターを切る。食べるなら花が開く前のツボミ状態が旬とか。田舎では、おひたしや天ぷら、甘酢漬けにして食べる。
 バッケ(フキノトウ)・・・秋田ではバッケ、バッキャと呼ぶ。刻んで味噌汁に散らすと早春の香りがする。昔は食べる習慣がほとんどなかったが、今は、道の駅や直売所に行けば手作りのバッケ味噌が売られている。

 花が開かないツボミのものが旬。沸騰した鍋に一つまみの塩を入れ、サッと茹でる。水気を絞って細かく刻む。フライパンに胡麻油をひき、味噌とミリン又は砂糖を入れて炒めると出来上がり。簡単かつ酒のツマミに最高だ。
 イタドリの若芽・サシボ・・・バッケと並び春一番の山菜。秋田でこの山菜を珍重しているのは、本荘由利地区。サシボの方言は、県北がサシドリ、由利がサシボコ、河辺がドンド、仙北・平鹿がドンガラなど様々。湯がいたサシボをかつお節としょうゆで食べるおひたしや天ぷら、たたき、田楽など。独特のヌメリと酸味、春の土の香りが堪らないと言う。私は、食わず嫌いなのか、今だ食べたことがない。
 ヨモギ・・・葉がバラバラにならないように根元をナイフで切り取る。早春の若葉は天ぷらが絶品。茹でたヨモギをすり鉢ですりつぶし、餅にすりこむのがヨモギ餅。
 エンレイソウ(右)とキクザキイチゲの群落
 クレソン(オランダガラシ)・・・湧水が湧き出る沼に群生していた。奥山は山菜が期待できないだけに、刺身のツマとして採取する。生で食べるとしこたま辛い。素揚げにすると、海苔のような不思議な味がする。塩漬けにすると辛味が消え甘くなる。帰化植物だが、奥山の湧水が滴る沢でも見掛けることがある。誰かが持ち込んだものか、それとも種が空を飛ぶのだろうか。
 奥へ入るに連れて、残雪も多くなる。いつもの水場も深い雪に埋もれて使えない。20年近く通い続けているが、こんなことは初めてのこと。
 全員、渓流シューズにピンソール、ピンソールミニを着けて残雪の斜面を登る。藪もなく、見通しが効くだけに心は軽い。ここを登り切ると、いよいよ入渓点だ。
 イワウチワ・・・ブナ林を白〜ピンク色に染め抜くイワウチワの大群落。まるでサクラの花を林床に敷き詰めたように美しい。ブナの森では、最も早く花を咲かせる草花の代表。それだけに、この花が満開ということは、山菜の時期には程遠いことを物語っている。
 沢へ下る山菜畑沢は、ご覧のとおり深い雪に覆われていた。中村会長は、雪の斜面を滑って下る。70歳を過ぎても、心はまるで子どもだ。老人が子どもに帰る・・・人間、幾つになっても、子どもの心に戻れるなら最高の人生だと思う。
 早春のテン場選定の条件・・・残雪が多く残る季節は、午後から雪解け水で水嵩が増し濁流になる。まして雨でも降ろうものなら渡渉もままならず、澄んだ水の確保も難しい。写真右手から小沢が流れるような場所にテン場を構えれば、本流が濁っていても、コーヒーや食事用の清水を確保することができる。

 さらに小沢を詰め上がり、杣道に通じている場所なら、天候を気にすることなく安全に帰ることができる。もちろん、いくら平らだからと言っても残雪の上は×。雪崩の危険が多い源流部はさらに×。

 長野や新潟、岐阜などでは、今年の3月以降、雪崩に巻き込まれるなど死者が約20人にものぼる異常事態・・・いくら中高年登山ブームとは言え、残雪の春山を甘く見過ぎたり、1泊2日といった余裕のない日程では、入山前に遭難していると言われてもしょうがないように思う。
 早春の山ごもりで最も大事なもの・・・それは焚き火だ。焚き火は、濡れた衣服を乾かしたり、暖房や照明、調理などマルチに活躍してくれる。そして何より、仲間の心を一つにする中心的存在・・・源流酒場・源流喫茶の大事な舞台でもある。山では苦しい時ほど、焚き火のあり難さが身にしみる。

 テン場を構えたら、まずやるべきことは薪集めだ。雪の多い年は、斜面に倒木が多く薪集めは意外に簡単。左の写真のように、お助けヒモを利用して薪を束ねて運ぶと効率的。4人で集めると、あっという間に三日分の薪が集まった。どんな悪天候でも豪勢な焚き火をしたいなら、ブルーシートとノコギリ、山刀は必携だ。
 午後2時過ぎ、雪代逆巻く渓で春一番の岩魚を追う。雪代のピークになると、岩魚の動きは鈍くなる。ポイントは、ひたすら岩陰などの淀みを狙う。深場に潜む岩魚の頭に餌を持っていく感覚で、じっくり探る。餌釣りならチョウチン釣りに勝るものなし。瀬に出る前の早春は、ど素人にも簡単に釣れる。ただし、岩魚の魚影が濃いことが前提条件であることは言うまでもない。
 大量の残雪を抱く渓を釣る。雪解け水で溢れかえる渓は、ポイントが極端に少ない。しかし、これはと思ったポイントでは、ほぼ100%岩魚の魚信が針と道糸、竿を伝わって手に伝わってくる。食いは意外に鈍いので早合わせは禁物。竿に伝わる魚信だけで、見えない水中の岩魚の動きが手に取るように分かるようになればしめたもの。名人ともなれば、「岩魚も俺も同じ」といった境地になるらしい。
 雪代に磨かれた美魚。黒くサビついた魚体も次第に薄れ、銀白色に輝いている。腹部と前ビレは鮮やかな橙色に染まり、大きな白い斑点が全身に散りばめられたアメマス系の岩魚。優しい顔付きから判断すればメス。
 渓流に春を告げるネコヤナギ。銀白色の花穂は、葉よりも早く出て美しい。逆光なら、猫の尻尾のようにフサフサした感じに輝く写真が撮れるのだが・・・。
 残雪の渓を遡行する場合の足ごしらえ・・・里の渓流釣りなら胴長だろうが、山釣りとなれば安全性、快適な遡行を考えると×。私の場合は、沢登り用のタイツ+雨合羽のズボン+スパッツ+渓流足袋。これにピンソール又はピンソールミニがあれば、山越えから雪渓、斜面、沢沿いの遡行までオールラウンドに歩くことができる。
 早春の岩魚は、全体的にスマートで痩せた印象を受ける。それでも身は締まっていて、刺身にすればコリコリ感は絶品。胃袋は、まだ餌を豊富に食べていないので、意外に綺麗だ。丸々太った岩魚の旬は、雪代が終わる5月下旬から6月頃。
 左:刺身をとった後のアラ。頭と骨は、焚き火に吊るして骨酒用の燻製に。皮とアラは空揚げ用
 右:岩魚の胃袋。少々面倒だが、胃袋を裂いて胃内容物を流水で洗う。焼いても空揚げにしてもコリコリした食感が堪らない。要は、捨てるところなく美味しくいただくことが岩魚に対する礼儀、そして岩魚の分も元気に生き抜くことが命の循環を体で感じる極意だと思う。
 雪代の音が狭い谷間に木霊し、冷たい風が上流から下流へと吹き抜けていく。盛大な焚き火を囲み、熱燗で乾杯。岩魚の刺身に生のクレソンを巻き付けてほおばる。皮の空揚げをセンベイのようにパリパリ音を立てながら食べる。フライパンで炒めた胃袋は、歯応えがあってこれまた言うことなし。

 空揚げに使った廃油は、手製のランタンに。意外に明るく長持ちする。源流酒場の照明にはピッタリ。火力を上げて飯を炊く飯盒を焚き火にかける。炊き上がった白いご飯に、レトルトの牛丼をかけて平らげる。春山を歩いた分だけ食欲も増す。満腹になると、急に睡魔が襲ってきた。明日の天気が気になって暗い夜空を見上げると、無数の星たちが煌いていた・・・(つづく)

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