白神源流紀行その1 白神源流紀行その2 山釣り紀行TOP

 白神山地源流の山旅をはじめて20年余り・・・
 真瀬川、水沢川、粕毛川(現在入山禁止)、津梅川、追良瀬川、赤石川、大川・・・
 その沢から沢へと辿るバリエーションルートの中でも、
 真瀬川三ノ又沢を詰め上がり追良瀬分水嶺から眺める白神の風景は一級品だ。

 だが、三ノ又沢ルートは、ほとんど歩く人がおらず、獣道ルートに等しい
 しかも、ヨドメの滝の大高巻き、藪こぎが連続し、アプローチも長い。
 そんな苦しい記憶もあったから、なかなか足が向かなかった。
 2005年6月上旬、5名のパーティは、真瀬川に向かった。
 三ノ又沢の林道に入ると、ほどなく落石や倒木が連続、かなり荒廃していた。

 10年の歳月は短いようで長い。
 かつては、奥で伐採作業が行われ、かなり奥まで車が入れた。
 しかし、今は、どんなにあがいても、旧車止めの約2キロ手前でストップせざるを得なかった。

 地図で車止めの位置を確認。
 アプローチは長いが、のんびり歩くことに・・・
 この時、目的のテン場まで8時間もかかろうとは、誰も予想していなかった。

 時々雲間から青空が見える。
 日本酒と缶ビールで重くなった荷を担ぎ、草茫々の林道を歩く。
 右岸から合流する小沢を過ぎると、林道の形が分からなくなるほど崩壊が進んでいた。
 沢沿いには、旬のシドケ、アイコ、ウド、ワラビ、サワアザミが群生していた。
 奥に入るにつれて、斜面には、シラネアオイの花が目立つようになる。
 ほどなく、谷を埋め尽くす巨大なSBに出くわす。
 新緑が映えるSBを歩くのは、楽しい。
 見上げると、サワグルミの若葉が逆光に透けて美わしい。
 やがて道もなくなり、沢通しに歩く。 
 三ノ又沢源流二股を左に曲がると、まもなくヨドメの滝・大滝だ。
 滝の手前は、いつも巨大なスノーブリッジに覆われている。
 雪解けの隙間から白のキクザキイチゲ、紫のエゾエンゴサク、スミレサイシンたちが、
 初夏の陽射しを受け、谷を吹き降ろす風に踊っていた。
 大滝は、一見4段の滝に見えるが、
 その上にも滝は連続し、総落差は40m以上に及ぶ。
 その両岸は屹立する壁が屏風のように連なり、大高巻きを強いられる。

 かつて、この滝の左岸を巻いたことがあったが、
 切り立つ崖が高く、杉林と猛烈な藪に悪戦苦闘したことがあった。
 ここは右岸を巻くのが正解。
 ミヤマカタバミ・・・花は清楚で可憐。
 5枚の花には、淡い紫色の筋が入っている。
 緑鮮やかな三枚の葉は、ハート形。
 疲れたときに噛むと、酸味があって元気が出る。
 バテ気味だったアッチャンは、休むたびにしゃぶっていた。
 残雪が解けたばかりの渓畦にキグザキイチゲが満開に咲き誇っていた。
 6月初旬の源流は、春と初夏の山菜・山野草を楽しめる最高の季節。
 キクザキイチゲに混じって咲いていたエゾエンゴサク
 白神では紫系が一般的だが、青、赤紫、白、混色など遺伝子の多様性に富む。
 いよいよ巻き開始。
 アイコが群生する崩壊斜面を落差50mほど直登する。
 振り返ると、前方に真瀬岳が見えた。

 下を見ると、アッちゃんが苦しそうにして立ち止まっている。
 聞けば、膝が痛い、足が引きつりそうだと吐露。
 挙句の果てに、「ここがらだば、まだ迷わず帰れる」とのたまう。

 急がず、休み休み登れ・・・と声をかける。
 しばし噴出す汗をぬぐいながら待つ。

 ブナの巨木が倒れた斜面を横にトラバースするように大きく巻く。
 中間部で滝上に出たように錯覚するが、滝はまだまだ連続している。
 やっとの思いで滝上に出る。
 細流となった源流を詰め上がる。
 スノーブリッジに上がった時だった。
 突然、アッちゃんが「足が、足が、引きつった・・・」と、
 仰向けに倒れ、動けなくなってしまった。

 その苦しそうな姿を見て、
 昨年、大川の難所で足を引きつってしまった苦い思い出が脳裏をかすめた。

 声も出ず、座り込み、激痛が去るのを待つしかなかった。
 すぐにザックを体から外し、スパッツを脱がせた。
 動かず、引きつった筋肉を解きほぐすよう促した。 
 ここで彼にギブアップされるわけにはいかない。
 彼のザックから重い酒と缶ビールを取り出し、私のザックに背負う。
 足を大きく上げたり、大股で歩くのは厳禁、できるだけ小幅で歩くよう指示。
 最後の水場で大休止、遅い昼食をとる。
 黄色のオオバキスミレたちが「頑張れ」と一斉に声をかけるように咲いていた。
 右岸の高台には、クマの糞があった。
 黒く変色しているところを見ると、大分前のようだ。
 ここで天候が急に悪化し、雨が降り出してきた。 
 雨具を羽織り、県境稜線のコルへと詰め上がる。
 歩きやすいスノーブリッジが連続しているものの、雪は薄く、あちこちに穴が開いている。

 岸側を慎重に辿りながら登る。流れが切れると、
 猛烈な笹薮となり、ほどなく675mコルに達する。
 分水嶺を越えると、スリバチ状の雪崩斜面で一気に視界が広がる。
 目の前全てがブナ、ブナ、ブナ・・・地獄から夢の世界へ・・・
 そんな錯覚に陥るほど風景は一変する。この落差がたまらない。
 雪崩斜面の中心に一本のブナの巨木が聳え立っている。
 僕にとっては、白神のマザーツリーだ。

 来る年も来る年も雪崩に痛めつけられているはずだが、今なお健在だった。
 巨樹の新緑は、残雪に生え萌黄色に輝いていた。
 残念ながら、白神の盟主・向白神岳稜線は雲海に隠れて見えなかった。
 帰りは、向白神岳が姿を見せてくれますよう、山の神に祈りながら、雪崩斜面を下った。 
 小雨が雪渓に降り注ぎ、大量の雪煙が舞い上がっていた。
 けむる萌黄色の回廊と谷に連なる雪渓・・・
 白い神の森に分け入るような夢心地に浸りながらシャッターを押す。

 雪渓が連続する源流谷は、見晴らしもよく歩きやすい。
 このルートを歩くには、新緑の季節に勝るものなし。 
 県境稜線から中ノ又沢下降ルートに合流するまで1キロ余りだが、
 ほとんど雪渓が残っていた。
 合流点の岩場には、雨にしっとり濡れたシラネアオイと
 白神の妖精・トガクシショウマが満開に咲き誇っていた。
 キバナイカリソウ・・・小雨に濡れた黄白色の花は格別。
 花の形が舟のイカリにそっくりなだけに覚えやすい。
 さらに下ると、新緑に一際目立つムラサキヤシオツツジの紅と
 オオカメノキの白花の競演は見事だった。
 濡れた新緑の回廊、白い靄に包まれた雪渓をゆく。
 谷筋に連なる白い残雪の帯と瑞々しい新緑。
 ブナの根元は雪圧で一様に湾曲している。
 新緑に一際目立つムラサキヤシオツツジ
 高さ2m前後の落葉低木。
 和名は、紫色の染料に8回も浸して染め上げたように美しいツツジの意。
 渓の傍らに咲いているツツジは、ちょうど背丈が同じところに花を咲かせるだけに、
 接写が簡単。奥の流れはサカサ沢。
 サワグルミ・・・その名のとおり、水辺を好み、湿った沢沿いに森を形成している。
 この材は、水を好むことから燃えにくく、マタギ小屋を作る材料として珍重された。
 分厚い樹皮は剥がれ易く、雨や雪をしのぐのに最適。
 樹皮は、マタギ小屋の屋根に、裸の丸太は骨組みに使った。
 一般にサワグルミは、マッチの軸用材として利用されている。
 サカサ沢源流二股のテン場に着いたのは、午後5時。
 アクシデントに見舞われたとは言え、8時間もかかってしまった。
 (ここまでは世界自然遺産の緩衝地域、ここから下流部が核心地域)

 真瀬川で採取したシドケ、ウド、タケノコ、コゴミ、ウルイなど
 豪華山菜料理をツマミに、しこたま重かった缶ビールで乾杯。
 重い分だけ、やっぱり美味い。
 疲れた体にアルコールは超特急で駆け巡り、あっという間にダウンしてしまった。
 翌朝聞けば、イビキの大合唱だったらしい。
参考:世界遺産・白神山地核心地域内指定ルート及び入山届出について
 保存地域の入山は、津軽森林管理署(FAX0172-27-0733)に入山届出が必要。
 その際「一日ボランティア巡視員」を引き受け、遡行後、
 巡視の結果及び保存地区の管理のあり方等について意見を述べるようにしてください。
 世界遺産指定地域内の河川は全て釣り禁止につき注意。
 その他注意事項は、手続き要領を参照。

白神山地核心地域内指定ルート図&現地状況一覧表
核心地域入山手続き要領

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