マタギ小屋保存大会アピール及び活動状況報告

 マタギ小屋を保存する会代表・瀬畑雄三さん、マタギ小屋管理人・戸掘操さんとともに、10月14〜15日、鯵ヶ沢町で開催された「東北自然保護のつどい」に参加。つどいでは、マタギ小屋を保存する会の大会アピール案が採択されたばかりでなく、多くの仲間たちと出会い、連帯の輪を作り上げることができた。さらに、21世紀の自然保護運動は、自然のみを残す運動ではなく、自然と人間と文化を一つに考え行動するという画期的な大会であった。

大会会場である日本海拠点館3Fに展示された白神ブナ原生林の美しい写真パネル。 第21回東北自然保護のつどい鰺ヶ沢大会。「白神の風は、いま東北に」というテーマで熱心な討論が行われた。
シンポジューム「21世紀-白神と東北ブナ林の未来」のコーディネーターは、大会実行委員長・白神市民文化フォーラム世話人の村田孝嗣さん。 パネリストは、左から赤石川を守る会・吉川隆さん、哲学者・内山節さん、日本自然保護協会・吉田正人さん、東京農工大学教授・鬼頭秀一さん、秋田自然保護団体連合・奥村清明さんの5名。
熱心に聞き入るマタギ小屋を保存する会代表の瀬畑雄三さんと仙北マタギ継承人・戸堀操さん。 10月14日の夜、懇親会が盛大に行われた。瀬畑雄三さんと懐かしく話し合っているのは、白神の運動に関わり過ぎて店をつぶしてしまった三上希次さん。
釣りを通して自然保護を考える仲間たち。左からルポ&フォトの浦壮一郎さん、瀬畑雄三さん、マタギ小屋を保存する会に参加した群遊会代表・松島秀治さん。 東北自然保護団体連絡会議のHP管理人、「東北自然保護のつどい」の事務局を担当したミサゴ一さん。彼とは、ホームページで知り合い、実行委員会に我々の運動を紹介し、大会アピール案の検討、大会での助言など、最後の最後まで面倒をみてくれた。大会に初めて参加し、ウロウロする私を支えてくれたことに対し、心から感謝を申し上げたい。彼は懇親会の裏方として東奔西走、じっくり飲み語り合うことができなかったのが唯一の心残りである。
2日目の第1分科会「森と水と暮らし」。左から砂防ダムいらない渓流保護ネットワークの田口康夫さん、赤石川を守る会の清野和雄さん、入会権の専門家・弘前大学名誉教授の松原邦明さん。 左は、マタギ小屋を保存する会を応援するために、わざわざ大会にかけつけてくれた日本渓魚会・富士大学経済学部教授の中村利平さん、右は意気投合した戸堀マタギ。
 白神山地を巡る入山規制問題では、私と全く同じ意見をもつ憧れの村田孝嗣さんと握手。右端は、青森県立弘前中央高等学校の菊池幸夫さん。
 村田さんは、大川にかつてあったマタギ小屋が朽ち果てて無くなった小屋でさえ、再度復活させるために申請した西目屋村の石田武四郎さんの申請に対し許可が出た事例を教えてくれた。
 村田さんには、白神で釣りを通して自然の大切さを教えられた、白神は生きた学校である旨の話をしたら、全くその通りと共感してくれた。2000年10月に発売さればかりの「とんぼ先生 森を行く」(村田孝嗣著、文芸協会出版、1500円)を買った。現在、読んでいる最中だが、読破したら皆さんに本の内容を紹介したいと思う。
二次会は、和賀山塊の恵みの豊かさとマタギの歴史と文化を守る運動で盛り上がった。左から、戸堀マタギ、中村利平教授、私、瀬畑雄三さん。

「東北自然保護のつどい」の参加報告

 これまで自然保護は、自然を守ることに重点が置かれ、とかく人間を規制したり、地域の暮らしと文化を軽視する面もあったが、この大会では、これらを反省し、新たな自然保護のあり方を提示した画期的な大会であったと高く評価できる。

 第21回鰺ヶ沢大会宣言では、「自然を人間から隔離して保護するのではなく、保全利用しながら自然を大切にする心を培うよう提言すること」「自然と人間との関わりを修復し、自然と共に生きる地域社会を構築するための努力をすること」といった5項目の宣言が採択された。

 これは、貴重な自然を保護するという美名のもとに、人間を排除して管理するという森林生態系保護地域や世界自然遺産の管理計画の考え方に警鐘を鳴らした点で高く評価できる。自然保護は、本来、自然から直接学ぶものであり、自然を人間から隔離するすることは、その道を閉ざすことにほかならない。第1分科会では、「白神山地の入山規制は、自然保護の自殺行為だ」という意見も出た。

 さらに「大会決議−白神2000プラン」では、「世界遺産地域を含め白神山地全体を見通した管理計画とし、自然・人間・文化を一つに考えた管理計画にすること」「世界遺産地域の管理について…地域住民や自然保護団体など、白神山地に実際に関わってきた人たちを加えた話し合いによって進めること」など6項目が決議された。

 「21世紀の展望−自然と人間、その現状と行方」と題して哲学者・内山 節氏の基調講演では、実に示唆に富んだ内容であった。「自然を交換可能な人」と「自然を交換できない人」がいる。例えば、白神山地で言えば、東京の人は白神山地が入山禁止でも交換できる山が他にもある。しかし、白神に住んでいる人たちは、他の山と交換できない。白神山地の管理計画は、こうした「交換可能な人」たちに全てを委ねてはいけない。「白神を交換できない」地域住民や白神に関わってきたきた人たちを中心に考えるべきである。世界自然遺産だからといって、世界統一の自然保護などありえないと述べた。

 さらに未来は「過去」の読み直しの中からしか見えてこない。すなわち、過去に振り返って先人たちの歴史や文化に学び、自然と人間との関わり方の方向を見出すべきであるという。まさにこの基調講演で提言された内容が大会決議に盛り込まれた感じがするくらい見事な講演であった。

 シンポジューム「21世紀−白神と東北ブナ林の未来」は、村田孝嗣さんをコーディネーターに5人のパネリストで行われた。赤石川を守る会の吉川隆さんは「入山規制で流域住民が自由に入れないのはおかしい。関係者だけは入れるが、その関係者とは東北電力とモニタリングをする学者、山を管理している人のみである。これでは住民の生活も山も守れない。いつでも自由に入れるようにしてほしい」と訴える。

 哲学者である内山節さんは「文化財の指定は、人との関わりがなく指定されている。これではもぬけの殻の文化財だ。地域の人たちを追い出すような規制はやめるべきである」ときっぱり言い切る。

 東京農工大学教授・鬼頭秀一さんは、「自然を囲い込んだり、自然との関わりを無視してゾーニングすること自体問題である。自然保護と対立してきた営林署に見事はめられた。白神は人の手が入った自然であり、管理計画は、組合長だけで決めるのではなく、白神と実際に関わってきた人たちを含めて決めるべきである」と語った。

 日本自然保護協会の吉田正人さんは「世界遺産に登録される前のブナシンポジュームでは、ブナ原生林とその自然から生まれたブナ帯文化の価値がクローズアップされていた。かつては人が入らない原生的な自然を世界自然遺産に登録していた。しかし、近年は、自然と人間が深く関わって来た地域を指定するようになった。現在、世界遺産の登録は、自然と文化に分かれているが、今後はそれを統一することが課題」と述べた。

 秋田自然保護団体連合代表理事の奥村清明さんは「入山規制を巡る問題は、世界自然遺産地域に関わってきた度合いの違いが大きい。秋田では、コアに入って何かをやるということがなかった。管理計画に対してマタギや釣り人も加わって議論したが、入山規制すべきという意見が大半だった。世界自然遺産地域に入り生業としている人もいない。私はコア部分に入ったことはないが、入山禁止は、とりあえずの規制である。もし、秋田側に既存の登山道があればこんな問題はなかったのではないか」と語った。

 依然、秋田と青森の意見の食い違いが見られたのは残念である。これに対し、村田孝嗣さんは「白神は登山道を歩くのではなく、沢を歩くのが文化である。」、さらに地元の吉川さんは「白神を生業としている人はいないが、白神の恵みを生活の一部として暮らしていることには変わりない。もっと地域住民と突っ込んだ話し合いをすべきだ」と反論した。

 ほかに「自然と人間とのつながりを重視し、文化を大事にする方向で議論すべきである」「秋田側の青秋林道からコア部分には簡単に入れる。車両規制こそ、有効である」といった意見が出た。、最後に村田さんが「地域住民だけでなく、広く白神にふれられるようにしたい。コア部分は、人間が入ることによって荒れてはいない。多くの人たちが白神の素晴らしさを共有すべきである」と締めくくった。

 確かにいまだ秋田と青森では、意見の食い違いはあるものの、共に白神を愛していることに変わりはない。だからこそ、合意を得る事は不可能ではない。今後とも粘り強く議論し、合意形成を図っていくことが確認された。私は第2分科会の「自然の保護と管理」には出席できなかったが、奥村清明さんが「今後は自然を楽しむ方向で検討していきたい」と語ったと言う。これは、大きな前進であり、大会宣言や大会決議にもはっきり表現されているように2000年にふさわしい画期的な大会であったと思う。

 そうした大きな変化があったからこそ、我々のマタギ小屋を保存する運動が大会開催前の実行委員会で承認され、トップで活動状況報告及び大会アピール案「和賀山塊・マタギ小屋の保存と民俗文化の継承を」の採択につながったと思う。マタギ小屋を保存する会の運動を実行委員会に提案していただいた事務局のミサゴさんや「東北自然保護のつどい」実行委員会の皆さん、そして大会に参加し賛同してくれた皆さんに深く感謝の意を捧げたいと思う。

 今後は、この大会アピールをもとに関係機関にマタギ小屋保存を強く要請していきたいと考えている。引き続き、皆様の応援をお願いします。
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