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イワナ料理、究極の居酒屋・源流酒場、秋田イワナ民俗誌・・・完結:2003.11.9、追記2007.5.20
 山釣りは、肉や野菜を一切背負わず、メインの食材は、全て現地調達するのが原則。山では、山の幸に勝るものはないからだ。それだけにどんな悪天候に見舞われようと確実に渓魚を釣る技術はもちろん、四季折々食べられる山菜、キノコの見分け方から料理法まで全てマスターすれば、楽しさは無限に広がる。
 尺前後のイワナは、刺身が最も美味い。塩焼きにする場合は、これよりワンランク下の7寸以上8寸前後が美味い。従って、7寸以下は全てリリースするよう心掛けたい。
 40センチ以上の大イワナはりリース・・・「滝壺の主はリリース」と言えば、格好よく美談に聞こえるが、実は大イワナは食べても美味しくないのだ。記念撮影した後、優しくリリースするのが賢明な選択だ。源流では貴重な一尾だけに、魚拓や剥製にしようなどと思わないこと。つまり、食材としてキープするベストサイズは、7寸から尺前後に限られる。
 源流では、上の写真のようにガリガリに痩せた幽霊イワナが釣れる場合もある。かつて、サンマのように痩せた幽霊イワナを塩焼きにして食べたことがあるが、お世辞にも美味いとは言い難い。もちろん、骨酒もイマイチ。こうしたイワナは、サイズにかかわらず食材として不適で、即座にリリースすべし。
 疑問1・・・イワナを美味しく調理する最大のポイントは、イワナの旬をいかに保つかに尽きると思うが、どうすれば鮮度を保つことができるのだろうか?

 まさかクーラーを源流へ持ち込むなどという愚かな人はいないだろう。かつては、釣り上げたイワナをフキや笹の葉などにくるみ、ビグに入れて釣り歩いたこともあったが、これでは刺身にできるほどの旬を保つことはできない。究極の旬を維持するには、種モミ用の袋に入れて生きたままデポしておく方法だ。これなら、どんなに暑い夏場でも旬のイワナ料理を楽しむことができる。ただし、カラスや獣などに食べられないよう網袋の中にも石を入れ、できるだけ深場に沈めてデポしておくことが肝要だ。
 疑問2・・・遡行途中で釣りをする場合など、デポ方式をとれない場合はどうすれば鮮度を保てるのだろうか?。

 その場で野ジメし、腹を割いた後、内臓、エラ、血アイをきれいに取り除き、濡らした新聞紙に包み、さらにビニールにくるんでザックに背負う。こうすれば、意外と鮮度を保つことができる。気温、湿度ともに高い夏場なら、念のために塩をよくふって、テン場に着いたら、流水にさらし塩出しするという方法もいいだろう。
 疑問3・・・持続的な釣りを目指すためにも、キープするイワナは、山で食べる分だけにとどめるべきだと言われて久しいが、実際山でキープする数はどれだけか?

 一人当たり2〜3尾もあれば十分。一人3尾もあろうものなら、イワナづくしの料理が楽しめる。釣りはほどほどにとどめ、山菜・キノコも加えて、野趣溢れる料理をじっくり楽しむことが山釣りクッキングの大きなポイントだ。
 下る途中にデポしたイワナを回収する場合は、イワナの鮮度を保つために、その場で頭を流木などで叩き「野ジメ」にする。テン場に帰ったら、腹を割き、エラと内臓、血アイをきれいに取り去り、サイズごとに分類し調理する。

 注意すべき点・・・腹を割く前なら、流水にさらしても問題ないが、腹を割いたイワナを流水にさらすと、身に水分を含み、味が格段に落ちてしまうので注意。
楽しいイワナ釣りと長く険しい遡行を終えて、のんびりイワナ料理を楽しむ。これまた至福の時間だ。素材は全て現地調達だけに、どんな高級レストランでも味わうことができないワイルドな料理を楽しむことができる。これは渓師たちに与えられた特権とも言うべきものだろう。・・・これぞ究極のトレーサビリティ、地産地消、スローフードと言い換えることもできる。ちなみに素材の良さを引き出すには、シンプルイズベストが基本。
イワナ料理の定番・・・刺身
 イワナの刺身料理風景・・・調理場は、清流の傍で行うのが鉄則。食材、まな板、ナイフ、皿数枚を準備する。気温が低く流水の冷たい早春、秋ならば寒さで震えが止まらなくなるので注意。また長い間、窮屈な姿勢で調理していると、身体が固まるので、できるだけ楽に座れる足場、調理するまな板の安定感と楽な姿勢で調理できる高さに気を配ることが大切だ。
 イワナの皮を剥ぐ・・・頭の付け根の部分から胸ヒレの前にかけて両サイドに切れ目を入れる。切れ目を入れた頭部をツメで皮をはぐように起こす。起こした皮の部分をすべらないよう歯でしっかり咥え、頭部を両手でしっかり持ち、尻尾にかけて一気に剥ぎ取る。この際、皮に身が付いてくるような岩魚は、かなり鮮度が落ちている証拠なので、刺身用としては使えない。上の写真のように、皮がきれいに剥がれ、身もピンク色に輝いているものが旬。
 他に三枚おろし方式で片面づつ剥ぐ方法もあるが、少々面倒なのが欠点。こうした鮮やかなピンク色は、生かしたままデポしたイワナの証拠。
 三枚におろす・・・ナイフは、細長く切れ味鋭いものを使うと簡単かつ便利。稀に山刀を使う場合もあるが、刃が太い分、骨に身をたくさん残しがちだ。しかし、残った頭と骨も捨てずに調理するんだから、さして気にする必要もないだろう。あくまで大胆かつワイルドに。
 上の刺身は、昼食時に刺身を作った一例。三枚におろした身をブチ切りにした一品。現場で調理する場合は、皿代わりにフキの葉を裏返して使う。軽いまな板と醤油を持参することを忘れずに。
 テン場で5人分の刺身を盛り付けた例。ちょっと面倒だが、写真のように綺麗に並べるとさらに食欲をかきたてる。刺身の薬味として欠かせないのが自生のヤマワサビだ。
 一人分の刺身を盛り付けた例。調理するまで生きていただけに、天然イワナでしか味わえないコリコリした歯ざわりがたまらない。刺身は、最も簡単かつ美味な調理法だけに、源流定食には欠かせない定番料理。
イワナ寿司
 イワナ寿司・・・市販の寿司太郎を、飯盒で炊いたご飯に混ぜて作った誰でも簡単に作れる一品。まな板に寿司を乗せ、イワナの刺身を寿司の上に綺麗に並べるだけ。ただし、イワナは尺上クラスじゃないと、こんな風には盛り付けできない。1個1個握る場合は、ご飯に「すしのこ」が便利。
イワナのタタキ風刺身
 イワナの刺身に、ショウガ゙、ニンニク、スライスしたタマネギ、ミョウガを入れ、醤油をかける。上から蓋をして、上下に叩くように振りよくかき混ぜる。30分ほどねかすと出来上がり。ボリューム満天、スタミナ回復、精力絶倫?日本酒、ビール、ウィスキー、焼酎、ウォッカなど、どんな酒ともバッチリ合う。ただし素材に使うタマネギが重いのが難点。
頭と骨の燻製・・・骨酒用
刺身をとった後の頭と骨は、焚き火でじっくり燻製にする。そのまま食べても美味いが、何と言っても骨酒が最高だ。家に持ち帰るのは、これだけにとどめるべきだ。
 頭と骨は、焚き火の上にヒモで吊るし、遠火でじっくり燻す。骨酒を楽しむためには、決して塩をふらないことが肝要だ。
 焚き火で燻製中の頭と骨。ヒモで吊るす以外に、竹や小枝の串を使う方法もある。骨酒は、空になった5合入りの紙パックを使うと便利。紙パックの上をナイフで一面だけ残して切ると、蓋付きの容器に変身する。それに焚き火で燻製にした頭と骨をたっぷり入れ、熱燗をその上に注ぐ。蓋をしてまもなく、イワナのエキスが酒に溶け込み、得も言われぬ妙味となる。
刺身の残り、皮とアラを使った唐揚げ
 刺身で残った素材をイワナ汁に入れる人も多いようだが、味噌汁のダシとしてはイマイチ。我々は唐揚げが定番だ。
 イワナセンベイ・・・剥ぎ取った皮は、適当な長さに切って(通常真ん中から半分に切る)、タオル又は新聞紙でヌメリや水分をよく拭き取り、唐揚げ粉をまぶして油でカリッと揚げる。食べるとパリパリと音が出て、何やらイワナセンベイを食べているのに似ているのが名前の由来。初めて食べる人は、決まって「皮がこんなに美味いとは」・・・と、絶句するほど美味い。
 シェフ柴ちゃん自慢の唐揚げ料理完成品。イワナの皮とアラを使った一品。
 新聞紙で作った箱型の手づくり皿に盛り付けると、余分な油もとれて美味しい。

 (注)イワナや山菜、キノコ料理にサラダ油を使う場合が多い。サラダ油は、燃料にもなることを考えれば、全てリサイクルするのがベスト。廃油ランタン廃油キャンドルとして使うか、あるいは布や紙に染み込ませて着火材として使えば便利。消えそうになった焚き火に注ぎ、火力を強くするといったマルチな利用方法もある。いずれにしても、全て燃やして使い切ることを忘れずに。間違っても、廃油を地面や渓に捨ててはいけません。
卵と白子の酢醤油和え
 夏以降のイワナには、卵と白子が入っている。腹を裂いたら内臓と一緒に捨てないように注意。酢と醤油を入れ、30分ほどねかしてから食べると絶品。生で食べるのがコツ、決して煮たりしないこと。

 胃袋を使ったモツ焼き・・・イワナの胃袋を裂き、流水で丁寧に洗い流す。これに塩をふり、焚き火で焼いて食べると臭みのない珍味となる。ただし、この作業は手間がかかる割にはボリュームに乏しく、定番料理とは言い難い。
定番中の定番、イワナの塩焼き
 テン場近くに竹があれば切り口を鋭く斜め切りにした竹串、なければ小枝の先を削って作る。刺し方のコツは、魚をくねらすように串刺しにし、尾の付け根の手前で止めるのがコツ。突き刺してしまうとイワナがクルクル回り、うまく焼けない。次に腹と魚全体に塩をまぶし、頭と尾ヒレにたっぷり塩を付ける。
 焚き火で焼くときは、とにかく焦らず遠火でじっくり焼くこと。焦ると皮が焦げるだけで失敗すること間違いなし。焼き具合を見ながら、時々動かし時間をたっぷりかけて全体を均等に焼き上げるのがコツ。時間がかかるだけに、いつも乾杯には間に合わないのが唯一の欠点。オーソドックスだが、何度食べても飽きない。
 イワナの塩焼き完成品。焚き火の煙りがたっぷり沁み込み、思わずかぶりつきたくなるほど香ばしい香りが漂う。同じ天然イワナでも、ガスコンロで焼いたイワナと焚き火の煙の魔術が加わった一品では、比べものにならない。
焚き火でじっくり燻製にした一品
 ブナなどの広葉樹の風倒木を使った焚き火に、たっぷり時間をかけて遠火で焼き上げると、燻製と同じ飴色になる。骨に巻きついているのは、マムシの燻製。これまた病み付きになるほど、凝縮された味がある一品。しかし最近は、マムシを見ることがなくなったのが残念だ。(とは言うものの、私は大の蛇嫌いで、マムシに出会うといつもゴメンナサイと謝りながら遠巻きに逃げてしまう。捕るのは、もっぱら中村会長と長谷川副会長の役目なのだが・・・ただし、食べるのは大好き!)
 焚き火で一晩かけてじっくり燻製にした一品。これぐらいじっくり焼けば、日持ちも良く、頭も骨も食べられる。遡行途中の昼食にも大活躍すること間違いなしだ。とにかく疲れも吹き飛ぶほど美味い。
 左は死んだばかりのヤマギシを運良く拾い、焼き鳥にしたもの。後にも先にも山のプレゼント・焼き鳥はこれ一回だけ。味は、今でも鮮明に思い出すほど美味だった。どこかにヤマドリでも落ちていないかと、いつもキョロキョロしているものの、そんな幸運は二度と訪れなかった。
イワナのムニエル、ニジマスの刺身
 イワナの三枚おろし・・・ムニエル、油炒めなど、フライパンで炒める料理は、皮をつけたまま三枚におろしてから調理する。これをフライパンで炒める場合は、皮のある方から炒めるのがセオリー。
 北海道定番の料理・・・野生化したニジマスの刺身(写真下)は、イワナに劣らず美味い。

 イワナのムニエル(写真左上)・・・皮をつけたまま三枚におろした身に、小麦粉をつけ、味付けに塩コショウを加える。フライパンにバター又は油を少々入れ、スライスしたニンニクを加えて焦げ目がつくまでじっくり炒める。これもまた簡単かつ美味。

 植野流ムニエル・・・山釣りの達人・植野稔さんの定番料理。ごま油、醤油、砂糖、コショウ、スライスしたニンニクで作ったタレにしばらく漬けておく。フライパンを熱し、弱火で皮の面を下にして炒める。同じ要領で反対側を炒める。目安は、タレがグツグツ泡状となり、アメ色になれば出来上がり。酒のツマミに、そのままご飯にかけても絶品。
イワナの骨酒
 イワナを丸ごとじっくり素焼きにしてから、熱燗を注ぐと本物のイワナの骨酒が楽しめる。孟宗竹を半分に切った器を使うと、さらに味は良くなる。イワナの甘味が酒にからみ、安酒でも美酒に変身。当然のことながら、イワナに塩をふってはいけません。酒とイワナの味が台無しになるので注意。

 その他イワナ料理を列挙すれば、ホイール焼き、石焼き、天ぷら、甘露煮、味噌焼き、天丼、マリーネ、イワナの味噌汁、味噌煮、蒲焼、イワナのタタキなど、イワナ料理のバリエーションは際限がない。
岩魚の燻製
家に帰ってから燻製にする場合は、塩漬けにして持ち帰えり、冷蔵庫に保管する
▼燻製の手順・・・塩漬け又は漬け込み液に浸す→塩抜き→水切り→風乾→燻製
塩抜きには一昼夜ほど要す。風乾は、扇風機を利用しても丸一日ほどかかる。
燻製には最低二日〜三日かかるのが難点・・・ただし保存は効くし、最高に美味。
燻製は、市販のスモーク缶を利用して約三時間ほどで完成する。
詳細は、岩魚の燻製
 早春の源流定食・・・刺身、ミズの塩昆布漬け、アイコ(ミヤマイラクサ)のおひたし。アイコは、醤油でもいいが、マヨネーズで食べると格段に美味い。
 アザミのおひたし・・・茎が空洞になったアザミの若い茎だけを採取し、茹でてアクを抜き、太い筋をむいて取り除く。マヨネーズで食べると、これまた絶品。
 6月は、奥深い源流を旅するベストシーズン。というのも、イワナも旬だが、新緑に染まる渓で山菜の数が桁外れに多いからだ。中でも、タケノコ汁は絶対に外せない一品だ。
山の幸は、山でこそ美味い・・・もちろん酒も
 ブナの森に輝くテン場(白神山地追良瀬川支流ウズラ石沢)

 山と探検、イワナ釣り、学問を混然一体として楽しみ、ダーウィンの進化論と真っ向から対立する「棲み分け理論」を展開した故今西錦司博士は、名言を二つ残している。「学問は人からでなく、自然から習うもの」「酒は山でこそ美味い」・・・特に二つ目の言葉は、誰もが頷く名言だろう。コンビニで買ったオニギリやインスタントラーメンでも、上の写真のような緑滴る渓谷で食べれば、しこたま美味い。いわんや森と渓流の恵み・・・天然のイワナ、山菜・キノコ料理とくれば、くどくど説明する必要もないだろう。
 旅人にとって、最大の関心事は、「食」だと言われる。そのポイントは、そこでしか味わえない食に限られる。ちなみに秋田の温泉で一番人気の鶴の湯温泉は、ひなびた囲炉裏を囲み、串刺しにしたイワナの塩焼き、キノコと山の芋を使った山の芋鍋、裏手の山で採れるタケノコの味噌焼きがメイン。つまり古い歴史を持つ素朴な秘湯に加え、山の宿で食べる山の幸が人気の秘密だろう。
 山釣りは、四季折々、美しい渓谷の真っ只中で、焚き火を囲み、現地採取した山人料理で骨酒を楽しむ。言わば、これ以上ない借景を取り込んだ究極のレストラン、居酒屋、喫茶店であり、深山幽谷に分け入った者だけが味わうことのできる「美食」とも言えそうである。 
 満天の星空、苔生す清流の音、焚き火のはぜる音、ときおり暗闇にホタルが舞い、発情したオスのカモシカがメスを求めて叫ぶ鳴き声が森閑とした森の中に響き渡る・・・原始の本能を呼び覚ますような心地よいBGMを聞きながら、素朴なイワナ料理、山菜・キノコ料理で酒を酌み交わす。こうしたこの世の極楽の世界を味わった者は、瞬時に山釣り中毒患者と化してしまう。その毒性は極めて強く、一生抜けないだけに、くれぐれもご用心。
秋田たべもの民俗誌(太田雄治著、秋田魁新報社)・・・イワナ 「元祖山釣り」の記録
 秋田県仙北郡玉川部落の「イワナ」の項には、昭和初期のイワナ民俗誌が記されている。その記録は、現代の山釣りの世界と似ていて興味深い。いや、奥深い山村では、山に野宿してイワナを釣る「山釣り」のようなスタイルは、古くから存在していたのだ。

 「玉川部落の人たちは魚といっても、イワナだけが日常生活に最も大切なタンパク源で、これらの数々の支流をイワナの宝庫としていた。昭和初めまでは、玉川(17戸)に行くには・・・険しい山道を越えて20キロ。さらに西木村からも、サルも通わないような尻高峠を踏破して15キロ、やっとたどり着く。全く俗世を離れた別世界の部落だった。

 昭和4年・・・玉川部落のごちそうは、玉川上支流でとれたイワナを主としたものだった。1.5m四方もある囲炉裏の焚き火で・・・一つのベンケイには、30センチから50センチまでのイワナを串にして2,30尾。3、4つのベンケイに、数十尾以上のイワナ串が見事に刺されてあり、焚き火の燻製で、イワナが黒く底光りし、ギラギラ天井に輝いていた。

 この山奥でこれだけだと思ったとおり、朝からイワナ攻めで、イワナと親指ほど太く柔らかい大深ゼンマイの味噌汁、イワナの燻製の焼き魚、イワナのいい寿司、イワナの味噌漬け、ウド、ミズなど山菜を入れたイワナかやき、干して保存してあったシイタケ、マイタケのキノコ類を入れたイワナの吸い物。

 さらにイワナだしの干しうどんなど、全て豪華なイワナ料理であった。イワナのなかみは真っ白く柔らかで、海の白身の魚に似ていて、美味であった。それだけに玉川流のイワナの住む沢々は、当時の重要な食糧源で、ナメなど毒を流して、互いにイワナを大量にとることは絶対にしなかったらしい。刺し網か、置き釣りなどでとった。・・・
 写真:玉川部落の人たちが沢に野宿してイワナを釣った大深沢上流のイワナ。

 ・・・玉川の人たちはイワナは正月や盆のごちそう魚になるので、盆を前にして、イワナのことを別名「盆魚」と呼んで、必ずグループをつくり、2・3日も沢々に野宿し、夜釣りのイワナとりに出掛けることが、大切な行事であったらしい。

 ・・・イワナ釣りたちは、雑魚箱というものを各人が背負った。・・・フタがあってその下にナカゴがある。ナカゴには味噌、味噌漬けなどの山で食べる副食物、それに塩蔵用の塩などを入れて持っていった。野宿しながら、置きハリ、火ぶり、渓流釣りなどとったイワナを、腹ワタをとり、その日その日、新しいうちに塩蔵した。この頃は各沢は夏の渇水期なので、豊漁なときで、野宿1,2泊、とれない時でも3,4日の釣りで、塩漬けのイワナが雑魚箱一杯になった。それを盆魚と称し、家でさまざまなイワナ料理をして食べたのである。

 ・・・野営の場所として、沢の中州を選ぶ。このような所には流木がたくさんあり、これを焚き木の材料として山積みにし、大かがり火を一晩中たき続ける。中州は、四方がよく見渡せるので、クマなどの野獣も近寄れない安全地帯である。

 ・・・置き針、刺し網、渓流釣りを行いながら、沢を移動してゆく。食糧は味噌と米だけで十分で、とったイワナを焼いたり、煮たりして食べる。味噌や塩蔵用の塩を持っているので、いろいろな山菜をとって食べるのだ。焚き火でフキを焼いて沢の流れ水に入れておくと、そのまま味噌をつけても食べられるし、イワナ汁に入れても、焼きフキは美味だ。」
イワナの腹ワタ(胃袋)づけ
 写真:田沢湖町伊藤金兵衛のイワナ釣り場だった葛根田川上流部。

 「田沢湖町先達の伊藤家で昔よく漬けたもの。・・・岩手県葛根田川上流の沢々は、伊藤金兵衛さんの釣り場だった。毎年6月末から9月まで、この地帯に釣りに出掛けるので重い鍋・釜は、山奥の沢に置いてあったという。沢々の野宿は、3、4泊くらいであった。・・・

 たくさんとったイワナを、夜明けとともに沢で腹ワタを取って、イワナ箱に塩蔵した。一方イワナの腹ワタの中には、川の砂や砂利、それに様々の虫類を一杯飲み込んでいるため、笹竹の細いナイフを作り、腹ワタをこれで裂いて中を沢の水でよく洗った。そして、持って行った味噌にワタを漬けた。・・・朝飯の時、この腹ワタの味噌漬けを食べさせてくれた。あぶらがあって、歯ざわりのサクサクしたとてもうまい味。また、味噌ばかりでなく塩辛にも作って家に持ってきた。ほんとうに何とも言われない美味さのあるものだった。ところで、祖父は孫に対し、山のたくさんイワナのいる場所やその沢の地理について絶対に教えなかった。」

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