渓流足袋にピンソールを装着すれば、スパイクシューズに変身 山釣りあるいは沢登りでは、滝やゴルジュ、通らずの函の大高巻き、泥壁の上り下り、杣道、マタギ道、ゼンマイ道、けもの道、森林軌道跡、登山道、急斜面、稜線付近の猛烈な薮こぎなど、水陸両用の足ごしらえが必須だ。これを渓流足袋あるいは渓流シューズ一本で通そうとすれば、体力の消耗は激しく、バテバテになること間違いなし。さらに、スリップ事故の危険が高く、命がいくらあっても足りない。過去の経験を踏まえて、新製品・ピンソールを評価してみたい。 |
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今からちょうど20年前、建設中の青秋林道終点から山越えをして赤石川源流へ行った懐かしの写真二枚。当時、何とも馬鹿なのは、山越えでも渓流足袋を履いたままだったこと。これは、雪道を普通タイヤで走行しているようなものだった。重い荷を背負い、急斜面で滑ると、バランスを崩し体力の消耗は倍以上。距離も進まず、あっと言う間に山は暗くなった。ライトを点けて歩くも、足元が定まらず、さらに滑る。苦い思い出だけが鮮明に残っている。一度やって苦しめば、その愚かさが骨の髄までしみる。 | |
左から、スパイクシューズ、スパイク付き地下足袋、渓流足袋 ◆スパイク付き地下足袋・・・山越えルートを辿る時は、赤石川源流以降、スパイク付き地下足袋が定番となった。この欠点は、日本古来の爪方式で、10本もの爪を一つ一つ紐式の穴に通さなければならず、履くときにやたら面倒なこと。早春や10月以降になると、保温性がなく寒さに耐えねばならないこと。 ◆スパイクシューズ・・・履くとき簡単で、つま先のガードも固い。しかし、一旦荷物になると、重くかさばる。スパイク付き地下足袋とスパイクシューズ、そのいずれも、渓流足袋との併用で使用しなければならず、二つの靴を持ち歩かなければならない。しかも濡れるとさらに重くなる。ということで、長年、水陸両用のアイテムを待ち望んでいた。 |
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左:4本爪アイゼン 右:ピンソール ・・・水陸両用のアイテムとして考えられるのが、雪渓などの非常時に使う簡易アイゼンと渓流用に開発されたピンソールの二つだ。 ◆4本爪アイゼン・・・低価格で、着脱も簡単。だが、急斜面の上り下りでは、ズレやすい。ズレないようにきつく締めると足が痛い。沢では、岩への衝撃も大きく、滑り台のような岩盤では逆にブレーキが効かない。ハードで長時間の山越えルートを歩くには、欠点だけが目立った。つまり簡易アイゼンは、ちょっとした高巻きや雪渓など、非常時の使用にはオススメだが、山越えルートには×。 ◆ピンソール・・・簡易アイゼンは、爪が靴の中央で、締め付けベルトが足首一本だった。ピンソールは、爪が前6本と後4本、合計10本で、締め付けも靴全体を利用する方式をとっている。つまり簡易アイゼンの欠点をほぼ克服している。渓流足袋に装着してみると、簡易アイゼンのような違和感はなく、むしろ一体感を感じた。ただし、価格はやや高く、装着には、簡易アイゼンより時間がかかる。 |
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先割れの渓流足袋にピンソールを装着した写真。まず見た目が格好いい。そして安定感、一体感を感じる。構造物でも、形を見て安定感のあるものは、実際に安定計算しても問題がない。逆に見た目が不安定なものは、安定計算しても×になる。これと同じで、直感的にいけそうだと思った。 | |
右の写真を見ればお分かりのように、真ん中でブレーキを掛けるより、前と後の両方で掛けた方が有利。また、4本の大きな爪よりも10本のピンの方が滑り止め効果は大きい。つまり点ではなく面的な摩擦を期待できる。また、沢での使用にも違和感は少なく、滑り台のような岩にもある程度効果を発揮した。 仲間から、前のピントと後のピンをつなぐ鎖が一本だけだからすぐに切れないか・・・との疑問が飛んだ。実際に使ってみると、まずそんな心配もなさそうだ。もし、切れるようなトラブルがあるとすれば、二本の鎖でつなぐ方法も考えられるだろう。 |
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コンパクトさはどうか・・・左がピンソールを収納したもの、右が簡易アイゼンを収納したもの。ピンソールも意外にコンパクトだ。重量は260g。スパイクシューズをもう一足背負うより、遥かにコンパクトで軽量であることは、言うまでもない。 | |
携帯性はどうか・・・山越えルートを辿り、沢に降りると、簡易アイゼンでもピンソールでも外して歩く。その時、背中に背負うのではなく、通らずの高巻き、急斜面の上り下りに備えて、すぐ使えるようにカラビナやザックのベルトに掛ける必要がある。つまり、携帯性にも優れていることが必要だ。簡易アイゼンは、左右の紐を結ぶと簡単に掛けられる。非常時に開発されただけあって、この点が優れている。 | |
では、ピンソールはどうか。幸いピンソールの前ピンのベースには、穴が2箇所空いている。これにカラビナを通し、ザックの横に下げればOK。いつでも簡単に取り出せる。 | |
初めて渓流足袋+ピンソールを試用したのは、2泊3日の山ごもり・「怪魚が棲むゼンマイ谷」だ。森林軌道跡、杣道を歩きテン場へ。ピンソールのズレや足の痛みは皆無だった。これは、アップダウンの少ない歩きだったから、当然と言えば当然の結果。驚いたのは、ピンソールを着けていることを忘れるほどの一体感があった点だ。 | |
次なるテストは、険谷で知られるゼンマイ谷へのアプローチ。草付けの泥壁、潅木が生い茂る急斜面、オーバーハングになった岩場をきわどく登る。ピンソールには、ハードな力が何度もかかる。ブレーキはほどよく効くので、難なく突破。布テープをブナに掛け、後続者を安全にサポートした。 | |
ヒバの巨木が林立するヤセ尾根を上り、急斜面を横にトラバースしながら下降地点を探す。渓流足袋なら、かなり滑って体力を消耗するところだが、ピンソールのお陰で楽チンだった。それでも難所のアプローチには1時間余りかかった。 | |
最も足に力がかかるのは、急斜面を下る場面だ。急な脇尾根を下り、つかむ潅木もない泥壁、岩場は布テープで安全に沢へ降りる。こうしたハードな場面でも、一度としてピンソールのズレや足の痛みを感じることがなかった。帰路も当然のことながら、同じハードなルートを辿りテスト。 | |
帰路、大高巻きを終え、沢を下る時もピンソールを付けたまま歩いてみた。スパイク付き地下足袋を履いていた当時は、よくそのままで沢を歩いていた。地下足袋は、底が薄く、スパイクと硬い岩との反動が足裏にダイレクトに伝わる。当然、足裏が痛くなる。春や晩秋は、足の感覚がなくなるほど冷たい。渓流足袋は、もともと保温性が高く、フェルトの厚さで反動を吸収する。それにピンソールを着けて歩くのだから、スパイク付き地下足袋あるいはスパイクシューズより遥かに優れている。 渓流足袋あるいは渓流シューズが、ピンソールを装着するだけでスパイクシューズに変身する。しかもフェルトの磨耗も大幅に軽減できる。これは、山釣りに十分使えるスグレモノだと思う。我が会の山釣り初心者・美和ちゃんは、昨年、試作中のピンソールを装着して白神山地と仙北街道を歩き抜いた。これまで水陸両用の足ごしらえに悩まされてきたが、今のところ、ピンソールを上回るアイテムはない。これで背中に靴を背負う必要もなくなった。秋のキノコ狩りでも大活躍することだろう。 |
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昨年、和賀山塊堀内沢を遡行し、登山道のない原始の山・羽後朝日岳(1376m)に登った。その際、スパイクシューズに履きかえるのが面倒で、渓流足袋だけで登った。お陰で、急登の猛烈な笹薮、雨でぬかるんだ急な坂道、泥道で何度も滑り、体力を限界まで消耗してしまった。こんな時、ピンソールがあれば、どんなに楽チンだったことかと思う。ハードな遡行には、軽量・コンパクトに加え、着脱が簡単でかつマルチに活躍するアイテムが最も求められる。 ■私からの提案・・・ピンソールは、山釣り用としてほぼ完璧に近い。しかし、不完全な簡易アイゼンでも不満をもらしつつ代用している人も多い。この両者の特質を半分づつ取り入れ、やや機能性に欠けるものの、もっとコンパクト・軽量・経済性を追及する製品があってもいいのではないか。 つまりピンは中央のみ、ベルトの締め付けは足首ではなく、前と後のかかとで・・・といったコストと軽量、携帯性、簡易な着脱を優先したものも考えられるのではないか。もちろん価格が安ければ、耐用年数は1〜2年程度でも不満はないだろう。買う人にとって、選択の幅が広いほど嬉しいことはないのだが・・・。 |
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開発者・竹濱武男さんに聞く | |
@.開発のきっかけ・・・1999年に瀬畑翁に同行し、泥又川源流部に行ったときの尾根から二股への急下降そしてその登り返し、及び帰路のぜんまい道をフェルトソールで頑張りましたが、スリップの連続で大変苦労したのがきっかけでした。
A.試作品・・・その後、試作しては実地テストを繰り返し、2002年にほぼ現在の形状になりましたので、瀬畑翁にご使用頂きその欠点を洗い出して頂きました。 その結果、スパイクの効果は抜群でしたが、タビへの取り付け方法をもっと強固にしないと、ハードに使用した場合は外れてしまうことが確認されました。
B.開発のポイント、苦労・・・開発の当初からこのピンソールについては重量を300グラム以下で小さく折りたたんで小袋に収まること、着脱にそれぞれ2分以下で出来ること等その制限を設けておりました。 また、アイゼンのようにガチガチにタビ又はシューズに固定してしまうと、足が締って長時間の歩行では、とても痛くて耐えられないものとなってしまいます。
そこで、靴の踵・底・つま先の三点を支点として足首下部で後部のスパイクを固定し、前部は必要最低限のテンションをゴムで確保することにより、柔らかい渓流タビ等でも締め付け感を許容限度まで軽減しました。 さらに、スパイクピンの靴底に当たる部分に小さな突起をつけることによりフェルトにその部分が食い込んでズレを防止するようになっております。上記にいたるまでの過程で、試作を20種類程作成し、テストの繰り返しでありました。 C.2003年夏には、瀬畑翁、そしてろうまん山房の高桑さんよりかなりの評価を頂くまでになりましたし、皆さんから発売の勧めがありましたので、現在試験販売をしているところです。・・・とのことでした。 詳細は下記HPの「渓流靴用」をご覧ください。 PIN-SOLE http://www.syoei-pro.co.jp/ |
追記:先割れタイプの渓流足袋とピーンソール(2007年5月) | |
険しい谷や滑りやすい斜面を攀じ登る山釣りでは、足回りが最も大切である。 谷を歩く時は、いつも先割れタイプの渓流足袋を使用している。 この利点は、ピンソールとの相性が極めて良いこと。 渓流シューズやつま先が割れていないタイプの渓流足袋にピンソールを装着した場合、横ズレする懸念がある。 このピンソールは、開発者・渓友亭 竹濱武男氏の工夫の賜物 先割れ部分に横ズレを防止する鎖が一本追加されているのに注目。 これで完璧に横ズレは防止できる。 |
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谷歩きでピンソールを使いたい方は、先割れタイプの渓流足袋を選択することをおススメしたい。 そして、ピンソールを注文する時は、その旨を伝え、特注することを忘れずに。 PIN-SOLE http://www.syoei-pro.co.jp/ |
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