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 最終更新:2003年6月14日
 深山幽谷に棲むイワナ(岩魚)・・・「谷の精霊」とか「渓流の王者」「幻の怪魚」「神秘の美魚」といった様々な形容詞で飾られることが多く、全国各地に神秘と幻に包まれた伝説が数多く残されている。天然イワナが生息する条件は、水温15度以下と冷たく、年間を通して水量が安定していること。夏の渇水で水が枯れるような沢には生息しない。

 ちなみに、秋田のイワナ生息分布図を見れば、ブナやミズナラ、サワグルミなど原生的な広葉樹の分布図とツキノワグマの生息分布図、そのいずれともピタリと重なるように分布している。つまり、イワナは原生的自然を象徴するバロメーターとも言える。餌は、トビゲラ、カワゲラなどの水生昆虫や陸生昆虫、さらにはサンショウウオ、カエル、ネズミなどを食べる。中には、胃袋から蛇が出てきた例も少なくない。人跡稀な深山幽谷に生息しているだけに、その生態は今だ謎に包まれている。
 異様に大きく腹が膨れたイワナの胃袋を裂くと、何と大きな川ネズミを丸呑みしていた(北海道日高のエゾイワナ)。イワナは、餌の少ない厳しい源流に生息しているだけに、動く餌なら何でも食べる悪食家の日本チャンピオンだ。その謎に包まれた野性味溢れる生態に、人生を狂わされた釣り人も少なくない。かく言う私もその一人だが・・・。
 日本原産のイワナは、一体何種類か
 「魚類学者に対し、これほど難題を持ちかける魚は、ほかにはいない」
 (1866年、魚類学者・ギュンター)


 世界のイワナの南限に当たる日本のイワナは、斑点の大きさや色の変異がさらに著しく、様々な学説が飛び交い混乱してきた経緯をもつ。釣り人が混乱するのも当たり前だが、それだけに不思議な魅力を秘めた魚である。

 その混乱に終止符を打ったのが今西博士である。
 彼は、自らの棲み分け理論と誰が見てもわかり易い分類という視点から、北海道にのみ生息するオショロコマと北海道と本州にまたがって住むイワナの2種に分類した。現在では、2種に分類する考え方が定説になりつつある。

 しかしながら、地域ごとに個体差が著しく、こと細かに分類した大島博士などの分類も捨て難い。彼らの分類を参考にすれば、オショロコマ、然別湖に陸封されたミヤベイワナ、アメマス、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、紀伊半島のキリクチ、山陰のゴギの7つの型に分類できる。地域独特の在来種の保護を考える場合は、こうした個体差に基づく分類は、大変参考になる。

 この7つの型をたったの2種に凝縮した今西学説は、単純明快で理解し易いが、地域固有のイワナを愛するようになると、斑点やパーマーク、体色、背中の紋様などの違いに驚かされるのも事実である。それは単なるイワナの変異や亜種に過ぎないとしても、地域独特の美しい姿態は忘れることができない。
 海道にのみ生息する落武者、赤い斑点のオショココマとは
 日本のオショロコマは、アメマス以上に冷水に適した魚で、北海道にのみ生息している。アメリカでは、オショロコマを 「ドリーバーデン」と呼ぶ。イギリスの有名な小説に出てくる少女・ ドリーバーデンは、いつも赤玉模様の服を着ていたことから、 その少女の名前をとって付けられたという。(上の個体は、北海道札内川源流のオショロコマ)

 北海道日高山脈を流れる源流では、深山幽谷に住む魚は、イワナではなくオショロコマである。私にとっては、最上流に棲む魚というだけで、最高ランクの渓魚だと思っている。イワナに比べて動きが鈍く、型も小さいが、枝沢に入ると魚影の濃さに驚かされる。特徴は、何と言っても朱紅色の鮮やかな着色斑点である。然別湖に陸封されたミヤベイワナは、生態的にも形態的にもオショロコマの亜種と言われている。

【外見上の特徴】
@太った魚体に比べて、顔が小さい。
A顔から背中にかけて盛り上がっており、極端に言えば猫背
B赤い斑点が3列千鳥に並んでいる。これが最大の特徴。
Cイワナは尾の中央部がくびれて三角形だが、オショロコマは切れ込みが少なく角形。さらに、ヤマメと見紛うような青い楕円形のパーマークがはっきり残っている。
 新冠川源流の枝沢、まるで落人部落のような場所に生息していたオショロコマ。

【オショロコマの生態】

@北海道のオショロコマは、基本的に降海せず、河川型や湖沼型だけになっている。
Aヤマメは落下昆虫を、アメマスは流下昆虫を、そしてオショロコマは底生昆虫(ヨコエビ、トビゲラ、カゲロウ類)を多く食べている。サケ科の中では、最も底住性が強い

B遊泳性の強さは、ヤマメ、アメマス、オショロコマの順で、最も遊泳性が弱い
Cアメマスは低平地帯の河川に住み、オショロコマは山地渓流住むという分布関係は、道内で広く見られる。
 日高山脈の枝沢源流に群れていたオショロコマ。上から見ると、イワナと違ってパーマークが鮮明であり、すぐにオショロコマだと判定できる。

 同一河川では、オショロコマが標高の高い地帯に、アメマスはそれよりも低い地域に生息している。オショロコマは、古い寒冷な時代に北海道に住み着いた魚であり、アメマスは、後に温暖な気候に適応した新しいイワナとして分布域を広げてきた。道南の地域では、オショロコマはほとんど駆逐されてアメマスにとってかわられた

 道南の各地にひっそりと点在するオショロコマの小さな生息地は、時流に取り残された者たちの落人部落なのである。知床半島はオショロコマにとって、まさに道内最後の牙城である。

「イワナの謎を追う」石城謙吉著、岩波新書より抜粋
 日本に生息するイワナの本流、アメマスとは
 北海道日高・新冠ダム湖から遡上したアメマス系の大イワナ。北海道から東北にかけて生息している。特徴は、着色斑点はなく、白の斑点のみ。北海道のイワナは、ほとんどこの種に属しているが、東北ではニッコウイワナと混生している場合が多い。

 一般的に海に下るものをアメマス、河川に陸封されたイワナをアメマス系イワナあるいはエゾイワナと呼んでいる。 特にダム湖から遡上するアメマスは、40センチを越える大物も珍しくなく、大イワナを狙うならダムの有無が重要なポイントとなっている。
北海道の陸封されたエゾイワナ(北海道ソエマツ沢)。着色斑点はなく、白い斑点も大きいのが特徴。
 上の個体は、白神山地の源流に陸封されたアメマス系イワナ。北海道のエゾイワナと比較すれば、斑点がやや不鮮明で小さいのがはっきり分かる。
道南がニッコウイワナの北限
 新説・道南がニッコウイワナの北限(写真・情報提供:札幌市在住 升田正さん)・・・この写真を見るまで北海道には、着色斑点のニッコウイワナは生息していないと思っていた。それだけに心底驚かされた。詳細は、画像をクリック。
 本州ではお馴染みのニッコウイワナ
 上の写真は、橙色の斑点が鮮やかなニッコウイワナの大物。アメマス系の地方型で、本州のイワナと言えば、ほとんどがニッコウイワナである。小さな白い斑点と主に側線の下側に黄色から橙色の着色斑点をもつ。この着色斑点の色は、地域によって様々な色に変異している。

 ほとんどは、陸封型のイワナだが、日本海側の一部では降海型も見られる。側線より下に鮮やかな橙色の斑点が見える。 
 和賀山塊・堀内沢源流のニッコウイワナ・・・東北の源流では、白い斑点のみのアメマス系イワナと混生している場合が多い。
 側線より上が白の無着色斑点、下が橙色の着色斑点だが、斑点の大きさ、鮮明さが、他の個体よりも際立っている。岩魚は一般に魚体が大きくなるにつれて、斑点が小さく不鮮明になる傾向があるが、この個体は、それに異論を唱えるような個体だ。
 側線は鮮やかな白い点線だが、斑点もパーマークも不鮮明で、異様なほど体色が黄橙色に染まっている。しかも斑点は無着色斑点が見当たらず、全て薄い橙色の着色斑点をもつ。このようにニッコウイワナと一口に言っても、各沢によって、斑点の大きさ、鮮明さ、着色斑点の色や濃淡、体色など微妙に違うのが分かる。養殖されたイワナ、ヤマメの放流、コクチバスやニジマス、ブラウントラウトなど国外から移入された外来魚の放流・・・「島国日本の淡水魚も国際化」などと悠長なことを言う人もいるが、むしろ「国際化時代」だからこそ、日本が誇る「深山幽谷の渓谷美」とそこに生息する「神秘の美魚」の多様性を大切にしたい。
 秋田の源流にも生息していたヤマトイワナ
 富士川から琵琶湖東岸までの太平洋側の源流に生息すると言われるヤマトイワナ。
 外見上の特徴は、白色の斑点は少なく、
 側線の上下に濃い橙色から朱紅色の着色斑点を多く持っている


 ニッコウイワナとは、分布域が大深沢のヤマトイワナ異なり棲み分けられているが、
 これもアメマス系の地方型とされている。
 紀伊半島のキリクチもこのグループに属する。特に陸封された歴史が古いイワナと言われている。

 外見上の分類からいけば、
 右のイワナもヤマトイワナと
 呼びたくなる個体だ。
 このイワナは、
 秋田県・大深沢の枝沢源流
 で釣れたイワナである。

 秋田の源流をくまなく釣り歩いているが、
 こんな斑点のイワナに出会ったのは初めてである。
 いるはずのない東北の、しかも日本海側に注ぐ源流に生息していた
 謎は、深まるばかりである。

ヤマトイワナ


左の写真がヤマトイワナ。
着色斑点が側線の上下に点在している。
 虫食い状の紋様をもつゴギ
 島根県の斐伊川から西の中国地方に生息すると言われるゴギは、頭部に鮮明な虫食い状の模様があるのが最大の特徴とされる。体側の着色斑点が大きく、黄色から橙色をしている。こうした外見上の特徴だけをとらえれば、北にもこの種のイワナは生息している。

 上の個体は、頭部から背中にかけて、鮮明な虫食い状の斑紋をもつ。こうしたゴギと似た個体は、秋田にもたくさん生息している。
 ゴギの特徴を全て兼ね備えたような個体・・・着色斑点が大きく橙色の斑点も鮮やかで、頭部から背中にかけて虫食い状の斑紋も鮮明だ。

 下の右端の写真は、白神山地で釣れたイワナだが、斑点の色は黄色から橙色、頭部から背中にかけて鮮明な虫食い状の紋様がある。これもゴギと似ている。ゴギは、まだ写真でしか見たことはないが、釣り人の感として言わせてもらえば、ゴギもやっぱりアメマス系の地方型という今西学説が正しいように思う。
ゴギ 白神・虫食い状の紋様
ゴギ・・・頭部に鮮明な虫食い状の斑紋がある。 白神のイワナ・・・これもゴギと同じく虫食い状の斑紋がある。

 突然変異のイワナたち
ナガレモンイワナ(カメクライワナ)・・・楕円形のパーマークがなく、
 体側に不規則に湾曲した細長い流れ紋があるイワナ。
 発見地の一つである最上川水系亀倉沢に因み、カメクライワナとも呼ばれている。
 ナガレモンイワナは、イワナと他種の交雑種ではなく、イワナの突然変異個体である。
 発見地は、山形、滋賀、福島。

ムハンイワナ・・・全く斑紋のないイワナ。
 発見地は、山形、滋賀、富山、長野、石川、岩手の各県、
 ナガレモンイワナより多くの地域で見られる。
 ムハンイワナも突然変異個体である。    
ナガレモンイワナ カメクライワナ ムハンイワナ
ナガレモンイワナ カメクライワナ ムハンイワナ

 こうした地域固有のイワナたちを美しい写真とともに克明に記した名著
 を上げるとすれば、「瀬戸際の渓魚たち」(佐藤成史著、つり人社 3.800円)、
 「イワナの顔」(白石勝彦著、山と渓谷社 2,200円)である。

 共に全国をくまなく探釣して得た実践的な労作であり、
 その多種多様な固体には驚かされる。
 また、謎の多いイワナとオショロコマの生態を知るためには、
 「イワナの謎を追う」(石城謙吉著、岩波新書 490円)が素晴らしい。

 最初、北海道のオショロコマを経験する前にこの本を読んだ時は、
 その意味がよくわからなかった。
 なぜこんな所にオショロコマがいるのか、
 という疑問をもってから再度読み直したら、その内容の正確さに驚かされた。
 ぜひご一読をお勧めしたい。

 まるでタナゴかフナのような体形をしたイワナ。この個体は、「頭のつぶれたイワナ」と同じ水系で釣り上げただけに、釣り上げた瞬間不気味な戦慄が走った。不吉な予感に、急いで撮影を済ませ、すぐさまリリースした。それにしても不思議な体形だ。斑点や薄いパーマークを見れば、明らかにイワナなのだが・・・。
 特異な遺伝子が固定したイワナ
 「頭の潰れたイワナ」が秋田県米代川水系源流部で発見された。
 このイワナの体長は、20cm前後、普通のイワナ20尾に1尾の割合で混じっていたとう。

 上顎の部分が切り取られたような形で、目の部分の直前から内側に巻き込んでおり、下顎が突き出している。私が、このイワナを初めて釣ったのは昭和62年9月14日、その時の日記には、次のように記されている。「先天性奇形なのか、それとも増水時に岩に潰されたのだろうか。ともあれ、゛長助イワナ゛と命名しておこう」

 秋田県水産振興センターの杉山ドクターは、当時次のようにコメントしている。
 「発生率が高く、正常なイワナとの中間的なものもいる。昔からいたとなると、単なる突然変異とは考えられない。閉ざされた生活圏で特異な遺伝子が固定した可能性や、水質など環境の影響が考えられる」 
【 参考文献 】
今西錦司「イワナとヤマメ」(平凡社)
.「イワナの顔」白石勝彦、山と渓谷社
.「イワナその生態と釣り」山本聡、つり人社
「瀬戸際の渓魚たち」佐藤成史、つり人社
「イワナの謎を追う」石城謙吉、岩波新書

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