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鵜養かんがい用水路、舟作、伏伸の滝、菅江真澄と鵜養、ふるさとの原風景を維持するには・・・土地改良事業
▲清流「大又川」から取水している「鵜養(うやしない)かんがい用水路」
2010年5月30日(日)、久々の好天に恵まれた・・・さてどこへ行くか・・・
昨年、農林水産省発行の「農村景観」で紹介された秋田市河辺鵜養集落を訪ねることに

実は、この集落は2004年に散策したことがあった
その時、強烈な印象として残っていたのが、集落内を流れる清冽な水であった
新緑の季節・・・カントリーウォークにふさわしい歴史と水の美に彩られた村に改めて感銘を受けた
▲鵜養周辺MAP
鵜養かんがい用水路舟作清流・大又川伏伸の滝鵜養集落散策
▲「舟作」の案内看板
▲緑の木立の中を流れる鵜養かんがい用水路 ▲鵜養用水路から放出された清冽な余水
鵜養集落を過ぎて、大又川沿いの林道を走る
「伏伸の滝」を過ぎ、砂利道を300mほど走ると、左手に「舟作」の看板がある
まず目を引くのが用水路・・・清冽な水を満々とたたえて、ゆったり流れる水の美しさ

木漏れ日を浴びて、用水は淡い新緑を映す鏡となって流れている
ちょうど「舟作」の看板地点に余水吐がある
そこから清冽な余水が勢いよくほとばしり、清涼感は満点だ
その先に「舟作」と呼ばれる庭園のように美しい滝がある
▲新緑と「舟作(ふなさく)」の滝
大又川の広い流れが、ここで一気に圧縮され、狭い溝穴に吸い込まれるように落下している
まるで赤い岩盤を岩斧で削ったかのような不思議な自然の造形美
この狭い溝穴が舟の形をしていることから「舟作」と名付けられたという

案内看板には・・・
江戸時代の紀行家・菅江真澄は、日記「勝手の雄弓」に、舟作を描いた図絵を残しており、
湖であった昔、小鮒などを漁した場所で、フナ、雑魚といわれていた名が今に残ったものであろうと、
記しているが、現在は、前述の由来が通説となっている。
▲新緑に染まった舟作下流の美景 ▲菅江真澄図絵「舟作」
▲清流・大又川上流部
清流の証・イワナが生息しているだけに透明度は抜群である
鵜養かんがい用水路は、この清流を田んぼや集落の生活用水として取水している
この「美しき水」が、美味しい「清流米」を育てるキーポイントになっている
▲伏伸(ふのし)の滝・・・新緑と白い瀑布のコラボレーションが美しい
「舟作」より300mほど下流に三段の伏伸の滝がある
昔は、下流から遡上したマスたちが、この淵に群れをなして集まった
そんな日、村人たちは、農作業で使う「もっこ」を仕掛けてマスをたくさん獲ったという
それがために、かつては、「もっこ滝」と呼ばれていた
▲菅江真澄図絵「伏伸の滝」 ▲伏伸の滝下流を望む

右の写真のとおり、左岸沿いに殿渕から伏伸の滝まで遊歩道がある
一般に渓流沿いの遊歩道には、危険と称してフェンスを設置する場合が少なくない
しかし、親水空間を分断するフェンスほど不釣合いなものはない

自然散策はあくまで「自己責任」が原則であるべきだ
従って、人工的な構造物は最小限に抑えるのがベストである
大又川沿いの遊歩道は、清冽な飛沫を浴びて苔生し、自然と一体化している・・・だから美しい
▲「舟作」上流部の堰で取水された水は、集落内を走り、田んぼ、各家の敷地へと分水されている
農村景観」(農林水産省)によれば・・・
この水は、引き水として、堰から取水され、水田や畑を潤すだけでなく、
収穫した農作物や農具、時には洗濯にも利用され、農業用水に加え、生活用水としても使われる、
まさに「生命の水」として各家の敷地を血管のように走る・・・
▲1811年、菅江真澄が描いた「鵜養村」

▽菅江真澄と鵜養
1811年8月、真澄は、黒沢の勝手明神を拝した後、岩見村、三内村を巡って
岨谷峡(そやきょう)、鵜養、殿渕、伏伸の滝、舟作など、美しい図絵とともに解説文を記している

「鵜養村」の図絵説明文には・・・
鵜養村は昔は湖水であったとのことである。その頃一つの小嶋に薬師仏を祭る堂があり、
そこに詣でる人は、こちらの岸から賽銭を投げたことから、銭投げ堂という名がついている。
この村には支村があり、松沢口、穴淵などである・・・中山という峠の上から見渡した風景である。
▲鵜養集落の美しさは、この清冽な水にある
「鵜養(うやしない)」とは奇妙な名前である・・・鵜を飼っていたのだろうか

▲2004年3月下旬撮影・・・雪シロの冷たい水が集落内を走る

▽地名の由来
「地名のはなし」(三浦鉄郎著、三光堂書店)によると・・・
戸数22軒、北秋田郡根子の佐藤家が狩猟の途次この地を発見し、
定住開拓した三百年の古い歴史をもつ。

生業は、営林局の山仕事、薪炭作り、山菜採り、農業などで山林軌道は唯一の交通機関である。

この谷盆地はかつては沼を形成していたといわれ、
地名はこの沼で鵜を飼ったところに起因するという。
▲300年の歴史を物語る「もみの木」
鵜養「佐藤家」のもみの木は、樹齢300年以上と推定され、
佐藤家の先祖が、この地に移り住んだ当時に植えられたものだと言い伝えられている
しかし、「河辺町史」によると、佐藤家は南部八戸より移り住んだと記されている

「地名のはなし」に記されている阿仁マタギの里・根子移住説と異なっている
その真偽のほどはともかく、根子移住説が似合う山里である
▲残り少なくなった茅葺き民家その1
鵜養集落の代表的な萱葺き民家は、コの字型をした曲屋で、「両中門造り」の形式
これは、南秋田郡、秋田市、河辺郡、由利郡の一部に限られた珍しい伝統建築物である
▲茅葺き民家その2
この古民家もコの字型の「両中門造り」の形式
軒下に薪が整然と積まれている
家の周囲はよく手入れされた田畑が広がり、「ふるさと秋田の原風景」に心も和む
▲集落内を流れる用水路 ▲新緑が美しい農家の庭
鵜養集落は、岩見川上流部の最奥の村に位置している
冬の寒さと雪の多さは半端じゃない
それだけに盛春の山村は、水も緑も村もキラキラと輝いて見える

農家の庭は、いずれも歴史的なガーデニングで、先人の知恵と技が生きている
茅葺き屋根がトタン屋根に変わり、村の道は舗装され、水路がコンクリートに変わった
けれども、人の手が加わった暖かな風景、村を流れる清冽な流れは、実に新鮮に見える
この景観は、一朝一夕にできたものではない・・・だから美しい
▲田植えされた田んぼに、美しき水が張られると田園空間の美はピークに達する

▽ふるさとの原風景を維持するためには・・・
ふるさとの原風景は、そこに人が住み、農業を営み続けることによって維持保全されている
大又川に設置された堰や数kmにわたる用水路は、村の共同で管理され、引き水は平等に分配される
何百年も続いた水系社会・・・それが秋田の農山村を形成してきたベースにあることを忘れてはいけない

引き水の堰や用水路は、洪水がある度に壊れて田んぼや集落に水を引くことができなくなる
農業の機械化が進むと、小さく曲がりくねった田んぼでは、作業効率が極端に落ちる
田んぼは地下水位が高く、畑作物は×・・・生産調整面積の増加とともに耕作放棄地も増える

馬で耕していた時代の農道は、1.8mと狭く、安全に軽トラックや農業機械が走れない
もちろんすれ違うことは不可能である
さらに、農業の機械化に対応していない田んぼや農道が原因で農作業事故も多発する

そこで農業を持続的に営んでいくためには、時代の流れに合わせて変えていかねばならない
その際、全体の調和を乱さないよう配慮することは言うまでもない
堰も引き水の用水路も改修する・・・機械化に合わせて田んぼの区画は大きく、
車社会に合わせて農道も拡幅する

村にとっては100年の大計と言われる大事業である
村人全員が何年もかけて協議を重ね、徹底的に合意形成を図った上で、初めて実施できる
それが「土地改良事業」の一つ「ほ場整備事業」である
昭和53年、鵜養地区は、乾田馬耕時代の田んぼを一新する「ほ場整備事業」に着手
昭和56年に、受益面積40haの整備が完成している
そのお陰で、現在の美しい村が維持保全されていることも学んでほしいと願う

▽土地改良事業の特徴
土地改良事業は、公共事業の一つであるが、農山村の水系社会を支える共同の事業であること
事業を実施するには、受益者負担が伴うこと
さらに土地改良法に基づき、受益農家の2/3以上の同意(本人の署名と押印)が必要であること・・・現実にはほぼ100%の同意がなければ事業は実施できない。

つまり、数百年の歴史をもつ村を次の世代に継承していくためにも、村人たちは時間と労力を惜しまず、徹底した合意形成を行う点が最大の特徴である。だからこそ、人の手が加わった「暖かな風景」が面的に維持保全できるとも言えるだろう。
▲引き水の用水路は、コンクリート水路に変わったけれども、清冽な水しぶきを浴びて苔が生え、自然に同化している・・・「美しき水の山里」を象徴する景観は、この清冽な流れと共同で管理している水路がキーポイントになっている

▽参考:「現代農業」2010年7月号「主張 戸別補償 どうみる、どうする」より一部抜粋
 むらの「戸」はむらのなかで助け合って暮らしている。イネを作り続け、自分の田んぼを守ることそのものが、むらを維持する営みになっている。農業もむらもそういうものである。

 兼業農家と大規模農家、戸別経営と共同経営を対立するものとしてとらえ、「貸しはがし」などとことさら騒ぐのは、農業もむらも分からない、農業を生産性からしかみることができない、貧困な見方である。

参 考 文 献
「地名のはなし」(三浦鉄郎著、三光堂書店)
「河辺町史」(河辺町)
「菅江真澄図絵集 秋田の風景」(田口昌樹編、無明舎出版)

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