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本流のチョウチン毛針、34cmのイワナ、旬を保つ新聞紙、フキ料理、アイコの保存、毛針釣りの要点・・・
流域の大きい本流は、雪シロ期や増水時は渡渉できない
真夏日が続く6月中旬、本流の水位はかなり下がった
運良く、いやチョウチン毛バリの技?で34cmが釣れた
喉の奥まで丸呑みした毛バリに注目願いたい
▲深山の本流を釣る
連日好天が続き、本流は早くも渇水状態になっていた
イワナも丸見えだが、接近する釣り人も丸見え
瀬尻からまるでイワナの大運動会のように次から次へと走られた

一日中、真夏日のような天候が続けば、開けた本流釣りは殊の外難しい
「釣れない釣り日和」・・・これは、毛針もエサ釣りも同じことである
こうした悪条件になればなるほど、釣り人の技量が問われる

▲豊かな渓畔林に覆われた本流を釣る ▲初夏の花・タニウツギ

谷沿いの踏み跡を1時間ほど歩く
懐かしい本流に降り、河原で朝食をとる
1週間から数日前だろうか、この下流にキャンプしたばかりの跡があった

本流の砂場には、その人たちが釣り上った足跡が残っていた
加えて、釣れない釣り日和・・・
相棒は、いきなり開けた本流で、初めてのチョウチン毛バリに挑戦した
ちょっと酷な条件であることは確かであった
▲ヒメシャガ
花の形、葉の形からアヤメに似ている草花という印象を受ける
花の色は淡い紫色・・・花期は5月〜6月、観賞用として栽培されているという


毛針で釣れる天候、時間帯は・・・伝統的職漁師に学ぶ

イワナの伝統的捕獲技術の記録によれば、
「山野に虫が出始めると毛針が効くので、5月下旬から6月上旬より始め・・・毛針釣りもエサ釣りも朝夕がよく釣れる日中はあまり釣れないが、曇った日は日中でも釣れる。どんより曇った日中で、風がなく毛針が自由に思うままに振れるのが、最高の毛針日和であった・・・

イワナ釣りは、親子でも同じ谷に二人はいると効率が悪く、常に単独漁であった・・・良くとれた日は30〜40本、とれない日は10本位であった・・・」(「手取川源流域におけるマス・イワナ漁−奥山人の渓流資源の利用例−その2(橘礼吉)」)

▲大淵が続く本流を釣る
川幅が広い本流釣りは、イワナに気付かれないようにアプローチすることが最も難しい
一見、テンカラやFF、ルアーの世界のように見えるが・・・
秋田の山は山頂までブナや笹薮に覆われているごとく、谷も障害物がやたら多い

本流とは言え、上流部になると、長いラインのテンカラやFFが自由に振れる場所は数えるほどしかない
従って、初心者ほど、障害物の少ない大場所狙いに偏りやすい


初夏の本流のポイントは、大場所ではなく小場所

一般的に大場所で釣れるのは、雪シロ期までと考えた方が良い
大場所は、とかく多くの釣り人に攻められスレているイワナが多い
初夏ともなれば、食い気のあるイワナは大場所から瀬に移動する

だからイワナの好ポイントは、大場所ではないと考えた方が良い
谷に迫り出した草木の下、淵尻、瀬・瀬脇、流木周辺など
点で釣る小場所も無数に存在する・・・時に大物が潜む場合も少なくない

テンカラやFFの人たちが障害物を嫌って無視するポイント
あるいは、うまく食い筋にキャスティングできない悪条件のポイントこそ、
チョウチン毛バリの独断場と言えるだろう

ラインを「送り込む」操作

相棒は、イワナが出るものの合わせ損ねて失敗が続いていた
どうも、イワナが水面を割って出ると、反射的に早合わせをしてしまいバラしているようだ

合わせのタイミングで重要なことは、イワナが毛バリを食おうとした直前に、ラインを緩める
「送り込む」操作を行うこと・・・この「送り込み」の操作をしないと、イワナは違和感を感じ、
毛針を吐き出すか、浅掛りでバラシやすいように思う
やっと相棒にも待望の一匹が釣れた
網袋を覗くと大きい・・・丸々太った29cmほどの良型であった
しかし、ここからまたスランプに陥る
私は、最初、テンカラで釣ろうとした
しかし、なかなか自由に振れる大場所がない
すぐさま、慣れてきたチョウチン毛バリに切り替える

岩場の小さな瀬で一匹、草木が覆いかぶさった暗い岸で一匹・・・
▲やっと泣き尺イワナがヒット
この本流上流部唯一のテン場は、凸状に大きく蛇行し、イワナが群れている大場所がある
その一段下流の底石周辺にイワナが数匹見えた
中には、尺サイズの大物も見える

左岸の生い茂る草木に隠れて、慎重にアプローチ
イワナの1mほど上流に毛バリを落とす
無視しているのか、何の反応もない


毛針に動きを与え、食い気を誘う・・・最も重要なテクニック

毛バリは疑似餌だから、ただ流すだけでは見破られる確率が高い
偽者の毛バリでも動きさえ与えれば、イワナは本物のエサと見間違い毛バリを追う
毛バリを流れの方向とは別の方向に動かす・・・直線引き、横引き、逆引き、斜め引き、
時には跳ね上げなどのアクションを加えて食い気を誘う

この毛針に動きを与え食い気を誘う操作は、チョウチン毛針ほど自在にできる釣法はない

それでも、現実にはなかなか食わない
だから、同一ポイントに4〜5回、しつこく食い気を誘い続けた
すると、イワナは、我慢できなくなったのか・・・ギラギラ光る水面を割って毛バリに飛びついた
すかさず、毛バリを送り込み、向こう合わせモードに切り替えると、竿は弓なりにしなった
暴れるイワナにできるだけ刺激を与えないように、慎重に引きずり寄せる
雪シロに磨かれた美しい魚体、口はやや鼻曲がりになった泣き尺のイワナだった
写真を撮った後、旧テン場の河原に生かしたままデポしておく

デポの失敗事例

帰りにデポしたイワナを回収しようと近付けば、網袋の中は空っぽになっていた
何と、種モミ用の薄い網袋は、何度も使っているうちに穴だらけになっいた
その穴から全て逃げたらしい・・・

まぁ、釣り上げた感激は残っているし、写真も撮った
むしろ、逃げたイワナを賞賛したい気持ちになっていた
「安い網袋を何度も使えば逃げられる」・・・またしてもイワナに教えられた
ほどなく、小滝と狭いゴルジュが連続する区間に達する
左岸の巻き道を大きく巻き、右岸から枝沢が合流する地点の若干上流部に降りる
そこは、テンカラが振れないほど谷は狭く暗い

合流点上流の瀬に毛バリを流すと、いきなりヒット
何と、毛バリを丸呑みし過ぎて血だらけになっているではないか(右の写真)
その獰猛さには驚くほかない・・・毛バリを外すと、白いウィングは赤い血に染まっていた
▲尺上イワナが釣れた枝沢合流点の瀬 ▲今回最大の大物34cm


大物が潜むポイント・・・枝沢合流点

枝沢合流点は、大物が潜む絶好のポイントだ
しかし、降りた地点は、その上流だったから既にイワナに気付かれているに違いない
血に染まった毛バリを洗ってもなかなかとれない

それでも、ものは試し・・・枝沢合流点手前に血に染まった毛バリを落とす
毛バリは、ほどなく早瀬に乗って流れた
その直後、「ガツン」という物凄いアタリが返ってきた

掛かったイワナは早瀬に乗って、物凄い力で抵抗し始めた
糸が短い分、竿には極端な負荷が掛かる・・・竿は悲鳴を挙げたかのように折れ曲がった
サイズ以上の手応え・・・さらに早瀬に顔を出した魚体の大きさに興奮はクライマックスに達した

岸に寄せると、毛針を喉の奥まで呑み込んでいた
これは、食い筋にパーフェクトに落とした結果であろう
私の稚拙なテンカラでは不可能だが、チョウチン毛針だからできたことでもある
▲尺上イワナの顔は浅黒く、暗い峡谷の主にふさわしい面構え
白い斑点は大きく、北海道のアメマス系イワナを思わせる個体
このサイズになると、網袋では窮屈すぎる
ヒモを取り出し、大きな石に固定しデポする
大場所では、瀬尻から偵察隊のイワナに走られ、さしずめ大運動会と化す
相棒は、イワナに走られた大場所で粘る・・・相変わらずアタリが遠い
効率よく釣り上がるには、そんな大場所は、半ば捨ることが肝要だと思う

まして偵察隊に走られた大場所では、釣れる確率は極端に低くなる
終わってみれば、チョウチン毛バリが得意とするポイントに集中するのがベストの戦略だとつくづく思った
▲開けた大釜と障害物の多い峡谷が交互に続く


毛針+川虫

釣れない相棒を見かねて、やむなく川虫を採取し、毛バリに川虫を刺して釣らせることに
遠かったアタリが蘇る・・・「やっぱり俺はエサ釣りじゃないと駄目だな」と呟く
しかし、なぜか、アタリは続いても、エサをちぎられるケースが続出した

考えてみれば、毛バリにチョン掛けしたカワゲラは、エサをとられやすいのかもしれない
針の軸には胴が巻きついている・・・だから針先にしか刺せない
イワナは、針ではなく、カワゲラを咥える

掛かったと思って合わせると、カワゲラがちぎれて外れる
その繰り返しだったのではないか
エサ釣りに転換したからには、エサ針に変えるべきだったと悔やまれる
私はチョウチン毛バリに集中
美味そうに毛バリを咥えたイワナたち
接近する釣り人には、驚くほど臆病なはずだが、美味しいエサと思えば獰猛果敢に飛び掛る
この二律背反的な行動に、釣り人は魅了される 

車止めから約6km余り、日帰り限界地点のナメ滝に達する
相棒は、立て続けに2匹も掛け損ねたと苦笑い

障害物の多い小沢のチョウチン釣り

私は最後の締めに、右岸から流入する小沢に入ってみる
ブッシュに覆われた藪沢に近く、チョウチン毛バリでしか釣りにならない小沢である

草木に隠れて、小さな壷に毛バリを垂直に落とす
何の反応もない・・・草木越しに覗くとイワナが見えた
イワナの目の前に毛バリを落とし食い気を誘う
イワナはすぐさま振り向き水面を割って食い付いた(左の写真)

右写真の真っ黒なイワナは、落水の巻き込む岩陰から引き抜いたイワナ
▲暗い小沢にしてはサビもなく、美しい魚体
斑点は大きく鮮明で、側線下に着色斑点をもつニッコウイワナ
毛バリが見えないほど丸呑みしている
やはり、障害物の多い小沢は、チョウチン毛バリが威力を発揮する
▲小沢の魚止めの滝
入り口からわずか30mほどで落差10m余りのナメ滝がある
20年ほど前、この滝壺で尺イワナを釣り上げた記憶が蘇った
低姿勢でアプローチし、滝壺を覗く・・・右の壷尻に1尾、中央に尺イワナが見えた

中央の尺イワナの目の前に毛バリを垂直に落とす
向かってきたイワナの迫力・・・最後の最後に反射的に早合わせをしてしまった
浅掛かりですぐに外れる・・・苦笑いしながら竿を収める
▲小沢で釣り上げたイワナ
枝に刺した3尾のイワナをぶら下げて本流に戻る
相棒は、驚いたような顔をした
「それ、毛バリで釣ったのか」と・・・

聞けば、ナメ滝の上で1尾釣り上げ戻ってきたという
時計を見れば午後3時・・・足早に谷を下る
▲初夏に家まで持ち帰り、イワナの刺身を食べるのは初めてのこと・・・新聞紙の威力はすごい!
生かしたままデポした場所まで下ると、その周辺に数匹のカワガラスがいた
気になって、足早に近付き、ヒモで固定した先を覗く・・・尺上イワナは無事元気に生きていた

新聞紙に包めば、家で刺身が味わえる

その場で野ジメにし、内蔵をきれいに洗い流してから「新聞紙」に包み背負う
蒸せるような暑さの中、フキやミズを採取しながら下ること約3時間
家に着いたのは、午後7時半頃と遅かった
新聞紙を開いて驚いた・・・これなら刺身もいけそうだ
試しに尺上イワナの皮を剥ぐと、刺身の鮮度としては充分だった・・・改めて「新聞紙」の威力を感じた
▲フキは湯がいて水にさらす ▲フキの皮をむく  
▲斜めに切ってから調理する ▲フキの油炒め ▲フキとウドのきんぴら風油炒め
▽フキとウドのきんぴら風油炒め
フライパンにごま油を入れ
ウドとスライスしたフキ、ニンジンの千切り、タマネギを入れて炒める
万能つゆを注ぎ、つゆがなくなるまで炒めれば完成
▲赤い旬のミズ ▲「濡れ新聞」に包んで冷蔵庫に保管していたアイコ
アイコの保存法・・・濡れ新聞+冷蔵庫保存
アイコは、湯がいてしまうと保存は×
生のまま「濡れた新聞紙」に包み冷蔵庫で保管する
試しに、ちょうど2週間後に冷蔵庫の野菜室から取り出してみる

葉は黒くなるが、茎は腐ることもなく旬を保っている
さっと湯がいてから、皮をむき、おひたしや味噌汁にして食べる
こうすれば、初夏でも春の山菜・アイコの味を楽しめる

イワナも山菜も「新聞紙」を使うことが旬を保つコツである
 毛バリ釣りの要点MEMO 
雪シロ期、雨後の笹濁り、曇天、小雨模様
雪シロの時は、毛バリの上にガン玉を付け沈めて釣る
川が増水すれば、水生昆虫、陸生昆虫類が盛んに流れ下る
故に雨後の笹濁り、曇天あるいは小雨模様の日は、一日中、活発に毛バリを追う(これはエサ釣りも同様である)
雨の日は毛バリが見えにくい

晴天の釣り
晴天は釣れない釣り日和・・・毛バリを偽者と判断されやすく、初心者向きではない
そんな場合は、止水や大場所を避け、草木の下、瀬、巻き込みなど
障害物の多い日陰のポイントを主に釣る

朝夕まずめを釣る
カゲロウやカワゲラは、日の射さない早朝と夕方のみ活発に羽化する
夏季の本流を釣る場合は、朝夕の時間帯に釣りを絞る

そんな釣りは、深山の日帰り釣行では無理な話である
しかし、数泊の野営をする山釣りなら可能だ・・・ぜひ挑戦してみたい

毛針の大きさ、ハリス
毛バリは、小ぶりの方が食い込みが良い
ハリスは1.5号より1号の方が滑らかで食い込みも良い

振り込み
毛バリは水面に、あくまでソフトに着水させなければ釣りにならない
毛針よりラインが先に水面を落ちるのは×、ラインで水面を叩くのも×
同一ポイントに、少しずらしながら4〜5回打ち返す
水面より5〜10センチほど水中に毛バリが位置するように、竿を操作する

毛針に動きを与え、食い気を誘う
毛バリは疑似餌だから、ただ流すだけでは見破られる確率が高い
ただし、瀬や落水、巻き込みなど、水の流れを利用する場合は別である
むしろ、自然の流れにうまく乗せ、毛針が自然に動くのを利用するのもテクニックの一つである

偽者の毛バリでも動きさえ与えれば、イワナは本物のエサと見間違い毛バリを追う
毛バリが流れの方向とは別の方向に動かす・・・
直線引き、横引き、逆引き、斜め引き、時には、多少の跳ね上げアクションを加える
この動かしながら流す釣りが、毛バリで最も大切である


現場で何度も実践し、失敗を繰り返すと、イワナから学ぶことが実に多い
疑似餌に命を吹き込む・・・食い気を誘う・・・水面を割って毛針をくわえ反転する
これはエサ釣りでは味わえない快感である
しかし、毛バリ釣りは、釣りに集中しないと釣れない

人里離れた深山幽谷に棲み、謎の生態も多い・・・それだけに、イワナを釣る技術は奥が深い
そんなチョウチン毛バリとの邂逅・・・再び釣りに回帰させられてしまった
 参 考 文 献
「イワナ釣り」(植野稔、河出書房新社)
実践テンカラ・テクニック」(堀江渓愚著、山と渓谷社)

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