元滝伏流水の美の源、鬱の時代と心の洗濯、MAP、胴腹滝、恵みと災いをもたらす山・鳥海山&民俗文化 |
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新緑の谷に柔らかい木漏れ日が射し込むと、滝の飛瀑は神々しい輝きを放った その傍らに佇むと、マイナスイオンがシャワーとなって降り注ぐ 不思議と心の奥底まで洗い清めてくれるような爽快感に包まれる |
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この地に立てば、誰しもその感動的な水の風景にカメラを向けたくなる 事実、三脚を持ったカメラマンたちは、入れ替わり立ち替わりやってきた 頑丈な三脚を据えマニアックに撮る人、中判カメラと携帯露出計で慎重に撮る人、 三脚も持たずにデジカメのシャッターを押しまくる人、フィルム&デジタル両刀使い 伏流水をバックに記念撮影する人、河原に佇みマイナスイオンを浴びる人・・・ 訪問者は多種多様だが、そのほとんどが水の美の虜と化していた 一般に「水の風景」を撮るには、沢登りスタイルでないと、アプローチすることすらできない しかし「元滝伏流水」は、一度も水に入ることなく撮れる だから「水の風景」を撮るには、万人向けのベストポイントと言える |
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▲平成の名水百選「元滝伏流水」全景 「元滝伏流水」は、鳥海山に染み込んだ水が80年の歳月をかけ、 幅約30mの岩肌一帯から一日5万トンもの水が湧き出している まさに「恵みの山・鳥海山」を代表する伏流水で、「平成の名水百選」に選定されている |
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▽鳥海山は世界最大級の多雨地帯 東北第二の高峰・鳥海山(2236m)は、日本海から湿った空気がぶつかり たくさんの雨や雪を降らせる・・・年間降水量(高度1000m以上)は、多い年で1万2千ミリ以上 世界自然遺産「屋久島」の山岳地帯8000ミリの1.5倍に及ぶ この世界最大級の多雨多雪が、元滝伏流水の美の源である |
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▲苔の岩肌から滴り落ちる名水 伏流水が幾筋もの線となって滴り落ちる 落下した水は、突き出した苔岩にはじけ飛び、美しい飛沫の軌跡を描く 一年中枯れることなく湧き出す豊潤な空間は、豊かな苔を育み、美しき水を一層引き立ててくれる |
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▽鳥海山麓の水温はなぜ低いのか 標高1700mに位置する鳥海湖の湖底の水温は、夏でも2〜3度 万年雪の融雪水が地下に浸透し、80年もの歳月をかけて湧き出す 山形県遊佐町「胴腹滝」の調査では、湧水の温度は7.1度〜9.1度と極めて低い 名水の条件は水温が低いこと 鳥海山の名水は「氷河水」とも形容されるほど冷たい 「岩ガキ」の旬が真夏であるのは、鳥海山の冷たい伏流水にあると言われている しかし、良いことばかりではない 農業用水としては、水が冷た過ぎて「冷水害」をもたらす最悪の水であった 鳥海山麓地域では、夏でも摂氏10度前後の冷水を入れざるを得ず、 冷水害は、最大のガンとして、古来その対策に腐心してきた それを克服したのが、日本初の温水路群である |
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▲正面から全景を撮る 元滝の上部は、鬱蒼とした新緑に包まれ薄暗い・・・それだけに白い瀑布が際立って見える 滝の左上に大きな岩が居座っている・・・まるで五城目町のネコバリ岩のように これが滝の流れに変化をもたらし、多様な水の流れ、多様な水の音を演出している重要なポイントである |
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▲大きな岩下のアップ 右側の本流の滝と左側の大岩の下の流れとは明らかに異なる まるで大きな岩穴から湧き出したかのような伏流水に見える これが「元滝伏流水」という名の由来であろう |
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▲本流滝上アップ 雪解け水が加わり、滝の水量はすこぶる多い 近付けば、頭から聖なる飛沫とマイナスイオンがシャワーのごとく降り注ぐ 細胞はにわかに活性化し、爽快感は満点・・・眺めているだけで、心の元気を取り戻すことができる |
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この上流に落差約20mの直瀑「元滝」があるが、この伏流水の美にはかなわない 元滝伏流水の美は、落差5mと小さいのに対して、幅が6倍と横に長いことにある 同じく八幡平源流に懸かる「ナイアガラの滝」も、幅が広く、目の前一面に広がる瀑布にある 上の写真の真ん中ほどに、赤いツツジが咲き始めている 新緑の森から湧き出す伏流水の美は、このツツジが満開の頃であろう |
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▲上流側から元滝を撮る 新緑の枝が張り出し、白い瀑布に映える 左上の大岩は、下流方向に傾き、一見不安定に見える しかし、大岩の上の草木を見れば、幾度もの地震に耐えてきたことが伺える |
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▲元滝上流の伏流水 右岸の苔生した岩穴から湧き出す流れは、まさに伏流水 岩も木の根も全て分厚い苔に覆われ、太古の息吹、普遍的な美を感じさせてくれる |
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▲同上アップ・・・太古の息吹を感じさせてくれる鳥海山の湧き水 | |||||||||
▲下流部の伏流水 | |||||||||
▽鬱の時代と心の洗濯 秋田市で開催された「親鸞展」で五木寛之さんは、現代を「鬱(うつ)の時代」と表現した 先行き不透明な時代に加え、あれダメ、これダメと息苦しいことは確か 自殺者数が3万人を超える異常な時代を生き抜くには、元滝伏流水のような 聖なる水で「心の洗濯(心を洗い清める)」をすることが必要だと思う 幸い秋田には、ちょっと足を運べば聖なる水に溢れている |
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▲駐車場に設置された元滝コース案内看板 鳥海ブルーラインを山頂方向に進み、 象潟病院付近にある案内看板の指示に従って進むと右手に広い駐車場とトイレがある よく整備された散策道700mを歩くこと、わずか10分ほど 老若男女、誰でも気軽に鑑賞できるだけに、オススメのスポット 特に清冽な「水の風景」を撮りたい方には、超オススメ 今度行く時は、渓流足袋を持参しようと思う 沢の中に入り、違う角度から眺めれば、新たな美の発見があるに違いない |
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▲下流から見た元滝 ▽国際GTと元滝伏流水 今、日本各地に眠る歴史遺産、民俗文化、地域独自の自然美を活かしたグリーンツーリズム(GT)が注目されている。中でも外国人をターゲットにした国際GTに注目すれば・・・世界的にも希有な「元滝伏流水」は、日本人の自然観と鳥海山麓地域の民俗文化を生んだ「水の美」の象徴であり、外国人にとって注目に値する貴重な自然資源だと思う。国内だけでなく、世界にもアピールしてほしい。 |
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参考:山形県遊佐町「胴腹滝」の名水(2004年10月撮影) | |||||||||
山形県遊佐町「胴腹滝」の名水は、鳥海山を代表する名水の一つ 一日の平均湧出量が1万1千トン、水温7度〜9度、硬度11度の軟水 クセのない美味しい水として、昔から地域の人たちに人気の高い名水である その恵みの水に感謝し、至る所に水の神様を祀り、花が飾られている 水に対する信仰の深さが伺える |
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▲美味しい水に人は群がる 鳥海山から湧き出す名水で、ご飯を炊き、お茶やコーヒーを入れると、殊の外美味い 大きなペットボトルやポリタンクを背負って行列をつくる光景は絶えない 冷たく美味しい水は、雪国の暮らしを支える最大の資源である だから、美味しい水は、GTのベースをなす地域資源としてもっとアピールすべきだと思う |
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「恵みをもたらす山」&「災いをもたらす山」・鳥海山と民俗文化 | |||||||||
▲元滝伏流水〜金峰神社・奈曽の白滝周辺図 「元滝伏流水」は、元滝川を流れ下り、奈曽川と合流・・・その下流に「奈曾の白滝」がある 小滝・金峰神社は、鳥海山をご神体とする修験の拠点の一つ その神社の向かいにある奈曾の白滝は、他界への入り口の一つで、 神々の出入りする場所と言われている・・・かつては、鳥海修験者たちの滝行の場でもあった つまり、元滝伏流水と奈曾の白滝は、鳥海山から湧き出した聖なる水でつながっており、 この地域一帯の民俗文化のベースをなしていることが伺える
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昔から、山は神が宿る神域であった 中でも鳥海山は、東北を代表する霊山であった 1600年代、京都の修験者・本海行人が鳥海・矢島地域に居住し、 無病息災や雨乞い、五穀豊穣を祈る布教活動とともに、 本海番楽(獅子舞)を鳥海山麓一帯に広めたと言い伝えられている。 以来、鳥海山麓一帯には、今でも数多くの番楽、獅子舞が伝承されている 疑問:なぜ、鳥海山麓一帯には、何百年も続いた番楽が生きているのだろうか 鳥海山から湧き出す水は豊富かつ冷たく、名水の郷の誉れが高い 一方、稲作にとっては、冷水害をもたらす最大のガンとも言われ、冷水害(飢饉)常習地帯であった それに加えて、鳥海山の噴火、象潟地震など、人智を超えた自然の災いに見舞われ続けてきた 鳥海山は「恵みをもたらす山」であると同時に、「災いをもたらす山」でもあった だからこそ鳥海山を恐れ敬う信仰は、他地域に比べて根強かったことが伺える ▽鳥海山の噴火による災いの一例 1801年7月、最も激しい噴火が発生。その状況を調査に行った11名のうち8名が噴石により死亡。 7月4日に再び激しくなり、6日正午頃の大規模な噴火で溶岩が噴出し新山ができる。 7月15日、大雨で白雪川に大規模な土石流が発生した。 現在でも、こうした度重なる鳥海山の噴火の歴史に学び、 「鳥海山ハザードマップ」を作成するなど、火山防災対策に力を入れている
▽文化元年(1804)の象潟地震 1804年6月4日、夜10時頃、象潟地震が発生、366人が死亡した 中でも、象潟の塩越村は家屋倒壊389棟、死者69人と壊滅的な被害を受けた さらに潟湖だった九十九島は、約1.8m〜2.7mも隆起し、陸地へと一変した 鳥海山は、東北第二の高峰である・・・それだけで神々しい存在である 加えて、度重なる「災いをもたらす山」でもあった それ故に、鳥海山信仰は、現在もなお精神文化のベースとして根強く生き続けている それが鳥海山麓地域一帯に、修験道文化と深く結びついた番楽が数多く保存伝承されている理由であろう 現代は自然から遠く離れて暮らしているせいか、お茶の間感覚で自然を論ずる人が多いように思う。しかし、自然と向き合って考えると・・・自然とは、常に諸刃の剣をかざしてくる存在であることに気付く。2009年7月の大雪山系トムラウシ山で8名が死亡した歴史的な遭難事故を例に出すまでもなく、登山や、山菜採り、きのこ採りなどの遭難事故、クマ被害は後を絶たない。 「山は怖いもの」という認識がなければ、山での安全を確保できない。鳥海山麓地域の精神的文化の基層には、鳥海山を恐れ敬う信仰にあることを改めて思う・・・畏敬と感謝・・・それは「山に生かされた」人々の文化と共通している。だから、例え趣味とは言え、危難に遭遇すれば「畏敬と感謝」の念が基本であることに気付くはずだ。 |
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参 考 文 献 | |||||||||
「恵みの山 鳥海山」(粕谷昭二著、東北出版企画) |
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