初夏の桃源郷Part1 初夏の桃源郷Part2 山釣り紀行TOP


タニウツギ、トチノキの花、ワラビ、タケノコ、竹濱毛バリとイワナ、サワモダシ、シオデ、焚き火と山釣り定食、人生の楽園 ゛桃源郷゛・・・
▲美しき水と苔生すゴーロ滝
2009年5月末日、6名のパーティは、若葉が美しい初夏の谷に分け入った
一日遅れてやってくる小玉さんを加えると7名の大パーティである

なぜこんなに大人数のパーティになるのか・・・
この季節こそ、イワナが最も美味しく、山の幸もピークに達するからだ
連続するゴーロ滝は、清冽な飛沫を浴びて苔生す岩も瑞々しい輝きを放つ
▲サワモダシ(ナラタケ)は豊作
ワラビやタケノコ、ウド、ゼンマイ、シオデ、シドケ、アイコ、ヤマワサビ、フキに加え、
初夏のキノコの代表・サワモダシも食い切れないほど群生していた
美しき水と緑、食い切れないほどの山の幸・・・これだから山釣りの楽しみは尽きることがない

▲初夏を告げる花・タニウツギ
里山にタニウツギが咲き始めると、タケノコ採りの季節・初夏を告げる
初夏の山釣りは、山の幸が最も豊かで、宴会中心の山釣りに最高の季節である
だからテン場は、忙しく動き回る移動キャンプ方式ではなく、ベースキャンプ方式が最適である
▲トチノキの花が咲き乱れる杣道をゆく・・・直立した円錐状の白い花を咲かせる。この沢はトチノキの宝庫で、独特の酸味をもつ「トチ蜜」を求めて鹿児島ナンバーの養蜂業者が来ていた。 ▲ヤマタツナミソウ
▲杣道沿いに生えていたワラビ
初夏・・・杣道を歩く時は、360度・山菜センサーを張り巡らせながら歩くに限る
ワラビ、ウド、タケノコ、シオデ(ヒデコ)、アイコ、シドケ、ヤマワサビ、初夏のキノコなど・・・
中でもヌメリのあるワラビとタケノコ(チシマザサ)は一級品だ
▲クマも大好物なタケノコ
チシマザサの根元に生えるタケノコは、豪雪地帯の日本海側に多い
大量に採取でき、味も一級品・・・まさに雪国の贈り物とも言える
東北では、田植えが終わった初夏ともなれば、ゼンマイやタケノコを採る人たちが殺到する

一方、初夏のクマは、笹原のタケノコや沢沿いの山菜が食事の中心になる
クマと鉢合わせする確率は極めて高く、毎年人身被害が絶えない
無用なクマとのトラブルを回避するためには、腰にクマ避け鈴とクマ撃退スプレーを下げる
▲渓畔林が豊かな渓はイワナの宝庫 ▲初夏の陽射しに輝く若葉 ▲ブナの新緑も日増しに濃くなる
枝沢が合流する二又には、先行していた釣り人のテン場があった
初夏の陽射しに輝く流れには、羽虫が盛んに飛んでいた・・・毛針釣りの最盛期である
恐らく先行者が入渓したはずだが、私は一人、杣道を歩かず、テンカラを振って歩くことにする
▲浮力と視認性を重視した竹濱毛バリ
前回、渓友亭の竹濱さんから自作の毛針をいただいた
その毛バリを撮影するには、現場の倒木に並べて撮影するのがベスト・・・実に美しい
竹濱さんの毛バリは、伝承毛バリではなく、FFの現代的な毛バリだ

パラシュートフライ・・・視認性に優れた白のウィングを背負った独特のスタイルが最大の特徴
目印にもなる白のウィングを立て、その根元に黒系と茶系のハックルを巻いている
その独特のスタイルは、浮力と視認性に優れていることが分かる
▲まぐれで釣れたイワナ
この沢は、イワナの魚影が濃い・・・しかし、先行者が釣り歩いた後だった
いつもならイワナが群れているはずの大淵・・・その淵尻にイワナの姿は全く見えなかった
警戒したイワナたちは、一斉に岩の穴に隠れてしまったようだ

テンカラを振るのは久々のこと・・・
キャスティングの練習のつもりで淵尻から落ち込みへと振り込む
淵頭の白泡に振り込むと、毛バリが落下する流れに乗って岩穴へと沈んだ

空合わせをすると・・・何とイワナが掛っていた
慌てて黄色のラインをたぐり寄せる
上の写真のとおり、毛バリを呑み込む前の浅掛り・・・これはまぐれで釣れた一尾である
▲職漁師に毛バリ釣りが好まれた理由
エサ釣りと毛バリ釣りのどちらが釣れるか・・・それは言うまでもなく本物のエサである
しかし、それなら何故職漁師は毛バリ釣りを好んだのだろうか
魚影の濃かった時代は、恐らくどんな釣り方でも自在に釣れたであろう

毛バリ釣りは、エサ釣りに比べて仕掛けがシンプルであること
エサを獲ったり、針にエサをつけたりといった面倒な作業を必要とせず、スピーディに行動できる
疑似餌なら、オフシーズンに自製でき、ストックも可能である

持参したエサがなくなった場合でも、毛バリがあればいくらでも釣りは可能だ
だが・・・釣りを生業とする者にとって、楽は禁物である
現地採取に切り替えれば、いくらでもエサの採取は可能だ

一方、毛バリは、渇水の瀬や止水、朝夕マズメに勝るという
しかし、オモリを一切付けず、現地採取の虫をエサとすれば、毛バリに勝る
エサ釣りに熟練した人なら、どんな悪条件でもイワナを掛けることができる

だから、いずれも毛バリを選ぶ決定的理由にはならない
まして生業に「釣りを楽しむ」余裕は二の次であるはずだ
ならば、職漁師が毛バリを好む最大の理由は何なのだろうか

生魚を商品として釣るとすれば、いかに鮮度を保つかが最も重要な点であろう
毛バリは疑似餌だから、エサ釣りのように喉の奥まで飲まれることは100%ありえない
従って、釣り上げたイワナを弱らせることなく簡単に針から外すことができる

このイワナを弱らせることなく釣り上げる釣法は、疑似餌がエサ釣りに唯一勝っているのが分かる

生きているイワナを種モミ用の袋などに入れて、枝沢の落ち込みなどにデポしておけば完璧である
昭和30年代の記録によれば、生きたまま家に持ち帰り、家の生簀に保管していた例もある
注文に応じて生簀から取り出し、いつでも旬のイワナを提供していたという

難しい釣りほどオモシロイ・・・それは趣味の世界の話だと思う
殊更釣りを難しいスポーツのように仕立て上げる業界の商法に騙されてはいけない
野生のイワナから謙虚に学ぶ・・・それ以外にイワナ釣りの真髄を極めることはできないように思う
だから、楽してイワナを釣ろうとするほど愚かなことはないように思う
▲広葉樹の渓畔林に包まれた渓
ブナ、サワグルミ、トチ、カツラなどの原生林の中を美しい清流がゆったりと流れ下る
いつもなら、黒い魚影が走るのだが・・・その姿はほとんど見えない
重い荷を背負ってテンカラを振り続けるものの、反応はない・・・次第にテンカラ竿も重くなる
▲瀬でヒットしたニッコウイワナ
やはり先行者が歩いた後では勝負にならない
ほぼ諦めかけた頃、瀬に振り込んだ黄色のラインがスーッと上流に走った
慌てて合わせると、テンカラ竿が弓なりになる・・・久々に感動のアタリが全身を貫く

一直線になった黄色のラインを左手でつかみ、暴れるイワナをなだめるように寄せる
透き通る流れが、初夏の陽射しに煌めく岸辺でシャッターを切る・・・実に美しい
あれほど警戒していたイワナも、美しい竹濱毛バリに堪らず食いついたようだ

頭部の虫食い状の斑紋、側線より下の鮮やかな橙色の斑点・・・毛バリを咥えた美魚を眺めて思う
毛バリを自分で巻くこともなく、他人が作った毛バリを使うほど楽なものはない
まして手の器用さに勝る竹濱さんの芸術的な毛バリ・・・

その威力を体感すれば、物作りに一生を捧げた技術の凄さに改めて驚かされる
野生のイワナが思わず本物のエサと錯覚し騙されるほど芸術的な毛バリ
その魅惑的な疑似餌に感謝、感謝・・・それ以外に言葉は見つからない

その魔法の毛バリに報いるには・・・十人十色の表現方法があるはずだ・・・
写真やムービー、文字、言葉・・・いかなる手段を駆使しようとも、その感謝の念を伝えることが最低限の責務であろう
▲サワモダシ(ナラタケ)
釣り上げたイワナの撮影を終えて、左岸の倒木を見上げるとサワモダシの群生が目にとまった
竿を放り投げて、サワモダシの撮影&キノコ採りモードへ
春はヒラタケが豊作だったが、初夏のサワモダシも豊作だった
このキノコは、初夏のタケノコ汁に欠かせない天然キノコの代表だ
▲シドケ ▲アイコ ▲ウド
初夏ともなれば、シドケやアイコ、ウドなどの春の山菜は、いずれも葉が開き旬を過ぎている
しかし、柔らかい茎の上部を採取すれば、美味しく食べられる
▲チョウチン毛バリに食いついたイワナ
上流に上るにつれて、谷は狭くなり落差も増す
下手なテンカラでは釣りにならない
エサ釣り用の竿5.4mに、1.5号の道糸2m弱に竹濱毛バリを結び点釣りを試みる

ほどなく、イワナが水面を割って猛然と食いつく
その瞬間を逃さず合わせる・・・その合わせの衝撃は竿にダイレクトに伝わる
チョウチン毛バリ独特の強いアタリもまた格別である
▲チョウチン毛バリと言えども早合わせは禁物
テンカラと違って仕掛けが短い分、イワナに違和感を与えることは確かだ
だから、早合わせは必須のように思われがちだ・・・しかし相手はヤマメではなくイワナだ
刺身サイズのイワナが水面をガバッと割って出ると、勢い、そのイワナに釣られて早合わせをしてしまう

立ち続けに3尾もバラしてしまった・・・悪コンディションの中でバラしたイワナは、本当に悔しい
心を静め、「遅合わせ、遅合わせ」と言い聞かせながらヒットさせたイワナが上の写真だ
チョウチン毛バリと言えども、毛バリに食いついてから、反転、流れに戻った後の遅合わせがベストだった
私がテン場に着いたのは午後2時・・・テン場の設営と薪集めはほぼ終了していた
聞けば、先ほど先行していた釣り人二人が帰って行ったという
会長と長谷川副会長は、ゼンマイの様子を見に枝沢に入ったらしく不在だった

採取したタケノコの皮を剥いたり、鍋一杯にワラビを敷き、重曹をかけて熱湯を注ぎアク抜きをする
午後4時を過ぎた頃、今晩のメイン食材・イワナ釣りに出掛ける
6名のパーティに必要なイワナは、一人3尾とすれば合計18尾・・・下流でキープしたイワナは4尾にすぎない

ノルマ14尾に対し、残された時間はほとんどない
短時間でイワナを調達するには、得意なエサ釣りに限る
▲夕方・・・イワナの活性度はピークに達する
先行者がいれば、警戒心の強いイワナは決してエサを追わない
ところが、夕方ともなればイワナの活性度は信じられないほど高くなる
一回り大きいイワナが入れ食いとなる

足早に釣り上がり、先行していた釣り人が引き返したゴーロ滝で目標の14匹に達した
その距離約200m、所要時間は1時間にも満たなかった・・・入れ食いとは、こんな釣りを言うのだろう
▲サワモダシ(ナラタケ)の群生
下る途中、左岸から流れ込む枝沢で乾いた喉を潤す
ふと、苔生す倒木に目をやると、旬のサワモダシが群生しているではないか

初夏は虫も多く、サワモダシの半分以上が虫食い状態になっている場合が多い
しかし、暗く冷たい湧水が湧き出す場所では全て旬だった
それだけに、初夏のキノコとしては、珍しく絵になる光景だった
▲山釣りで最もお世話になるキノコの代表・・・それはサワモダシ(ナラタケ)
初夏と秋の二回生え、しかも群生の規模が大きく大量に採取できる
さらに味も一級品で、特に味噌汁、鍋物に重宝する
杣人たちに最も愛されているキノコの筆頭は、サワモダシであるのも頷ける
▲テン場の条件は・・・
沢の傍で水が得やすいこと、洪水の心配がない高台でかつ平らであること
さらに重要な点は、焚き火用の薪の材料・風倒木がたくさんあることである

右の写真は、テン場向かいの倒木・・・焚き火用の薪は売るほどある点に注目
ただし、太い倒木でも切ることができる大型のノコギリは必須だ
▲山のアスパラガス・・・シオデ(ヒデコ)
秋田では「ヒデコ」と呼び、民謡「ひでこ節」に登場するほど馴染み深い山菜の一つ
「十七、八 ナ/今朝のナァ/若草/どこで刈ったナァ/このひでこナア/アラヒデコナァ・・・」
若い男女が、山菜のヒデコを採る時に歌った唄である

旧角館町白岩地区では、この山菜・ヒデコをメインに地域おこしをしようと栽培研究に取り組んでいる
地元「さきがけ新聞」には、「山は宝なり」というタイトルでその取り組みが紹介されている
中山間地域は、農業をやるには確かに条件不利地域だが、山に向かえば山の幸の宝庫

美しき水と緑、山菜、きのこ、渓魚といった山の恵みを採取するには、これほど恵まれた地域はない
山に生かされた暮らしと文化を取り戻すことこそ、地域おこしの原点だと思うのだが・・・
▲ウド ▲調理用のイワナ ▲イワナの刺身とアラ
▲先ほどまで生きていたイワナの刺身 ▲塩焼き用のイワナを串に刺す ▲塩ふりイワナは特製三脚に、頭と骨は焚火の上に吊るし、じっくり燻す
▲山の幸・・・左からシオデ(ヒデコ)、シドケ&アイコのおひたし、アクを抜いたワラビ、ミズの塩昆布漬 ▲タケノコとサワモダシの味噌汁・・・これは初夏の最高の料理、味は絶品である
▲焚火とイワナ
イワナの入れ食いで釣り時間を大幅に短縮・・・
しかし、山では宴会までにやらねばならないことが山ほどある
火をおこし、塩焼き用の三脚を作る人、山の幸てんこもりの山菜料理、イワナ料理、鍋料理、飯を炊く・・・

クマの手も借りたいほどの忙しさになるのだが・・・人数が多いほど作業が楽でスピーディに進む
さらに仲間が多いほど宴会も盛り上がる
イワナ釣りは少人数に限るが、宴会中心の山釣りなら大人数に勝るものなし
▲人生の楽園 ゛桃源郷゛
谷の夜は恐ろしいほど闇が深く、夜の冷え込みも厳しい
だから原生的自然の中では、盛大な焚き火が欠かせない
燃え盛る炎と煙が、焚き火にかざしたイワナをじっくり燻し、絶品の味となる

人生の楽園では、焚き火用の薪から食べ物に至るまで全て現地採取しなければならない
人間は、常に楽をして快適さ便利さを手に入れようとする
しかし、人生の楽園゛桃源郷゛では、その常識が全く通用しない

反面、苦労すれば苦労するほど、経験を積めば積むほど、動き回れば動き回るほど、
人生の楽園゛桃源郷゛の真髄に迫ることができる・・・
誰でも分け隔てなく苦労が報われる平等の世界・・・だから「桃源郷」と呼びたくなる・・・(つづく)・・・

初夏の桃源郷Part1 初夏の桃源郷Part2 山釣り紀行TOP

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送