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▲札内川源流の宝石・赤い斑点のオショロコマ
 平成8年8月、日高・札内川で初めてオショロコマと出会った記録の復刻版・・・これは13年前の古い記録だが、現在のオショロコマの生息状況と比較し、持続的な釣りの将来を考えていただければ幸いである。

 札内川は、日高では2番目に高いカムイエクウチカウシ山(1979m)や札内岳(1895m)を源流とし、釣りよりはむしろ登山のメッカとなっている沢である。日高と言えばアメマス系の大イワナ、オショロコマを釣るなら知床半島という漠然とした知識しかなかった。日高最高峰の連なる源流に、まさかオショロコマが生息しているとは…。

 初めてオショロコマに出会った感激と赤い斑点の鮮やかさ、その裏に隠された悲哀の歴史を否応なしに語りかけてきた。それは、アメマスの進出によって山奥に追い詰められた滅びゆく「残党」の姿そのものだった。
▽動物写真家・星野道夫さん、ヒグマに襲われ死亡

 北海道遠征へ旅立つ当日の朝刊、「ヒグマに襲われ死亡」の記事が目に飛び込んできた。
 東京放送の人気番組「どうぶつ奇想天外」のロケでロシアを訪れていたアラスカ在住の動物写真家・星野道夫さんが平成8年8月8日、カムチャッカ半島クリル湖畔でヒグマに襲われ死亡したという。

 一行は星野さん、スタッフ、ロシア人ガイド計6人。「ヒグマとサケ」をテーマに撮影を続けていたが、星野さんは小屋に泊まらず、近くのテントで一人で野営していた。

 「この時期は川を上ってくるサケで食料が豊富なので、ヒグマも人を襲うことはない」と、テントで寝起きしていたという。プロの過信が災いした事故だと、簡単に片付けられそうだが、これからヒグマの生息する日高を目指そうとする者にとっては、他人事ではない。

 「ヒグマのテリトリーに入らないと、イワナは釣れない」

 ヒグマの恐怖が大イワナの誘惑を上回りそうになった。当然、車の中、フェリーの中でも、イワナどころか、ヒグマの話題一色になってしまった。

▽「アラスカ 風のような物語」大庭みな子 解説の一文

 「アラスカの海の恐ろしさは、アメリカの大都会の裏通りを歩くときの恐怖とは性格がまったく違うものだ。そういう怖さをはっきりと承知しながら星野さんはアラスカの自然や動物と付き合っていた。
 彼の事故は残された人々には悲劇であるが、彼自身にとっては自然に歩んでいった道なのかもしれない。その歩いた跡にたくさんの感動の写真と文章を残して彼は消えた。「風のような物語」はそういう物語である」
▲記念沢が合流する二又付近の本流。渓畦林の豊かさと岩をかむ太い流れに心はざわめく。
▲カワネズミの死骸

 大規模な札内川ダムの工事現場を過ぎると次々と堰堤が現れる。4つ目の堰堤を越えたところで七ノ沢、そこが車止めだった。登山者らしき車がズラリと駐車している。エイトカンを腰に下げた登山者が2人、ワゴン車に腰をかけてさかんに汗をふいている。車の中は登山や沢登りの道具であふれんばかりだ。早速情報収集しようと近づいた。

「クマの気配はありましたか」
「八ノ沢のテント近くでクマのフンを見たよ。九ノ沢のカールではクマを見たという登山者がいた。
でも人がいっぱいいるから心配ないよ。これから山に登るんですか」

「いやいや、釣りだよ。釣り人はいましたか」
「イワナ釣りをしている人には、一度も出会わなかったよ。これくらいのイワナが跳ねていたよ」

手で表現した大きさは15cm程度。
「なんだ。そんなに小さいの」
それでもオショロコマと気づいていないから始末が悪い。

「大きいのは、ヒグマがいるような所に行かないと釣れないんじやないか」
腰に下げたクマ撃退スプレーを見せながら「こういうものを持っていないと危険だ」とのご忠告を受けてしまった。

 記念沢との出合い二又まで4.2km、時計は午後4時近くになっていた。二又まで到達できるかどうか見通しのないまま、出発。登山者のお陰で、踏み跡は明瞭で快適、徒渉はほとんどなく距離はグングン稼げる。途中で下山する登山者とにこやかに挨拶を交わすが、荷が重く肩に食い込んでくるので顔は歪んでいる。

 八ノ沢の右岸はテント村になっていた。あちこちから焚き火の煙が上がっている。登山者の多さに驚いていると、対岸にキタキツネの姿が見えた。おそらく登山者の残飯をあさりに来ているのだろう。こんな騒がしい所にテントを張るわけにはいかない。

 記念沢が合流する二又は、最近テントを張った形跡はなかった。沢登りの人たちは、この二又をテン場に利用しているだろうと思っていたが、どうもベースは八ノ沢のようだ。
▲まるでヤマメのような青いパーマークと赤い斑点が、夏の陽射しを浴びて輝く。
 
▲右:澄み切った青空に鋭く突き出た1903m峰が見える。
オショロコマ釣りとはいえ、思わず沢を登ってみたくなる衝動に駆られる。
▲8寸クラスを両手に、初めてオショロコマを手にした感激に浸る。

  本流は、記念沢に比べて水量が多く、落差の大きいダイナミックな山岳渓流。原生林に包まれた流れに大きな岩が点在し、豊かな流れが釜に吸い込まれるように落ち込み、大きな音を発している。

 その巻き込みにエサを送り込むと、すぐにアタリがあった。釣れてきたのは10cmほどの小イワナ。およそ200mの間は、全て10〜15cm程度と小さい。もちろん、キープできるサイズではない。赤い斑点には気づいていたが、小さいイワナでは、できるだけ早く逃がしてやらなければならず、観察する時間はない。やや大きな壷でやっと21cm。キープサイズなので、じっくりと観察。
▽赤い斑点・オショロコマの生態と釣り

 まず驚くのは、太った魚体に比べて顔が小さい。イワナは、口が大きくどうもうで精悍な顔をしているが、まるでアユのような可愛い口をしている。顔から背中にかけて盛り上がっており、極端に言えば猫背のような感じだ。体の幅は広く、ヤマメのような体型。赤い斑点が3列、千鳥に並び、体側には青い楕円形のパーマークが残っている。白い斑点のイワナと、はっきり区別できる。

「オショロコマだ!」

 日高の山奥で赤い斑点のオショロコマに出会えるとは、思ってもいなかった。それだけに、うれしさがこみ上げてきた。
 アメリカでは、オショロコマを「ドリーバーデン」と呼ぶ。イギリスの有名な小説に出てくる少女・ドリーバーデンは、いつも赤玉模様の服を着ていたことから、その少女の名前をとって付けられたという。

 一般にイワナは男性的で、ヤマメが女性的な印象だが、オショロコマは、オスでも女性的な顔をしている。『イワナの謎を追う』の著者、石城謙吉氏はオショロコマを「清流の愛しきドリー」と名付けている。なるほどヒッタリな感じだ。

 さらにエサの追い方も違っていた。名手である長谷川副会長が、どういうわけか何度もオショロコマを合わせ損なっている。イワナのように一発ではなかなか食ってくれないからだ。最初のアタリから「1、2、3」と数えて合わせるタイミングでは、外す確率が高い。オショロコマは遅合わせ・・・明らかに合わせのタイミングが異なっていた。その理由は、どうも食性の違いにあるらしい。

 「ヤマメは落下昆虫を、アメマスは流下昆虫を、そしてオショロコマは底生昆虫(ヨコエビ、トビケラ類、カゲロウ類)を多く食べている」(『イワナの謎を追う』)。

 3種類の魚は、それぞれ異なる食性をもっており、当然合わせ方も異なるのだ。エサに食いつく早さは、ヤマメ、アメマス、オショロコマの順だ。ヤマメとアメマスの混棲地帯では、ヤマメが優勢で、アメマスとオショロコマでは、アメマスが優勢であり、最も弱いオショロコマが最源流に追い詰められた理由もここにありそうだ。 
▲オショロコマの楽園・九ノ沢が左から合流する地点。鬱蒼とした緑に包まれ、ヒグマの気配がやたら気になる沢。  ▲上が九ノ沢で釣れたイワナに近いオショロコマ。下のオショロコマと比べると、口の形、青いパーマークの有無、尾びれの切れ込みが違う。

  二又から300m地点に、右岸から小沢が流入している。ここから渓は、緑が濃くなると同時に魚影も濃くなった。それでも北海道の雑魚と呼ばれるほどのものではなかった。成魚の平均サイズが15〜20cm程度と言われる割りには、キープサイズ21cm以上がよく釣れた。これはエサの量と魚影のバランスからきているのではないか。このことを証明してくれたのが九ノ沢だ。

▽九ノ沢はオショロコマの楽園

 九ノ沢探釣は、台風が接近していた翌日のこと。小雨が舞う絶好のコンディション。私は本流を進む仲間と別れて一人、九ノ沢に入った。大きな岩が累積した階投状となっていて、釜が連続している。沢を覆い尽くす原生林、中は暗くヒグマの気配がやたら気になる沢だった。

 鈴をひときわ高く鳴らしながら岩の階投を上ると、すぐに大きな釜があった。はやる気持ちを抑えながら、慎重に落ち込みめがけて振り込んだ。仕かけは、思った位置に着水、私の五感は、全て流れに乗った目印に集中していた。

 この時、一瞬我が目を疑うようなドラマが起こった。

 水面に浮いた2つの目印に2尾のオショロコマが食いつき、さらに底ではエサをくわえたオショロコマが流れに逆らって引っ張っていくではないか。いったい、この釜にはどれだけのオショロコマがいるのだろうか。

 試しに、ミミズを沈めることなく、水面をたたくようにしながらオショロコマを誘ってみた。すると、予想どおり四方八方からオショロコマはミミズめがけて浮いてきたのだ。そのオショロコマの群れに、驚きと感激が複雑に絡み合い、これが北海道の雑魚と呼ばれるオショロコマなのか、と心底思った。

 大小入り乱れて釣れてくる。大物から先にくるというイワナのセオリーは全く通用しない。釣ってはリリースを繰り返すが、アタリが止まらない。同じポイントで何十尾も釣れる。オショロコマは無警戒にエサを追う。それは、まるでハリと釣り糸を知らないような無垢な魚だった。

 見上げれば、簡単には遡上できそうにもないゴー口連瀑帯が続いていた。深い原生林に覆われた落差の大きい沢、簡単に言えば、ヒグマが今にも飛び出してきそうな沢こそ、オショロコマの楽園だったのだ。

 「アメマスは低平地河川、オショロコマは山岳渓流に住むという分布関係は、広く見られる」(『イワナの謎を追う』)
 まさにそのとおりだった。元浦川支流ソエマツ沢は、開けた河原が続く「低平地河川」そのものだったが、釣れてくるのは白い斑点のアメマス系イワナのみ、九ノ沢はダイナミックな山岳渓流の典型的な沢で、赤い斑点のオショロコマだけが釣れた。

 型はいずれも小さく赤ちゃんサイズから15cm前後、なかなかキープサイズが釣れない。キープできたのは、10〜20尾に1尾程度。これではエサがいくらあっても足りない。大きな釜が連続しており、それら全てにオショロコマが群れている。

 思わず私は、心の中で叫んでいた。「天然の釣り堀だ!」

 北海道の渓流釣りの中では、オショロコマは型が小さく、やたらに釣れる魚とあって、最低ランクになっているらしい。しかし、イワナしか釣ったことのない釣り人にしてみれば、オショロコマは清流の宝石である。しかも、爆発的に釣れるなどという体験は、イワナの宝庫と言われる東北でもあり得ないことだ。

 本流のオショロコマはまるまると太っているが、九ノ沢のは明らかに痩せていた。魚影がエサの量を大きく上回っているのは明らかで、成長が遅いのもうなずける。

▽イワナに近いオショロコマ

 階段状の上にやや緩い瀬があった。瀬の流れ出しにミミズを落とすと、オショロコマは猛然と食らいついた。それは、今までの小さなオショロコマの引きとは明らかに異なっていた。

 不意を突かれた私は、その引きの強さに圧倒されて、下流の岩穴へもっていかれてしまった。ミチ糸が岩角に引っかかって、根がかりのようになってしまった。無理をすれば糸が切れてしまう。しかたなく、流れの中に入ってミチ糸を引っ張り、オショロコマを抜き上げた。

 そのオショロコマは、今まで見た女性的なオショロコマではなかった。イワナに近い獰猛な口と鋭い歯。もちろん、赤い斑点もあったが、体側の青いパーマークはほとんど消えていた。黒くサビついた体長は、23cm。図鑑を見れば、然別湖とその流入河川のみに分布するミヤベイワナに近い感じもするが…。妙にイワナに近いオショロコマもいるものだと、ただただ感心するばかりだった。
▲赤茶けた岩と清冽な流れ、真夏でも意外と水は冷たい。
瀬や巻き込みから、次々とオショロコマが餌を追う。しかし、イワナと明らかに異なるアタリに戸惑う。
森の中は、ブナの森と違って暗く、いつもヒグマがこちらを見ているような気がしてしょうがない。

▽原生林のオショロコマ釣り
 話は変わって本流へ。周りのミズナラ、トドマツ、ダケカンバの原生林、時々顔を出す日高連峰を眺めながらのオショロコマ釣りは、北海道ならではの釣りだ。点在する石は赤茶色だが、流れの透明度は抜群。その清流から赤い宝石が飛び出す。

 だが、甘い感傷ばかりではない。背中にヒグマの気配を常に感じながらの釣りでもある。獣の匂いを感じるときが何度もあった。ヒグマかエゾシカか、それともキタキツネかはわからないが、立ち去ったばかりの獣の匂いが残っている。そのたびに360度見回し、鈴を高く鳴らした。1人なら、怖くてすぐに逃げ出していただろう。
 オショロコマは女性的といったが、試しに釣ったオショロコマを浅瀬に泳がしてみた。上から見るとまるでヤマメのように見えた。これは新しい発見とばかりに、早速カメラに収めた。

 昼になる直前、腰に下げていた大事なエサ箱を流れの中に落としてしまった。地図を広げてみると、源頭はエサオマントツタベツ岳。山の名前を見れば、もっとエサに注意すべきだった。してやられたりだ。川虫を探してみたが、いずれも小さく使いものにならないものばかり。北海道は夏ともなれば、全て成虫になってしまっているのだろう。
   
 
  次第に渓が狭くなってくると、前方に直立した山が見えてきた。その威容な山に目を見張った。ほとんど垂直なのだが、木がちゃんと生えている。威容というより異様な感じだ。

 残り少なくなったエサを分け合いながら釣り上ったが、残念ながら3.1km地点でエサがなくなってしまった。せめて、3.4km地点上の二又までは行きたかったのだが、竿を納めざるを得ない。
 右岸からエサオマントッタベツ岳の秀峰が見えた。雄大な山々と清流、そして沢の音だけが支配する静寂、しばし麗しい景観に時の流れが止まった。

 オショロコマは最大でも25cm止まりと小さい魚だが、小さい割りには引きが強い。今回の釣行で最大は25.5cmだった。

 北海道の渓流で特筆すべきことは、フキのでかさだ。なんと高さは2m近い。これでは秋田フキも負けそうなくらいだ。でかいヒグマでもフキの群落では隠れることができる。ヒグマの胃袋を満たすにも十分食いごたえがありそうだ。自然とはうまくできているものだ。
▽山奥に細々と生きていたオショロコマ・・・記念沢の記録

 記念沢は、赤サビた流れと開けたザラ瀬が延々と続いていた。
 カジカの魚影はすさまじく、入れ食いが続いたという。しかし、どうしたわけかイワナの気配は全くなかった。

 イワナ釣り師の多くは、疑問をもった時点で竿をたたみ、魚影が確認できる地点まで歩くに違いない。事実、A氏は「これじゃ駄目だ。竿をたたんで歩かないか」と会長を誘った。だが、必ずいると信じて疑わない会長は、いっこうに竿を納める気配がなかった。

 結局、3kmも歩いてイワナはゼロ、釣っても釣ってもカジカのみ、釣れたカジカはなんと70尾にも達していた。
 もしイワナがいれば、カジカ70尾も釣れて、イワナが1匹も釣れないということはあり得ない。イワナはいないと断定しかけたときである。

 突然、赤サビが消えて流れは澄んだ清流に戻った。
 と、その時である。枝沢の落ち込みから待望のイワナが釣れたのだ。よくよく見れば、赤い斑点があるではないか。イワナの仲間では、最も美しく冷水性を好むオショロコマだった。この時の感激をどのように表現していいか、言葉が見つからない。

 以後、3kmのイワナ空白地帯を埋めるかのように爆釣となった。エサを落とせば、一度に5〜6尾のオショロコマがエサを追うすさまじさだ。だが、残された距離はそう長くはなかった。明確な魚止めの滝はなく、落差がグングン増し、次第に水量も少なくなった。

 記念沢のオショロコマは、最源流の山奥に細々と生きていたのだ。
 それにしても、3kmも続くイワナ空白地帯は何を物語るのか、謎のままだ。

 日高のオショロコマは、勢力圏を延ばすアメマスに駆逐されたと言われているが、カジカにも奥へ奥へと追い詰められているのだろうか。カジカとオショロコマは共存できそうにも思うが、3km地点を境界にはっきりと「棲み分け」ている。それは、まるでアメマスとオショロコマのように奇妙に符合している。
 現地調達したカジカとオショロコマ、そしてギョウジャニンニク、フキをツマミにおいしい骨酒を飲む。夜空に輝く満天の星、原生林の静寂に清流のせせらぎの音、焚き火を囲む宴会の舞台は最高だ。仲間の充実した1日は、語るほど飲むほどに五臓六腑に心地よくしみわたった。

▽大型台風12号接近の情報に退去

 翌朝になると、昨日の星空がうそのようにどんよりと曇っている。ラジオを聞くと大型の台風が接近し、今夜にも北海道に達する見込み。昼頃から大雨になるとの情報だ。3泊の予定だったが、探釣は昼までに切り上げ、増水する前に退去せざるを得ないとの結論に達した。

 唯一の不満は本流および九ノ沢の魚止めの滝を確認できなかったことと、オショロコマでも尺近い大物がいると聞いていたので、魚止めの主は果たしてどれだけのサイズか、確認してみたかったのだが、残念無念だ。

 朝食を食べていると、早々と山から下りてくるパーティが、沢を急ぎ足で下って行った。おそらく台風接近の情報を聞いてのことだろう。山の雨は早く、昼前に雨が落ちてきた。早々とテントをたたみ、撤収開始。八ノ沢では、まだ多くの登山者がテントを張っていた。台風の予報があっても無理して登るのだろうか。それとも台風が過ぎ去るのをテントで待つのだろうか。

 車に着いたら雨足はピークに達した。
 翌日、車のラジオから聞こえてくるニュースに驚いた。台風が接近した午後に八ノ沢で遭難事故があったという。標高およそ1200m地点、雨で緩んだ斜面で足を滑らせ沢に転落、足を折って動けなくなったらしい。救助隊が出向いたが、天候が悪く1000m地点で待機しているとのニュースであった。やっぱり無理をしてはいけない。

▽疑問を解決してくれた本「イワナの謎を追う」

 自宅に帰ってから、私は岩波新書『イワナの謎を追う』をむさぼるように読んだ。それは北海道遠征の釣り旅で感じた疑問を明快に解決してくれる内容だった。その中から特に印象的な一文を掲載して終わりとしたい。

「オショロコマからアメマスへの種の交代が進みつつあるが、障害物として考えられるのは、たとえば滝である。オショロコマが住み着いた後に、そしてアメマスが進出してくる前に形成された滝があれば、その滝上にはオショロコマが残されているのではないか。

 滝という要害によってアメマスの侵入から守られ、こんな山奥の狭い流域に、オショロコマが生きながらえていた。やはり、オショロコマは、古い、後退しつつある種族だったのだ。

 オショロコマは現在、北海道ではほぼ完全に降海性を失い、各河川の上流部に陸封されている。アメマスは、オショロコマよりも下流側に住み、降海性を保っている。上流域に陸封されていて降海性のないオショロコマには、勢力拡大のチャンスはまずないと思われるのである。それは残党の姿である。

 道南の各地にひっそりと点在するオショロコマの小さな生息地は、時代に取り残された者たちの落ち武者の集落なのだ。知床半島はオショロコマにとって、まさに北海道最後の牙城であるともいえそうである」     
参 考 文 献
「別冊フィッシング第39号 97ヤマメの渓イワナの渓・・・北海道札内川・オショロコマ」(菅原徳蔵記)
岩波新書『イワナの謎を追う』(石城謙吉著)

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