八幡平大深沢Part1 八幡平大深沢Part2 山釣り紀行TOP


八瀬ノ沢と滝、キクラゲ、八瀬イワナ考、イワナ料理、秘境の花園とクマ、魔の尾根越え・・・
▲八瀬ノ沢のガレ場
八瀬ノ沢のテン場からほどなく、左岸の岩山が崩壊した巨大なガレ場がある
まるで白神山地大川の難所・タカヘグリを堰き止めた大崩壊を思い出す
この岩山が一斉に崩壊した時は、一時的に流れを遮り、自然堰止湖ができたことだろう
その痕跡は、このすぐ上流に堆積した土砂を見れば明らかだ
崩落した四角い岩は堅い
ロックフィルダムの張石に利用できるほど価値ある原石である
そんなことを考えながら眺めると、まるで発破をかけた原石山のようにも見える
抜けるような青空になると、天然原石山の風景も美しい
▲第1のガレ場と第2のガレ場の中間に位置する大淵
この淵には、イワナが群れていたが、残念ながら小物が多い
暑い夏の陽射しを浴びながら、巨岩がゴロゴロしているガレ場を登るのは疲れる
▲トウキ
光沢のあるギザギザした葉が特徴
葉を揉むと独特の香気があり、薬用に栽培される
花は、小さな白色の花を花火のように開く
▲夏の八瀬ノ沢遡行
夏の強い陽射しを浴びて輝く渓畔林の深緑
その頭上からセミの鳴き声が瀬音と調和し、不思議な旋律を奏でる
煌めく清冽な流れからイワナが走る

額から汗が滴り落ちる・・・冷たい流れに足を突っ込む
困難なゴルジュや大淵がなくとも、イワナが棲む沢を歩くのは楽しい
▲深い渓畔林とゴーロの飛沫
上るに連れて渓畔林も深くなる
流れは、真ん中の巨岩に遮られ、左右に分かれる
右側の流れは、落水が底石にぶつかり大きな飛沫を上げている

その聖なる飛沫を浴びると、疲れた体も生き返る
やはり、夏は沢歩きに勝るものなし
左は紫色の花が咲き始めたオクトリカブト
巨岩のゴーロと快適なナメが交互に続く
▲垂直の岩壁・・・斧でスパッと切り落としたように連なる垂直の壁、これも水の力のなせる業 ▲晩夏から秋の渓を彩るダイモンジソウも咲き始めた
▲F1、四条の滝
滝ノ沢を越え、出合いから約2kmほど上ると、やっと滝に出会う
二条から三条の滝は珍しくないが、四条の滝は珍しい
この滝は、2万5千分の一図に記された唯一の滝である
ここは右岸を巻く
▲ブナの倒木に生えたキクラゲ
沢歩きの楽しみは、美味しい水とイワナ、山菜、きのこなどの山の幸に出会えること
だから、米以外の食材は現地調達しながら登る
さっそく荷をおろし、山の神様に感謝しながら一つ一つ大事に採る
キクラゲは、春〜秋、広葉樹の風倒木に生える
サワモダシと並び、採取できる期間が長いのがありがたい
中華風の炒め物や煮物に相性がいい
和風の味噌汁や酢の物、和え物も美味い
▲苔生す階段状のゴーロ
F1を越えると、巨岩が累積した階段状のゴーロとなる
緑の苔とダイモンジソウに覆われた石の階段を一つ一つ上りながら高度を稼ぐ
石の階段の向こうには、どんな風景が待っているのか・・・
多様な自然の造形美に期待を膨らませながら歩くのも沢歩きの楽しみの一つ
▲F2、一条の滝
八瀬森と曲崎山から発する流れは、990m二又で合流し八瀬ノ沢を流れ下る
巨岩の真ん中を削った水は、一条の滝となって一気に滝壺へ落下
滝水は、壺の真ん中に居座る岩にぶつかり、飛沫を四方へと巻き散らす
▲標高約980m地点、右岸から流入する枝沢の滝・・・八瀬ノ沢最大の滝F3も近い ▲クマが大好物のエゾニュウを食べた跡・・・以降、クマの痕跡は至る所にあった。上るにつれてクマの密度も高くなる。
▲F3、二段の滝8m
落差は高くないが、滝壺が深く大きい
左を巻くが、一見、飛沫に濡れて滑りやすいように見える
しかし、意外に楽に通過できる・・・左の岩壁を伝って倒木をまたぎ、滝頭に出る
▲F4、ナメ滝
F3の滝を越え、沢を左に曲がると渓相は一変する
開けたナメとナメ滝を快適に上る
▲ナメ滝の上は、連続のくの字滝
ナメ床、ナメ滝は、角ばったゴーロを歩き疲れた足に実に優しく感じる
だから沢歩きで、最も嬉しいのは、このナメが連続する谷である
しかし、イワナは隠れる石がないから、魚影は激減する
ナメの小滝に挟まれた淵には、黒い影が何匹も走る
「お〜、イワナだ・・・また走った」・・・仲間の歓声が谷に木霊する
清流が滑り落ちるナメの小滝は、990m二又まで続く
広葉樹のゴーロ谷は、アオモリトドマツのナメ谷へと変化する
かつてビバーグした右岸の枝沢を探るも猛烈な笹藪でテン場には×
▲C2テン場全景
沢歩きで大切なことは、どんな場所でも快適なテン場を作ることができる技術
周囲に平らな場所は皆無、高台は猛烈な笹藪に覆われている
できるだけ簡単に設営するには、流木がふんだんにある中州しか選択の余地がなかった

まず中州の石を丹念に取り除き、砂を平らに均してテントを張る
雨対策は、下流に支柱を二本立て、ブルーシートを斜めに張るだけ
焚き火用の流木や清冽な水場が近く最高のテン場が完成した
▲今晩の酒の肴、イワナを釣る
八瀬ノ沢のイワナは、源流ほど色が濃くなる
全身は黄金色、斑点は橙色、腹部は濃い柿色に彩られ実に美しい
ただし小物が多く、なかなかキープサイズが釣れないのが唯一の難点
▲イワナが群れていた二又の淵からイワナを引き釣りあげる ▲群れの中に大物が一匹見えた
▲32cmの尺上イワナ
小物の群れに混じって、一際大きいイワナが上流から下流に下ってきた
両サイドにいる我々が見えているはずだから、誰しも食いつくとは思っていない
金光氏が底石の陰にエサを落とす・・・何と一番大きいイワナが食いついた

合わせると、竿は弓なりになる
右に左に猛烈なファイトをみせる・・・源流のイワナ釣りの醍醐味
河原に引きずりあげる
野性味あふれる精悍な面構え、丸々太った魚体、たくましい尾びれに見惚れる
▲全身を厚く覆う粘液は何を物語るのだろうか

▽八瀬ノ沢源流イワナ考
デカイ顔や魚体の太さを見れば、40cmクラスなのだが・・・いざ計測してみると32cmしかない
人跡稀な源流まで辿れば、大イワナが釣れると思うのは、人間側の勝手な幻想に過ぎない

尺イワナあるいは40cm以上の大イワナがたくさんいるのは、
ダム湖などの湖沼か、その湖沼に注ぐ大きな川に限定される
水温が20度程度と高く、エサが豊富で生息密度が低いほどイワナは大きく成長する
八瀬ノ沢源流は谷が狭く流れが細い
本流から大イワナの遡上を阻む玉川毒水、八瀬ノ沢の大崩壊と階段状ゴーロ、滝群
標高1000m前後の水温は夏でも極めて低く、エサも少ない
その割に生息密度は高い・・・イワナが大きくなる条件は限りなくゼロに近いことが分かる

事実、八瀬ノ沢源流イワナの平均サイズは6〜7寸前後と極めて小さい
不思議なことに8〜9寸前後の中間サイズがほとんどいない
これは群れるイワナたちがお互いに食い分けしているからだろう

さらに言うならば、一定程度成長すれば、安全に定位する場所がほとんどないだけに
イワナは下流に下っているのだろうか
▲八瀬ノ沢では異例の尺イワナ
八瀬ノ沢は、イワナの種沢であるかのように小型がほとんどを占める
そんな中で一際大きいイワナが釣れるのは異例中の異例である
八幡平で尺イワナを釣りたければ、本流を釣り上がるに限る

二又より上流は、水量も半減し藪沢と化す
チャラ瀬を釣るには、極端なチョウチン釣りを試みるほかない
ヒットはするものの、キープサイズはなかなか釣れない
源流釣りのフィールドとしては最低と言えるだろう・・・5匹ほどキープした所で竿をたたむ
▲源流イワナの活造り
八瀬ノ沢で初めて釣れた尺上イワナ
このイワナに感謝し、美味しくいただくには活造りに勝るものはないだろう
皮をはぎ、三枚におろして厚めに切る

天然のまな板に頭と骨を下に敷き、刺身を順序良くきれいに並べて完成
我ながら上手くできたと思う・・・やはりイワナの刺身は尺前後が最もさばきやすい
▲キクラゲの調理
採取したキクラゲを水に浸す
ゴミをきれいに洗い落とし、ラーメンや味噌汁の具にする
▲イワナ丼
イワナを三枚におろし、万能つゆに漬け込む
鍋に万能つゆと一緒に入れ煮込むだけ
油で炒める蒲焼と比べて、簡単かつ美味なのがイワナ丼である
▲源流最後の晩餐・・・イワナづくしの料理
釣りたてのイワナの活造り、アラの唐揚げ、イワナ丼、焚火で燻したイワナの塩焼き
焚き火の傍らに、豪華なイワナ料理を並べ、車座になって座る

黒く尖ったアオモリトドマツの夜空には満天の星が輝き、
ナメの岩盤を滑り落ちる水音が心地よく鳴り響く
沢を歩きながら採取した山の幸を肴にホットウィスキーを飲み語らう

源流酒場は、沢歩きの最後を飾る至福の時間である
酒がからっぽになったら、キクラゲ入りラーメンで腹を満たす
▲八瀬ノ沢源流のナメ滝
▲5日目の朝、大粒の雨が落ちてきた
標高1000m近い山では、雨が避けられない
昨夜は満天の星だったが、朝になると一転、雨が降り出してきた
こんな時、斜めに張ったシートが活躍する・・・幸い1時間弱で雨は止んだ
▲最後の朝の朝食
カレー、キクラゲの味噌汁、シイタケの煮付け
長距離遡行に備え、できるだけ美味しく調理し、お腹を満タンにする
これでエンジン全開となる
▲990m二又右俣へ入り小和瀬川上流明通沢をめざす
二又を過ぎると、流れは細流となり藪沢と化す
小イワナが走る光景を眺めながら前進する
平らな尾根筋を蛇行して流れる沢を詰める場合は、枝沢が多く細心の注意が必要だ

一昨年、迷わず歩いた経験からすっかり油断していた
最初の二又で、地図を出さずに磁石だけで西側を示す左俣に進んでしまった
お陰で秘境の花園に遭遇したのだが・・・
▲ムシャリンドウの群落
一見、ウツボグサに似ているが、光沢のある葉や花冠が先端で急に膨らむ花の形が違う
遠くから眺めると、確かにリンドウのような花にも見える
▲夏、多肉多汁の草を食い散らかしたクマの痕跡がやたら目立つ
平らな尾根は、太い笹藪が密生し、太いタケノコが生える
タケノコの宝庫一帯をテリトリーにしているクマの密度は異様に高い
クマは、タケノコシーズンが終わると、大好物のエゾニュウを求めて沢筋に集まる

あちこちでミズバショウやエゾニュウなどの多肉多汁の植物がなぎ倒されている
何度も往復しているらしく、至る所にクマ道ができていた
▲秘境の花園、熊の湿原Part1
これまで、この尾根を二度越えているが、藪から一転、見たこともないお花畑に飛び出す
黄色が鮮やかなトウゲブキとミズギクが満開に咲き美しい
しばし荷を下ろし、カッコウの鳴き声が静寂を破る花の撮影に夢中となる

湿原には、至る所にクマ道ができている
よって「熊の湿原」と命名する
▲ウメバチソウ ▲オオバキボウシ
▲ミズギク ▲黄色のお花畑で記念撮影
▲熊の湿原Part2
辟易するような藪沢を進むと、左手に夏の花々が咲く草原に躍り出る
さきほどの小さな熊の湿原とは異なり、草原と湿地が連続し意外に広い
天国の花園を彷徨いながらめざす尾根を探す
▲トウゲブキ ▲コバイケイソウの実
7月頃、高山植物の最盛期ともなれば、ニッコウキスゲやコバイケイソウが咲き乱れ
どんなに美しいことだろう
▲クマが植物をなぎ倒した痕跡
一帯は、下流側が草原で、上流側には小沢と沼がある湿原が広がる
クマもこの湿原が大好きらしく、何度も往復した跡が道になっていた
▲クマの糞
多肉多汁の草を食べているらしく、随分水分が多い糞である
まるで下痢でもしているように大きな糞が横に連なっている
想定外の鈴の音に驚いて大便の途中で藪に隠れたのだろうか

▽クマは増えているのか、減っているのか
少なくとも私が歩いている範囲では、確実にクマは増えている
八幡平周辺は鳥獣保護区であるからクマが増えるのは当然のこと
しかし、日帰りの里山周辺の小沢でもクマの痕跡はやたら目立つようになった

さらにクマの異常出没があった2004年以降、クマと遭遇し吠えられたのが二回
秋田の沢を歩く場合、もはやクマ避け鈴では足りず、クマ撃退スプレーが必携品になった
食料が最も乏しくなる夏・・・クマは里に下りて農作物を食い荒らす

その際、安易に檻罠で無差別に捕獲する
草食いの季節は、クマも痩せている
だから捕獲されたクマは、利用されることなくゴミ同然のように捨てられてしまう

クマが減ったから春クマ狩り禁止、増えたからクマを獲れ
といったご都合主義では伝統的なマタギの技術も劣化し、後継者も育たない
これはクマにとっても、人間にとっても不幸なことだと思う
マタギの伝統的な春クマ狩りの復活を切に望みたい
猛烈な笹藪をかき分け、やっと分水嶺に辿り着き地図で現在地を確認する
高度計は、1100m近くを表示・・・めざす1030mコルよりかなり高い
ここで初めて枝沢を一本間違えたことに気付く
とりあえず、窪地を下ると、ほどなく意外に水量の多い沢に合流する
恐らく、この沢を下ればスズノマタ沢に下るだろう・・・
しかし現在地を見失ってしまった以上、むやみに下ると滝ノ沢に下り、逆戻りしかねない
再度原点に戻って、分水嶺を北に向かい、目的の最低コルをめざすことにする
▲平坦な尾根一帯は猛烈な笹藪
▲サンカヨウの実 ▲明通沢へ至る窪地
密生する笹藪の尾根を突き進むのは容易ではない
泳ぐように進むこと3時間・・・めざす窪地に辿り着いたのは午後2時を過ぎていた
ここから小和瀬川車止めまで6km弱もある・・・まだまだ先は長い

深い笹藪の海は、進むたびに体力の消耗が激しい
この地獄の苦しみを味わうと、地図と磁石で確認しながら慎重に進むべきだったと反省させられる
▲エゾアジサイが咲き乱れる明通沢を下る
 明通沢の地名の意味は何だろうか
 玉川ダムに沈んだ旧田沢村の人たちが大深沢へ盆魚としてイワナ漁に出掛けたルートは、二つあるように思う。一つは、五十曲から上流へ、もう一つは、小和瀬川中ノ又沢上流明通沢ルートであったように思う。大深沢へ抜けるには、明るく通りやすい沢であったことから名付けられたに違いない。
▲山の神様の最後の贈り物・・・ウスヒラタケ
▲明通沢のナメを下るとスズノマタ沢合流点に辿り着く ▲明通沢とスズノマタ沢が合流すると小和瀬川支流中ノ又沢となる
二つの沢が合流した地点から、汗臭い体にまとわりつくアブの攻撃が凄まじくなった
ナメが連続する渓を3km余り、ろくに休むことなく歩き続ける
最後は、体力をすっかり使い果たし、暗くなる寸前の午後6時頃、やっと車止めに辿り着く

 尾根越えの3時間に及ぶロス・・・秘境の花園を拝むことができたとは言え、その代償の大きさは想定外だった・・・次回の大きな教訓にしたいと思う。いつものことだが、山は歩けば歩くほど学ぶことが無限に広がっていくような不思議な世界だ。だから楽しみは尽きないとも言えるだろう。
参 考 文 献
「ふるさと博物誌 田沢湖・駒・八幡平」(千葉治平著、三戸印刷所)
「山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花」(山と渓谷社)
「イワナ その生態と釣り」(山本聡著、つり人社)
「山でクマに会う方法」(米田一彦著、山と渓谷社)

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