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マイタケ、シイタケ、サワモダシ、マスタケ、ヤマブシタケ、マイタケ泥棒、ダイモンジソウ・・・
 2009年9月26日(土)、マイタケがピークになる週末、どこへ行くべきか悩む。24日の平日には、大アタリしたとの情報が飛び込む。しかし、土日はマイタケよりも人の数が多いだろう。マイタケのデータが乏しい我々は、とりあえず行ったこともない奥地をめざすことに。

 朝4時出発。林道に入ると、まだ薄暗いのに車が何台も止まっているではないか。明るくなれば、駐車するスペースがないほど車で溢れ返るだろう。マイタケの魔力に狂わされた人の多さに驚くほかない。
 先週は姿、形もなかったサワモダシ(ナラタケ)が、適度な雨と朝夕の冷え込みで大発生していた。最もポピュラーなキノコだが、大量に採取できかつ素晴らしい出汁がでる。さらに、その風味を損なうことなく長期保存できる。私にとっては、キノコと言えばサワモダシと言えるほど大好きなキノコの筆頭である。
 一番奥の車止めには既に3台の車があった。その奥は岩山が崩れるなど林道の崩壊は著しい。その車止めの奥には、いくつものバイクタイヤの痕跡があった。マイタケ採りの凄まじさが伝わってくる。崩壊林道を歩いて行くと、左から何本もの枝沢が流入している。

 見上げると、小沢の急斜面に仁王立ちしたミズナラの巨木が目につく。その全ての枝沢にマイタケ道がついていた。崩壊林道から本流に下りるには、標高差100m余り。小沢に入るとミズナラの巨木が目立つ。急斜面を這いあがり、ミズナラの根元へ。折れた枝木に美味しそうなシイタケが数本生えていた。
 斜面を這いあがり、脇尾根筋に出る。見事なミズナラの巨木が林立しているではないか。しかし、ここもマイタケ道がはっきりとついていた。左のなだらかな笹原を横断していると、小沢の斜面にミズナラの巨木が目にとまった。
 おっ、マイタケだ。こんなに早く当たるとは・・・実にラッキー。マイタケの根元を360度見回すと、採り残した小さな株もあった。おそらく一週間前に、マメとサワリの中間で、採らずに残した株だろう。手で丁寧におこして採る。根元の部分の泥は、ナイフで丁寧にそぎ落としビニール袋に入れて背負う。この小沢筋のミズナラには、全てマイタケ道が明瞭についていた。
 半枯れになったミズナラを彷徨い本流に降り立つ。一般に緩斜面になると笹原とブナ林になるのだが、この沢は違っていた。ミズナラが圧倒的に多く、笹藪は皆無だった。そのミズナラの巨木沿いには、明瞭なマイタケ道があった。こんな奥地でも、土日のマイタケ採りは苦戦することを思い知らされた。

 二又で、ミズナラ林とせせらぎの音を聞きながら朝食をとる。枝沢に入って急斜面のミズナラを探索し、再び二又に戻ることにする。採取したマイタケを背負ったまま歩けば痛むだろう。そこで、ここに採取したシイタケの袋、マイタケの袋をデポした。まさか、他人のマイタケを盗むような人はいないだろうと安易に考えていた・・・ところがマイタケの袋だけが姿を消していた。
▲清流を彩るダイモンジソウ
 秋の渓谷を彩る草花の代表、ダイモンジソウは今が旬。沢筋の飛沫を浴びる岩場に群生し、花はピークを迎えていた。赤い岩盤を滑り落ちるように流れる清流をバックにマクロ撮影を繰り返す・・・実に美しい。
 小沢の風倒木にサワモダシ発見。今年初めて生えたサワモダシ・・・撮影をした後、ゴミを取り除きながら丁寧に採取。先ほど、険しい斜面を上ったり下りたり、横にトラバースしたりしながらマイタケを追ったが、人の痕跡がなかった場所がないほど完璧に歩かれていた。マイタケは望み薄。

 赤い岩盤の清水をコッフェルにくみ、湯を沸かしてコーヒーを飲む。苦行の崖歩きはとりあえず中断。マイナスイオンを浴びながら沢を登り、昔から山村の人たちに最も愛されているサワモダシ採取に切り替える。
▲サワモダシの老菌・・・傘周辺に白い菌糸、傘裏が変色している。こうした老菌はパス。 ▲幼菌・・・小さ過ぎてパス。サワモダシは、あっと言う間に成菌になるほど成長が早い。逆に言えば、老菌になるのも早く腐りやすい。
 黄色く色づき始めた谷・・・倒木にサワモダシを探しながら高度を稼ぐ。
 ほどなく谷は狭くなり、滝に出会う。この滝の右手の倒木に旬のサワモダシが群生していた。滝の飛沫と秋の陽射しは、サワモダシの生育に好条件なのだろう。旬のサワモダシは、傘裏が淡い黄褐色で美しい。
▲旬のサワモダシ成菌
 柄にツバがあるのがナラタケ、ツバがないのがナラタケモドキ。同種のキノコだが、味はナラタケが勝る。
▲巻く途中に滝を撮る
▲ハコネサンショウウオ
 ハコネサンショウウオは、夜行性で日中は、森の岩や倒木の下、樹洞内に潜伏して眠る。滝の飛沫で濡れたサワモダシの傘は快適らしく、気持ち良さそうに丸くなって眠っていた。マクロモードに切り替え、レンズを近付けると、それに気付いたのかむくっと起き上がりちょっと動いて立ち止まる。それが左上の写真。尾が長く、背面中央部には黄褐色の帯状斑紋が連なって美しい。
 再び斜面にとりつき、下流に向かってトラバース開始。尾根から対岸の山を望む。緑の樹海は、雲ひとつない秋の陽射しを浴びて輝く。右の写真は、腐っていたクリタケ。
▲脇尾根をゆく ▲旬のマスタケ・・・重いので採取はパス
▲7株も生えていたマスタケの群生
 マスの肉のように紅色が美しく、7株も群生しているとまるでキノコの花のように見え美しい。こんな大群生は珍しい。しかも旬のマスタケ・・・重いので採らずに撮るだけにとどめる。
 サワモダシが群生していた場所に、まるで毛虫のように、傘から無数の毛が生えている不思議なキノコ(右の写真)に遭遇。採ろうとした手を、思わず毛虫と間違え手を引っ込めてしまうような毛虫もどきのキノコだ。図鑑で調べたが載っていない。奇怪なキノコもあるものだと驚嘆させられた。
▲美しいクリーム色のサワモダシ
 同じサワモダシと言えども、色は多種多様である。一般にサワモダシは、黄土色から赤褐色系である。そんな中で、上の写真のように白〜淡い黄色系、クリーム系のサワモダシは、暗い森の中で一際光り輝いているように見える。折って傘裏を見ると、さらに美しく極上品であることが分かる。
 森の中では、倒木の上ほど日当たりが良い。それだけ成長も早く腐りやすい。事実、半分以上が腐っていた。しかし、倒木の下や地面の埋もれ木には、旬のサワモダシが林床を覆うように生えていた。
 斜面を横にトラバースしようとすると、またまたサワモダシの群生に出くわす。こんな雑キノコを採取していたのではマイタケなど見つかろうはずもない。しかし、好きなキノコだけに見過ごすことができない。ザックをおろし、再度袋を取り出して採取にとりかかる。夢中で採っていると、遠くから急げと急かす仲間の声がさかんに飛んできた。

 急いで採取したサワモダシを背負い追い掛ける。またまた群生に出くわす。遅々として前に進めなくなった。呆れた仲間の声が罵声のように飛んでくる。採り始めると止まらない。これがサワモダシ採りの真髄なのだが・・・。
 二又で昼食をとっていると、上流から二人組が下ってきた。「採れましたか」「いや〜、少しだけね」と謙遜したような返事が返ってきた。二人は荷を下ろしたものの、一人は対岸のミズナラの巨木が目に止まると、一目散に対岸に駆け上がっていった。そしてほどなく袋一杯に採ってきたが、名前が分からないようだ。

 「このキノコ、食べられますが?」
 「ああ、それはマスタケだよ。マスの肉の色に似ているからマスタケと言うんだ。
 フライか味噌漬けにして食べると美味いよ」

 今度はザックの中から食えるかどうか分からない獲物を取り出す。
 「このキノコ、分かりますか?・・・食べられると思って採ってきたんですが・・・」
 それは、巨大な白い針状のきのこ・ヤマブシタケだったが、今まで見たこともないような巨大なヤマブシタケで手にするとズシリと重い。とりあえず、写真に撮らせてもらう。

 「それはヤマブシタケと言って、大変貴重なキノコだよ。高い樹の上に生えているから、手が届かず、なかなか採れない。さっと湯がいてから、刺身風に盛り付け、ワサビ醤油で食べると美味いよ」

 「ちょうど手の届くところにあったから、とりあえず採ってきたんだ」
 と、食える獲物だったことに安堵した表情に変わる。
 外に小ぶりのヤマブシタケが4個もあった。「これ食べないか」とお礼に差し出す。
 「それは仲間にあげる方がいいよ」と遠慮した。

 彼らが去った後、デポしたキノコを回収しようとして、唖然・・・シイタケの袋とサワモダシの袋はあったが、本日唯一のマイタケがなくなっていた。これまで、イワナや数々のキノコをデポしてきたが、奥深い山中で盗まれたのは初めてのことだった。山で出会う者、皆友だち・・・この信頼を裏切られた思いで愕然とさせられた。

 「人を見たら泥棒と思え」
 下界ならいざしらず、奥山でもそんな格言を思い出さなくてはならないのは残念至極。kg当たり一万円もする高価なキノコは、人の良心まで狂わせるのだろうか。何とも情けない世の中になったものだ。

 山は貨幣経済など何の役にも立たず、共同する経済、自給自足の経済こそ大切にする世界だ。だから誰が採ったかには関係なく、山で採取した獲物は、仲間と平等に分配するのが原則だ。他人の物を盗むなどという馬鹿げたことをしていると、山の神様の天罰が下るだろう。そのことを肝に銘じていただきたい。
 気を取り直して荷を担ぐ。帰りは崩壊林道ではなく、山の斜面をトラバースしながら沢筋に向かって下る。ブナの立ち枯れ木に鈴なりに生えていたツキヨタケ。マイタケやサワモダシ、マスタケ、シイタケ、ブナハリタケが最盛期になると、毒キノコの筆頭・ツキヨタケも最盛期を迎える。
 サワモダシは、その名のとおり沢沿いの風倒木に生えるキノコという固定観念を持っていた。しかし、マイタケを追ってミズナラの巨木を彷徨っていると、沢から遠く離れた急斜面で、しかも風倒木だけでなく、マイタケが生えそうな半枯れのミズナラの根元にも多数群生していた。

 こうした場所は乾燥しやすく、一様に乾燥サワモダシ状態になっていて重量は比較的軽い。色は黄白色で美しいのが特徴だ。数枚しか掲載されてないキノコ図鑑では、こうした森の多様性、キノコの多様性は決して知ることができない。やはりキノコは、キノコから学ぶほかない。
 一日中、山を立体的に歩き、体はバラバラ状態。それでも、山の神様の授かり物に感謝を込めて、できるだけ美味しく料理するのが礼儀だ。山の幸全ては、妻に任せず、必ず自分で調理する。苦労した者でないと、その有難さが分からないからだ。

 今晩は、サワモダシをたっぷり入れたキノコ鍋と、万能つゆで軽く煮込み大根おろしで和える。天然キノコ三昧の料理で熱燗を飲む。美味い、美味い。翌日の昼は、残ったキノコ鍋にうどんを入れて煮込む。これまた絶品。しかもキノコ類は、多くの薬用効果があるとされている。

マイタケ・・・高血圧や動脈硬化の抑制
ヤマブシタケ・・・ガンや糖尿病、高血圧などに効用等々

 キノコは、高タンパクだが低カロリーで、贅沢三昧の現代人にとっては最もヘルシーな食材だ。また、菌糸で増殖するキノコは、ガン予防や糖尿病、高血圧などに絶大な効果があるという。一見、悪魔の森の毒キノコのようにみえるキノコほど、薬用効果は高いように思う。不思議の森の不思議な効用・・・だから人は、その魔力に狂わされるのかもしれない。

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