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八幡平・大深沢、ヤセノ沢、関東沢、北ノ又沢、伝左衛門沢の滝、滝と大深沢イワナの生息分布・・・

元来、日本人は、滝を好む
沢を登り滝詣でをする登山形態は、日本だけのものである
日本人が好む山水画は、屹立する岩壁と美しい渓谷、滝の幽玄な美を表現している

みこしの滝浴びや仙人修行・滝打たれ、雨乞いの滝、滝の傍らに水神様を祭る祠など、
滝そのものを神として崇め、五穀豊穣、無病息災を祈る祭りや石仏も数多く見られる
水は命の源であり、深い信仰の対象とされてきた
その清冽な水の最たるものは、やはり深山幽谷の滝である

八幡平・大深沢・・・「ナイアガラの滝」
▲八幡平・大深沢源流に懸かる最大の滝・F6「ナイアガラの滝」

大深沢の源流部に「ナイアガラの滝」と呼ばれる滝がある
源流部の北ノ又沢、東ノ又沢、仮戸沢の三つの沢が合流した流れは、長大なナメのスロープを走り
ナイアガラの滝で一気に白い瀑布となって落下している・・・・・・まさにナイアガラに似ている

ナイアガラの滝の特徴は、水量が豊富で、滝の幅が広く長大な白い瀑布となって落下している点である
秋田の源流部に懸かる滝では、最もマイナスイオンが高く、滝下に佇むだけで気分は爽快となる
だから、私の最も好きな滝である
大深沢は、大深岳を源流とし、流程18キロ、十指に余る枝沢を集め、五十曲地点で玉川本流へ流れ込む
その名が示すとおり奥が深く、長大な渓である
その源流部に懸かるナイアガラの滝は、伝左衛門沢合流点下流の吊り橋から約9kmも上流にある

1988年8月、4泊5日に及ぶ大深沢源流行で、ナイアガラの滝と初めて出会った
その強烈な個性を放つ滝に、心が洗われるような感動を覚えたのを思い出す

当時のルート・・・後生掛温泉〜ブナ林の杣道〜五十曲ルートの杣道〜発電所管理小屋〜
大深沢C1〜伝左衛門沢〜本流遡行〜関東沢出合C2〜ナイアガラの滝〜三ツ又〜仮戸沢〜
八幡平登山道〜諸桧岳〜モッコ岳〜藤七温泉・・・遡行距離約24km
▼コブクマ伝説
奥羽山脈には、体重220kg以上、足にコブのある巨大なクマが生息していた
すばしっこく、どんな名人でも射止めることができなかった
コブクマは、大深岳、小和瀬、大白森、駒ケ岳、仙岩峠、朝日岳、白岩岳を渡り歩く「渡りクマ」と言われていた

仙北マタギの言い伝えによると、玉川上流の山岳地帯には、偉大なクマが二頭棲んでいたという
「大深の大クマ、小和瀬のコブクマ」と呼ばれていた
大きな足跡を雪の上に印して、マタギたちを恐怖させた

昭和36年頃、牛ほどもある大クマが、三升入りの茶釜大の足のコブをつけた足跡を残していたという
大深の大クマは、足跡が輪カンジキをつけたくらい大きく、吠えるときは、峡間(さま)が崩れるような
もの凄い吠え方で、それを聞いたマタギは、身の毛もよだつ思いで、蒼くなって逃げたという 
▲聖なる滝の洗礼
滝の洗礼は、水が冷たければ冷たいほど、リフレッシュ効果が高い
ナイアガラの滝は、標高が高い(約1,000m)源流部に懸かる滝だけに、夏でも極めて冷たい
汚れのない源流水は、透き通るように美しい

この滝は、水に濡れないように巻くこともできるが、
ナイアガラの滝は、頭からその美しき水を浴びないと、その真の価値が理解できないように思う
ただし、渇水期の夏以外は、ザックの防水対策と雨具、ザイルが必携である
▲1988年8月、右岸の滝壺を釣る
▲1990年8月撮影・・・右岸の滝壺 ▲同上 ▲1990年8月撮影
ナイアガラの滝について、過去の記録には次のように記されていた

「三ツ又に近づくにつれて、アオモリトドマツの原生林帯へと変化していった。
私は背中から竿を出し、穏やかな渓を釣り遡って行く。
赤いナメ床の葉陰から、突然、大きな滝が見えた。

幅25mもの滝上から、長大な白い帯となって流れ落ちていた。
流れ落ちた水は、黒い岩肌に砕けて激しく飛沫を散らしている。
近づくにつれて、視界全てが黒と白の世界となって迫ってくる。

折から降りだした大粒の雨がたちまち滝壷に吸い込まれていく。
水しぶきを浴びれば、雨が降っていなくても、ずぶ濡れになるほどのすさまじい飛沫であった。」
「十一時、ついにナイアガラの滝に辿り着いた。
黒い岩盤は意外に脆く、中央部は落下水と風圧で崩れかけていた。
中央に大木が一本立っているが、岩盤もろとも崩れ去るのは時間の問題のように思われた。
見れば見る程滝壷に吸い込まれていくように美しい滝だ。
何時間見ていても飽きない気がした・・・

一見、滝の中央を何なく直登できそうに見えるが、
近づくと滝壷に落ちたようにズブ濡れになることはまちがいなかった。
それ程遠くで眺めるのと飛沫を浴びるほど近づくのとでは違っていた。
黒い岩盤が一層流れの白さを際立たせていた。

シャッターを夢中で切った・・・
人間の表現感覚を超えた滝、それがナイアガラの滝であると思った。
カメラを持って眺め、竿を持っても眺め、昼飯を食べながらも始終眺め続けた。」
(1990年8月30日〜9月2日の遡行記録より抜粋)
▲1988年8月撮影
当時は、滝の左上に一本の木が立っていた
その立木と雑木を支点に、新しいコブ付きのトラロープが張られていた
その残置ロープを利用して上り下りできたので、実に快適だった

2005年・・・久しぶりにナイアガラの滝へ寄ってみたら、やはり変わっていた
トラロープが張られていた中間部の木は、姿を消し、右岸の岸壁の崩壊はかなり進んでいた
灌木を支点にした残置ロープは、細く極端に短かった
雨合羽を羽織、潅木に張られたロープに布テープを足して滝下へ下りた
▲滝の上から滝下を望む
▲滝の流れは、中央左の突き出した岩に二分されている ▲ナイアガラの滝にて記念撮影 ▲ミニナイアガラ(関東沢)
▲何度来ても記念撮影したくなる滝だ ▲ナイアガラの滝上は、天国のナメ床が三ツ又まで続く・・・一般的にナイアガラの滝は、三ツ又まで連続する長大なナメも含んだ総称である
▲滝上は、ナメ、ナメ滝が連続
水の力で磨かれた岩盤・・・そのナメのスロープを美しく透き通った水が無尽蔵に流れている
その聖なる水が心の中まで飛び込んでくるような美しい流れが続く
▲三ツ又まで続く「天国の散歩道(ナメロード)」
石ばかり踏んできた足に、ナメ床はこの上なく快適である
清冽な流れの美しさも含めて、「天国の散歩道」と呼んでいる
大深沢本流・F1〜F5の滝
▲F2のナメ滝5m・・・「洗礼の滝」
▲F1の滝7m ▲F2の滝頭にて記念撮影
大深沢は、ヤセノ沢出合いまで滝らしい滝はない・・・ヤセノ沢出合いを過ぎるとゴルジュとなる
F1の滝は、左岸を高巻く・・・その途中で眼下にF2ナメ滝を望む
F1とF2は連続した滝で、特にF2は水量、規模ともに大きく、
巨大なシャワーにいつも心が洗われる・・・だから「洗礼の滝」と呼んでいる
▲大深沢下流右岸の出合い滝 ▲大深沢名物「ダルマ岩」
▲ヤセノ沢出合い上流部のゴルジュ終点に懸かるF3の滝
平水時は、左奥と手前の二つの滝からなっているが、
渇水時には、手前の滝からだけ落下する
洪水になれば、川幅全体が滝となって落下・・・恐怖の滝と化すだろう
滝の上に立って沢を俯瞰すれば、山の頂に立ったような爽快感に浸れる
飛び散る飛瀑が物凄く、正面に立てばカメラが使い物にならなくなるほど凄まじい
ここを抜けると渓は一気に開け、嫌なガレ場が連続する
▲ガレ場途中のスラブ滝 ▲障子倉沢出合い上流の小滝F4・・・ほどなく関東沢出合いだ
▲幽谷の雰囲気をもつF5の滝
関東沢出合いとナイアガラの滝のほぼ中間に位置し、S字状に曲がりくねったナメ滝は美しい
深い原生林と日中でもほの暗い渓谷に懸かっているだけに、白い瀑布が際立つ
特に霧が原生林を流れると、幽谷、幻想的、神秘的、夢幻・・・といった神々しい滝に変身する
▲沢を塞いだ巨岩を乗っ越すとF5の滝が姿を現す ▲F5の滝を撮る
▲F5、三段10m滝全景 ▲原生林と滝の上段を撮る ▲F5滝上をゆく

大深沢支流ヤセノ沢、関東沢の滝
▲ヤセノ沢二段のナメ滝・・・滝に巨大な風倒木が突き刺さっていた。滝の轟音を聞きながら倒木を跨ぎ、上を見上げれば、緑の樹幹から澄み切った青空が見える。日本独自の渓谷美、原始性、生き物のごとく躍動する飛瀑、水と緑滴る四囲の景観は素晴らしい。 ▲ヤセノ沢支流滝ノ沢の大滝・・・標高825m左岸から流入する滝ノ沢。急なゴーロの階段を少し進むと、総落差100mもあろうと思われる見事な滝が眼前に迫る。旅人を拒絶するかのように屹立する岸壁、天上から降り注ぐ巨大な瀑布・・・まさに「滝ノ沢」を象徴する滝だ。
▲関東沢F1二条の滝
F1の滝は右岸を高巻く
この滝を高巻くと、かつては大きな流木橋があったが、今は跡形もなくなっていた。
▲標高1000m二又テン場 ▲ナメの流れ 二又左俣上流F2の滝
▲二又右俣のナメ滝
この沢を詰めると、湿原のお花畑の傍にある八瀬森山荘に出る
湿原を南に下れば、葛根田川源流へ
▲関東沢最大の滝F3、3段12m滝(標高約1,040m)
滝上にも二段の滝が連なり、滝は3段で総落差は12mほど
大きな釜が最大の特徴で、釜の広さ、深さは大深沢でナンバーワンである

滝の壁はいくつもの人間の頭のように突き出し、滝に打たれる修業僧のようにも見える
だから「百体の滝」と呼んでいた・・・釜の大きさを強調すれば「大釜の滝」とも言えそうだ
▲滝を横から撮る ▲天狗湿原(7月中旬)
滝の横から見ると、意外に傾斜したナメ滝であることが分かる
左右どちらでも巻けるが、左岸を巻いた方が楽である
この滝の右岸に流れ込む小沢が、秘境の花園「天狗湿原」に至るルートだ
▲F4、二段のナメ滝 ▲F5のナメ滝
▲雨で増水したF6
▲F6のナメ滝7m ▲F6滝上から下流を望む

北ノ又沢の滝
▲北ノ又沢出合いのナメ滝
北ノ又沢や東ノ又沢は入り口から美しいナメ滝となって合流している
さらに、そのすぐ下流の右岸から仮戸沢が合流していることから、通称「三ツ又」と呼んでいる
この三ツ又からナイアガラの滝まで穏かに傾斜した岩盤や一枚岩の上を水が滑るように流れる
ナメとナメ滝が連続している・・・夏、その清冽な流れを蹴って歩く楽しさは何にも代え難い
▲北ノ又沢出合いのナメ滝 ▲東ノ又沢出合いのナメ滝
▲東の又沢出合いのナメ滝2
▲入口からナメ滝が連続・・・楽しい遡行が続く
▲連続するナメ滝を望む
左の写真は、対岸に懸かる25m滝をよじ登り、滝上から谷を見下ろすように撮影
北ノ又沢は、ナメとナメ滝が連続し、暑い夏ほど清涼感を味わいながら遡行できる
連続するナメ滝を上り、振り返ると、正面に25m滝が真っ正面に見え美しい
▲北ノ又沢右岸に懸かる25m滝の下段 ▲二段25m滝全景 ▲ナメの滝頭からズームアップ
もしかして、この滝上にもイワナがいるのではないか・・・
ある日、この滝の左をよじ登り、滝上を探ったことがあった
深い草木に覆われた流れは意外に細く、イワナは生息していなかった
人が歩いた痕跡は皆無・・・至る所にクマの寝た跡やクマ道があった
▲ミニ庭園で休憩・・・ほどなく北ノ又湿原のお花畑へ
▲連続するナメ滝を越えると、苔むすゴーロとなる。上るにつれてゴーロの斜度はきつく、二条のゴーロ滝を越えると、小川のように穏やかとなる。 ▲北ノ又湿原のコバイケイソウ
▲北ノ又湿原の神田 ▲新しく生まれ変わった大深避難小屋 ▲暴風雨に荒れ狂う険岨森山頂1448m

「・・・(北ノ又沢は)上るにつれて、巨岩が点在するゴーロ帯となる。
苔生す岩と清冽な飛瀑、カエデ類が渓に張り出し、原始庭園のような美しい渓相を見せる。
標高1130m二又を過ぎると、雨風が急に強くなった。景色を見る余裕もなくなり、ひたすらゴーロの階段を上る。

標高1250m付近から沢の勾配がさらにきつくなり、ゴーロ滝の連続となる・・・
急登のゴーロを落差100mほど一気に登り切ると、やっと渓は穏やかとなる。
一服していると、雲海の向こうから先頭をゆく中村会長の笛の音が聞こえた。
北ノ又湿原に着いたようだ。

後を追い掛け、左に曲がった所で斜面を見上げる。
見渡す限り、濃い霧が流れる中、斜面を埋め尽くすコバイケイソウの見事な群落が連なっていた・・・」
(「新源流紀行」2006年2月の遡行記録より)
大深沢支流伝左衛門沢・ヨドメの滝
▲伝左衛門沢ヨドメの滝25m
伝左衛門沢の階段状ゴーロを上ると、標高912m二又に達する
その右股の滝ノ沢に入り、標高約1,070m地点に幽谷の滝にふさわしいヨドメの滝がある

見渡す限り屏風のように屹立す岩壁から、垂直の白い帯となって落下する豪快な直滝だ
落差は約25m・・・頭上には霧雨が舞い、右手の残雪から雪煙の冷気が漂う
イワナを追いながら深山幽谷に分け入り、こんな幽玄の滝に遭遇すれば、感激はクライマックスに達する
本流伝左衛門沢は沢登りのコースになっているが、その支流滝ノ沢を歩く人はほとんどいない
一般的な周遊コースから外れているだけに、深山幽谷の滝にふさわしい雰囲気は満点である

ヨドメの滝壺は、深く大きい・・・しかし、梅雨時の滝の飛沫、烈風は凄まじく、
イワナが棲むにはちょっとうるさすぎる感じがする
渇水期の冬ともなれば、滝の落下も格段に弱まり、格好の越冬場所になるだろう
▲ゴーロ滝・・・伝左衛門沢はゴーロの階段が延々と続く ▲標高912m二又・・・右の滝ノ沢に落差25mのヨドメの滝がある

▲大深沢源流のイワナ
「赤腹イワナ?」と見紛うほど腹部は鮮やかな柿色に染まっている
測線前後の着色斑点は、ヤマトイワナに近い朱紅色から濃橙色まで様々
この独特の個体は、玉川毒水で陸封された大深沢源流イワナの大きな特徴である

▼八幡平源流の滝とイワナの生息分布
大深沢には、イワナが自力で遡上できない滝が幾つも懸かっている
そうした滝をヨドメ、魚止め、イワナ止めの滝などと呼んでいる
人為的放流の歴史をもつ白神山地や和賀山塊などのイワナ生息分布と大きく異なる点は、
笹藪に覆われた細流の源頭部までイワナが生息している点である

旧田沢湖町玉川部落では、盆近くになると集団で大深沢や小和瀬川の源流に野宿し、
イワナ捕りに出掛けることが大切な行事であった
玉川周辺の人々にとって、イワナはハレの日に用いる貴重な「盆魚」であった

白神山地では、ハレの日に用いる盆魚はサクラマスだが、玉川ではイワナである
この違いが、イワナの生息分布の違いを反映しているように思う

▼源頭部までイワナの生息分布を拡大するには、どんな方法で移植放流したのだろうか
旧田沢湖町玉川部落では、大深沢や小和瀬川の源流部へイワナを移植放流する風習があった
例えば、小和瀬川支流中ノ又沢源流には、下流で捕獲したイワナを滝上に繰り返し放流したものと思われる

その中ノ又沢のイワナを、上流の明通沢を詰め、分水嶺を越えたヤセノ沢の源頭に放流したのではないか
また小和瀬川支流大沢の杣道を辿って峰越えで、葛根田川支流中ノ又沢へ源頭放流したとも考えられる
いずれにしても峰越えの源頭放流方式を採ったが故に、他に例を見ないほど生息分布が広い理由だと思う

また、イワナが源頭部まで生息する沢は、いずれも穏やかな流れが延々と続き、
イワナの種沢として申し分ない条件を備えている点も見逃せない
いずれにしても、秋田県最標高に生息するイワナは、イワナに生かされた杣人たちによる移植放流の所産であった

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