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初夏・・・岩魚の活性度がピークに達し、タケノコやフキ、ミズ、キノコなど、山の恵みがピークに達する
だから雨にもかかわらず岩魚谷に分け入った・・・その岩魚谷のど真ん中で岩手・宮城内陸地震が襲う
だが・・・その巨大な地震の揺れすら感じなかった愚かな山釣りの記録
沢で出会う野鳥を撮る
▲ヤマドリ(山鳥)のメス
こんなに近くで撮影できたのは初めてのこと
いつも見つけたと思えば、大きな羽音を立てて飛び立ち薮に姿を消すからだ
オスは、尾が体より長く美しい・・・メスは、尾が短く全体的に地味な印象を受ける
これは枯草や落葉の上では保護色になるからだろうか
翼は短く、飛翔力は弱い・・・地上生活をし、一オス多メスの繁殖習慣をもつ種が多いと言われる
▲キセキレイのツガイ(一夫一妻)
「チチチッ」と囀り、腹部が鮮やかな黄色ですぐに判別できる
繁殖期は、上の写真のとおりツガイで縄張りをもつ
梅雨の頃・・・岩魚釣りで出会うきのこ
▲ウスヒラタケの群生
梅雨に入ると、谷沿いの倒木に群生するウスヒラタケ
岩魚もさることながら、狙ったとおり、キノコの群生に出会うと心は舞いあがる
岩魚とウスヒラタケ・・・この二重の喜びがあるから、例え日帰りでも山に入りたくなる
袋一杯に採取したウスヒラタケは、しこたま重い・・・枝木に吊るしデポしておく
料理・・・タケノコ汁や味噌汁、鍋物の具、炒め物、スープの具
▲ウスヒラタケの幼菌
▲旬のマスタケとは・・・
食用にできるのは柔らかい幼菌のみ・・・だから旬のマスタケに遭遇するのは極めて難しい
上のマスタケは、まさに旬・・・指で押さえると、耳たぶくらいの柔らかさ
色も鮮やかで、紅マスやサクラマスの身の色に似ていて美しい
料理・・・厚めにスライスしてフライや天ぷら、炒め物、鍋物
▲マスタケの天ぷら
これまでマスタケが美味いキノコと思ったことはない・・・それは旬を過ぎたマスタケしか知らなかったからだ
いつもマスタケを見つけるのは7月〜9月頃・・・この旬のマスタケは最も早い6月だった
手で触ると、実に柔らかい・・・天ぷらにすると、見た目は赤味のカニかマスそのもの
塩をちょっと付けて食べると、まさにカニかサクラマス・・・
数あるキノコの中でも摩訶不思議なキノコであることは確かだった
岩手・宮城内陸地震と愚かな岩魚釣り
▲竹濱毛針に食いついた岩魚
岩手・宮城内陸地震が起きた6月14日・・・私は太平山系の谷で岩魚を追っていた
というのも、前回の山釣りで竹濱さんから毛針をいただいたから、それを試す必要があったからだ
天候は最悪・・・雨のためカメラを出すことすらできない状況だった
上の写真は、竹濱毛針に水面を割って食いついた岩魚・・・暗くフラッシュ撮影をするのがやっとだった
▲地震の最中・・・急階段のゴーロで、岩魚を追っていた愚かな物語
地震が発生したのは午前8時45分・・・奥州市、栗原市は震度6強
秋田の湯沢市、東成瀬村は5強・・・太平山系一帯は震度4だったらしい
上からは雨・・・雨具を頭から被り、巨岩の急階段を釣り上がっていたためか、揺れを全く感じなかった

幸いこの沢は、硬い岩盤が連なる花崗岩を基盤としている・・・でも震度6強だったらどうだろうか
沢の傾斜度はきつく、巨岩のビルディングのように累積した巨岩帯・・・
それが一斉に崩れる様を想像するとひとたまりもない
不思議なことに、地震前後の数時間は岩魚の姿が全く見えなかった
毛針では岩魚が出ない・・・しびれを切らして禁じ手を使ってしまった
川虫捕り網で大型のカワゲラを捕る・・・そして毛針に川虫をつけた
しかし、それでも岩魚は出ない・・・疲れ果てて諦め、遅い朝食をとったのが午前9時30分

岩魚は、恐ろしい地震が来る直前に感知し、岩の奥深くに隠れていたに違いない
その異変に気付かない私は、魚信のない理由が全く分からず、焦り始めていた
つまり、岩魚以外の五感は完全に失せパニックに近い状態に近かったのだろう
その証は、巨大な地震がやってきた前後、その揺れすら感じていなかった
その後、再び岩魚が毛針を追い始めたのが午前10時を過ぎた頃だ
谷は雨で薄暗く、白い目印のある毛針さえ見失うほどだった
と、その時・・・突然、流れが盛り上がり、岩魚が飛沫を散らして飛び出した

それはスローモーションビデオを見るように鮮明に見えた・・・
毛針を咥えると、反転し上流へ走ろうとした・・・その瞬間、本能的に釣り上げた
精魂尽きた私は、笹薮に目を転じた
タケノコがあちこちに生えていた笹薮を縦横無尽に歩いたクマの痕跡が至る所にあった

薄気味悪い・・・(クマも地震に驚き右往左往したのだろうか)
竿を畳もうとすると、固着した竿が畳めない
雨はなお頭上から降り注いでいた
固着した竿を平たい石にタオルを敷いた上に置き、上に軍手を巻く
転がっていた小石を手に上からコツコツと叩く・・・竿を傷めないように慎重に畳む

畳んだ竿をザックに入れ、クマが逃げ惑った笹薮に入った
美味しそうなタケノコがあちこちに顔を出していた
夢中でタケノコを採る・・・袋が満杯になるほどに・・・ザックに重いタケノコを背負う
沢を下ると、釣り上がる時は気付かなかった旬のフキの群落とミズがやたら目についた
そのフキの根元を切ると、空洞から清冽な雫が滴り落ちた
旬のフキとミズを採取しながら夢中で階段の岩を転がるように下った

車止めに着いても、人の気配は全くなかった
携帯に電源を入れても圏外だった
やっと携帯が通じる場所に来てから、家に電話をした
「何、呑気にしていたの・・・谷で死んでいたのかと心配していた・・・巨大な地震があったの、知らなかったの・・・」
「冗談だろう、嘘だろ」・・・でも、女房の声は真顔に見えた

急いでカーテレビをつけると、地震で大騒ぎをしている映像が延々と流されているではないか
・・・まるで浦島太郎状態だった現実に驚く・・・
冷静になって考えると、自然の猛威に気付かない愚か者・・・救い難い釣り馬鹿だった自分に気付く
再び山の幸がピークに達する岩魚谷へ
▲地震と雨で不完全燃焼した沢へ再び入渓
地震から一週間後、朝起きると天気は上々・・・朝食後、無性に沢へ行きたくなった
時計を見ると午前9時・・・とりあえず釣り道具を車に積んで出発

いつもより家を出るのが5時間も遅い・・・岩魚の撮影時間を考えると、釣りは短時間に勝負するしかない
だが、毛針も予備エサも忘れてしまった
でも心配することはない・・・川虫は売るほど生息している
▲丸々と太った岩魚たち
キノコを採取しながら、杣道を1時間近く歩き、核心部から竿を出す
狙ったとおり、岩魚はいとも簡単にカワゲラに食いつく
地震前後は姿すら見えなかった岩魚は、瀬尻から丸見えだった・・・無事だったことに安堵する

瀬を無造作に歩くと、幾つもの岩魚が白泡に向かって走った
釣り上げた岩魚を、エメラルドグリーンに染まった流れに泳がす・・・キラキラと輝く清流に寄せてはシャッターを切る
私にとっては、釣りを楽しむより、野生の岩魚を撮るのがやっぱ楽しい
▲黄金岩魚
魚止めの滝まで歩きながら、岩魚を釣る、撮る・・・山菜・キノコも採る、撮る・・・風景や草花、野生鳥獣も撮る・・・
つまり、一人で限られた時間内にマルチに遊び記録し尽すには、岩魚との勝負を短縮するしかない
それを可能にするのは、現地調達のエサに勝るものはないように思う

しかし、毛針やルアーのような疑似餌で釣る感激は得られないのも確か
二兎を追う者、一兎をも得ず・・・これは永遠の真実かもしれない
▲苔生す魚止めの滝
これ以上岩魚が上るはずのない滝を「魚止めの滝」と呼ぶ
しかし、山人と渓魚の長い歴史・・・古代蝦夷の歴史を持つ北緯40度線以北の北東北では
魚止めの滝が連続する源流でも、信じられないような奥地にまで岩魚は棲息圏を拡大している
それを可能にしたものは、人と渓魚の「生かし生かされた」「共生共死」の民俗史に隠されている
▲初夏でも真っ黒にサビついた岩魚
水溜りのような細い流れに潜む岩魚は、鳥や獣などの天敵から身を隠すために日中のほとんどは岩陰に隠れている
水面を飛翔する羽虫、落下昆虫、川虫、カエル、サンショウウオ・・・を見つけると
岩陰が電光石火のごとく飛び出し、エサを捕食すると、すぐさま反転し隠れ岩に戻り、ゆっくり飲み込む
だから、暗い岩陰に同化した源流岩魚は、年中、頭から尾に至るまで全身真っ黒にサビついている
▲プロポーションが見事なメス岩魚
細流の沢でも、流木や枝葉など障害物に囲まれた安全な壷もある・・・壷は、意外に深く、やや広い
そんな岩陰に隠れる必要もない源流岩魚は、サビもなく本来の美しい体色に輝いている
▲赤腹岩魚
流れが細く、浅い源流に生きる岩魚は、常に底を這うような生活をしている
その腹部は、何故か一様に赤く染まったような赤腹になっている場合が多い
その理由は、謎である
▲初夏の渓を彩るオオバミゾホオズキ
▲苔岩とダイモンジソウ
▲旬のミズ
▼ミヤマカラマツソウ
▲野生の岩魚を捕る、撮る
岩魚に野生を感じるのは、カエルや蛇をも丸呑みにする大きな口と鋭い歯だ
しかし、それを表現するには、獲物をとらえる瞬間を撮るしかない
自分で釣りながら、そんな瞬間を撮るのは不可能

折った枝木に、岩魚を刺すと、大きな口が全開する
その姿を撮れば、その獰猛さが蘇るような気がする
▲命の循環
キャッチ&リリースは、生き物に優しいという
けれども、その命を奪って生きない限り、岩魚に「生かされている」感覚を味わうことはできない
それを味わうと、次第に岩魚が無事でなくなれば、自分も無事でなくなるような感覚を感じるようになる
これは、生き物全てが命の循環の中でしか生きられない遺伝子のせいだろうか
少なくとも、頭で考える理屈でないことだけは確かなように思う

現代人が抱く理想と現実のギャップは、便利になればなるほど大きくなっていくように思う
その落ち着かない遺伝子を静めるには、自然に帰るしかないのではないか

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