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山釣りと沢登りスタイルの違い、ヒグマ対策、滝転落事故に学ぶ、恐怖のヘズリ・カニの横這い、絶景・七ツ釜・・・
1999年夏、沢登りの人たちが北海道日高山脈を流れる渓で最も美わしいと絶賛してやまない
歴船川支流ヌビナイ川を遡行・・・その記録の復刻版を作成してみた
上の写真は、ヌビナイ川核心部の七ツ釜

釜とは、飯を炊く釜のような形をした滝壺のこと
流水の力が長い年月をかけて丸くえぐって作られた自然の造形美
白い岩盤に釜のエメラルドグリーン、紺碧の色が映え、遡行者を魅了する
▲ヌビナイ川MAP
実は、当時、ヌビナイ川が日高山脈髄一の美渓であることも、
険悪な函や七ツ釜の存在すらも知らなかった
日高山脈の道路地図を眺めている時、クマの沢との合流点に魚のマークを発見・・・

これは渓流釣り場を意味する記号だった
1997年8月、大雨と濁流で沢に入ることはできなかったが、車止めの位置を確認
下流の川の雰囲気と2万5千分の一図を眺めれば、エゾイワナの宝庫に見えた

1999年8月、待望の好天に恵まれた
車止めの標高は330m、クマの沢まで2.1km、507m二股まで累計6.2kmを歩き、
その下流右岸にBCを構え、竿を担いで険悪な函へ分け入った

広い河原歩きの途中、クマの沢を下ってきた沢登り師に出会う
聞けば、ヌビナイ川右俣を詰め、ピリカヌブリ(1631m)に登り、
クマの沢を下ってきたという・・・事前の情報がない釣屋にとってはスゲェと言うほかなかった
1997年8月北海道日高路をゆく(アーカイブ画像)
▲大雨で崩れて林道をゆく 歴船川の函が連続する険しい絶壁を濁流が流れていく ▲ヌビナイ川の車止め
▲歴船川支流ヌビナイ川 ▲痩せたキタキツネやエゾシカの親子をウォッチングしながら林道を走る ▲メナシュンベツ川の尺岩魚
当時の記録ノートより
北海道の大イワナに熱き思いを馳せて三度目の挑戦
だが、今まで経験したこともない大雨の連続、台風11号から変わった温帯低気圧は北海道に居座り続けた
日高地方は、出発前日から大雨に見舞われ、各地で道路の通行止め、田畑の冠水被害が相次いでいた・・・

大樹町を流れる歴船川は、水質だけでなく、自然景観、底石の輝き、
川のスケールなど自然愛好家たちにとって「日本一の清流」と呼ばれている
それが本当ならば、大イワナの聖域であるはずだ

残念ながら連日の大雨でココア色に濁った大河は、高水敷をも水没させ流木がもの凄い勢いで流されていく
夏休みを利用したカヌー愛好家たちは、歴船川めざして大挙押しかけていたが、
逆巻く濁流を恨むかのように眺めている
雨が降り続くキャンプ場は、カヌーを頭に積んだRV車の脇で本を読む姿が目立った
裏切られたのは釣り師だけではなかった

歴船川支流ヌビナイ川は、沢を遡行しない限り辿り着くことのできない
ピリカヌプリ(1,631m)、ソエマツ岳(1,625m)に源を発する
山懐深い谷は、支流といえどもスケールはでかい

カムイコタン農村公園から左岸の道を山へと向かう
やがて林道は二手に分かれるが、左へと進むとヌビナイ川に架かる橋、そこから沢を眺める
函型の険しい渓谷を奔流となって流れていくヌビナイ川に圧倒されそうになった

上流へ進むにつれて広い河原も多くなる
増水しているにもかかわらず、流れはミルク色だった
それがなぜなのか、目立つ石の白さが全てを物語っていた

「とっておき北海道の山」によれば、「白い川床が輝く日高の美渓」とある
まさにそのとおりの川だ
クマの沢川との合流点下流で林道は流れに寸断されていた
降り続く雨の中、カメラを持って沢を歩く

竿を出すことはできなかったけれど、全体的にエゾイワナの匂いは強いと判断した
さらに、「クマの沢川」という名前も素晴らしい
これこそヒグマに守られた聖域のように思えてならない
▲山釣りと沢登りスタイルの違い(写真:八幡平大深沢源流東ノ又沢)
左端の中村会長は、山釣りの典型的なスタイル
フィッシングベストと目立つ赤と黒の帽子、スパッツに渓流足袋、
サブザックに熊避け鈴を付けただけのシンプルなスタイル

その右の地図を広げて見ている沢登りパーティのリーダーは、「渓友塾」を主宰している宗像兵一さん
宗像リーダーは、帽子とスパッツ、渓流シューズのスタイルは同じだが、腰とザックにぶら下げている物が違う
腰には懸垂下降に必須のハーネスとエイト環、数多くのカラビナとシュリンゲ、ハンマー、ハーケン、登高器・・・
ザックの頭には、8mm×30m、40mのザイルを背負う・・・他のメンバー全員はヘルメットで武装している

沢屋の人たちから見れば、山釣りスタイルは、いかにも貧弱に見えてしまうのもいたしかたない
ヌビナイ川支流のクマの沢から下ってきた沢登りパーティのリーダーは、我々の貧弱なスタイルを見て
すかさず言った・・・「とてもあんたらの行く場所じゃないんだけど」と、警告された

そうかもしれない・・・当時、ヌビナイ川に関する情報はゼロ・・・
だけど、沢登りの常識からみれば装備は稚拙だが、沢歩きには、特に問題はないはずだ
▲左:ヒグマ対策
1999年5月、道南の木古内町でヒグマによる死傷事件が発生
今年はヒグマの当たり年と言われている
写真下から、山刀、熊撃退スプレー、3連の熊鈴、笛、爆竹・・・ヒグマ対策だけは万全だった

▲右:白い花崗岩の石が点在する広河原をゆく
ヒグマの糞は、河原で2ケ所、旧林道で1ケ所あった
それにしても、夏の日差しが殊の外暑く、開けた河原歩きはつらい
▲左:ヒグマの大好物・タモギタケ・・・北海道・夏の渓流釣りでは、
いつもお世話になっている美味なキノコ。味噌汁の具として採取

▲右:クマの沢川で竿を出す
二又に荷を置き、中村会長が魚のマークがついていたクマの沢で竿を出す
ところが行けども行けどもアタリは遠い・・・やっと釣れたと思ったら、岩魚ではなくハナカジカ
それも、16.5cmのジャンボカジカだった
▲クマの沢川MAP
後日、考えてみれば、岩魚を追うなら、ヌビナイ川は右股ではなく、左股のクマの沢に向かうべきだった
情報を集めると、標高590m上二股からピリカヌプル直登沢に魚止めの滝が懸かっているらしい
クマの沢下流で、カジカではなく岩魚が釣れていたら

恐らく、クマの沢の源流をめざすことになっていただろう
ただし、上流の函記号が連続しているのが気になるが・・・むしろ楽しそうにも見える
ぜひ一度挑戦してみたい沢である
▲左:507m二股、左股の魚止めの滝を釣る
岩魚がいそうな滝壺を見れば、竿を出さずにいられないのが釣屋のサガだ
左股は、いきなり両岸の屹立する壁が狭く威圧される
とてもこの滝上に魚が生息しているとは思えない

▲右:F1の滝、4m
ここから渓は一変、ゴルジュと滝が連続する核心部へ突入
けれども、この滝が魚止めの滝とは知らずに源流をめざす・・・もし事前にこの滝上に魚がいない情報を
キャッチしていたら、憧憬の七ツ釜を見ることは一生なかったと思う
魚止めの滝の釜を越えると、沢は急に狭くなり
第一の函が現れる・・・この険悪な函を越えれば、岩魚とオショロコマの楽園があるのでは・・・
ワクワク、ドキドキしながら函に突入していった
▲両岸絶壁のゴルジュ
右岸の巻き道を下ってきた3名のパーティと出会う。稜線の藪でヒグマに吼えられ、慌てて笛を鳴らしながら下ってきたという・・・意外にもヒグマ対策は、我々釣屋より貧弱だった
▲狭いゴルジュに吸い込まれるように落下するF3。こんな峡谷では、深山幽谷の主・イワナと言えども上れない・・・まして人間がこの滝壷に吸い込まれたら、ひとたまりもない

悲惨な滝転落事故に学ぶ

私たちが歩いた翌年、2000年9月16日、札幌市の山岳会のメンバー・3名が
ヌビナイ川の滝に転落、死亡するという事故が起きてしまった(落ちた滝は右上の写真の滝だろう)
狭い函と滝が連続するヌビナイ川は、雨で増水すれば逃げ場がなく危険きわまりない。

転落事故の記録によれば、天候は小雨、
函の川幅約3mと狭い区間を渡ろうとしたが、水の勢いが強かった。
そこで川の流れに直角にロープを張り、2人で両端を支え、3番目の女性が渡っている時に起きた。

女性が川の中で転倒、流れに垂直に張ったロープはもの凄い水流と衝撃を受け、
両端の2人は支えきれず、3人とも流され滝の下に呑み込まれてしまった。
流された場所の下流5mほどの所に滝の頭があり、滝の高さは約20m
この狭く落差のある滝に呑み込まれたらひとたまりもない。

ヌビナイ川を安全に遡行するには、天候が良く水量が少ないことが絶対条件だろう。
従って、山の残雪が融け出す時期や雨で増水している時期
あるいは、その危険が予想される時は遡行を中止すべきだろう。

また、すぐ下流に危険な滝がある場合の渡渉は、パーティ全員の経験、力量を考え、
一人でも突破に困難が予想される場合は、勝手に先を急がず、
全員力を合わせて慎重に対応すべき・・・

すなわち、単独渡渉が無理な場合は、岩や立木に固定しない不安定なロープで確保するのは×、
むしろ、沢登りの道具に頼るのではなく、全員でスクラム渡渉をすれば防げたように思う
真ん中に初心者、両サイドをベテランがサポートするようにスクラムを組みながら渡渉する方法だ

一人の足は2本しかない・・・その足を移動しようとすれば、激流を支える足は1本しかなくなる
3人でスクラムを組めば、足の数は3倍・・・スピーディで強力な渡渉法だ
いずれにしても、こうした沢での事故は、他人事ではすまされない。
こうした事故から真摯に学び、山に逆らわず、安全かつ楽しい、スローな沢歩きを心掛けたい。
▲屹立する岸壁に、大きな岩穴が・・・まるで、ヒグマの穴のようにデカイ・・・何もかもスケールがデカイ! ▲ウルイの花(オオバキポウシ)
北海道も大旱魃で、ほとんど枯れていたが、やっと生き生きしたウルイの花を見つけ、シャッターを切る
▲巻き道は、右岸から左岸へと変わる
沢底から左岸を高巻く仲間を撮る
ここから左岸をきわどく高巻くルートが狭い廊下帯を越えるまで、延々と続く
足場になる岩場の窪地は細く、草付けも頼りない・・・
しかも滝壺までの落差が大きく、落ちれば死が待っている恐怖に襲われる・・・決して油断はできない

危険箇所は、灌木に支点をとってザイルを渡し、帰りまで残すことにした
こうすれば、後続のパーティも楽だろう
帰路、このザイルを回収して下ると、3名のパーティが左岸の高巻きルートへ向かった
この時、彼らの装備を一見すれば、我々より遥かに充実していた

しかし、ゴルジュの釜で休んでいると、ほどなく引き返してきたのには驚いた
聞けば、パーティの女性が、あの高度感溢れる巻き道で足がすくみ、遡行を断念したという
一度、恐怖に襲われてしまうと、足が前に出なくなる・・・

それを無視して強行すれば、滑落する危険が格段に増す
パーティ全員の安全を優先し、時には、遡行を断念する勇気も必要である
それが事故を未然に防止する最善の策・・・リーダーは、こうありたいものである
▲遡行者を威圧する日高独特の函 ▲狭い廊下帯を流れるヌビナイ峡谷

北海道では、ゴルジュのことを函と呼ぶ
その意味は、北海道の沢を歩けばすぐに納得させられる
上左のゴルジュの中に入ると、狭い函に閉じ込められたような威圧感を受ける

両壁の下部は流水に削られ、列状に丸くえぐれている
水の造形美は、まるでモアイの像が建ち並んでいるようにも見える不思議な函だ
草も生えていない岩壁を見上げれば、洪水時の水位がかなり高いことが分かる

函は狭く、両岸の壁は垂直に近いほど切り立っている
その奥に大きな釜を持つ滝が幾つも懸かっている
この釜を泳いだとしても、直登が不可能な滝が連続している

これらの函は、左岸の断崖絶壁ルートを際どく高巻くルートになっている
我々は、函の中を歩き、滝壺に静かにアプローチしては竿を出す
岩魚の気配は全くない・・・魚も棲めない険悪な函を見上げて納得

ひとたび雨が降れば、あっという間に増水し、地獄谷と化すだろう
釣りだけを目的にしていたとすれば、ここで引き返すことになる

しかし、人間とは不思議な生き物である
今まで見たこともない不思議な渓谷美、この函を越えるとどんな風景が現れるのか・・・
未知の世界への誘惑が、函の奥へ奥へと誘惑する
▲小滝と釜が連続
途中まで、F1、F2、F3・・・と数えていたが、函と滝の連続に数えるのも馬鹿らしくなる
長い函と廊下帯を越えると、ミニ七ツ釜のような美しい景観となる
▲ナメの岩盤が続く快適な滝
険悪な函から解放され、清涼感溢れるナメ滝シャワーを浴びて歩く
真夏の沢旅は、ナメとナメ滝に勝るものなし
▲いよいよヌビナイ川の核心部へ
滝の手前の右岸から小沢が流れ込んでいた
滝に近づけば、無理して直登するよりも、巻くのが正解のようだ
下流まで下がり、右岸を大きく高巻く・・・巻くルートは、またしても高度が高い
滝頭を眼下に見ながら進むと・・・
▲ヌビナイ川核心部・七ツ釜
木々の間から、今まで見たこともない不思議な景観が目に飛び込んできた
その感動的な光景に、誰彼ことなく感嘆の声があがった
エメラルドグリーンに染まったナメと釜が、まるで棚田のように連なっているではないか

天国の散歩道・・・その息を呑む美わしさに何度もシャッターを押しまくる
夏の光に、白い岩盤と紺碧の色を湛える連続釜が一層輝いて見えるのも、不思議な光景だった

後日、北海道の沢の本を調べていると、この絶景の写真が縦構図で大きく掲載されていた
「ヌビナイ川核心部の七ツ釜」という名称を初めて知る
事前の知識が全くなかっただけに、七ツ釜との遭遇は、舞い上がるほど感動したことを思い出す
▲美わしい別天地に立てば、思わずバンザイしたくなる

魚が遡上できない滝は、「魚止めの滝」あるいは「ヨドメの滝」と呼ぶ
しかし、北東北では、20mクラスのヨドメの滝が連続していても、その滝上に岩魚が生息している
それは、かつてマタギなど、山に生きる人々がヨドメの滝壺で岩魚を釣り
滝上に移植放流したり、あるいは岩魚の稚魚を弁当箱などに入れ、
峰越えで源頭放流を繰り返したからである・・・その記録や口承伝承が数多く残っている

だから北海道でも、ヨドメの滝の上に岩魚やオショロコマが移植放流されていてもおかしくない・・・と、安易に考えていた
サブザックに竿と餌を担ぎ、険谷の函や滝、ゴルジュを通過し、
大きな釜に出くわせば竿を出した・・・しかし魚信もなければ、魚の影さえなかった

ヌビナイ川唯一の欠点は、清冽な流れに岩魚やオショロコマが生息していない点である
もしこの美渓に、山魚が生息していたら、最高ランクの沢になること間違いなしなのだが・・・
▲白い花崗岩を流れるナメ滝
白いナメの岩盤を清冽な流れが、マイナスイオンを飛び散らしながら、大釜へと滑り落ちていく
ヌビナイ川の水の力は、凄まじい・・・堅い岩盤を丸くえぐりとり、いずれの釜も大きく深い
▲エメラルドグリーンに染まった大釜で水浴びを楽しむ
宝石のように輝く天然の大釜に遭遇すれば、裸になり泳ぎたくなる
魚がいないのなら、我々が魚になればいい

昼食は、当然のことながら、天国の大釜を借景に食べる
コッフェルで釜の水をくみ、お湯を沸かしてコーヒーを飲む・・・格別に美味い
▲登るにつれて、流れはだんだん狭くなる
夏の光に、水の造形美は一層輝きを増し、まるで夢の世界を彷徨っているようだった
▲乳白色に輝く流れは、ヌビナイ川源流独特の景観だ
たまたま天候には恵まれたものの、もし、雨で増水すれば、ゴルジュの突破はかなり難しいだろう
まして融雪期は、かなり手強い沢であることは確かなように思う
▲巨大なダケカンバの流木と大釜
白い岩床、深い釜の底まで見える透明度、
谷に迫り出した深緑が大釜に映え、実に美しい
▲天然ウォータースライダーには最高の世界
最近の沢遊びでは、自然の造形美を利用してフィールドアスレチックのように遊ぶ
天然ウォータースライダーといったものが流行っているらしい
この天国のナメの岩盤を滑り落ち、滝壺へ飛び込む、あるいは潜り泳ぐ

それを連続七回も可能な七ツ釜は、日本一の天然ウォータースライダーを楽しむことができる別天地と言える
ただし、ここまで辿り着くのが極めて難しい
▲ナメ滝の向こうに日高山脈の切り立つ稜線が垣間見える
この風景は、北海道日高のカール地形がもたらす独特の景観
上二股まで、標高差は意外に少なく、頂が見える源流部に達すると、屏風のような山が眼前に迫る
つまり、東北の穏かな山と比べれば、山が遥かに切り立っている
▲奥に聳える山のピークがソエマツ岳(1620m)
標高700m近くになると、ナメ床となり、次第に開けた河原となる
▲左:流れが極端に圧縮されたトヨ状の流れ・・・これまた、珍しい天然水路だ

▲右:上二股近くになると、白い岩盤から石が点在するゴーロへと一変する
▲標高790m上二股
右股を登れば、ソエマツ岳(1620m)、左股を上れば、ピリカヌプリ(1631m)へ
沢登りのパーティは、ほとんどがここで一泊してから頂上をめざしているらしい

右俣は、ゴーロの階段が続いていた
960m二股を左にいくと、快適なナメ滝が頂上直下まで続くという

それにしても上二股からソエマツ岳の頂上まで、標高差は830mもある
日高の山はどこからアプローチしても遠い
我々は、日帰り装備しかなかったので、ここで引き返す
▲3日間で出会った沢登りのパーティは、何と7組
ヌビナイ川は、釣り人ではなく、沢登りのメッカだった
けれども、圧縮されたゴルジュを突破するには、ヘズリ、カニの横這い、シュリンゲ、ザイル
で安全を確保するなど、中級以上の技術、経験を要する

少なくとも、滝転落事故に学べば、初心者だけのパーティは来るべき渓ではないだろう
かつて、札内川を遡行した際、八ノ沢からカムイエクウチカウシ山に登る登山者の多さに驚いたことがある
そうした沢を登ったから、ヌビナイ川も大丈夫と思う方もいるかもしれないが、レベルが違う

山だけでなく、沢にも難易度の高い沢は幾つもある
ヌビナイ川は、狭い函と滝が連なる区間を高巻くが、その道は、巻き道と呼べるようなものではなく
高さ20m〜30mの断崖絶壁で置いた足場が動くような区間も少なくない

そうした地獄の函とゴルジュを高巻いた向こうに、忽然と、天国のような七ツ釜が目の前に姿を現す
その絶景を目の前に、誰もが感嘆の声をあげ、写真を撮りまくり、釜の上でバンザイをしたくなる
この地獄の苦しみと天国の落差・・・それが日高随一の美渓と絶賛する理由があるように思う

ヌビナイ川は、標高約510m〜700mが滝と函、廊下状ゴルジュ、ナメ滝と釜が連続する核心部
当時は、デジカメもなく、重い一眼レフカメラを使っていた
もう一度、真夏の暑い日は、フットワークの軽いデジカメを手に自然の造形美を思いっきり撮ってみたい

最後に、沢登りの元祖と言われる冠松次郎の詩を記して終わりにしたい

大自然の不思議に驚く心
未知の世界に憧れる私の心が
雑踏の巷から 私を 山の奥へと引っ張って行った

渓の緑 水の碧 空の青さ 山肌の紫
霧の香 鳥の囀り 山草の可憐な粧
氷雪の感触 天象の大観

熊 猿 カモシカなどの戯れ まだある
朝と夕 谷から山へ 山から谷へと
旋回 乱舞する岩燕

美しい水の底を切って 動いてゆく岩魚の舞い
山ウドの芳烈な香り 茸のむせるような匂い 等々
この冠松次郎の思いを共有するには、釣屋と沢屋の融合にあるように思う
参 考 文 献
「渓(たに)」(冠松次郎、中公新書)
「沢登り」(中村成勝、深瀬信夫、宗像兵一著、山と渓谷社)
山のバンドブックシリーズ5 「沢登りの勧め」(中庄谷直、協同出版)
「山と渓谷 2008年8月号」・・・シーズン企画 「沢旅」へのいざない

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