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夢のような物語 Part2 ・・・ 巨大マ・イ・タ・ケ編
2008年9月28日(日)、午前5時10分、自宅を出発
林道に入ると、前に4台、後ろから2台、3台と数珠繋ぎとなる
目的の沢の入口に着いたのは午前6時過ぎ
マイタケ激戦区だけあって、既に先行者の車は7台もあった
日曜日だから駄目だろうと思い、マイタケを包む風呂敷は置いて、いつもの小さなサブザックのみ背負う

今年のマイタケ採りは、二回目・・・どこに入るか迷う・・・
とりあえず、歩きながら考える
初心者だから、これまで採ったデータは全くない
前回とは違う小沢の脇尾根筋を登り、高度500m前後の東側斜面をトラバースしながらミズナラの巨木を彷徨う

マイタケが生えやすいと言われる東斜面を探すこと2時間弱
マイタケの気配はゼロ・・・「やっぱり駄目か・・・」
と、半ば諦め掛けていた頃・・・巨大マイタケに遭遇した
一本の木の根元に、マイタケ約20kg・・・一生に一度あるかないかの巨大マイタケだった
午前8時過ぎ、東斜面から小沢に下り、朝食をとる
ふと、西側斜面の遠くに、ミズナラの巨木が目に止まった
急ぎ朝食を済ませ、西側斜面に取り付く

意外に藪と急斜面が続く・・・先ほど歩いた東斜面に比べ、人の歩いた痕跡はほとんどなかった
日当たりの悪い西側斜面は、生える確率が低いからだろうか
1本目・・・やはり生えていない
その真下の急斜面に立つミズナラに向かう
葉陰越しに望む根元に、何やら巨大な塊が見えた

近付けば、「サカリ」「スワリ」と呼ばれる大物ではないか
「ヤッター・・・当たった、やっと当たった・・・」
根元の左下(左の写真)を望む・・・「おっ、おっ、おお〜」何株も見える
右下を望む(右の写真)・・・巨大な株が見える・・・「これは大当たりだ〜」と、心の中で叫ぶ
この大、大感激をどう表現すればいいのだろうか

真っ先に浮かんだのは、「喜びの余り舞い上がる」との格言
しかし、下手にダンスを踊ろうものなら、マイタケを踏み潰しかねない・・・
まして下の急斜面では、踊るどころか、転がり落ちるのが必須だ

夢が現実になると、やはり「舞い上がる」というより、心は乱れに乱れる
「まずは写真だ」・・・採るより、巨大マイタケの美を撮るのが長年の夢だった
サブザックからデジカメを取り出すものの、急斜面に置いたザックが滑り落ちる

デジカメを構えると、被写体は暗く、シャッタースピードは「1/4」・・・三脚は持参していない
もし持参していたとしても、メインの下側斜面は、三脚を立てる場所すらない
ISO感度400で撮るも、ことごとくブレてしまう・・・

不自然だが、フラッシュ撮影と画像は粗いが、ISO感度を800〜1600に変えて撮る
まずは根元上側のマイタケ4株を撮る
次に右回りに撮ろうと木の根をつかみ下りる
360度生えていた中でも最もデカイ巨大な株
巨樹の根元にどっしり座っているようなマイタケ3株・・・こんな状態を「スワリ」というのだろう

右のマイタケは巨大で、一株5kgほどの大物だった
足場を固め、何度もシャッターを押す
二回りして全ての株の撮影を完了した
疑問1・・・急斜面の巨大マイタケをどうやって落とさず採るか・・・

一番大きい株を上から慎重に起こし、膝上で受け止め、抱きかかえるように採る
実際に持ってみると、見た目より大きく、ズシリと重い
大イワナを釣るより、遙かに興奮している自分に気付く

袋に入れようとするが入らない・・・やむなく株を割って入れるしかない
足場が不安定に加え、一人で巨大な株を割り、落とさないように袋に入れるのに苦労した
とりあえず、急斜面の株はビニール袋に入れて、安定した根元の上側に集める
▲斜面上部の根元に生えたマイタケ
▲下から見上げて左に生えていた巨大マイタケ
斜面の傾斜は、かなりきつい
▲左二枚は、下側中央部に生えていたマイタケ
右の二枚は、ほぼ垂直の根元に生えたマイタケ
巨大マイタケは、なぜ崖のように急な斜面を好むのだろうか
巨木と同様、適度な水気と排水が良好な場所を好むように思う
左:日本最大のブナ(秋田県角館町、白岩岳)。幹周り10.1m、樹高25m、推定樹齢700年以上
右:日本第二のブナ(秋田県田沢湖町、小影山)。幹周り8.1m。

■巨樹になる条件
@年間を通して風が弱い場所であること
上の写真二枚は、日本を代表するブナの巨樹だが、一見平坦な場所に生えているように見える
しかし、この二つの巨樹の背後は急な崖になっている

つまり、ブナもミズナラも巨樹になりやすい場所は、斜面下側が崖になっている場合が多い
A適度な水分の供給と排水が良好な地形であること
巨大マイタケの生えていたミズナラの巨樹は、この二つの条件を完璧に備えていた
▲下から見て右側の根周辺に生えていたマイタケ
疑問2・・・一箇所に集めてはみたものの、壊さずにどうやって持ち帰ればいいのだろうか・・・

サブザックに壊さず入れるには、小さめの株4株が限界だった
大物は株分けしてから、ビニール袋に入れる・・・袋数は7袋・・・とても一度に運べそうにない
半分ずつ運ぶか・・・しかし、車止めから往復するには遠すぎる距離だった
袋をカラビナに吊るしザックの背中に3袋、両サイドに2袋、両手に2袋を持って下山開始
山を歩くには重すぎる・・・しかも、周りに吊した袋が多すぎてバランスは最悪・・・
歩くたびに前後左右に揺れる・・・

その度に重心が後ろへ、左右へと移動し体も前後左右に引っ張られる
疲労は何倍にも膨れあがる
その歩く姿は、足下が定まらない酔っ払いのチンドン屋か、舌切り雀の欲張り婆さんと同じだった

しかし、採ったからには、できるだけ姿を壊さず、確実に持ち帰るしかない
15分程歩けば、心臓が高鳴り、足が前に出なくなる
下る途中、ぶら下げた袋が笹藪に引っ掛かり、前に進めなくなる

果ては、下る斜面の灌木に引っ掛かり転ぶ
転ぶにも、ぶら下げたマイタケを潰さないように転ばねばならない・・・これがまた難しい
この地獄の苦しみを味わうと、マイタケ装備がいかに稚拙か・・・反省させられた
やっと小沢まで下ると、今度は倒れたミズナラの根元に腐りかけのマイタケが目に飛び込んできた
こういう状態を「ナガレ」というのだろう・・・もう一週間早ければ、大株の「スワリ」だったはず・・・
種類は、早出タイプの白系「シロフ」のようだ

巨大マイタケに続き、「ナガレ」の大株があるということは、この周辺はマイタケ空白区ということか
歩かない所がないほどのマイタケ銀座でも、死角はあるのだ
今回の大当たりは、過去のデータを持っていない初心者だからこその幸運だったように思う

下りはじめて2時間余り・・・汗は全身から噴出し、ヨレヨレになりながら車止めに着く
背負ってきたマイタケを車に丁寧に積む
ほどなく、山から下りてきた高齢者らしき男性が声を掛けてきた

「随分採ったもんだなぁ・・・凄いねぇ〜!! どこで採ったんだ」
「小沢を登った標高500m当たりかなぁ・・・これ全て一本の木から採ったんだよ」
「へぇ〜、そりゃ大当たりだ・・・それなら疲れも吹っ飛ぶべぇ」

そう言われても、疲れがピークに達していたので、素直には喜べない
着替えを終えるとスッキリ・・・巨大マイタケに遭遇した感激が再び蘇ってきた
自宅に帰り、新聞紙を広げた上に収穫したマイタケを並べる
小さなザックとビニール袋だけで、よくこんな巨大な獲物を一人で背負ってきたもんだと、我ながら驚く
重量を一個一個正確に測定する
株分け前の自然状態で14株、その総重量は19.6kgだった

いざ正確に計測すれば、想定した重量より軽いように思う
大株を株分けした分割株一個の最大重量は、3kg余り・・・
自然状態の最大の一株は、推定するしかないが、およそ5kgはあったと思う

この巨大な株を割らずに持ってきたとすれば、手に持って記念撮影したかったのだが・・・
いかんせん、半分に割った株では、巨大マイタケに遭遇した時の迫力は半分以下
とても記念撮影する気にはなれなかった
疑問3・・・想定外の収穫を前に、どうやって処分するか・・・

マイタケは市場性が高く、換金する方法もあるが、この感激はとても金に換えられない
まず保存法を考える
新聞紙に包み、冷蔵庫の野菜室に入れれば約一ヶ月はもつという
しかし、大株は冷蔵庫にすら入らないジャンボサイズだ

天日干し・・・これが最良の方法らしいが、腐らせずに天日干しする自信がなかった
実家に宅急便で送る・・・職場に持って行って配る・・・
宴会に持参し店のプロに調理してもらってふるまう・・・
次回のキノコ狩りに持参し、仲間でマイタケ料理を楽しむ・・・
その他残ったマイタケは、全て缶詰に加工し、知人、友人、親戚に配る等々

夢が現実になると、想定外の疑問や悩みが次から次へと押し寄せてくる
しかし、贅沢な悩みであることは確か・・・夢の巨大マイタケを採った感激は、一生忘れないだろう
▲天然マイタケ料理
きりたんぽ鍋、油炒め、天ぷら、お吸い物とマイタケ三昧の料理をしたが
使用したマイタケは、全体のほんの少しに過ぎない
恐らく、20kgの天然マイタケがあれば、数百人分のマイタケ料理ができるだろう

9月25日、75歳の男性がマイタケ採り(秋田市河辺三内)に出掛けて病死したとのニュースがあった
山で倒れる危険があっても、急かされるようにマイタケ山に足が向く
その気持ちが、何となく分かるような気がする
参考:マイタケの生育過程と呼び名
▽マメ・・・豆のように可愛い原基が現れ、マイタケ採りの人たちの目に見えるようになった状態
▽サワリ・・・マメから8日程度経過し、採るか採るまいか、触りたくなるような若いマイタケ
▽サカリ・・・サワリから8日ほど成長し、あたかも働き盛りに見える状態

▽スワリ・・・サカリから8日ほど経過し、森に座りながら次の世代に子孫繁栄のため、
より多くの胞子を飛散している大株状態
▽ナガレ・・・スワリから6日ほど経過して、傘からほとんど胞子を落とし、
悪臭が漂いキノコバエ等が飛来し、傘の肉が落ちる状態

この区分から判断すれば、今回の大株は採取適期の「サワリ」から「スワリ」と見て良いだろう
発生の周期は・・・
マメからサワリを採取したキノコ木は1〜3年、サワリからサカリ3〜5株採取したキノコ木は3〜5年、
サカリからスワリ6〜8株採取したキノコ木は6〜8年間隔で発生する
また、サワリ、サカリ、スワリを10株以上も採取したキノコ木は10年以上経過しないと再発生しない・・・

今回の採取は、サカリからスワリが14株だから、この木には10年以上経過しないと発生しないことになる
せっかく採ったのに、そのデータを活かすには気の遠くなるような時間が必要だ
ナラノキイシ
▲マイタケの左上奥の花崗閃緑岩を「ナラノキイシ」と呼ぶ
マイタケが生える山を判別するには、ミズナラだけでなく、岩石の種類も決め手になるという
確かに、巨大マイタケが生えているすぐ傍に花崗閃緑岩があった
しかも、ミズナラの根がその岩に巻き付いている

この石を「ナラノキイシ」と呼び、マイタケ採りに欠かせない重要な石と言われている
つまり、マイタケ採りのポイントは、ナラノキイシと傾斜地のミズナラ大木からなる原生林という結論に至る
マイタケMEMO
天然物は、栽培物と違って巨大な株になり、極めて香りが良い
味も一流、歯切れも素晴らしい
その天然の風味と歯切れの良さを生かすには、短時間に調理できる料理が最適

市場性が高いのは、油や和風だし、醤油、味噌、素焼き・・・
和風料理、洋風料理にも合う万能キノコに加え、
腐りにくく、保存性は、数あるキノコの中でも極めて高いからだ
しかし、数十キロに及ぶ大物に当たる確率は、「一生に一度あるかないか」と思うほど極めて低い

これまで、市場価格がキロ当たり8,000円〜10,000円は高過ぎると思っていた
しかし、いざ想定外の巨大マイタケに遭遇し、丸一日、撮る、採る、運ぶ、保存する、料理する・・・
その「天国と地獄」を味わえば、天然巨大マイタケの高嶺に・・・なるほど・・・と、納得せざるを得なかった
●今回の反省を踏まえたマイタケ採り追加装備品
・山釣り用の65リットルアタックザックを兼用(大は小を兼ねる)
・木綿の風呂敷・・・巨大マイタケは大風呂敷に包む
・ナタ又はナイフ・・・ナタかナイフで木ヘラを作る。根先のマイタケは木ヘラで起こして採る。
・5mシュリンゲ・・・急斜面でザックや体を固定するのに便利
・大きめのザックカバー・・・ザックの外側に吊す場合は、大きめのザックカバーをするのがベスト
・ビニール袋・・・巨大サイズ用としては、間口の広い25リットル程度のひも付きビニール袋が必要
 参 考 文 献
「秋田太平山地のマイタケ」(佐々木仁八郎著、秋田中央印刷株)  生態測定調査と採取活動30年間の記録
「山渓カラー名鑑 日本のきのこ」(山と渓谷社)

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