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新緑の山と谷は、皆歓喜に満ち溢れている
雪解けの湿原・・・
眠りから覚めたミズバショウが、春の柔らかい陽射しを浴びてクスクス笑い出す
▲新緑の春山
「冬の沈黙から表現へと移った自然の姿態は、
五月の新緑というものにおいて最も豊かな、至醇な表現となってあらわれる。
・・・眠れる自然から覚めたる自然に移るこの経過は、何と激しい変化であろう。」
(大正7年5月「新緑の印象」田部重治)
▲春近し・・・残雪を抱くブナ
寒さが和らぐと、ブナは熱を帯び、根元の残雪をいち早く解かす
雪解けは、この根回り穴から谷の奥へと広がってゆく
眠っていたマタギたちも、残雪にクマの足跡を求めて動き出す
▲雪代谷・・・残雪期は見通しが良く、白い雪の上はクマを発見しやすい ▲芽吹くブナ・・・歓喜の風景
▲ブナの新芽を貪るように食べる白神の猿・・・
冬の寒さと飢えに耐え、待ちに待った春を喜ぶ感動的シーン
ブナの森は、サルにとっても「母なる森」「生命の森」・・・
雪国の春は、「自然に生かされている」実感を味わうことができる最高の季節
▲雪国の春の使者・・・フクジュソウとフキノトウ
▲春告岩魚
全身、真っ黒にサビついた早春魚は、白銀で輝く
▲春のはかない草花・・・スプリング・エフェメラル
ブナの葉が開く前は、暖かい陽光が林床に降り注ぐ
真っ先に咲く花はイワウチワ・・・まるで林床を花吹雪が舞うように咲き乱れる
イワウチワに負けじと、カタクリ、ニリンソウ、キクザキイチゲなどが次々と咲き競う
▲早春の妖精・片栗 ▲一斉に踊るキクザキイチゲ
早春を彩る花の競演は、「百花騒乱」と呼ばれるほど見事だが
ブナの葉が開き、森の林床に光が届かなくなると、あっと言う間に消えてゆく
はかない可憐な花だけに、一層心惹かれるものがある
▲新緑の峰走り
ブナの芽吹きは、里から源流へ、谷から峰に向かって、凄まじい勢いで駆け上がる
千変万化する生命のドラマは、日暮し眺めていても飽きることがない
▲芽吹きの春
ツキノワグマにとって、ブナの若葉と花は、初めてのごちそう・・・
5月、対岸の斜面のブナの枝がワサワサと揺れる光景を見掛けることがある
▲雪解け水が織り成す夢幻の風景
滝壺の奥底に眠っていた岩魚は、雪解け水とともに動き出す
川虫と岩魚が踊りだすと、鳥たちの囀りが森閑とした森に響き渡る
水生昆虫を求めて、カワガラスが渓を一直線に飛んでゆく
ブナの森を棲家とするシジュウカラは、コケを集めて巣作りに余念がない
▲早春、岩魚の顔
▲クロモジの若葉
早春、森全体は、ゆっくりと萌黄色に染められてゆく
純白のタムシバの花、オオカメノキ、マルバマンサク、
ムラサキヤシオツツジなどの低木花が一際美しい彩りを添える
▲春もみじの代表的な山菜・シドケ ▲雪崩斜面から顔を出す山ウド
▲早春の陽光を一杯に浴びて、山の恵みを摘む・・・至福のひととき
クマもカモシカもサルも・・・新芽を求めて日当たりの良い沢筋に集まってくる
▲斜面に萌え出た新芽を貪っていたカモシカ
芽吹く前のブナの樹上を見上げて思う・・・
萌黄色になると、ツキノワグマやサルは、木に攀じ登って、新芽と若葉を貪ることだろう
▲ザゼンソウも一斉にゲラゲラと笑う
冬眠から覚めたツキノワグマは、雪崩地や崖地に集まり、
昨年落ちたドングリやブナの実、カモシカの死骸を食べる

やがて、タムシバの花やオオバクロモジの若葉
ミズバショウ、ザゼンソウ、ウド、アザミ、アイコなどを食べあさる
豪奢な食事が終わると、母子で残雪滑り・・・
▲水面に落ちた虫と間違え毛鉤を食う黒岩魚
▲我先にと芽を出すアイコ ▲淡い緑が瑞々しいウルイ
▲若葉燃ゆ・・・まさに春爛漫
▲山釣りのスタートは、渓流解禁から遅れること一ヶ月
4月下旬、雪解けが早い海岸沿いの沢から始まる
やがて新緑前線を追うように、内陸部の奥深い源流部へと移動する
ただし、雪代に雨が加わると、地獄の世界に一変するので要注意!
▲歓楽に満ちた春の湿原
▲早春の岩魚
雪代水で溢れる淵の岩陰には、尺物の岩魚が潜んでいる
点釣りで底を丁寧に探ると、野生の鼓動が竿を握る手に伝わってくる
一気に抜き上げると、顔は一様に黒くサビついている
▲黒いサビがとれた源流岩魚
雪代の洗礼を受けると、黒いサビも消え、幽谷の美魚に変身する
遡上が不可能な源流に生息する無着色斑点のアメマス系イワナの謎は・・・
かつて海とつながっていた時代、ヨドメの滝に群れるイワナを山人が釣り上げ、
滝のまた滝の上に放流したイワナの子孫・・・

天然分布のイワナでない事実を知ると、一体何のために滝上放流をしたのだろうか・・・
その疑問を解き明かしたくなる・・・
阿仁のマタギのように、人知れず滝上に放流し、隠しイワナにしたり、
岩魚を盆魚として珍重した玉川部落では、当番制でイワナを増やすという風習があった
イワナに生かされている山人にとって、イワナが枯渇することが一番困る
持続的に安定したイワナを確保するために行なわれていたことは、すぐに理解できる

しかし、人跡稀な白神山地や和賀山塊などの源流では、
ほとんどが高齢者で、そろそろイワナ釣りを引退する頃に行なわれている
もう釣る余力がないのだから、隠しイワナにしても意味がない・・・
その心は謎のままである・・・感謝と愛、命の循環・・・
その謎を解明すべく、渓師は「自然と人間と文化」に想いを馳せるようになる
▲源流の春・・・スノーブリッジと新緑
この谷の下流には、大きな滝が懸かっている
ブナの渓畦林が豊かで、清冽な流れに川虫や昆虫類も豊富なのに・・・
滝上には、岩魚一匹生息していなかった・・・死の川に見えたとしても不思議ではない
今では、山人が放流した岩魚の子孫が群れている

人手が加わっていない源流に行けば、いつでも岩魚が群れている・・・
と思うのは、人間側の勝手な思い込みに過ぎない
そのことを思い知らされたのは、北海道日高のヌビナイ川源流だった
岩魚には、足も翼もないのだから、10m、20mクラスの滝は登れない
俗に鳥が運んだという説は、山上の沼や湖沼と違って、過酷な源流には通用しない
▲谷を黄金色に染めるリュウキンカ
▲スミレサイシン ▲キバナイカリソウ
▲峡谷を紅紫に染めるオオサクラソウ
▲内陸部の源流岩魚
雪解けが遅い内陸部の山釣りは、新緑全盛期の5月下旬頃がスタート
生まれたばかりの子連れのメスグマは、危険を避けるため、穴から出るのは
ブナの葉が一斉に開く5月下旬頃・・・ほぼ内陸部の山釣りと重なっている
▲ショウジョウバカマ ▲エンレイソウ
▲トガクシショウマ ▲エゾエンゴサク
▲ゼンマイとシラネアオイ
シラネアオイの花が咲き始めると、ゼンマイ採りのベストシーズン
▲清冽な谷のシンボル・ヤマワサビ
▲山人が喜ぶゼンマイ ▲カタバミの可憐な白花
▲春もみじ、春紅葉
草付けの斜面を攀じ登り、源流谷の絶景を望む
生命踊る美の競演は、まさに「春もみじ」「春紅葉」
▲萌黄色の氾濫
ブナの森は、半年間貯めたエネルギーを一気に発散させるかのように、
驚くほど眩しい輝きを放つ・・・この頃が山釣りのベストシーズン
▲山の畑でウドを採る
天然の野菜畑に出くわすと、まず一服・・・
極上品を見定め、間引くようにナイフで根元を切り採る
その瑞々しさに、思わず生でかぶりつく・・・美味いことこの上ない
▲春を喜ぶ山の野菜たち
崩落した急斜面下の台地は、ウドの楽園
このすぐ奥には、湧水が湧き出る場所があり、極上のワサビ畑が広がっている
▲春、キノコも芽吹く・・・ヒラタケ
キノコは、秋とは限らない
春キノコは、エノキタケ(ユキノシタ)、シイタケ、ヒラタケ、ウスヒラタケ、ナラタケなど
岩魚が遊ぶ渓では、春から初夏にかけて、最も多様な恵みを与えてくれる
春の谷は、新たな発見と学びの宝庫・・・
▲美しき水と山の野菜
旅人にとって、最大の関心事は、地域固有の「食文化」を味わうこと
山釣りの旅は、四季折々、山の恵みを最大限活かした素朴な「食」を味わうことに尽きる
「食」をベースに考えると、花咲く春山こそ、
「桃源郷の世界」を満喫できるベストシーズンと言える
たとえ束の間のひと時でも、自然に生かされている感覚を取り戻すには
非日常の世界を彷徨うしかない・・・そこには、中国産ギョーザ事件とは無縁の世界がある
▲豊穣の谷の恵み・・・
山では、岩魚が最大のご馳走・・・できるだけ美味しく調理しなければならない
釣りたての山魚は、塩をふり、手製の竹串に刺して、焚き火の周りに並べる
そして、できるだけ遠火にして、一晩じっくり燻すと最高の味となる
焚き火による煙の魔術は、時間を費やすほど、芳香な香りと独特の味覚を醸し出す
▲白い神が宿る源流の滝・「日暮しの滝・白滝」
源流に懸かる日暮しの滝は、流れる水量によって表情が一変する
残雪と新緑が眩しい季節は、白滝の流れが雪代水を集めて最も美しい姿をみせてくれる

対岸の泥壁を攀じ登り、ジャージャー、と音を立てて流れる壮大な瀑布と向き合う
白滝のマイナスイオンを全身に浴びているせいだろうか
何時間眺めていても飽きないほど、心は満たされる
▲新緑の沢旅、山旅、山釣り・・・
長いオフシーズンは・・・クマのように、日常の穴にこもりながら、
過ぎ去った春山の想い出に浸り、ひたすら萌黄色の春を待ちわびる

春は、生きとし生けるもの全てが一斉に笑い踊る季節・・・
新緑の山釣りほど楽しいものはない

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