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2007年5月中旬・・・ヤマワサビ、渓畦林と岩魚、達人考、パーマークが残る岩魚、黄金岩魚・・・
残雪と新緑が美しい源流部(標高約750m付近)

流程3.5kmほどの小沢だが、車止めから源流までの標高差は600mにも及ぶ典型的な山岳渓流である
標高差600mを歩いてみたが、まるで石の階段が続く登山のような沢歩きをしているような感じだった
一般に、岩魚の生息に適した河川勾配は1/15より緩い渓であること
限界勾配は、1/10程度だが、この沢は、何と1/6以上と急勾配で、岩魚が生息するには過酷な渓流である
しかし沢筋には、サワグルミやブナなど、岩魚が生息していくために不可欠な広葉樹の渓畦林に覆われている
今回、初めて魚止めを確認したが、標高約900m地点まで生息していた
雪解け水が育むヤマワサビの楽園(標高930m付近)

両岸の傾斜は緩くもきつくもなく、至る所から湧水が湧き出している
猛毒のトリカブトの群落やアイコ、シドケといった山菜はほとんど生えていない
下流から源流部まで延々とワサビ田が続く・・・特殊な渓に楽園を築いたのはヤマワサビと岩魚だった
天然のワサビ田の分布は、私が知る限りダントツトップの渓だ
標高850m付近で釣れた33cmの尺岩魚

いつもなら雪渓に埋もれて釣りにならない源流部・・・
半信半疑で階段のゴーロを釣り上ると、小さな壷に潜んでいた幽谷の美魚
その野生の鼓動と美しさに魅了された
内陸部の谷も雪がほとんどなくなり、萌黄色の新緑に染まり始めていた
サワーボディタイツ(モンベル)にカッパズボンを履き、渓流足袋とスパッツで足首を保護する
勾配のきつい沢なので、最初からピンソールを装着して歩く
急斜面にへばりつくような杣道を、新緑に染まる谷を俯瞰しながら歩く
しばし歩いて、中流部から竿を出す
雪代で増水した階段状の渓は、壷が沸騰したように沸き立ち、釣るポイントは少ない
適度な深さと緩流帯を中心に狙い、荒釣りしながら上流へと釣り上がる
新緑に染まる雪代晩期の岩魚は、果敢に餌を追う
ポイントを絞れば、入れ食い状態で釣れてくる
あいにく空は曇天・・・生きた岩魚を撮影するには、ちょっと光が乏しいのが残念だった
▼ヤマワサビ
葉脈はシワがよった感じで、光沢のある丸いハート形の葉が最大の特徴で
数ある山菜の中でも、その個性ある緑葉が美しい
長く伸びた茎の先端に白い十字型の白花をつける
この花が咲く頃が、深山の岩魚とワサビの旬を告げるシグナルだ
歩く岩魚を撮る
釣り上げた岩魚を岸辺に寄せると、逃げようとして激しく暴れる
おとなしくなった岩魚が岸辺に横たわったところでまず一枚
すると、ムクッと起き上がり、体を左右に激しく動かしながら歩き始めた
こうした動きのある岩魚を撮るのもオモシロイ
「渓流魚の増殖と渓畦林の機能に関する研究」(2007年3月 秋田県水産振興センター佐藤正人研究員)
によると、調査河川は、禁漁河川の真瀬川支流で、広葉樹が生えているA沢とスギが植林されているB沢で行っている

「イワナは、外敵からの逃避場所として、河川中に分布する石のほか、渓畦からの倒流木、
河床が洗掘し川岸の樹木の根がむき出しとなった場所の陰などを利用していると考えられる」
左:豊かな渓畦林に覆われた渓流 右:急勾配の渓流は風倒木がやたら多い

「樹冠により河川上部が覆われる夏には、渓畦林から供給される陸生の餌資源を主体に利用し、
落ち葉のため、陸生の餌資源が少なくなる秋または冬には、再び水生の餌資源の利用へと変化・・・
餌料生物として確認された多くの生物が渓畦林の葉や落ち葉などを餌料として利用していることから、
イワナの餌料確保のためにも、渓畦林が重要であると考えられる」
この研究結果は、常に岩魚から学んでいる釣り人の感とほぼ同じである
▼エゾエンゴサク・・・青紫色から紫紅色のラッパ状の花が特徴で、この沢には大きな群落が数箇所あった。全草が食用になるとのことだが、食べたことはなく、いつも写真に撮るだけに終わっている。 ▼白い花が満開のヤマワサビ・・・清流を瑞々しいハート形の若葉と無数の白花で飾る大株は、一際美しい。
顔とヒレは、やや浅黒いが、ほぼサビはとれているようだ
頭から背中にある斑点には、虫食い状の紋様は見られない
白い斑点が目立ち、橙色の着色斑点は薄い
岩魚は、大きくなるにつれて斑点が小さく、不鮮明になる傾向がある
岩魚を追いながら歩く岸辺には、白い花を咲かせたヤマワサビが延々と続く
ふと足元を見ると、茎が一際大きい株もある
そんな時は、根を手で探って太いかどうかを確認し、数本根から間引くように採取する
根絶やししないように、根元からの採取は数本に留めることを忘れずに
中流部の渓畦林も萌黄色に輝いてきた
階段状の落差が続く渓流は、雪崩や風によって倒れた倒木や巨岩がやたら多い
それだけ岩魚が隠れる場所も多いことを意味している
パーマークが残る岩魚
全身真っ黒にサビついているのも大きな特徴だが、何とパーマークがはっきり残っている
一般的に、岩魚は大きくなるにつれてパーマークが消えるはず・・・
それに異を唱えるような個体には驚かざるを得ない
大きな株に成長したワサビは、人が手を加えた盆栽のように美しい
このぐらいの大株になると、根は4〜5株が一緒になって生えている
天然物は、栽培のワサビと違って根が細いから
もっぱら根の上部からナイフで刈り取り、茎から上の全草を食用にする
根と同様、全草がワサビ特有の辛さを味わうことができ、「葉ワサビ」などと呼ばれている
岩魚を釣り上げては、岸辺に寄せて、のんびり煙草に火をつける
おとなしくなった頃を見計らって、のんびり岩魚を撮る
次第に岩魚と会話し戯れているような夢心地になる・・・

天然の岩魚を写真に記録し続けることは、各沢ごとに異なる遺伝子の多様性と経年変化を記録することでもある
岩魚の魚影が少なくなったと呟くのは簡単だが、それを歴史的、文化的に証明する写真は貴重だと思う
幽谷の岩魚は、謎と神秘に満ちた生態をもつだけに、被写体としても魅力的な生き物である
日陰の小沢が流れ込む場所は、ワサビの楽園
ここで遅い朝食・・・夕食用の岩魚は、種モミ用の網に入れたままデポしておく
岩魚が生息する渓流は、写真のようにブナなどの渓畦林にすっぽり覆われている。
6月頃になれば、ブナの葉を食べるブナ虫が大量に発生する。
風が吹くと、パラパラと水面に落ちる。
イワナは、川虫だけでなく、そのブナ虫などの落下昆虫を口からあふれんばかりに食べる。

7、8月になると、里から赤トンボが大量にやってくる。それも食べる。
秋になると、落ち葉が大量に降り注ぐ。
その落ち葉を食べて川虫が育つ。その川虫を岩魚が食べる。
岩魚を中心とした命の循環は、豊かな渓畦林なくしてありえない
つまり、岩魚の生息密度は、沢のキャパシティとブナなどの広葉樹の森の深さに比例する
天然の岩魚を釣るには、釣りの道具や技術ではなく、沢の選定が全てと言っていいだろう
そして入渓したら、ひたすら「足で釣る」ことに徹すること
ただし、岩魚の生態は謎が多く、相手の変化に合わせて順応的に対応することが要求される
ならば、岩魚に合わせて順応的に釣るには、どうすればよいか・・・
一般的なマニュアルはほとんど通用しない・・・現場で岩魚から謙虚に学ぶことが基本である
達人と呼ばれる人たちは、マニュアルにはない経験知と技術知を持っているからこそ
どんな悪条件になろうとも、必要な時に岩魚を釣ることができる
それは自然と岩魚から謙虚に学び、無意識に体で反応することができるからこそできる技とも言える
カタクリの花は、海岸部の渓で1ヶ月から半月も前に見て以来のこと
時計の針が逆回転したような錯覚を感じながらシャッターを押す
数本しか咲いていなかったが、姿、形が特に美しいカタクリだった
標高が700mを超えると、やっと解けずに残っていた雪渓に出会う
大量に降り積もった落ち葉と雪渓、苔生す倒木と岩、急斜面の新緑が、絶妙のコントラストを見せ美しい
陽射しが峡谷に射し込むと、紫色のイチゲが一斉に光に向かって踊りだした
今度はバッケの群れが・・・
源流部は、いまだ早春を告げたばかりであることが分かる
顔には、うっすらとサビが残っているが、全身が白っぽい秋田美人的な岩魚
斑点は鮮明で大きく、着色斑点も極めて薄い
全身に散りばめられた斑点は、全て白色であるかのように白いニッコウイワナ系だ
この渓のキクザキイチゲは、ほとんどが濃い紫色
階段状に流れる渓を列をなして彩り美しい
スマートな岩魚
尾ビレが大きい割りに、その付け根が極めて細く、見事なプロポーションをしている
腹部から尻尾にかけて鮮やかな柿色に染まり、尻ビレの縁には朱線がある
腹部下の若葉はミヤマカタバミ、左下の丸い若葉はワサビ、右上はアザミの若葉
釣れる岩魚は、源流に近付くにつれ魚体はワンランク大きくなってきた
黄金色に染まった黄金岩魚は美しいだけに、浅瀬に泳がせ全身を撮る
黄色を帯びた魚体に負けないくらい側線下の橙色の斑点も鮮やかなニッコウイワナ
尺近い岩魚・・・見事なファイトを魅せてくれた
釣り上げた直後は、手に負えないほど暴れたが、おとなしくなった瞬間を狙って撮る
生きたまま撮影していると、撮っているうちに逃げられることもしばしば
がっちり針掛かりしているにもかかわらず、岩魚はどうやって針を外すのだろうか
気がつけば、流れに消えた岩魚は5尾ほどに達した
でも、そのリスクを笑い飛ばす余裕がないと生きた岩魚は撮れない
鋭い歯をもつ口を大きく開け、魚眼を回転させながら釣り人を警戒する目
斑点は全て白のアメマス系イワナ
腹部は鮮やかな柿色に染まっているのが特に印象的な個体だ
顔が真っ黒にサビついた岩魚
側線より下に着色斑点をもつ典型的なニッコウイワナ
岩穴に潜んでいた真っ黒の岩魚
それを表現するために、白い雪の上に置いて撮影してみた
まさに早春の岩魚を代表するような個体だ
魚止めも近くなると、サイズも次第に大きくなった
尺岩魚の予感はしていたものの、一回り大きい33cmの岩魚が釣れた
やや黒くサビついているものの、全身黄色っぽく幽谷の美魚にふさわしい魚体に魅了された
車止めから標高差およそ600mを登ってきた苦労が報われるような感激を味わう
標高900m付近・・・落差が激しくなると同時に魚信も遠くなっていった
明確な魚止めの滝はなく、いつしか急なゴーロの中に岩魚は消えていた
気がつけば、岩魚に誘惑されて、今まで訪れたこともない源頭付近まで足を踏み入れてしまった
竿をたたみ、静寂に満ちた源流探索へ・・・
急なゴーロを登り切ると、渓は再び開け穏やかとなる
いつもなら沢一面が雪渓に埋もれているはずだが、まだら状にしか残っていなかった
それでも雪を見ると、なぜかほっとする
標高950m二股・・・初めて見るワサビ沢源流の風景
ピークの頂まで標高差100mもない地点まで歩いた満足感に浸る
左岸から流れ込む小沢には、コバイケイソウ(毒草)の若葉が列をなして生えていた
若葉は、鮮やかな緑が逆光に輝くと、いかにも美味しそうに見える
特にウルイ(オオバキボウシ)と間違える中毒例も少なくないので注意!
雪解け間もない小沢周辺には、バッケとともに芽を出したワサビが一面に生えていた
他の草花より冷涼な気象を好むワサビは、岩魚が消えた標高900mを超える源流にも勢力を伸ばし続けている
幽谷の岩魚ならぬ幽谷の山菜・ワサビに、なぜか心惹かれる
雪解け水は、身を切るほどに冷たい
その冷たさが極上のワサビを育む・・・本場のワサビを楽しむなら雪国の源流に勝るものはない
まだ旬には早いが、茎の太いものを選び間引くように採取する
山菜は、どんな種でも若葉は柔らかく味が凝縮されている
▼幽谷の美魚と幽谷ワサビの白花
5月下旬は、新緑前線とともに、さらに深い沢で本格的な山釣りへ
目に眩しい新緑と旬の岩魚、溢れるほどの山菜が待っていることだろう

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