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▼李白「山中問答」

俗人が私に問う
「どんなお考えで、こんな寂しい緑の山にこもっておられるのか」
私は微笑むだけで答えないが、心は私なりに長閑である
桃の花びらが川の流れに乗って、遥かに流れ去ってゆく
ここは俗世と違う、素晴らしい世界が別に開かれているのだ
李白は俗世を離れ、山中で暮らす仙人のような生活に憧れ
その美しい自然、桃源郷のような世界をこの世の別天地と詩う
どこか山釣りの世界と通じるものを感じる

雪国に春を告げる草花22選(3〜5月頃)
雪国人にとって、春を告げる草花ほど輝いて見えるものはない
その草花の種類は、やたら多く、凡人にはとても覚えきれない
しかし、見る者にとって心躍る草花、思わず撮りたくなる草花・・・
という条件をつけると、さして多くないことに気づく
これは、山菜やキノコとて同じだ
▼バッケ(ふきのとう)・・・雪国・秋田県の花でもある。昔は食べる習慣がなかったが、最近の山菜ブームで直売所に行けば、どこでも手に入るようになった。 ▼フクジュソウ・・・早春、木々が芽吹く前に春の陽光を一杯浴びて咲く。秋田の山村では、写真のように田んぼの畦にも群生する。黄色の鮮やかさは、他の追随を許さない。
▼イワウチワ・・・深山のブナ林では、最も早く咲く早春植物。葉の形がウチワに似ている。この花が終わると、本格的な山菜シーズンとなる。 ▼キクザキイチゲ・・・花の色は白から紫色で、しばしば大群落をつくり、その景観は見事だ。その名のとおり、花が菊に似ている。
▼カタクリ・・・日本人の自然観を代表する早春植物。秋田県西木村八津・鎌足のカタクリ群生の郷は圧巻。見頃は4月中旬〜下旬頃。 ▼エンレイソウ・・・大きな葉が三枚あり、真ん中から1本の花柄を出し、先端に一つの花をつける。春の陽射しを一杯に浴びて、まるでダンスを踊っているようなユニークな姿が微笑ましい。
▼オオバナノエンレイソウ・・・葉も大きいが、先端の白花も大きく、遠くからでも目立つ。和名は、大きな花の延齢草の意。 ▼ザゼンソウ・・・ミズバショウと同じ仲間で、自生地も花の時期も同じだが、数は少ない。傷をつけると臭い匂いを出し、アメリカではスカンクキャベツと呼ばれている。
▼ミズバショウ・・・尾瀬のミズバショウが有名だが、雪国では珍しくもなく、沢沿いや湿地に普通に見られる。雪解けとともに花が咲き、緑に映える白が際立ち清楚な印象を与える。 秋田では、田沢湖町刺巻湿原が有名。 ▼ヒトリシズカ・・・白いブラシのような花穂を大切に包み込むように咲く。光沢のある二対の葉が十字に対生する。和名は、この花穂を静御前(シズカゴゼン)の舞い姿に見立てたもので、別名ヨシノシズカとも呼ばれている。
▼エゾエンゴサク・・・ブナ林ではイチゲやカタクリの群生地に混生している。ケシ科類の植物は一般に有毒であるが、北海道では山菜とされているというから驚きだ。 ▼リュウキンカ・・・山野草の中でも一際でかく、遡行中、最も目立つ花だ。大きく広げた丸い葉と鮮やかな黄色の花々にいつも目を奪われる。沢筋の湿地を好み、ミズバショウと混生している場合も多い。
▼ムラサキヤシオツツジ・・・新緑の頃、沢を歩いていると、斜面を彩るブナの新緑に混じって、一際鮮やかな紅色が目に止まる。色彩といい、形といい雪国の春山を艶やかに彩る印象深い花。 ▼ニリンソウ・・・沢沿いに巨大な群れをなして咲く。所々にトリカブトが混生しているので、食用として採取するのは控えた方がよい。もっと美味しい山菜は、他にもたくさんある。
▼シラネアオイ・・・ゼンマイ採りのシーズンによく見掛ける大型の花。1科1属1種の日本特産種。雪国のブナ林では、それほど珍しくもなく、ごく普通に見られる。それだけに親しみを覚える花だ。 ▼トガクシショウマ・・・春の山旅で出会う山野草の中では、最も美しく大好きな花。まるで盆栽のように大きな株となって咲くトガクシショウマの大群落は圧巻。
▼オオサクラソウ・・・峡谷の適度な湿度を保つ沢筋の斜面に生えている。生育場所は、三脚がなければブレてしまうほど暗い。秋田県のレッドデータブックでは絶滅危惧種1A類にランクされている希少種。 ▼ヤマワサビの花・・・山野草としても格好の被写体になる。長い茎の先端に白い小花を多数、総状花序につける。春の清流を象徴する山菜・山野草の代表格。山釣りでは、岩魚の刺身の薬味に欠かせない。
▼キバナイカリソウ・・・日本海側の雪国に多い淡黄色の草花。舟の錨にそっくりな形ですぐにイカリソウの仲間だと分かる。若葉はさっと茹でて、辛し和え、胡麻和え、油炒めに。全草を刻んで乾かし、お茶代わりや薬酒にもなる。 ▼ミヤマカタバミ・・・葉は3枚、小さな白い花を1個付ける。茎や葉にシュウ酸を含んでいるため酸味がある。夜になると葉が閉じ、睡眠運動をする。
▼オオバキスミレ・・・多雪地帯の日本海側に自生する黄色のスミレ。沢沿いの湿った斜面に大きな群落をつくる。葉や花はおひたしや天ぷらにして食べる食用種。 ▼スミレサイシン・・・雪国を代表するスミレの一つ。時に良く手入れされた明るい杉林にも群生する。淡い紫色の花とハート形の大きな葉が特徴。花や葉はおひたしや天ぷらに。根はすりおろすとトロロ状になり、春の土の香りがするという。

▼左:山里の春、バッケ(旧峰浜村手這坂「桃源郷」)
▼右:春を祝う花、フクジュソウ(旧岩崎村入良川)

3月末日、久々に山が恋しくなって、早春を告げる草花を追った。
今年の冬は、地球温暖化の恐怖が現実に・・・との不安を抱かせるような異常気象だった。
冬眠できないクマや春と間違えて穴から飛び出すクマも出現
その度に、岩魚たちは大丈夫だろうか、山菜やキノコは不作になるのではないか、と思ってしまう。
しかし、野生はそんなにヤワな生き物ではない・・・
芽吹く前の広葉樹の林床には、何事もなかったかのように
艶やかな黄色のフクジュソウが列をなして咲いていた。
▼鮮やかな黄色に誘われて、次から次へと虫たちがやってくる
フクジュソウに集まる虫は、ハエやハナアブの仲間が多い
体長わずか3mmほどのハモグリバエは、フクジュソウの葉に
穴をあけて潜り、トンネルを掘りながら内部を食べて成長するという。
▼フクジュソウ(福寿草、キンポウゲ科)
雪解け直後の森は、灰色一色で寒々しい
そんな林床を、まばゆいばかりの黄色に彩るフクジュソウの花は、一際目立つ

春・・・残雪をかき分けるように開花するフクジュソウ
北東北の日本海側では、3月中旬〜下旬頃に咲く
日本のフクジュソウは、キタミフクジュソウ、フクジュソウ、ミチノクフクジュソウ、シコクフクジュソウの4種もあるとか
▼落葉とフクジュソウ
旧岩崎村の森を歩き、フクジュソウを撮影していて気づいたことは、
決まって分厚い落葉をかき分けて顔を出し、開花している点だ。
広葉樹の森と分厚い腐葉土が、美しいフクジュソウの群落を育んでいるのだろうか。
▼仲良く並んで踊るフクジュソウ
夏には猛烈な薮と化す緩斜面だが、春一番に咲くフクジュソウは
誰にも邪魔されず、春を独り占めできる。
他の植物と競争することを避け、雪解けトップに咲くことによって生き延びてきた。
ここにも「弱肉強食」ではなく、見事な「棲み分け」で多様性を維持してきたことが分かる。
▼落葉をかき分けて芽を出したバッケ
残雪を待ち切れずに咲くフクジュソウと並び、春一番に咲く
フクジュソウと違う点は、日本全国の平地から山地までやたらテリトリーが広い点だ。
道端や川の土手、野原、田畑の畦から深山の沢沿いまで、どこにでも生える春植物の代表。
フクジュソウのような派手さはないが、春を一番実感させてくれる。
しかも食べられる草花だけに、一石二鳥の恵みを与えてくれるのも嬉しい。
フキノトウは、開き切らないツボミのものを採取し、フキ味噌や和え物、油炒め、天ぷら、汁の実などに。
雪が解け、春の光りを浴びると一斉に土から顔を出す
まさに雪国の春を象徴する草花のチャンピオン。
▼シロキツネノサカヅキ(ベニチャワンタケ科)
鮮やかなピンク色で、形が盃のような格好をした可愛いキノコだ。
シロキツネノサカヅキが開く前は、丸いボールのような形をしている。
これが開くと、盃のような形になるのだから、自然の造形美は素晴らしい。
▼落葉から顔を出したカタクリ
カタクリは、日本人の自然観に深く根をおろした早春植物の代表
最も標高の高い生息地は、富山県の仙人山(標高2,000m)
次いで秋田県の和賀山塊(標高1,300m)だという。
▼まだツボミ状態のカタクリ
こうしたツボミの頃の若い茎と葉が美味しい。
雪国の春は遅い。
鮮やかな紅紫のカタクリの花で、遅い春の幕明けを告げる。
▼キクザキイチゲもまだツボミ状態
もう数日すれば、フクジュソウが終わりを告げ、カタクリとイチゲが一斉に咲き始めるだろう。
やっと、咲いたイチゲを一輪見つけた。
林床を白く染め上げる群落になると、待ちに待った山菜シーズンの到来だ。
▼スズランの若芽
山菜の中では、最も早いギョウジャニンニクと間違えやすいので注意。
▼参考文献
「NHK古典講読 李白」(宇野直人)
「早春の花、いろとりどり」(北隆館)
「四季の山野草」(畠山陽一、烈子著、パッチワーク通信社)
「植物生活史図鑑T、U」(河野昭一監修、北海道大学図書刊行会)

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