黄葉ときのこ2007-1 黄葉ときのこ2007-2 山釣り紀行TOP

艶やかな黄色から茶褐色へと見事なグラーデーションで彩るブナの森
数百年も生きたであろう老木、天命をまっとうして横たわる倒木、
落葉に埋もれた枯木に折り重なるように生えたキノコの群れ・・・
そのキノコの傘の上やペアの岩魚が泳ぐ清冽な流れに、黄金色の落葉がユラリ、ユラリと回転しながら舞い落ちていく

2007年10月下旬、5名のパーティは、森吉山系のX沢からY沢の源流へと分け入った
うず高く降り積もった落葉を踏み締め、谷を彷徨い、燃え盛る黄葉とキノコの群れに息をのむ
新緑の春、深緑の夏、黄葉・紅葉の秋・・・燃え尽きる直前の美の極致は、いつ見ても美わしい
目的のキノコは、ナメコとムキタケだったが・・・「凶作」と思われたサワモダシの大群生に「大当たり」
季節はずれのサワモダシに驚き、さらに写真に納まらないほどの巨大なキノコの群落に驚嘆

この珍現象は、地球温暖化の恐怖がブナの森の源流にも押し寄せているのだろうか
水環境学会東北支部セミナー、須藤隆一先生の基調講演「地球温暖化と水環境への影響」では、
地球温暖化の影響は、東北の原風景・ブナの森を消滅させるだろう・・・
そして冷水性の生き物・岩魚が真っ先に影響を受ける・・・
今年は、その証を何度も体感しただけに、ただただ頷くしかなかった
標高750m車止めから、全山燃えるような晩秋のX沢を遡行し、
825mのコルから一気にY沢源流へと下る
尾根付近のブナは、黄葉の最盛期が終わり、黄色から赤茶けた色に変わっていた
高度によって変化するブナの森の黄葉は、変化に富み、殊の外美わしい
沢を下る途中、草むらの向こうから、「お〜い、休まにゃがぁ」と叫ぶ声が聞こえた
「先に歩いで行ったのは、トボリでにゃが?」
「トボリ・・・誰のことですか?」

「・・・もしかして戸堀操さんのこどだが」
「んだ・・・おらぁだぢは、鉄砲撃ちだぁ・・・これがら森林軌道跡のトンネルを見に行ぐどごろだ」
「あっそうですか・・・戸堀さんとは毎年一緒にマタギサミットに行ってるよ」

それにしても、見ず知らずの我々に向かって
「トボリ」を知らんのか・・・と言わんばかりに話しかけてくる山人には驚かされた
聞けば、ダムに沈んだ玉川部落出身の山人だった

「昭和初めまでは、玉川(17戸)に行くには・・・
険しい山道を越えて20キロ、さらに西木村からも、サルも通わないような
尻高峠を踏破して15キロ、やっとたどり着く。全く俗世を離れた別世界の部落・・・
玉川部落のごちそうは、玉川上支流でとれたイワナを主としたものだった」(「秋田たべもの民俗誌」太田雄治著)
俗にイワナを「盆魚」と呼んだ秘境の村・・・しかも戸堀マタギの仲間とくれば、やけに親近感が湧いた
わずかに顔を出したムキタケ・・・早速ナイフを取り出し切り取る

「昼から雨が降るとの予報だが・・・」
山人は空を見上げ、即座に答えた・・・「2時頃まではもつだろう」
その勘は、ピタリと当たった・・・さすが山のプロは違うと納得させられた
オツネンタケモドキの群生は、遠くから見ると食用キノコに見える
肉は皮質で、食用には不向きだが、被写体としては絵になるキノコだ
ブナの黄葉をバックに、下から見上げるように切り撮る
錦秋に染まった谷・・・落葉が舞う沢を、キノコ目で下る
キノコは笹薮や湿った日陰にはほとんど生えない
明るく風通しの良い斜面の倒木を探すのがコツ・・・だから至って簡単かつ楽しい
小沢を下り本流に達すると、黄葉(標高640m)はクライマックス
二又下流の右岸は、平坦で焚き木用の風倒木も売るほどあった
昼から雨が降るとの予報・・・テントを設営後、雨対策としてブルーシートを張る
そして三日分の焚き木を集める
黄葉の谷を借景にのんびり昼食をとった後、源流に向かってキノコを探しながら歩く
ムキタケ(左)は生えているものの、ポツリポツリといった感じ・・・まだ早いのだろうか
季節はずれのサワモダシ(右)が、意外に目立つ
ブナに生えるキノコの代表がナメコ・・・しかも黄葉シーズンに生えるから楽しさは倍増する
中でも、ブナの立木に折り重なるように生えたナメコは美しい
この時点では、ナメコの最盛期を予感させたのだが・・・ナイフで根元を丁寧に切り取る
旬のサワモダシ(ナラタケ)
下から見ると、柄にツバのあるのが分かる
秋田では、一般に9月中旬から10月上旬まで
サワモダシやツキヨタケが姿を消すと、ムキタケやナメコが最盛期を迎える
ところが今年は、10月下旬になってやっとサワモダシが顔を出し始めた・・・これは明らかに珍現象
傘の中央部が淡く、暗褐色の細かい鱗片と外側に放射線状の条線がある
柄にヒダがあり、黄褐色から濃い褐色を帯びる
痛み易く崩れ易いキノコだが、味は一級品
歯切れ、舌触りが良く、汁物に入れるとヌメリを生じ、良い出汁が出る
黄葉に染まった谷の倒木を真っ白に彩るキノコがブナハリタケ
目立つキノコだけに最も発見し易い
独特の強い香りがあり、好き嫌いが分かれるキノコでもある
一ヶ所見つけると、大量に採取できる・・・ゴミが付着しないようにナイフで切り取り、水分を絞って採るのがコツ
ブナの倒木の右、左、そして下にも折り重なるように生えていたブナハリタケ
全員、ナイフで切り取り、両手で水分を絞ってから袋に入れる
ベーコンや肉と合わせた油炒め、煮込みによく使われる
丈夫なキノコだけに、山村では大量に塩蔵する・・・翌年の春、タケノコとブナハリタケの煮付け料理などに使う
サワモダシの群生・・・一部腐りかけているが、旬のものを選んで採取する
10月下旬にしては、どうもおかしい・・・その予感は、この後すぐに決定的瞬間に遭遇する
森の「もののけ」に化かされた私は、ブナハリタケの群れにナイフを忘れ
柴ちゃんは、このサワモダシの倒木にナイフを置き忘れてしまった
それほどブナの森とキノコの美は、人間を狂わす魔力に溢れている
ほどなく、対岸で絶叫する声が聞こえた・・・急ぎ薮をかき分け、沢に飛び出すと
何と、斜面をを埋め尽くすように生えたサワモダシの大、大群落ではないか・・・
カメラを構えるも、一枚の写真には納まらない・・・巨大なキノコの群れに息をのみ、誰彼となく絶叫!
「何だこりゃ、すげぇ〜!」

草木を取り除くと、この下にも、倒木の裏にも、地面の埋もれ木にも、斜面の上にも・・・
しかも腐ったものはほとんどみられず、旬のものばかり
この感動をどのように撮影するか・・・なかなか構図が定まらない

我に返ると、頭から大粒の雨が降り注ぐ・・・カメラを出すのも大変なくらいの雨が降り出してきた
時計を見れば、午後2時を過ぎたところ・・・これは凄い・・・山人の予言はピタリと当たっていた
とりあえず、中段まで駆け上り、上から下に向かって撮影してみる
雨と草木が邪魔をして、キノコの群れがはっきりしないのが残念・・・
天気が良ければ、丁寧に草木を刈り払い、その全貌を撮影できたのに・・・
このキノコは、最も崩れ易いので、細心の注意が必要だ
柄の根元についた石突き、傘についた落葉や枯草をその場で取り除くこと
この作業を省略すると、後処理に泣かされる・・・しかもキノコを洗う時にボロボロに崩れてしまう
なるべく姿・形を保つためには、水洗いせず、とにかくそのまま茹でる
一度茹でると、滑らかなキノコに変身、崩れることもない・・・その後、ゴミと選別するのがコツらしい
落葉の下の埋もれ木から発生したサワモダシ
秋雨が降ると、一斉に発生する・・・生長が早く、あっという間に成菌、老菌になってしまう
それだけに旬の大群落に遭遇するチャンスは、意外に少ない
サワモダシは、一ヶ所見つけると収穫量の多いキノコの代表
仲良く束に生える様は美しい
落葉の埋もれ木から発生したサワモダシ
傘周辺が白っぽくなっているのは胞子(成菌〜老菌)
マイタケで言えば「スワリ」と呼ばれる状態・・・森に座りながら子孫繁栄のために、
より多くの胞子を飛ばしている大株のような状態を言う・・・中には腐っているものもあるので選別が必要
束というより盆栽のように大株となって生えていたサワモダシ
これまた見事・・・まるでマイタケを株ごと採取するように採り撮影
株ごと採取したサワモダシを表と裏にして撮る
柄にヒダがあるのがナラタケ・・・このヒダがないのがナラタケモドキ
秋田では、どちらも区別せず、サワモダシと呼んでいる
旬かどうかは、傘裏を見て判別する・・・傘裏が写真のように白いものが旬
老菌あるいは腐りかけると、傘裏は褐色のシミを帯び、柄は黒褐色になる
この巨大なサワモダシの群落を採取するのにどれだけの時間を要したのだろうか・・・
5人が上と下、中間部に陣取り採取したが、何と1時間余りも掛かった
「もう飽きた〜」とか「疲れた〜」の声が飛ぶ
その度に「残すのはもったいない・・・これは仕事だ」とハッパを掛ける

採り終えると、早くも谷は薄暗くなり始めた・・・一ヶ所の採取推定重量は15kg〜20kg
山人は、マイタケに遭遇すると、「当たった」という
こうしたサワモダシの大群落に遭遇しても、「当たった」あるいは「大当たり」と呼ぶ
黄葉に染まった谷に落葉が、スローモーションを見るように舞い踊る
ブルーシートにも、清冽な流れにも大量の落葉が降り積もっていく
渓を駆け抜けるカワガラス、時折、黄葉の樹幹からアカゲラ類の声も木霊する
食べきれないほど採取したキノコたち・・・旬のサワモダシをメインに楽しいアウトドアクッキングがスタート
身を切るほどに冷たい清流で、キノコを綺麗に洗う
キノコ鍋には、現地調達のキノコをメインに、豚肉、油揚げ、ネギを入れる
ブナハリタケは、豚肉と一緒に油炒めに・・・山菜はないので、野菜はキャベツで補う

外は雨だが、ブルーシートの下は快適・・・全員濡れた衣服を着替え、焚き火を中心に車座に座る
黄葉の谷の夜は、すこぶる暗く寒い・・・
だからこそ、暖房や照明、煮炊きにとマルチに活躍してくれる焚き火はありがたい

熱燗で乾杯!
どんな料理でも、黄金色の森と聖なる流れの真っ只中で食べると最高に美味い
まして現地で採取した旬のキノコが加われば・・・説明するまでもない

湯気が立ち上るキノコ鍋、香りが抜群のブナハリ&豚肉&キャベツの油炒め、
マヨネーズをかけたキャベツ、ご飯にかけた納豆、そして日本酒・・・
贅沢な下界から見れば極めて質素な料理だが・・・これぞニッポンの秋・・・
源流酒場は、この世の極楽、極楽!・・・
木陰に姿をみせた山の神の化身・・・カモシカ

傍らの焚き火がクライマックスを迎えると、
子どもに返ったように、たわいもなく、深い、深い眠りに落ちる・・・
夢や桃源郷、ユートピア、おとぎ話、天国・・・それを一途に追い続けるものは、必ずかなう
山の神は、母のように決して見返りを要求せず、うそもつかないのだから・・・(つづく)

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