山釣り紀行TOP


八幡平大深沢・・・天狗湿原、北ノ又湿原(7月中旬撮影)
▼「花があるから沢を登る」
 大深沢支流北ノ又沢源流・・・コバイケイソウの大群落(北ノ又湿原)

暴風雨が吹き荒れる中、沢を登り、どこまでも続く薮こぎへ
突然、視界が開け、予想だにしていなかった秘境の花園に迷い込む
まさに山の神様が造った美の世界を彷徨しているような感覚だった
▼知られざる秘境の湿原・・・天狗湿原
 なだらかな湿原を彩るニッコウキスゲとワタスゲの大群落

大深沢の上流、標高約千m地点は、仮戸沢と北ノ又沢、東ノ又沢
の三つの沢が合流している。通称「三ツ又」と呼ばれている。
天狗湿原は、東ノ又沢と関東沢の中間点、
標高約1100mのなだらかな尾根にある。
春から夏にかけて、何度でも訪れてみたい場所の一つだ。
▼左:薮から突然、天狗湿原に躍り出る
人の歩いた痕跡は皆無・・・まさに秘境の花園だ

▼右:クマが寝転んだ跡
クマは、夏になると沢沿いに集まりエゾニュウやミズ、アイコなどを食べる。
恐らく、夜明けと同時に関東沢か東ノ又沢で草を食べ、天狗湿原で昼寝をしていたのだろう。
そこへ突然、クマ避け鈴のうるさい音が聞こえたものだから薮に隠れたのだろう。

天狗湿原は、餌場である沢も近く、クマにとっても最高の楽園に思う。
この湿原をナワバリにしているクマは、大深沢の主に違いない。
「大深の大クマ、小和瀬のコブクマ」の言葉が脳裏をかすめる。
▼ワタスゲ
湿原を渡る風になびき美しい。
ワタスゲの白とニッコウキスゲの鮮やかな黄色のコントラストが見事だ。
ワタズケの白綿は、花ではなく、花が終わった後に出る果穂。
6月頃に来れば、珍しいワタスゲの花の群れに出会えるだろう。
▼天狗湿原の主役は、なんと言ってもニッコウキスゲの大群落
登山道や道路沿いでも簡単に見られる花だが、無人境に広がるお花畑は次元が違う。
とにかく静かだ。
空気も雰囲気もまるで違う。
花の群れは、湿原を渡る風に揺れ、時折カッコウの鳴く声が静寂を破る。
夢心地に浸りながら、のんびりシャッターを押す。
▼ニッコウキスゲの黄色の絨毯
▼デジタルビデオを右手に持ち、お花畑を彷徨う
山の神が造りだした美の極致に遭遇すれば、
誰しもこの感動を記録に残したい衝動に駆られる。
無意識にカメラのシャッターを押し捲る・・・血が騒ぐとは、このことだろう。
童心に戻って、お花畑をかける
▼標高約1100mに広がる天狗湿原
この下の標高約1040mにも秘境の花園がある。
周囲を取り囲む森は、ほとんどがアオモリトドマツ。
▼湿原の周囲は、ハクサンシャクナゲやウラジロヨウラク、レンゲツツジなどの低木類
核心部は、ニッコウキスゲとワタスゲ。
日当たりの良い草原には、紅紫色のトキソウやサワラン、ハクサンチドリ、白のシロバナサワラン。
小さな沼には、ミツガシワ、モウセンゴケがびっしり生えていた。
▼ハクサンシャクナゲ
花は清楚な白〜淡い紅色で、枝先に10〜20個も咲く。
葉の縁が裏面に巻き込む。
▼ハクサンチドリ ▼トキソウ
▼ミツガシワが生えていた沼 ▼モウセンゴケ
▼イワイチョウ ▼ミヤマキンポウゲ
▼カラマツソウ ▼アオノツガザクラの実
▼レンゲツツジ ▼ガクウラジロヨウラク
▼イワカガミ ▼ヤマブキショウマ
▼サワラン ▼オオバミゾホオヅキ
▼北ノ又沢源流・標高約1350m付近
細流となった源流部の岩は一様に黒く、フキユキノシタの瑞々しい若葉がびっしり生えている。
やがて、神秘的な濃霧の向こうに、北ノ又湿原が姿を現す。
まるで神秘のベールをはぐかのように・・・
▼斜面を白く彩るコバイケイソウの群落。右下の流れは北ノ又沢源流。
北ノ又湿原は、北ノ又沢源流左岸の標高1370m〜1415m付近にある。
意外と登山道から近いが、猛烈な薮こぎをしなければ、この湿原を拝むことができない。
登山靴は×、地図と磁石は必携だ。
▼コバイケイソウは満開だったが、ニッコウキスゲは咲き始めたばかり
お花畑の撮影は、天候が良ければ最高と思いがちだ。
この日の天候は最悪で、雨風ともに強く、登山道を歩く人すらいなかった。
それが逆に幸いし、「秘境の花園」にふさわしい静寂と神秘さを撮ることができた。
被写体としては、これ以上ない絶好のシャッターチャンスだったように思う。
▼湿原には、所々に小さな沼が点在し、それが「神田」のように見える。
その神田の周りを埋め尽くしているのはイワイチョウ。
葉がイチョウの葉に似ているのが大きな特徴。
長く伸びた茎の先端に白い花を数個咲かせ、風に乗って楽しそうに踊っていた。
神田の中に生えているのは、ミヤマホタルイ。
▼左:コバイケイソウ・・・まるでトウモロコシ畑のようにも見える。
一見美味しそうに見える花だが、猛毒なので注意。

▼右:「神田」・・・自然の造形美に言葉を失う。
百姓が見たら、作占いをするに違いない。そして「今年も豊作だ」と叫ぶだろう。
▼神田の畦を埋め尽くすように生えているモウセンゴケに注目。
北ノ又湿原は、高山帯で霧が発生しやすい。
それだけに、湿地周辺は湿り気に富んでいる。
モウセンゴケにとって、最高の条件が揃っているように思う。
▼食虫植物・モウセンゴケのアップ
虫たちは、美しい花に誘惑され、神田にやってくる。
モウセンゴケは、その虫たちを食べているのだろう。
モウセンゴケの先の丸く膨らんだ所に、小さな虫が触れると、粘液を出して虫を捕らえる。
虫を捕らえると、腺毛は曲がり、葉と一緒に虫を包み込み消化吸収するという。
▼棚田の周りを、白と黄色の花たちが取り囲むように咲き競う。
何故か訪問者の遺伝子が落ち着く風景が広がっている。
どこまでもなだらかな草原を、唸り声を発して暴風雨が吹き抜けてゆく。
濃い霧が流れ、列をなして群生するコバイケイソウの群れが左右に大きく揺れた。
桃源郷を漂泊しているような夢心地に浸る。
なだらかな草原に白い帯となって連なるコバイケイソウの大群落は圧巻。
霧が発生すれば、その美しさはさらに増幅される。
「秘境の花園」を撮影するには、霧が欠かせないようにも思う。
▼シナノキンバイ
大型の黄色い花は、良く目立つ。
蛇行して流れる北ノ又沢源流沿いに咲いていた。
天然の岩魚を釣りたければ沢を登るしかない
聖なる水を飲みたければ沢を登るしかない
水の造形美を鑑賞、写真に撮りたければ沢を登るしかない
四季折々の山菜やキノコを採り、山で食べたければ沢を登るしかない
静かな渓流で焚き火を囲んで酒を飲み、瀬音を聞きながら眠りたければ沢を登るしかない

山に生かされている感覚を取り戻したければ沢を登るに限る
人跡稀な秘境の花園を彷徨いたければ沢を登るに限る
とにもかくにも未知の世界を覗いてみたければ、道もない沢を登るに限る・・・
山釣りは、苦労した分だけ無限の発見と感動がある。
▼参考文献
山渓カラー名鑑「日本の高山植物」(山と渓谷社)
「花の百名山 登山ガイド・上」(山と渓谷社)

山釣り紀行TOP

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送