100万アクセス記念特集:晩秋のブナ原生林パート2 |
▼黄葉に染まったブナ林 晩秋の陽射しに、黄色から褐色のグランデーションが眩しいほどの輝きを放つ。 錦秋の美を見上げては感嘆の声を上げ、足元を走る岩魚の姿を眺めては微笑む。 マイナスイオンと黄葉のシャワーを浴びて、谷を彷徨い きのこや木の実の匂いに誘われて斜面を駆け上がる。 倒木を埋め尽くすように生えたキノコの山に遭遇すれば、 誰もがその魅力の虜になるだろう。 |
▼極上のナメコ 「リラックスできるストレスの少ない環境こそ創造力が生まれる・・・ 高度化されて止まぬ知価社会にあって、 最大の敵はストレスと野生の喪失」(「景観からみた日本の心」涌井雅之) 「アンチ成果主義」を掲げ成功した会社がある。岐阜の未来工業とか。 定年70歳、残業禁止、年間休日約140日、年末年始は19連休、ノルマなし それでも給与は岐阜県庁とほぼ同額。発明した新商品1万8千種類、売上高247億円。 社是は「常に考える。なぜ、なぜ、なぜ」(参考:朝日新聞2006年11月11日) |
▼ナメコの大、大群落(撮影:高橋金光)・・・2006年11月初旬、黄葉が終わったブナ林にて 今年は、きのこが不作と言われていたが、こんな夢のようなシーンに出くわすこともある。 夢が現実となれば、「なぜ、なぜ、なぜ」を連発し、 感性と創造力がフル回転、誰しもその不思議な造形美を撮りたくなる。 深山のブナ林では、マイタケ、ナラタケ、ブナハリタケに続いて、ナメコ、ムキタケが森のフィナーレを飾る。 |
二日目の朝。 テントを出ると、凛とした空気が実に爽やか、 清流のせせらぎと黄葉が目の前に広がっている。 こんな庭園があったなら・・・実に贅沢なテン場だ。 |
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きのこの期待に胸を膨らませて、いよいよ出発。 すぐに右岸の斜面にナメコの幼菌が見えた。 まだ早いかな、と思いながらも急斜面を駆け上ると・・・ |
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倒木の上は、ナメコの幼菌だったが 薮に隠れて見えなかった下には、ちょうど食べ頃のナメコがびっしり生えていた。 幸先のいいスタートに、心は舞い上がる。 |
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地面に接している倒木の下は、湿気が多くヒラタケやナメコが良く生える。 しかし、こうしたきのこは、遠くからでは見えないので要注意。 |
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折り重なるように生えたナメコの成菌 腐っていないかどうかは、下から傘裏を観察すれば一目瞭然。 淡い黄色なら極上品。 |
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落葉を取り除き、一本一本ナイフで丁寧に切り取る。 きのこは、何度出会っても、その造形美は千差万別・・・ それだけに、いつも新鮮な感動を味わうことができる。 |
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左は黄葉初期、右は褐色に変化した黄葉晩期 沢筋の黄葉は、位置や標高によって劇的な違いがある。 |
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可愛らしいナメコの幼菌 仙北地方では、「かっちゃきナメコ」と呼ぶらしい。 |
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黄葉に染まった右岸の枝沢に入る。 倒木が至る所にあったが、どうも今年のナメコは遅れているのか それとも不作なのだろうか・・・ |
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カエデの落葉とナメコ ポツリ、ポツリと生えたナメコじゃ、なかなか感動しない。 幸先がちょっと良過ぎたようだ。 |
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谷を埋め尽くすブナの倒木を舐めるように探す。 谷に突き刺さるように倒れたブナの巨木を見上げる。 何やらキノコらしきものが目に止まった。 急いで斜面を駆け上がる。 |
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ムキタケが倒木の下に折り重なるように生えていた。 傘裏が透明感のあるホワイト色をしていれば極上品。 倒木の上にも生えるが、特に水分の多い横から下にかけて重なるように生える。 |
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倒木を傷つけないように、ムキタケの根元をナイフで切り取る。 本日のターゲットは、ナメコとムキタケだから 倒木の横に生えているブナハリタケは採取せずに残す。 |
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見上げると、ブナの黄葉は最盛期 光りが射し込めば、燃えるような色に輝くことだろう。 |
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枝沢を下る途中、またまた、ブナの倒木の下にムキタケを発見。 楽しい楽しいキノコ狩りのドラマが続く。 |
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赤、黄、褐色に染まった落葉を踏み締めながら 森を彷徨うきのこ狩りは、実に楽しい。 |
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本流に戻ると、沢を下ってきたきのこ狩りの人に出会う。 私の足元を見て、「菅原さんじゃないですか」と問う。 「どうして分かったんですか」 「ピンソールを履いていたから、すぐに分かった」とのこと。 聞けば、メールで何度かやりとりしていたKさんだった。 Kさんは、和賀山塊・堀内沢や八幡平、森吉山系を実に良く知っている山の達人だ。 それだけに嬉しい出会いだった。 彼は、長靴で山や谷を縦横無尽に歩く。 |
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左:トチノキの黄葉 右:トチノキの落葉 ブナやミズナラなど高木類は、ほとんど黄色から褐色に色付く。 また、葉のでかいトチノキやホオノキも黄色から褐色に染まる。 |
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地面から浮いた状態の倒木は、水分が少なくナメコは生えない。 こうした倒木には、決まってムキタケが生える。 雪崩などで真ん中から折れて地面に接するようになると ナメコやブナハリが生えるようになる。 |
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ムキタケのアップ 大型で傘は美しい弧を描いたようなキノコで、特に傘裏から撮ると美しい。 |
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ハウチワカエデの黄葉アップ 黄葉は、葉先から色付き、鮮やかな黄色から赤に染まる。 ブナ林の下や渓流沿いに多く、多彩な色で森を彩る。 |
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標高が高くなるに従って、黄葉も鮮やかとなる。 沢を上っていると、黄葉は、山を駆け下るというのが良く分かる。 森の下のキノコより、艶やかな黄葉に目を奪われ始める。 首にぶら下げているデジカメを構えては、何度もシャッターを押す。 |
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苔生す倒木のムキタケと清流 清流の水を汲み、お湯を沸かして昼食とする。 燃えるような黄葉のシャワーを浴びて食べる食事は、格段に美味い。 マタギじゃないけれど、森の恵みを「授かる」という敬虔な気持ちにどっぷり浸る。 |
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落葉が降り積もった源流では、 時折、産卵で遡上したペアの岩魚が寄り添っている姿も見えた。 何度かカメラを構えたが、ことごとく逃げられ、その姿を捉えることはできなかった。 黄葉とキノコに夢中になっているようでは、岩魚の姿は撮影できない。 |
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左:青空に映えるブナの黄葉 右:ブナの古木に生えたブナハリタケ | |
ブナの根元に折り重なるように生えた極上のナメコ(撮影:長谷川保夫) なかなか姿が見えなかった長谷川さんが、ニコニコしながら上ってきた。 袋を覗けば、素晴らしいナメコが袋一杯に入っていた。 むっむっ・・・ぜひ一度拝みたかったのだが・・・残念! |
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▼ブナシメジ 傘の表面が灰褐色の大理石模様をあらわすのが特徴。 |
▼ブナハリタケ 今回は、ほとんど採取せず |
▼オツネンタケモドキ 革質で、傘は平で円形に開く。もちろん食用としては×。 |
▼ナラタケ(サワモダシ) 大量に腐っていたが、時折旬のものもあった。雑キノコ鍋の具として活躍。 |
▼上にムキタケ、倒木の横から下にかけてナメコが生えていた。残念ながら大半が腐っていた。 | ▼ヌメリスギタケ 傘は黄褐色、傘や茎にささくれがある。ブナ林では発生頻度が少ない。 |
▼シロナメツムタケ 雑キノコ鍋の具として活躍。 落葉が降り積もった斜面に生えていた。 |
▼キクラゲ 少量につき採取せず。 |
▼貝殻のような形をしたムキタケ ムキタケも姿、形は千差万別。 どう見ても、半円形ではなく、貝殻のような不思議な形をしていた。 |
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今晩も、鶏肉に雑キノコを山ほど入れたキノコ鍋がメイン。 小粒のナメコは、大根おろし和えに。 燃え盛る焚き火を囲み、熱燗を飲みながらアツアツのキノコ鍋に舌鼓を打つ。 森の恵み・キノコ料理は、山で食べてこそ最高の美味さを実感することができる。 山の神様の機嫌もうるわしく、今夜も満天の星が一晩中輝いていた。 |
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翌朝、大量に採取したナメコとムキタケを4人分平等に分配する。 特に多かったのはムキタケ・・・重量も重く、帰路は難渋した。 お世話になったテン場を綺麗に片付け、山の神様に一礼して荷を担ぐ。 |
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黄葉に染まった谷をのんびり歩き、T沢とY沢の分水尾根をめざす 荷は重いが、心はしこたま軽い。 |
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昼食は、昨夜の雑キノコ鍋の残りを暖め、冷や飯にぶっかけて食べる。 美味い!、美味い!言うことナシ 時折、風が吹くと、落葉がクルクル回転しながら舞い落ちる。 やがて全ての葉を落とすと、森は白骨のような姿と化し、長い冬に突入する。 |
▼黄金色に染まったブナ 雪国のフィナーレを飾る黄葉の美を撮るには、太陽の光りが欠かせない。 どんなに素晴らしい黄葉でも、曇天と快晴では、雲泥の差が出る。 一瞬の光りをとらえてシャッターを押す。 |
▼黄色のドレスをまとったブナ 肌着には苔をまとい、黄色のドレスで全身を飾っている。 その美に誘われて、アカゲラが「キョッキョッキョッ」と鳴きながらブナの森を飛び回る。 幹に止まっては盛んにドラミングを繰り返し、中の昆虫を貪っている。 |
▼アカゲラを12倍ズームで撮る 右の幹左真ん中に止まっているのがアカゲラ 葉に隠れて頭部が見えないが、よく響く乾いた音でドラミングする。 くさび形の尾羽は、木の幹に止まる時に体を支える役割をしている。 |
▼秋晴れと黄葉 バックに抜けるような青空があれば言うことなし。 見上げては、その美の極致に感嘆の声が出る。 源流部に林立するブナの肌は異様に白く、森の主役にふさわしい美しさだ。 |
▼落葉と清流 源流部から黄葉が始まると、岩魚たちは産卵に備えて一斉に遡上を開始する。 落葉がうず高く積もった淵尻では、黒くサビついた岩魚がペアで寄り添っている。 あの神経質な岩魚が、恋に夢中になると無警戒になり、浅瀬で堂々と恋のダンスを始める。 しかし、別のオスが割り込み、一匹のメスを巡ってオス同士の激しい争いが繰り返される。 勝敗が決まると、メスは、体をくねらせながら尾ビレで礫を飛ばし産卵床をつくる。 不思議なことに、負けたオスは、受精の瞬間に割り込みちゃっかり放精する。 こうして生と死のドラマは、弱肉強食ではなく、多様性を維持しながら永遠に繰り返される。 |
▼豊穣の森・ブナの恵み(撮影:高橋金光) ブナの森では、「死」が新たな「生」を生むドラマが繰り返される。 倒れてから3年ほど経つと朽ち始めるが、美味しい「木の子」たちが群がって生えてくる。 特に斜面に伏した幹から、籠に入りきれないほどのナメコの群生は、圧巻というほかない。 菌類は、長い年月をかけて倒木を分解、全て土に戻し養分を補給し続ける。 |
▼森の恵みを採る楽しさ(撮影:高橋金光) 森を支配していた巨木が倒れ、ポッカリ穴の開いた天空から光が林床に降り注ぐ。 親の枯れるのを舞っていた稚樹は、一斉に勢いを増す。 ナメコを育てるブナは、その最後を飾る贈り物・・・ それを大事に一本一本採る楽しみは、何にも代え難い。 |
▼稜線沿いの森は、早くも褐色に変化 ブナは、萌黄色の新緑から深緑、黄金色へと見事な変身を遂げ、 葉が褐色を帯びると木枯らしが吹き、全身丸裸になって冬を迎える。 |
山釣り2006は、自然のサイクルに合わせて「黄葉ときのこ狩り」で締めくくった。 これは、いつもお決まりのパターンだが、飽きることは決してない。 クマと同じく、山の恵みがなくなると、冬眠状態に突入するが、 頭の中は、ひたすら萌黄色の春を待ちわびる。 雪が深ければ深いほど、生命踊る早春の風景は美しく、感動も深い。 |
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