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新緑の谷走り、キバナイカリソウ、マンサク、オオサクラソウ、雪代に磨かれた美魚
ウド、ヤマエンゴサク、ニリンソウ、アイコ、シドケ、ムラサキヤシオツツジ、芽吹きと開花
 2006年5月中旬、新緑の谷と山菜を求めて雪代逆巻く険谷を沢通しに歩く。
 滝が懸かるゴルジュの難所が行く手を阻む。
 その急崖を四つん這いになって登り、沢を上から俯瞰する。
 谷は、萌黄色の新緑と雪崩に埋まった巨大なSBの絶景・・・
 白神の四季の中で最も美わしい光景にやっと出会えた感動に、言葉を失う。
 キバナイカリソウ・・・日本海側の雪国に多い淡黄色の草花。
 車止めのすぐ近くの斜面に巨大な群落を形成していた。
 舟の錨にそっくりな形ですぐにイカリソウの仲間だと分かる。
 若葉はさっと茹でて、辛し和え、胡麻和え、油炒めに。
 全草を刻んで乾かし、お茶代わりや薬酒に・・・
 仙霊脾酒と呼ばれ、強壮・強請効果があるという。
 新緑の季節とはいえ、谷は猛り狂ったように奔流となって流れ、
 雪代はピークに達していた。
 沢の入り口に懸かる小滝の壷は、沸騰した大鍋のごとく煮えたぎっていた。
 両岸とも急崖のゴルジュが続く区間は、とても沢通しには歩けない。
 渓流足袋にピンソールをつけ、雪崩斜面を際どく巻きながら進む。
 谷は早朝でさえ、昨日の雪解け水が残り、水嵩を増している。
 一人では渡渉できないほどの奔落が続く。
 下流部は、萌黄色の新緑に染まっているが、
 源流部はまだまだ分厚い雪渓に埋もれていることだろう。
 残雪の白と淡い新緑に彩られた渓を
 三人でスクラム渡渉を繰り返しながら谷の奥へと分け入る。
 マンサクの花
 渓に張り出した枝節に、黄色の花を毛糸のように数個集まって咲く。
 狭谷は、日当たりの加減で、早春と盛春の落差が極めて激しい。
 それだけに楽しいことこの上ない。
 期待したとおり、暗い急崖の湿った渓に鮮やかな紅紫色の
 オオサクラソウが雪代の飛沫を浴びて咲きはじめていた。
 しかし、両岸埋め尽くすほどの群落には程遠く、
 花の初期といった状態だった。
 絶滅危惧種1A類のオオサクラソウの巨大群落は、
 白神と言えどもここでしか見たことがない。
 暗い谷を美しく彩るオオサクラソウ
 濃紫色のツボミも多く見られた。
 花が開くと4〜8個もの花を二段に輪状につける。
 その名のとおり、早春の渓を大きな桜のように彩り殊の外美わしい。
 雪代で沸き返る奔流を渡渉し、大滝越えに一時間余りを要した。
 釣友・伊藤氏は、淡い萌黄色に染まった渓で竿を出す。
 岩魚釣りの竿は、超硬調が常識。
 しかし彼の竿は軟調の竿らしく、掛かった岩魚に上下左右へと振り回される。
 竿は満月を通り越し、大岩魚かと見紛うほどだった。
 第一投目で岩魚に暴れられた岩魚をやっと引き寄せ満面の笑み・・・
 この仲間の笑顔を見ていると我がことのように心が微笑む。
 萌え出たばかりの淡い新緑の渓をゆく。
 流れは「来るな」と言わんばかりに猛り狂っていた。
 私と小玉氏は、竿を出さず、可憐な山野草を鑑賞し、
 肥沃な斜面に顔を出した山菜を摘みながら歩く。
 雪代で煮えたぎった渓は、ポイントが極端に少ない。
 わずかな淀みを探しながら釣り進む。
 沸騰した釜に潜む岩魚は、岩陰深くにじっと隠れている。
 急流に餌を流しただけでは全く反応を得ることができない。
 重いオモリで底を点で丁寧に探る。
 雪代に磨かれた美魚。
 尾ビレ下に鮮やかな紅色に染まった線が印象的だ。
 荒れ狂う渓では、餌を腹一杯食べていないだけにスマートさが際立つ。
 雪山に耐え忍んだサビもとれ、
 真っ白に輝く岩魚の魚体を接写で切り撮る。
 側線より下の着色斑点は、新緑と同様に淡さが際立つ。
 萎んだ腹部は、半年間飢えに耐えた胃袋を象徴している。
 S字状に曲がりくねった滝の最難所を際どく巻く。
 一人なら退却しかねない急崖のゴルジュ帯の壁も、
 仲間がいれば難なく突破できる。
 注意は、なるべく低く巻くのが鉄則・・・
 渦巻く渓を眼下に見ると目が回りそうになる。
 下ではなく上と足元を確認しながら、三点確保で下ること。
 怖くなれば壁に体をくっつけるような体勢になりやすいが
 それはズリ落ちる危険が最も高いので要注意!
 必ず壁から体を離すようにして、一歩一歩慎重に下るのがコツだ。
 狭谷を埋め尽くす雪渓を頼りに屹立する崩落斜面を登り、ウド畑を探す。
 今年の雪崩は凄まじい。
 崩落の分厚い腐葉土を谷の底に突き落としたようだ。
 メインの極上ウド畑は、すっかり荒れ果てていた。
 頭で考えていたシナリオどおりにはいかない。
 けれども、訪れる度に千変万化するからオモシロイとも言える。
 雪崩で岩場に降り積もった腐葉土の急斜面には、
 モミジの形をした鮮やかな濃緑色のシドケ(モミジガサ)の群落が至る所に見られた。
 茎が太いものを選び、ナイフで間引くように切り取る。
 煮えたぎる釜に膝まで入り、岩魚の魚信を待つ。
 新緑に染まった枝沢を望む。
 その小沢が本流と合流する地点には、
 決まって尺クラスの岩魚が潜んでいる。
 右上はヤマエンゴサク、右下はニリンソウの群落。
 竿を畳み、高台の急斜面に山菜を探す。
 刺々しい左の山菜はアイコ(ミヤマイラクサ)、
 右のモミジ状の葉はシドケ(モミジガサ)・・・
 待ちに待った山菜の盛期に小躍りしながら採取する。
 広葉樹の落葉から顔を出したシドケ
 ガイドブックでは、シドケは一般に沢筋の斜面、
 アイコは沢沿いのやや湿った所に群生すると書かれている。
 しかし、シドケとアイコが混生している斜面も珍しくない。
 山菜の王様・シドケは、こうしたブナの森の急斜面に多く自生する。
 地元の山菜プロでさえ踏み込まない険谷の腐葉土斜面は、茎が太く一級品。
 斜面に座りながら茎の太いものを選び、一本一本ナイフで根元から丁寧に切り取る。
 シドケの大群落を撮る
 クセが強いシドケは好き嫌いが分かれる山菜の代表だが、
 山菜採り&撮影の醍醐味はシドケに勝るものナシ。
 茹でてお浸しが定番。
 美味しく茹でるには、ちょっとしたコツがある。
 まず採取したシドケをサイズごとに分類し、水洗いすると調理しやすい。

 沸騰したお湯にひとつまみの塩を入れ、硬い根元から入れる。
 全草を湯に浸し、再び煮立ち始めたら素早く取り出し、
 冷水にさらすと色鮮やかに仕上がる。
 山菜特有のクセが気になる人は、全草を適当な長さに切り天ぷらに。
 大量に採取したら、醤油漬けや味噌に漬け込むと美味。
 アイコ(ミヤマイラクサ)
 アイコは沢沿いにも自生するが、
 むしろ少し登った水はけのよい湿地斜面が狙い目。
 写真でもお分かりのように、葉の茎に毒液を含む棘毛がある。
 この棘毛に触れるとすこぶる痛い。
 毒液は、ヒスタミンやセロトニンという物質で
 アレルギー反応で蕁麻疹を起こすもととなる。
 俗名はイタイタクサ、イライラクサとも言う。
 茹でてから、水にさらすと毒成分は水にとけ、完全になくなる。
 「本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)」(1803年)
 「葉はマオの葉に似て深緑色、対生し、茎葉ともに毛棘あり、
 人を刺すこと甚だし。しかれども、煮るときは食うべし」
 腐葉土が厚い場所は、意外に根が深い。
 若いアイコは、根元から全草食べられるだけに
 間違っても茎の途中から折らないように注意。
 軍手をはめ、できるだけ根元をつかみ、
 軽く手前に折り返すようにすると、土中の根元からポキッと折れる。
 こうすれば、土より上は緑色だが、土の中に入っている茎と根元は
 色鮮やかな赤茶色で、丸ごと極上品を採取できる。

 茹で方は、シドケと同じだが
 一本、一本根元から皮を剥く必要がある。
 少々面倒だが、緑のツヤと美味しくいただくために必須
 ただし、葉が開き切らない若芽ならそのまま食べても美味い。
 山菜特有のクセがなく、ツヤのある緑が美しくどんな料理にも合う。
 シャキシャキとした歯ざわりで万人に好まれる。
 保存は、塩漬け、味噌漬け、醤油漬け。浅漬けも美味。
 採取した山菜を種類別に分ける。
 左がシドケ、右がアイコ(土中に入っている根茎は濃赤茶色)。
 さらにサイズ別に選別すると、帰宅してから調理しやすい。
 雪崩斜面の窪地には、筋状に残雪が走り、
 凸部の脇尾根には淡い新緑の帯が
 谷底から峰に向かって走り始めている。
 新緑が降り注ぐ谷を童心にかえって歩き、
 豊穣の森の恵みをザック一杯に授かる。
 母なる木・ブナの大木の根元で一休み・・・
 見通しの良い杣道から新緑の絶景を望む。
 萌黄色の新緑は、谷から峰へと山腹を駆け上がり
 谷底では、下流から源流へと雪解けを追うように
 奔流に逆らって凄まじい勢いで逆流してゆく。
 やがて全山、新緑の衣をまとい、モクモクとうねり始める。
 新緑に一際鮮やかな花を咲かせるムラサキヤシオツツジ
 枝先についたツボミが多く、開花は始まったばかりのようだ。
 深雪の白と裸木の森の灰色の世界から解き放たれた木々は
 一斉に芽吹き、刻一刻と新緑の若葉を広げてゆく。
 目に柔らかな生命踊る春山に元気を一杯授かる。
 ブナの森の芽吹きと開花
 谷底から峰まで、溢れる喜びに満ちている。
 一年のうちで最もダイナミックな変化を魅せる春山の風景
 森の斜面では、萌黄色の新緑に負けまいと、草花たちが
 白、紫、黄、紅・・・色とりどりの花を咲かせる。
 その艶やかな色彩と芳香に負けじと、多種多様な山の野菜も
 深い落ち葉を押しのけて一斉に顔を出す。
 私には、撮ってよ、採ってよ、食べてよ・・・と言っているように見える。
 山の恵みは決して粗末にしてはならない。
 水洗いした山菜の王様・シドケは、サイズごとに選別し、10本前後に束ねる。
 しばし保存する場合は、新聞紙に包み冷蔵庫の野菜室へ。
 醤油漬けなど味付けをして長期保存する場合は、茹でてから漬け込むと美味しい。
 お浸し、天ぷら、油炒め、胡麻和え、煮物、酢の物、塩蔵、味噌漬け、醤油漬け・・・
 体で命の循環を実感する季節の到来に、身も心もクライマックスに達する。
 右は会員の中でも釣りキチナンバーワンの小玉氏、
 左は初めての白神に満足した海釣り仲間の伊藤氏。
 母なるブナの大木二本の間に立ち、童心にかえたように微笑む中高年。
 手前には、クロモジの若葉が天の光に向かって開き始めていた。

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