山釣り紀行TOP



アイコ、シドケ、ミズ、ヤマエンゴサク、キクザキイチゲ、アザミ、早春の岩魚、山釣り定食、胃袋の炭火焼
ブナ・ハウチワカエデ・クロモジの若葉、オオカメノキ、コゴミ、キツネノサカヅキ、シラネアオイ、ギョウジャニンニク
 2006年5月連休の後半、5名のメンバーで再度白神の谷へ。源流部は、まだまだ深い雪に埋もれていた。悪いことに、メインの二日目は雨と谷を埋め尽くした残雪から吹き降ろす冷風にさらされ、寒さで震える地獄の苦しみを味わった。帰路、下流部の谷を俯瞰すると、遅いブナの芽吹きが始まっていた。
 そのわずか一週間後の土曜日、白神の谷はブナの新緑に包まれ、劇的な変化を魅せてくれた。萌黄色の新緑とヤマザクラの白が絶妙なコントラストを演出、言葉を失うほどの絶景が広がっていた。生命踊る早春の感動・・・同じ谷にしつこいほど足を運ばないと、その感激のドラマを体感することはできない。
 春の陽射しを浴びて目的のテン場に向かう。身も心もしこたま軽い。
 ブナの林床には、イワウチワの群生が満開に咲き誇っていた。奥には残雪も見える。これじゃ、またしても山菜が期待できそうにない。
 いまだ芽吹きが始まっていないブナの森・・・盛期になれぱ、薮に覆われ、歩くのもままならない斜面も快適に歩くことができる。しかし、楽をした分、山の恵みも少ない。
 沢を下ると、日当たりの良い斜面に、ポツリポツリとシドケとアイコが顔を出し始めていた。斜面をジグザグに進みながら太いものを間引くように採取する。
 前回に比べると、テン場の残雪はかなり解けていた。ノコギリで倒木を切り、三日分の薪をつくる。早春の倒木は水分を多量に含み、生木に近い。見た目には簡単そうに見えるが、最もつらい作業だ。
 採取した山の野菜・・・シドケ、アイコ、ミズ。山菜は、岩魚と同様、山釣り定食になくてはならない貴重な食材だ。下界から肉や野菜を山に持ち込み、アウトドア料理を簡単に楽しむ方法もあるだろうが、それでは山釣りとは言えない。山釣り料理は、言葉で言えば「山人料理」に近い。山の恵みを最大限活かしてこそ、山のありがたさ、山に感謝する一歩だと思う。自然を頭で考えるのではなく、体で考えることが大事だと思う。
 テン場の準備を終え、いよいよ山の唯一のタンパク源・岩魚の調達へ・・・ところが、餌のミミズを車に忘れてきたことに気付く。前回デポしておいたわずかのミミズで釣るしかない。「ミミズ一匹で、岩魚一匹だぞ」・・・厳命された仲間にも緊張が走る。
 渦巻くポイントから粘って釣り上げた岩魚・・・雪代は真っ盛りだが、いまだ全身黒っぽくサビついていた。確実に釣り上げるには、向こうアワセが一番。ただし、針を奥まで呑み込まれ、外すのに一苦労。餌さえあれば、釣り人の勘で合わせられるのだが・・・
 左:土から顔を出したアザミ
 右:ヤマエンゴサク。早春、カタクリと同じ頃に咲く小さな花。稀に大きな群落に出会うことがある。
 左は白のキクザキイチゲ、右は紫色。白神では、白が多く紫色が少ない。ただし紫色のイチゲは、色が特に濃厚で一際美しい。
 身を切るほどの冷たい流れから岩魚が飛び出す。芽吹く前の谷は、陽射しが狭い谷間に降り注ぎ明るい。岩魚が光に輝く渓を舞い、釣り人の心も舞い躍る。
 谷が比較的開けた穏かな瀬では、岩魚のサビもとれ、全身白っぽく美しい。光にキラキラ輝く透明感のある渓水と美魚を撮影するには、早春に限られる。
 側線より下に、淡い橙色の斑点を散りばめたニッコウイワナ。他の水系とは異なり、着色斑点が薄いのが特徴だ。一見するだけでは、アメマス系と間違いやすい個体だ。
 久々の山釣り定食・・・岩魚の刺身、アイコとシドケのおひたし、そして冷水で冷やした缶ビール。下界では味わうことのできない一品だ。
 手作りの三脚に、竹串に刺した塩焼き用の岩魚を並べ、その上には、頭と骨を吊るす。盛大な焚き火を囲むように車座になり、缶ビールで乾杯。サクサクした歯ざわりが素晴らしいアイコ、独特の香りと山菜特有の苦味を持つシドケ、コリコリと身が引き締まった岩魚の刺身・・・酒がいくらあっても足りないほどだ。
 丁寧に胃内容物を取り除いた岩魚の胃袋は、塩をふり炭火焼に。これまた珍味。

 翌日、日本海からの強風が吹き荒れ、雨まで降ってきた。そんな中、源流まで一気に歩き、岩魚調達に向かったが・・・上からは雨、残雪から吹き降ろす冷風は凍て付くほど寒い。体感温度がこれほど寒いとは予想していなかった。手の感覚が全くなくなる。食欲もなく、立ったまま震えながら熱いミニチキンラーメンとコーヒーを飲み、素早く撤退した。
 地獄の苦しみを味わった翌日の最終日は、快晴に恵まれた。帰路、萌え出た山菜を探しながら歩く。目を皿のようにして探すが、なかなかお目当ての山菜が見つからない。
 小沢の水が切れると、深い残雪に覆われた急斜面となる。ただひたすら杣道まで登る。汗が全身から噴出す。連続2回、延べ6日間、山を歩いていると、体が山に馴染んでくるのが分かる。春一番の山はいつも苦しいが、数日間山にこもっていると、その苦しみが不思議と快感に変わる。
 下流に下ると、ブナの森は一斉に芽吹きが始まっていた。
 ハウチワカエデの芽吹き・・・大きな若葉と花が同時に開花する。紫紅色の花を下向きに垂らし、遠くからでも良く目立つ。
 杣道から谷を俯瞰すると、谷間から山頂に向かって薄っすらと淡い新緑が縞状に走っているのが分かる。谷の奥と山頂付近は、まだ残雪と灰色の世界だ。一週間後には、萌黄色に衣替えしていることだろう。
 瑞々しいブナの若葉をズームアップで切り撮る。この淡い新緑が四季の中で最も美しい。
 クロモジの若葉・・・和菓子に木の皮付きの楊枝に使われていることで有名な落葉低木。特にブナ林に多く自生している。枝を折ると、強い芳香を放つ。殺菌力、雪崩にも耐える柔軟性を持つ。冬眠から覚めたクマは、クロモジの若葉やブナの芽、タムシバの白い花などを貪る。
 下流に下がって、日当たりの良い斜面に山菜を探すもほとんどなし。食べ頃なのは、せいぜいコゴミぐらいだった。
 シロキツネノサカヅキ(ベニチャワンタケ科)・・・山菜を探していた斜面に、落枝から生えたキノコの造形美に目を奪われる。その名のとおり、ピンクの盃のような格好をした可愛いキノコだ。
 オオカメノキの白花・・・ブナ林内でよく目立つ白花は、一見アジサイに似ている。卵円形の大きな葉を亀の甲羅に見立ててオオカメノキという。
 ブナの萌黄色とヤマザクラの競演・・・刻々と変化する春紅葉は、雪国に春が訪れた喜びに満ちている。生命踊る春黄葉は、秋の黄葉より数倍も美しい。
 雪解けが早い別の沢にギョウジャニンニクを探しに分け入る。すると、シラネアオイが満開に咲き誇っていた。それにしても見事な群落だ。
 ギョウジャニンニク(アイネギ)・・・やわらかく広い二枚の葉が特徴。開いた若葉は毒草のスズランに似ているので注意。匂いをかぐと違いがよく分かる。採取は、根を引き抜かないように根元を切り取る。深山で修行する行者が良く食べた山菜だけに匂いが強烈。
 白い茎は、生のまま味噌をつけて食べると、強烈な匂いと辛さを味わうことができる。一般には全草、軽く湯がいてから水にさらし、お浸しで食べる。生のまま利用する料理は、天ぷらや油炒め、刻んで薬味として使う。保存には、湯がいたものを味噌漬け、醤油漬けにすると美味い。
 今回のメンバーは5名。前列右から長谷川副会長、柴ちゃん、後列右から小玉氏、山菜キチの金光氏、私。この二回目の山ごもりから一週間後、私と小玉氏、そして小玉氏の釣友・伊藤氏の3名は、新緑と山菜を求めて、雪代逆巻く険谷に分け入った・・・(つづく)

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