仙北マタギの森Part1 仙北マタギの森Part2 山釣りの世界TOP


ナラタケ、マイタケ、ウスヒラタケ、ブナハリタケ、お助け小屋、オイの沢源流探検、八滝沢前編
 2005年9月、久々に和賀山塊堀内沢右俣の八滝沢を遡行した。しかし、山ごもり4日間のうち晴れたのは1日のみ。目的のマイタケは、小振りのマイタケ1個だけ・・・どうも今年のキノコは全体的に遅れているようだ。それでも普段は見られない、シャクジョウの大滝、ブナの幹を伝う雨水滝、迫力満点の八滝沢、尾根筋の巨樹の森、熊の猛烈な爪痕、仙北マタギが滝上放流を繰り返した源流イワナの子孫・・・連日の雨でカメラを構えるチャンスは少なかったものの、楽しい、楽しい山釣りだった。(写真は、暗い狭谷に光のシャワーが降り注ぐ八滝沢)
堀内沢車止め〜奇岩〜ナラタケ〜お助け小屋
 堀内沢下流部は、先日の大雨でかなり増水したらしく、洪水敷の草木が下流に一斉になぎ倒された痕跡が至る所に見られた。やや増水していたものの、崩壊した盗伐林道ではなく、沢通しに歩くことに。上の写真中央の岩は、忠犬ハチ公にも見える奇岩。ここは右を巻く。
 左:ワニ奇岩・・・ここは谷が圧縮され、左岸から右岸へ渡渉しなければならない地点。増水している場合は、最も危険な箇所だけに注意が必要。既に奇岩の下部が崩落し、往年の面影はなくなってしまった。

 右:堀内沢名物、三角錐の奇岩。
 三角錐の奇岩全景。三角錐の奇岩の左奥に、同じような形をした枯れ木が沢に根を張って立っている。十数年前に訪れた時と何ら変わらない姿で・・・これは堀内沢の七不思議の一つ。時期が合えば、キノコも生えるのだろうか。
 オイの沢が近くなると、混交林からブナの森に一変する。右岸の倒木に待望のキノコの群生が目に飛び込んできた。
 ナラタケ・・・ナラタケあるいはナラタケモドキを秋田では「サワモダシ」という。その名のとおり、沢沿いの枯れ木、倒木に群生するキノコ。秋の渓流釣りでは、必ずと言っていいほど出会うキノコの代表で、1カ所で大量に採取できるのが嬉しい。
 ちょうど食べ頃のサワモダシだったが、1/3ほどは虫が食っていた。このキノコが出たばかりということは、今年のキノコ全般が遅れていることを示唆していたのだが・・・。
 楽しい、楽しいキノコ狩り・・・早くも美味しいキノコの味噌汁が脳裏をかすめる。
 お助け小屋に着く頃には、雨が降り出した。今年の冬は大雪だった。案の定、お助け小屋は、その大雪の重みでかなり歪んでいた。中に入ると雨漏りが・・・持参したテントを小屋の前に張り、テントの中で眠った。雨は止むことなく朝まで降り続いた。二日目の朝、本流は笹濁りで、渡渉が困難なほど増水していた。待てども待てども止む気配がなく、小屋周辺で停滞するしかなかった。
キノコの王様・マイタケ・・・スリッパでゲット
 山の神のプレゼント・・・悪いことばかりではない。玉さんがスリッパを履いたまま用を足しに行った。ニヤニヤしながら我々を見るなり「これマイタケでにゃが」・・・何と小屋のすぐ近く、朽ち果てたミズナラの根元に生えていたという。マイタケドラマは、得てしてこんなものなのだろう。これで一気にマイタケモードに突入したのだが・・・。
 マイタケは、初秋から秋に、ミズナラ、トチ、クリなどの大木の根際に発生する。1株の直径が30〜60cm余り、重さ10kgにも達する。食べやすいように縦に細かく裂き、お吸い物、炊き込みご飯、天ぷら、きりたんぽやだまこもち、いものこ汁などの具に。天然のマイタケは、栽培物より香り、歯ざわりが数段上で、その素材を生かすためにも醤油味が美味い。しかし、料理法を考えるより、まず天然マイタケをゲットする方が遙かに難しいのが難点。
堀内沢のイワナ
 堀内沢二股・・・左がマンダノ沢、右が八滝沢が合流する地点。降り続く雨の中、無理して遡行しても苦しむだけ。本流イワナを一尾だけ確認してオイの沢に戻る。
 堀内沢のイワナ・・・側線より上は、白い斑点が鮮明で、頭部に虫食い状の斑紋は見られない。側線より下は鮮やかな橙色をしたニッコウイワナ。各ヒレ、腹部は、鮮やかな柿色に染まり、居着きの特徴をよく示している。サイズは8寸余り。
雨また雨の中、オイの沢探検
 左:オイの沢左岸にある旧カツラ小屋。かつて仙北マタギは、この大木の大きな穴を狩り小屋としていた。今では朽ち果て使用不能。

 右:先日の大雨で斜面が洗掘され、根ごと倒れたブナ。いかに凄まじい洪水であったか・・・これでは沢沿いの風倒木は、ことごとく洗い流されてしまったことだろう。その痕跡を見ただけで、こりゃキノコは期待できない。
 左:オイの沢右岸に広がるブナの原生林。雨に煙り、神秘的な森の雰囲気を醸し出していた。 右:雨の中、オイの沢を上る。
 オイの沢二股地点、左股・魚止めの滝上から撮影。滝上は、ナメ滝が何段にも連なっていた。やむなく、ピンソールあるいはピンソールミニを着け、斜面を大きく高巻く。いよいよマイタケモードへ・・・
 雨に煙る脇尾根。狙いは、尾根沿い周辺の斜面に林立するミズナラの巨木。もちろん、ターゲットはマイタケだ。
 奇妙な幹のコブ。見る角度によって様々な動物の顔に見える不思議なコブだった。
 シャクジョウの大滝・・・脇尾根沿いから前方を眺めると、遙か頭上から落下する巨大な滝が見えた。総落差は100m近い。この源頭には、「シャクジョウの森」と呼ばれる両サイド絶壁のヤセ尾根がある。シャクジョウとは、山伏行者がいつも持っていた楽器のことで、悪魔払いなどの意味がある。恐らく、シャクジョウの森は、悪魔払いをしたくなるような霊的場所に違いない。雨に煙る大滝を見て、勝手にその名を拝借して「シャクジョウの大滝」と命名。
 ブナの木々に囲まれた斜面に、こうしたミズナラの巨木が幾つもあった。360度根元を見回し、斜面に這う根の先も丹念に調査・・・マイタケのマの字も確認できなかった。どう考えても一本ぐらいは、マイタケの気配があってもおかしくないと思うのだが、やっぱり遅れているのだろうか。
 ブナの幹を伝う雨の滝・・・これまで雨が降り続くブナの森で、こうした光景を何度も目にしているが、濡れるのを嫌って撮影できないでいた。今回は、雨合羽の下にデジカメを首から下げたままにしていたので、簡単に撮影することができた。

 天に広がる大きな枝葉で雨を受け止め、まるで漏斗のように集めた雨水は、幹を伝い滝のように流れ下って、根元へと送水される。見事というほかない。だから、雨の中では、ブナの森は雨宿りに最適だ。こうした写真も、意外とカメラを濡らすことなく撮れる。
ミズのコブコ、ウスヒラタケ、ブナハリタケ・・・
 ミズのコブ・・・秋になると、ミズの茎と葉の付け根に小さな丸いムカゴ状の実がつく。秋田ではミズのコブコと呼んでいる。カモシカは、ミズのコブだけを選り分けて食べるくらいで、人間にとっても大変美味い。右の写真は、ミズのコブだけを採取したもの。さっと湯がいてから、塩昆布などと混ぜて即席漬けが一番。歯ざわりが良く、粘り気のある甘さがあって、とにかく美味しい。しかし、不要な葉を一枚、一枚とるには根気がいる。
 オイの沢支流水沢を下る。ここもキノコは空振りに終わった。
 ウスヒラタケ・・・名前のとおり肉が薄いキノコ。傘の表面は、淡い褐色から後、白〜淡黄色。傘裏のひだは白色。柄は短く、ほとんどないものもある。味噌汁が美味い。
 ブナハリタケ・・・ちょっと群生規模が小さい。普通なら倒木を白に染めるほどビッシリ生えているのだが。ナイフで綺麗に切り採る。独特の香りが強く、油炒めが絶品。
 本日の成果・・・一日雨の中、オイの沢周辺を探し回ったが、終わってみれば、労せずして採った本命のマイタケは一株のみ。マイタケ採りは難しい、と言われるが、やはり同じ山に何度も足を運ばない限り、舞い上がるようなマイタケには遭遇できない。まぁ、3人ならこのぐらいのサイズで十分、山の神様に感謝しなければ罰が当たる。
シャクジョウの森・マタギ道
 尾根から対岸のオイの沢源頭・シャクジョウの森を望む。真ん中から左側の斜面にかけていかに山が立っているか、一目瞭然。熊も転げ落ちるような崖が連なっている。真ん中のピークは1002m、その右側の尾根が仙北マタギが歩いたマタギ道がある。かつて、この狩り場は、豊岡・白岩マタギの猟場だった。ブナ越しに眺めていると、熊との壮絶な巻き狩りの場面が脳裏をよぎった。

 ちなみに、マタギ道からオイの沢に下りる尾根は、「十分長嶺」と呼ばれ、マタギでも「十分だ」と音を上げる難所だ。中村会長も、このルートを歩き「一回歩いただけで十分、二度と歩きたくない」と音をあげたほどである。
秋晴れのもと、八滝沢遡行
 三日目にしてやっと秋晴れ。マンダノ沢に行けなかったのは残念だが、山釣り馬鹿3名は、迷わず八滝沢遡行を選択。というのも、これまで秘境の山・朝日岳ルートのマンダノ沢に固執する余り、八滝沢は、記憶がなくなるほどご無沙汰していた。連日の雨で水量も多く、迫力満点の渓谷美を見せてくれた。ところが、単身赴任寮に三脚を忘れ、この美渓を1/8以下のスローシャッターで撮影できなかったことが悔やまれる。(写真は、八滝沢下流部のゴーロ帯)
 やむなく手振れ補正機能をONにし、ブレずに撮れるギリギリのシャッター速度1/13で撮影。何とか絵になる写真が撮れたと思うが・・・上の写真はF1の滝全景。F1の滝と勝手に呼んでいるが、八滝沢は、その名のとおり、沢の勾配が急で、ゴーロなのか滝なのかの区別がつかないほど滝だらけ。従って、ここでは巻きを強いられるような滝に番号を付している。
 F1の滝アップ。苔生す巨岩の割れ目から豪快に落下する一条の滝。近付けば、飛沫とともにマイナスイオンが頭から降り注ぎ、爽快感が頭の天辺から足のつま先まで貫く。この清冽な飛瀑の快感がタ・マ・ラ・ナ・イ。
 F1の右を巻き、滝上に出る。延々とゴーロ連瀑帯が続く。巨岩のビルディングを乗っ越し、高度を稼ぐ。イワナは、増水で暗い穴の中に隠れているらしく姿が見えない。
 ゴーロ滝の壷は深く大きい。竿を出したい誘惑を抑え、ひたすら豆蒔沢出合をめざす。あわよくばキノコと思ったが、度重なる洪水で流されたのか、それらしい風倒木は見当たらなかった。
 赤岩の巨岩滝。ここを越えるとまもなくF2の滝だ。水量が多いと滝の直登は危険極まりない。F2の滝上にも滝が連続しており、文字通り大高巻きを強いられる。高度50m余り登って、一気に3つの滝を高巻く。この時もキノコ・・・と思ったが、いかんせん斜面がきつく、巨木なし、風倒木なし。両岸とも屹立する嶮峪は、キノコを期待する方が間違いだ。
 やっと高巻きを終え、幽谷に降り立つ。すると、朝陽が谷に降り注ぐ絶景が目の前に広がった。手前の壷の水面が光にキラキラと輝き、奥に光のシャワーが谷に降り注いでいる。声を失うほどの美わしさとは、こんな美の極地を言うのだろう。
 狭谷を豪快に落下する飛瀑に飛び込み、直登・・・滝の飛瀑が容赦なく身体にふりかかる。息もつけぬほどの冷たさ。時には、水の圧力で落とされそうになる。それでも負けじと攀じ登っていく。これまた快感。沢歩きは、これだから楽しい。
 滝を登り終え、「ああ、面白かった」と爽快感にしばし浸る・・・日本人の美意識は、こうした美しき水と渓谷から生まれた。美しき水を持っている国は豊かである。水が不足すると、食料不足に陥る。食料が欠乏すると戦争が起きる。だから美しき水が豊かであることは、○か×かという単純思考ではなく、多様な美意識を育み、多様な思考も生まれる。もちろん争いなど好まない。
 右がF5の滝。この滝は小さく巻くべきだったが、降り口をいつの間にか過ぎてしまい、以降、崖の連続で降りられなくなってしまった。延々巻きを強いられ、ついには豆蒔沢出合いまで巻く羽目に陥ってしまった。これにはほとほとエネルギーを費やされた。高巻きも慎重にやらないと・・・反省、反省。

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