大川・赤石1 大川・赤石2 山釣りの世界TOP


大川〜タカヘグリ〜オリサキ沢〜オロの沢〜石の小谷場沢〜赤石川〜キシネクラ沢
 大川から赤石川へ抜けるルートは、我々にとって難題だった。地図で探したルートは、いつも見渡す限りツルツルのスラブに阻まれ悪戦苦闘を強いられてきた。白神山地世界遺産地域連絡会議発行の「指定ルート現地状況一覧表」には、「ルートが不明瞭で迷いやすい。特に大川流域側は急傾斜で滑りやすく非常に危険」と記されている。 
 連日真夏日が続く8月中旬、藤里町と西目屋村の県境・釣瓶落峠のトンネルを越えると、道路が閉鎖されていた。「土砂崩落、落石の危険あり」との理由で、西目屋村砂子瀬〜釣瓶落峠まで約15kmは、5月24日から当分の間通行止め。これにはガックリ。やむなく、大館から弘前を回り、大川車止めに着いたのは午前9時30分。当初予定より大幅に遅れること2時間30分・・・これじゃ一日で赤石川へ抜けるのは無理かもしれない。
 車止めで地元の老マタギに声を掛けられた。
 「釣りだが」
 「いやいや、沢歩きだ。大川を越えて赤石川へ行ぐんだ」
 「へぇ〜、あんな難儀などご、よぐ行ぐな。遠いよ。
 理解できねぇな。暗門の滝から入った方がよっぽど楽なのに」・・・
 「家は代々マタギの家系だ。もう74歳だども、昔は、天狗岳がら追良瀬に行ったごどある。
 追良瀬の川は雰囲気が全然違うなぁ。神々しいっていうがなぁ」・・・

 確かに追良瀬川は、白神の盟主・白神岳を源流とする大渓流だ。しかも西目屋村の人たちにとって遠い川だけにそう思うのかもしれない。我々にとっては、大川も赤石川も追良瀬川も、みな遥かなる憧憬の川なのだが・・・。
 (写真:白神のマザーツリー、推定樹齢400年、幹回り465cm、樹高30m)
渇水の大川をゆく
 車止めを午前10時出発。超渇水の大川・・・開けた渓に暑い陽射しがガンガン照りつける。すぐに汗が噴き出してきた。 
不入りの岩門・タカヘグリ
 車止めから約3km、左手に崩落した岩肌がV字状に深く削り取られた岩肌がむき出しになっている。正面には、フキアゲの滝が白い糸を引いたように流れ落ちている。

 2001年5月、右岸の岩山が崩れ落ち、大川の流れを一瞬で堰き止めた。縦50m、横20m、深さ3〜5mのタカヘグリ新湖が誕生した。秋、屹立する岩壁を染め抜く黄葉が水面に映え、白神の名所の一つになった。以来、タカヘグリの遡行は不可能になっていた。2004年4月中旬、雪解けの増水によって自然堰堤は押し流され、ほぼ昔の姿に戻った。今でも、下流の川原には角ばった岩がゴロゴロしている。
 左に直角に曲がると、大川最大の自然画廊「タカヘグリ」の入り口だ。昔からタカヘグリは、切り立った断崖、絶壁が連なり、マタギでさえ近づけない「不入の門」「津軽の重箱」と言われた難所だ。ちょっとでも増水すれば、何人も通過することは不可能。エスケープルートは、左岸のマタギルートを辿るしかないが、丸一日かかる。つまり、大川〜赤石川ルートは、山越えルートが不明瞭なことに加え、大雨を想定すれば、余裕日を設けることが必須だ。 
 岩門の廊下は、渇水とはいえ、腰まで水に浸かる。汗がスーっと引いていく。クソ暑い夏を吹き飛ばすにはタカヘグリ渡渉に勝るものなし。 
 S字状に曲がりくねった深淵を渡渉し、エメラルドグリーンに染まった大釜の左岸をヘツリながら進むと、まもなくタカヘグリ終点だ。
大川支流オリサキ沢
 車止めから約5km弱、2時間半ほどでオリサキ沢出合い二股に着く。オリサキ沢を進むとほどなく、左岸高台にマタギ小屋跡のあるケラオキバ沢が右手から合流している。かつて、左岸のマタギ道を大きく迂回するしかなかった頃を思えば、実に楽になった。 
 オリサキ沢の谷が狭くなり、左右に曲がると、暗い峡谷に15mほどの滝がある。滝の飛沫を浴びながら右の壁を攀じ登る。ただし下りは、足場が見えないので注意。

 15m滝を越えると、間もなくヤツの沢とオロの沢が滝となって合流する二股になる。正面のヤツの沢を遡行すれば最悪、ここは左のオロの沢に進むのが正解だ。
大川源流オロの沢
 滝の右岸の小段を際どく通過する。オロの沢は、小滝とゴーロが連続している。標高480m地点で左岸から小沢が流入している。地図上では、この小沢が最短ルートのように見えるが、これまた最悪のルート。特に赤石川から大川へ山越えする場合、この小沢を下る落とし穴にはまる確率が高いので特に注意が必要だ。
山越え第一ラウンド:オロの沢〜脇尾根〜小沢(ビバーグC1)
 ここからゴーロの傾斜はきつくなる。荷の重さに喘ぎながら、高度をグングン稼ぐ。標高620m地点、右岸から小沢が流入している。右岸の小沢に踏み跡らしきものがあった。もしかして、大川支流ヒトハネ沢から山越えしていたのだろうか。 
 ここで全員渓流足袋にピンソール、ピンソールミニを着ける。左岸の窪地を上り、ブナが林立する急斜面に這い上がる。時々赤い目印を付けながら、右に巻くように落差100m余り登ると尾根に出る。この尾根を登って赤石川との分水尾根に出るルートも考えられるが、ちょっと遠回りになる。
 急な草付けの斜面を下り、一旦沢に下りるルートを選択。下る途中、泥壁に足を滑らせ、沢まで落ちてしまった。幸い膝を軽く打った程度で済んだ。危ない、危ない。小沢を少し下ると、770mコルから流れ込む二股に出合う。ここで時計は既に午後5時を過ぎていた。出発が遅れただけに、石の小屋場沢へ越えるのは無理と判断。やむなくここでビバーグ。全員疲れはピークに達していた。
山越え第二ラウンド:小沢(ビバーグC1)〜郡境尾根〜石の小屋場沢
 二日目の朝、ブナの深緑の隙間から青空が垣間見える。ビバーグ地をきれいに片付け荷を背負う。ここまで来れば大丈夫と思い、ろくに地図で確認もせず小沢を上ってしまった。すると、コルから大きく外れ、大分高い尾根に出てしまった。
ブナと笹薮に覆われた尾根を770mコルに向かって下る。杣道は猛烈な笹薮に埋まり、その痕跡は消滅したに等しい。急な窪地を転がるように下ると石の小屋場沢の流れの音が聞こえてきた。ほどなく標高580m二股に出る。
八森町〜西目屋村往来のランドマーク・大ケヤキ(石の小谷場沢)
 左股右岸の小沢斜面を見上げると、一際大きな巨木が眼に止まった。ケヤキの大木だ。
 かつては、八森町椿と西目屋村砂子瀬を往来するルートになっていたらしい。この地点は、そのほぼ中間点で、大ケヤキは、赤石川から大川へ越える時のランドマークになっていたという。草茫々の斜面を上り、ケヤキの大木の根元に立つ。石の小屋場沢のマザーツリーはブナではなくケヤキだったとは・・・この近くにある大きな岩のそばにマタギ小屋があったというが、今は草茫々でその痕跡を確認することはできなかった。
 両岸ミズに覆われた石の小屋場沢を下る。二股から1km弱で待望の赤石川に躍り出る。
赤石川源流へ・・・
 赤石川も超渇水・・・昨年お世話になった対岸のテン場に向かう。広いテン場にサワグルミの巨木が根こそぎ倒れ、使用不能になっていた。やむなく上流のテン場に向かう。ここも四囲がブナとサワグルミに覆われ、テン場としては一級品だ。荷を下ろし、コーヒーで祝杯をあげる。この山越えルートは、殊の外きついだけに、穏かな赤石川の流れは天国のように思える。 
 午後2時、デジカメを首にぶら下げ、泊り沢が出合う赤石川源流二股までのんびり歩く。ブナとサワグルミの森にすっぽり包まれた赤石川は、とても源流とは思えないほど穏かだ。いつ来ても心和む風景が広がっている。 
 テン場から400mほどで右岸からカピラ沢が合流、淵尻からイワナが何度も走る。
 川虫を狙ってカワガラスがうるさく飛び回っている。苔むす岩に止まったと思えば、すぐに流れに潜り、また次の岩へ。写真を撮ろうと思っても、動きが素早く全くとらえることができない。これはイワナとて同様である。何度もシャッターを切ったが、満足する写真は一枚も撮れない。
 左岸から流入する上タケガクラ沢・・・雪崩や台風でなぎ倒された倒木が谷を埋め尽くしていた。
 石の小屋場沢出合いから約1.6kmほど上ると、懐かしの赤石川源流上二股。かつては、二ツ森から泊ノ平を下り、カゲマツ沢を下って来るのが定番ルートだった。今は、泊ノ平コースは、指定ルートから外れ、赤石川源流も行き止まりルートしかなくなってしまった。かつての踏み跡は、もはや薮の中に消えていることだろう。
 以前は泊り沢出合い右岸に、粗末な笹小屋があった。今は、数々の想い出を宿した左岸のテン場は流れに侵食され跡形もない。何もかも変わってしまった。立派なテン場と化した右岸に佇み、静寂の森に響く流れの音を聞きながら、昔を懐かしむしかなかった。 
 沢を下り、昨年、トンビマイタケが群生していたブナの老木を探す。狙ったブナは、意外に簡単に見つかった。不思議なことに、キノコの気配はゼロ。まさか・・・苔むすブナの根元を何回も探す。いくら根元を回っても芽さえ見つけることができない。狐に騙されたような気分だった。トンビマイタケの造形美を写真に撮りたかったのだが・・・自然の妙は、人間の暦など眼中にないらしい。

参考:世界遺産・白神山地核心地域内指定ルート及び入山届出について
 保存地域の入山は、津軽森林管理署(FAX0172-27-0733)に入山届出が必要。
 その際「一日ボランティア巡視員」を引き受け、遡行後、
 巡視の結果及び保存地区の管理のあり方等について意見を述べるようにしてください。
 世界遺産指定地域内の河川は全て釣り禁止につき注意。
 その他注意事項は、手続き要領を参照。

白神山地核心地域内指定ルート図&現地状況一覧表
核心地域入山手続き要領

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