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いよいよ怪魚が棲む谷へ・・・
 朽ち果てた巨木の根元を回り込むように杣道が細々と続いている。かつては、ダムに沈んだ村人たちが利用した道だ。自給自足の時代なら、ブナ林の恵みの宝庫だっただけに、最高の村だったに違いない。
 杣道沿いで見つけたサワモダシ。見つけた時に採らないと忘れてしまう。早速袋を出して採取する。杣道は、怪魚が棲む谷より数百メートル下流でなくなっている。
 怪魚が棲む谷へのアプローチは容易でない。沢の出口が岩の割れ目のような断崖絶壁で、沢通しには突破できない。絶壁を布テープを使いながら、仲間の力を結集して突破する。これまた楽し・・・である。簡単に人を寄せ付けない谷だからこそ、怪魚の谷は、一層神秘性を秘めている。
 岩場のヤセ尾根には、ヒバの巨木が林立し、水墨画のような世界が広がっている。下を見れば、岩はオーバーハング状に抉られており、ごく限られたルートしかない。慎重にルート判断をしながら上る。
 沢の入り口は断崖絶壁のゴルジュが続き下降できる場所はない。尾根を上って慎重に下降ルートを探す。過去の記憶が曖昧で、ちょっと上流に出てしまった。下を見れば、下降できそうな場所が全く見あたらない。引き戻し、やっと下降ルートを見つける。最後は慎重を期して、布テープで沢へ降りる。
秘渓の怪魚釣り
 いよいよ頭のつぶれた怪魚釣りスタート。20匹に1匹という希少種だけに、簡単には釣れない。せめて顔だけでも拝みたいのだが・・・。
 怪魚の棲む谷の岩魚は、一様に白い斑点が大きく鮮明な特徴を持っている。右の岩魚の個体は、口が小さく丸い印象を受ける。これは正常な岩魚と怪魚の中間種のような個体だ。
 左の写真に注目。奇妙なことに、岩魚の腹部の橙色は、帯状ではなく途中で切れたように、妙に中途半端な彩りをしている。これはこの一個体だけでなく、この谷に棲む岩魚の特徴とも言えるものだった。この違いはどこからくるのだろうか。右の個体は、昨日釣った標準的な岩魚だが、腹部全体が橙色に染まった個体。
 右手から小沢が流入する地点の全景。沢から吹き下ろす風は冷たく、怪魚が棲む神秘性を帯びている。周辺の岩も見渡す限り苔蒸し、前方には残雪も見える。陽当たりの良い斜面には、ゼンマイ、ウド、シラネアオイ、イチゲ、ニリンソウなどが群生している。湿った渓沿いに若干サワグルミが見られるものの、ほとんどがブナ、ブナに覆われている。
 全体に黄白色に輝く岩魚。この岩魚も獰猛さを全く感じさせないほど、口が小さい。実に可愛らしい顔をしている岩魚だった。
ゼンマイ畑の連続・・・ゼンマイ谷
 これからという時に、早くもゼンマイ畑を見つける。竿を放り投げ、斜面に這い上がろうとする長谷川副会長。岩魚釣りから、いとも簡単に極太のゼンマイモードに突入してしまった。背後は新緑のブナ林に覆われ実に美しい。
 ゼンマイは、危険な岩場に生えている。それだけに山のプロと呼ばれる人たちが採る山菜の筆頭だ。沢沿いの湿り気のある急斜面を好み、大群落を形成する。かつては、ゼンマイ小屋に泊まり、背負いきれないほどのゼンマイを採ったことだろう。今は、この険谷に分け入る山人もいない。
 ゼンマイは、ワラビやコゴミと同様、シタの仲間。大きな株から数本立ち上がる若芽の先は、ゼンマイ状に巻き込まれ、白い綿毛に包まれている。葉の若芽と胞子をつける胞子葉がある。胞子葉を「男ゼンマイ」と呼び、採らずに残す。
 一面極上のゼンマイが群生する斜面。これを採るには、とても渓流足袋では滑って上れない。スパイク付き地下足袋あるいはピンソールを装着しなければ危険だ。さらに身の安全を確保するザイルも必携だ。ただうらめしそうに眺める。地図上にこの谷の名前はないが「ゼンマイ谷」と命名しておきたい。
 シラネアオイとゼンマイの群生・・・ブナ林の斜面では、いつもこの二種は混成しているケースが多い。特に白神の沢では顕著だ。ゼンマイは、茹でて水にさらし、天日で干したものを水で戻して使う。いわば、昔からの保存食だ。だが、簡単に食べられる方法もある。灰汁や重曹を入れて茹で、水にさらすとアクが抜ける。干しゼンマイと同様、アタキフキと油揚げを合わせた煮物や和え物、吸い物、納豆汁の具に利用できる。一度挑戦してみたいと思う。
 現在市販されているゼンマイの8割は中国産だという。ゼンマイを採る山人も高齢化し、それに追い打ちを掛けるように安い外国産がどんどん入ってくる。ふるさとの象徴でもあったゼンマイ干しの風景も消えゆくものの一つだ。地産地消を実践するには、自分で採って自分で乾燥ゼンマイを作るしかないのだろうか。これからゼンマイにも挑戦しようかな・・・でも忙しいサラリーマンに、果たしてできるだろうか、はなはだ疑問だが。
 ゼンマイが群生する雪崩斜面には、ウドもたくさん生えていた。5月下旬から6月上旬、残雪が残る源流では、春と初夏が混在した山の幸、山野草、風景を楽しむことができる。それだけに山釣りにとっては、一年中で最も楽しい季節だ。
 時折竿を出すものの、山の幸に浮気しているようでは、本命の怪魚は全く釣れない。釣れてくるのは全て普通の岩魚ばかり・・・。右の写真は、F3の滝の左岸を渡り、岩場を直登するところ。
 またまた出ました旬のゼンマイ。ゼンマイ採りなら、泣いて喜ぶような群生が両岸の斜面に連なっている。長年谷を歩いているが、こんなにゼンマイが群生している谷ははじめてた。採らなくとも、撮るだけで満足だった。
キクザキイチゲ、リュウキンカ、山ワサビの大群落
 初夏になろうという季節に、雪の残る斜面では、早春の象徴でもあるキクザキイチゲやニリンソウ、フキノトウ、カタクリなどが咲いていた。山野草も山の幸も、早春から初夏まで楽しめる。これほど多様性に富む季節もない。
 残雪をバックに咲き乱れるリュウキンカの群落。
 黄金のリュウキンカ・・・私の大好きな山野草の一つ。それだけに群落を見つけると、いつも夢中でシャッターを切ってしまう。春から初夏にかけて咲く草花は、どちらかと言えば、白や紫、赤、紅、青、茶、緑といった色彩が多い中、この黄金色の輝きは一際目立つ。ミズバショウと同じく、湿地や水辺を好む。
 一面山ワサビの群落。ちょうど白花が満開で、美しい。さらに、ワサビ田の規模も他の水系ではなかなかお目にかかれないほど大きく、しばしワサビ田散策を楽しむ。ところどころ、フキやニリンソウと混成していた。やはり苦労しただけ、感激も大きい。
 F4の滝・・・十数年前は、苔蒸す二条の滝で大変美しい滝だった。しかし、今は滝頭の岩が崩れて昔の面影がなくなった。それでも滝手前の二つの巨岩が落下する飛沫を受け止め、ちょっと変わった滝壺を形成している。岩を覆い尽くす苔も見事。上流の右手斜面は、陽当たりもよく、極太のゼンマイが群生していた。
 頭のつぶれた怪魚を育む渓の全景・・・ブナの新緑が狭い谷間を覆い尽くしている。適度な落差と岩魚が隠れる岩が数多く点在。水は清らかで冷たい。石をひっくり返すと川虫も数多く生息している。風が吹くと、ブナの葉を食べる蛾の幼虫・ブナ虫がパラパラと流れに落ちる。これは岩魚たちの大好物だ。秋、ブナの黄葉が渓に大量に降り注ぐ。落ち葉は、川虫たちの餌になる。ゼンマイ谷は岩魚天国であることがお分かりいただけるだろう。

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