山釣りの世界TOP

 5月15日、二日間続いた雨もやみ、好天に恵まれた。釣友・源さんとワサビ沢へ。彼と岩魚釣りに出掛けるのは、何と20年ぶりのことだった。彼によると、以前、ワサビ沢で釣りをしたが、岩魚は全く釣れなかったという。きっと釣り人が多く、岩魚は釣り尽くされたのではないか、とのことだった。・・・そんなはずはない。・・・なぜなら、私はいつもワサビ採りと岩魚釣りを満喫していたからだ。(写真はヤマワサビの花)
 釣り人のオーバーユースが原因で、岩魚のアタリが遠くなった沢を幾つか思い出す。中でも、新たに林道や堰堤が作られ、奥地が伐採された渓では、確かに岩魚は幻と化している。岩魚を育む自然の力がなくなっているからだ。岩魚の宝庫だった渓を、ただ呟くしかない。だが、原生的な森が残っている沢は別格だ。数年後訪れてみると、魚影の濃さに驚かされることもしばしば。自然の力が残っている限り、岩魚の回復力は釣り人の想像を遥かに上回る・・・それをワサビ沢で解明してみよう。
 ワサビ沢は、日帰りの渓でキャパシティは決して大きくない。それだけに場荒れしやすい沢の一つだ。救いは、ブナとサワグルミなどの広葉樹に覆われ、まさに岩魚釣り場と呼ぶにふさわしい渓谷美を保っている。二日間の大雨と雪代で沸き返る渓を上から見下ろす。これならば、岩魚釣りには絶好のチャンスだった。
 だが何故か、源さんにはなかなか釣れない。仕掛けを見ると、全長50センチほどの極端に短いチョウチン仕掛けだった。しかもオモリはB程度と軽い。雨と雪代で増水していたから、岩魚は底深くに潜んでいる。とても50センチの仕掛けじゃ届かない。流速も早く、餌も沈まない。・・・私の仕掛けをゆずり、3Bのオモリを付ける。
 雪代に磨かれ、白く輝く岩魚。7寸から8寸と型は、今ひとつだが、入れ食いで釣れてきた。上流核心部に行けば、9寸から尺岩魚は間違いないのだが・・・私は、もう釣りに飽きてしまった。はやばやと竿をたたみ、撮る楽しみに切り替える。
 8時半朝食。オニギリをほおばっていると、地元のゼンマイ採り2名が上ってきた。「釣れましたか」「まあまあですね」・・・流れに揺らめく種もみ用網の岩魚を覗き込む。「おー、まずまずの型だな」と言って、左岸の小沢斜面を登って行った。
 暗い渓に強い光が射し込み、岩を噛む流れも新緑もキラキラと輝く。
 朝食後、次々と岩魚を釣り上げる源さん。「これごそ入れ食いだなぁ」と岩魚を握り締める度に、笑顔がこぼれる。「この調子で釣ったら、40も50も釣れるんじゃないか。こんなに岩魚がいたとは・・・」。岩魚がいなくなったとばかり思っていたワサビ沢で、まさかの入れ食いに驚きを隠さなかった。千変万化する自然、岩魚も千変万化、釣り人も千変万化・・・それが自然。
 丸顔の可愛いメス岩魚。膨らんだ岩魚の胃袋には、ゴミしか入っていなかった。雨が続いただけに、餌らしい餌を食べていない。久々に光を取り戻した渓で、入れ食いが続くのも当然のことだった。岩魚釣りに技術なんて関係なし。「足で釣る」・・・この一語に尽きる。
 体中に丸い斑点を散りばめ、胸ビレが鮮やかな橙色に染まったオス岩魚。「余り釣れば、バチ当たるな。もう少し釣ったらやめるが」と言い出した。
 全身真っ黒な岩魚もいれば、真っ白な岩魚もいる。余り釣れるものだから、さすがの源さんも、核心部の遥か手前で竿をたたんでしまった。これからもお世話になるんだから、無用な殺生はしないことが肝心だ。
 階段のゴーロが続くワサビ沢。新緑のブナ林に覆われ、原生的な森も深い。ブナ=岩魚の図式は、キャパシティの小さい沢でも生きている。
 けれども釣り人が入れ替わり立ち代わり来るようになると、岩魚は餌を追わなくなる。これは場荒れと呼ばれる現象で、決して岩魚がいなくなったわけではない。だが、既に場荒れした後に入った釣り人は、岩魚を釣り切られたと錯覚するほど魚信は遠くなる。稀に釣れたとしても、警戒心の薄い小物しか釣れない。

 ところが、翌春来て見ると、岩魚はどこぞから沸いてきたように餌を追う姿に驚かされる。しかも、尺岩魚が釣れることも珍しくない。・・・というのが常である。つまり、岩魚は、原生的な自然が残っている限り、釣り人に簡単に釣り切られるほどヤワな魚ではない・・・ということを示しているように思う。
 エゾニュウ。秋田では「ニョウサク」と呼ぶ。株の真ん中に出た若い茎を切り、皮をむいて塩蔵する。煮付けがしこたま美味しいが、すぐ食べられないのが難点。
 竿をたたみ、ワサビ田をめざして上る。すると、まもなく渓流沿いに白い花を咲かせた山ワサビが群生している。根こそぎ採らず、茎の太いのを選び、間引くように根際から切り取る。根を残せば、来年も生えてくる。ワサビは、根ではなく、茎と葉、花が最も美味い。太い根は、刺身用の薬味に2〜3本もあれば十分だ。
 ワサビの葉は、円形に近い心臓型で、光沢があり美しい。葉脈は網状で、白色の小花を房状につける。夏の強い日差しを嫌い、冷たい清流に沿って自生する。礫が多く、腐植土のある場所を好む。特に、渓流沿いの湿地を好むサワグルミ林内、あるいは小沢が流入する湧水地帯に大きな群落を形成する。
 斜面一面を白に染める山ワサビの群落。岩魚釣りでは、お馴染みの山菜だが、ワサビ田と呼ぶほどの大群落を形成する場所は、意外に限られている。
 白いワサビの群落に、紫色と白のキクザキイチゲや茶色のエンレイソウ、青紫のエゾエンゴサク、黄色のオオバキスミレなどの草花も混生し、一際美しい。暗く湿った林内では、一年で最も美しい百花繚乱の季節だ。
 花茎は意外に長く、その先端に白の小花をたくさん咲かせる。マクロで撮影すると、これがワサビの花かと疑うほど美しい。食用は、葉と茎だけでなく、花も美味い。つまりワサビの旬は、白花が咲く頃だ。ちなみに辛味が強いのは、白花が咲く春と初雪が降る初冬と言われている。
 採取したワサビ。ワサビはビタミンCを多く含み、病原菌を強烈に殺菌する作用がある。また、リュウマチ、神経痛の薬草としても知られている。独特の風味と辛味は、食欲を増進する。

 醤油漬け・・・よく洗い、2センチほどに刻む。若干塩を混ぜて、ワサビの辛味が目にくるまでよく揉む。密閉容器に、ビッシリ詰め込み、余分な水分を絞る。これに市販の5倍濃縮・万能つゆを注ぎ漬け込む。翌日から食べられる。アツアツのご飯にかける、酒のツマミ、刺身の薬味に二重丸。
 アザミ・・・大きくなったアザミは、葉ではなく茎を食べる。切り取ると茎には穴がある。葉を取り払い、茎だけ採取する。これを湯がいてから、皮をむき、食べやすい大きさに切りそろえる。マヨネーズなどを付けて食べる。鮮やかな黄緑で、クセもなく、大変美味しい。
 キクザキイチゲの花アップ・・・白色よりも紫色のものが鮮やかで美しい。もっと色の濃厚な花もある。
 エゾエンゴサクの花アップ・・・横から見ると実にオモシロイ形をしていることに気づく。驚いたように真横に開いた頭、黒い目、長い鼻、飛んでいるかのように前傾姿勢の身体と足・・・可愛い小天狗人形のようにも見える。
 新緑。のんびり昼食を楽しんだ後、沢を下る。春の陽射しは強く、気温は25度と熱い。源さんは、胴長を履いていたから、熱くてバデバテだった。やっぱり長い沢歩き、山歩きともなれば、胴長はツライ。
 苔生すブナと新緑。ブナの渓畦林に覆われた渓流は、条件さえそろえば、釣り人が驚くような岩魚の入れ食い現象が起きる。釣り人が釣りそのものに飽きてしまうほど、餌を追う岩魚の魚影は凄かった。こんな珍現象を体験すると、とても「幻の魚」とは思えない。過去の渓を訪ねる度に、ブナ林の持つ自然の力、岩魚の生命力の凄さに脱帽せざるを得ない。天然の岩魚を持続的に釣りたいなら、人からではなく、千変万化するブナの森に学ぶべき・・・とつくづく思う一日だった。

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