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野生動物編・・・早春のサルを撮る 絶滅危惧種1B類(秋田県)
 4月4日(日)、白神山地岩崎村入良川で、ブナの芽吹きを貪る野生のサル20頭ほどの群れに出会った。EOS Kissデジタルの実写テストには、これ以上ない被写体だった。まず、光学4倍ズーム程度のコンパクト機では、野生動物を撮ることは不可能だ。上の写真は、望遠レンズEF100-300mmを使用。デジタル換算すると1.6倍という画角は、広角側では不満だが、平凡な望遠レンズが160〜480mmの超望遠レンズに変身してくれるから、野生動物を撮るには満足するほかなかった。ただし、撮影時に注意すべき点は多々あったが・・・。
 写真は、ギョウジャニンニクに似ている毒草・スズランの若葉。残念ながら、目的のギョウジャニンニクは、ほとんど芽を出しておらず、スズランの若葉だけが目立っていた。
 明るいブナ林では、カタクリやイチゲの花も咲き始めた。小沢の斜面で、やっと3つそろって咲くカタクリを見つけ、シャッターを押す。ほどなく、頭上から「ホォー、ウィー」と鳴くサルの声が聞こえた。見上げると、新芽を貪りながら移動するサルの群れだった。こうなれば、山野草どころではない。夢中でサルの群れを追った。
 厳寒の冬、寒さと飢えを凌いできたサルたちは、ブナの芽吹きを求めて、奥山から里山へと移動する。明るい林内に光のシャワーが降り注ぎ、土から芽を出した早春植物とサルのフサフサした体毛が妖しいまでに輝いた。葉が生い茂り、早春植物たちが姿を消す頃になると、見通しも悪くなり、こんなシーンを撮ることはできない。
 この写真は、何を意図して撮ったか、お分かりだろうか。里山から奥山に向かって撮影した一枚だが、サル2匹が上っているブナの木は新芽が出たばかりだが、すぐ背後の山は、ところどころ残雪も見える灰褐色で食べる新芽はない。

 つまり、芽吹きは里山に近い部分だけに限られており、エサを貪るサルたちの移動範囲も極端に狭いことが分かる。遠くまで見通しが効き、里山近くで意外に楽チンに野生のサルを撮影できる最高の季節と言えるだろう。
 とは言うものの、サルと出会った時は、望遠ズームは車の中だった。いつも、レンズ交換している間にサルの姿を見失うのが常だった。だから、シャッターチャンスを逃さず撮ることしか頭になかった。しかし、被写体が小さ過ぎて全て×。車まで望遠レンズを取りに行き、急いで引き返した。すると、群れは、またもとの位置に戻っていた。結果論だが、何も焦ることはなかった。
 木の下よりも、早春の光が降り注ぐ枝先部分から新芽が出てくる。その枝先に向かって上るサル。撮影の注意点は、オートフォーカスに頼ると、手前の枝に邪魔され、なかなか狙ったサルにはピントが合ってくれない。ピントは、手動で合わせるのがベターだ。となれば、アナログ感覚でピント合わせができる一眼レフデジカメの方が遥かに撮影しやすい。
 ちょっと写真が暗くて申し訳ないが、上の写真は、枝をへし折っているところ。手が届かない枝先にたくさんの新芽が出ているから、枝をボキボキ折って食べまくる。これは熊と同じで、木のことなんて何も考えていない。

 「一週間近くもその場に溜まり、食べ尽くすこともあります。もちろん、食べられる樹木のほうは、たまったものではありません。枝は折られ、樹皮は剥がされ、無残な姿をさらし、度重なるサルの食圧で枯れることだってあるくらいです。」(「クゥとサルが鳴くとき」松岡史朗著、地人所館)・・・3時間ほどサルのこうした食圧を見ていると、人間がこんなことをしたら「自然破壊者」のレッテルを貼られるだろうなどと思ってしまった。自然の摂理とは、奇麗事ではなく、実はこんなものなのだと思う。
 白神山地のホンドザルは、豊かなブナ林に恵まれ、群れが連続的に分布している。世界の北限に位置する北東北の中でも唯一安定した個体群と言える。最近では、分布域の回復が著しいように思う。

 しかし、秋田県のレッドデータブックによると「現段階では県内の分布域は500平方km程度で、成熟個体も1000頭に及ばず、青森県側の個体群との交流がある点を差し引いても、絶滅を回避するのに十分であるとは判断できない。白神個体群以外についてはほとんど把握されていない。」とし、絶滅危惧種1B類に指定している。
 子ザルも懸命に新芽を求めて林内を歩き回る。子ザルの兄弟もいたが、三脚を持たずに撮影していたから、ことごとくブレてしまった。400〜500mmの望遠になると、三脚の必要性を痛感させられた。
 ホンドザルは、成熟オスで15kg前後、メスで10kg前後と言われるが、地域的変異が大きい。血縁関係にあるメス個体を中心に複数のオス・メスからなる数十頭の群れをつくる。メスは5歳程度で成熟し、秋に交尾し春に一匹出産する。オスは、成熟すると、生まれた群れを離れ、他の群れに入る。その後も群れを転々と移動すると言われている。
 秋田県に限って言えば、オスの単独個体は、全県的に確認されているものの、群れが確認されているのは白神山地のみ。かつて県内全域に生息していた事実を考えると、生息域が極端に狭くなったことが分かる。その白神山地でさえ、20年ほど前には、八森町でしか群れを見ることはほとんどなかった。

 しかし、最近では、峰浜村や藤里町でも群れが見られるようになったことは喜ばしいことだが、増えるにつれて農作物被害も激増。山麓の人々にとっては、迷惑千万な出来事でもある。里山に暮らす人々の立場で考えると、「共生」の難しさに考え込まざるを得ない。
 群れのボス・・・なかなか迫力のある面構えをしている。堂々とした体格、威厳を持つ表情、野生の誇りみたいなものが伝わってくる。脇尾根のブナの根元に居座り、ずっと群れの安全を監視していた。私が近づいても逃げるそふせりをみせず、むしろヘボなカメラマンを無視しているようだった。この写真は、わずか5m程度まで接近して撮影したもの。
 世界の最北限に生息する下北や白神のサルは、他の地方に生息するサルと比べ、体が大きい。広い胸、重い体重、がっしりした体格・・・体が大きいと、体積当たりの表面積が小さくなり、体の熱を奪われにくく、厳寒の北国で生き延びやすいという自然の法則に符合している。熊も北に行くほど大きいのは、この法則に従っているから。

 白神のサルも、こうした自然の法則に従って適応した地域個体群と言われている。寒冷地適応は、フサフサした体毛を見ただけでも分かる。毛色は、南のサルに比べ白っぽく、淡い色をしている。立派な体格と淡く豊かな体毛こそ、世界の北限に位置するサルの最大の特徴だ。
 森はサルのレストラン・・・下北の調査によると、春は、カタクリの花、フキノトウ、キバナイカリソウの花や葉、イタヤカエデやオヒョウの柔らかな若葉。夏は、エビガライチゴの実、オオハナウドの花、ツノハシバミの実、ハリエンジュの花。秋は、クリ、ヤマブドウ、マタタビ、サルナシ、赤トンボ、オオイタドリの虫、ガマズミ、ムラサキシキブ、マツブサ。冬は、松ぼっくり、キノコ、木の冬芽や樹皮など。さらに昆虫、クモ、カタツムリ、カエルの卵や鳥の卵まで食べるという。
 何時間でも居座り新芽を貪り続ける姿は、冬の寒さと飢えに耐え、待ちに待った春を喜ぶ感動的シーンでもあった。森のレストランは、海岸沿いの里山から奥山へと移動し、四季折々、多種多彩な恵みを与えてくれることだろう。望遠レンズは、こうした肉眼では見ることのできないシーンを観察、記録に撮ることができる。
 上の写真は、ピントをAUTOで撮影したため、手前の木に合ってしまい、サルがボケた失敗写真だが、見ようによっては味のある写真だと思う。雪国特有のフサフサした豊かな体毛と体の周りの白っぽさ、淡い色、春の陽射しと新芽に包まれた森のレストランで生きる喜びを感じている姿が、ボケた背中から何となく伝わってくるように思う。
 一つの木に5匹も6匹も居座って食べ続けるサルの群れ。これから柔らかい新緑の波が、沢から峰へと駆け上がっていく。やがて、全山尽きることのない豊穣の森へと変身していくことだろう。ブナの森は、サルにとっても「母なる森」「生命の森」である。
 林床に陽射しが差し込むと、花を開き始めたカタクリ
 背後に白くボケた残雪とフキノトウ
 田んぼ脇の土手に生えてきたヤブカンゾウの新芽。食用の草花で、群生するから大量に採取できる。葉がばらけないよう、根ぎわをナイフで切り取る。調理法は、おひたし、酢味噌和え。少しヌメリのあるシャキッとした歯ざわりで美味い。ほかに天ぷら、炒め物。
 日当たりの良い土手斜面では、早くも白いイチゲが一面咲き誇っていた。こうした北国の柔らかい春の陽射しを表現するには、背後の淡いボケが欠かせない。実写テスト2では、幸運にもサルの群れを撮ることができたが、唯一の反省点は、三脚を据えてブレのないシャープな撮影をすべきだったと思う。

 しかし、春の到来に喜悦するサルの群れを見ていると、そんなことはすっかり忘れていた。素人なら、冷静なテクニックや高価な道具に頼ることなく、あくまで瞬時に感じたありったけの感性で撮り続けることこそ、むしろ満足する結果が得られるように思う。
参 考 文 献
「クゥとサルが鳴くとき」松岡史朗著、地人所館
「秋田県版レッドデータブック2002 動物編」秋田県

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