山釣りの世界TOP


主催:国土交通省 秋田・山形県際間連携推進連絡会議、環鳥海未来の森林プラットフォーム
 2004年10月10日、山形県遊佐町で開催される環鳥海シンポに参加しようと朝8時に出発。象潟町の道の駅で「鳥海山散策絵図」(ゆざ環境協働組織鳥海自然ネットワーク発行)というユニークな図面を手に入れる。その絵図で、シンポ前に見学先を探す。名水のマークのある胴腹滝(どっぱらたき)と内水面水産センターがオモシロそうだ。
 左手に内水面水産センターを過ぎ、坂道を走っていくとまもなく、車の列が目に飛び込んできた。左手に「胴腹滝 里山環境保全地域」の看板があった。歩道を入るとまもなく、良く手入れされた杉木立の向こうに鳥居が見えた。胴腹滝は、意外に近い。
 行列ができる名水・・・これには驚いた。両手だけでなく、背中のザックにも名水を汲んで担ぐ兵も。地元では、知名度・人気度抜群らしい。名水を汲む場所は、二箇所。飯炊き、コーヒー、お茶などに利用すれば、美味そうだ。
 お社の両側斜面から二つの滝となって流れ落ちる胴腹の滝・・・周辺は苔生し、水の神々があちこちに鎮座しているような神秘的な雰囲気が漂う。

 「神の瀧のおいしい水」と題した看板・・・「・・・鳥海山は日本有数の高山でありながら、岳人に水筒いらずと言われるほど水質の良い泉や流れの豊富な山です。その八合目を源とし、岩中の間隙を幾日も辿りながら、なぜか源泉の冷たさをそのままに、優れたミネラルバランスの水がここに流れ続けているのです。・・・人の身体に自然と吸収されるこの瀧水は自然本来の水の味と香り、そして心の潤いを思い出させてくれます。」
 この清冽な流れにはハナカジカも生息しているという。
 胴腹瀧不動堂の看板・・・「そもそも胴腹瀧と申す奉るは、人の身体一切を守り賜う故をもって、胴腹瀧と奉り唄うなり、この瀧は安置奉るは往古より子安大聖不動明王として胴より始めて腹部の守護するなり」
 神秘の名水、この胴腹滝の清冽な水を利用してマス類の養殖をしているのが内水面水産センターだった。当然寄らずに帰るわけにはいかない。
 内水面水産センター全景・・・センターに寄ると、すぐさま管理人が出てきた。「中を見せてください」「あぁ、どうぞ・・・もしかして杉山さんですか」「いやいや、今日のシンポのパネラーで菅原と申します」「そうですか。シンポジウムを楽しみにしていました。ごゆっくり見て行ってください」
 飼育魚種は、ニジマス、サクラマス、ヤマメ、イワナ、ヒメマス、カワマス。全て冷水を好むマスとくれば、私の大好きな魚ばかり。中でも35センチから40センチ級のイワナの親魚が群れる光景には、しばし釘付けとなった。養殖とはいえ、鳥海山の名水で育つイワナの姿態は殊の外美しく、味も美味いに違いない。
 環鳥海シンポ「川のめぐみと共に生きる」・・・写真は、哲学者・内山節(たかし)さんの基調講演「山里の釣りから見えるもの」。続いて秋田県水産振興センターの杉山秀樹さんが「川の主人公(在来魚)を守り育てる」と題して、環鳥海に生息する豊富な淡水魚の写真をもとに講演。相変わらず魚に対する愛情がジワジワと伝わってくるような話だった。特にイワナを育てるには、水温上昇を抑え、多様なエサを供給する河畔林の復活が重要と指摘した。

 続いてパネルディスカッション。パネラーは、杉山秀樹氏、月光川の魚出版会事務局・鈴木康之氏、鶴岡自然調査会会員・大類雄一氏、そして私の4名。コーディネーターは、環鳥海未来の森林プラットホーム事務局長・作佐部直氏。私の自己紹介は、以下のプレゼンで行った。
 白神山地が世界自然遺産に登録されたのは、1993年12月。既に11年近くになる。写真は、秋田県八森町三の沢源流を詰め、稜線を越えて、青森県深浦町の追良瀬川源頭で見た絶景。目の前全てがブナ、ブナで埋め尽くされている。その新緑の遥か上に、残雪をまとった向白神岳稜線が見える。源流のイワナを追い続けて、こんな桃源郷のような世界に出会えただけでも大正解だったと思う。
 黄葉の峰走りもいいけど、新緑の峰走りの方が感動的。新緑の波が谷から峰に向かって走る。沢では、下流から源流に向かって走る。源流部には、いまだ残雪も見える。刻一刻と変化する生命のドラマは、いつ見ても感動させられる。
 葉が萌え出る前は、見通しも良く、野生動物を撮る絶好のチャンス。4月上旬、新芽を貪る白神のサルを2、3時間追い掛けて撮った一枚。森は、野生動物にとってレストランだが、人間にとってもレストラン。
 左がアイコ、右のザルに入っているのがシドケ、右下がイワナ。山の幸と一般的に言われるが、私は山の命と呼んでいる。山の命をありがたくいただいて、私も生きている。山の命を食べることによって、山と人とが命でつながっている実感を得ることができる。川の恵みと共に生きるには、食がキーワードだと思う。
 源流のイワナは、水系ごとに体色、斑点の色、大きさ、鮮明さが異なる。つまり、同じイワナでも遺伝子が異なり、水系の数だけ遺伝子の多様性に富んでいる。それを尊重することは、今や常識。だから養殖イワナを放流したり、他の水系で釣り上げたイワナを移植放流することは厳禁。
 山に入ったら山のものを食べるのが原則。だからイワナを釣るだけでは、ダメ。春から秋まで、食べられる山の野菜、きのこも覚えることが必須。渓流の傍らで焚き火を囲み、山の命をツマミに一杯飲む。これが一番楽しいひととき。私たちは、これを「源流酒場」と勝手に呼んでいる。
 今年は会を結成して20周年。私たちの会は、白神山地が会結成の原点だから、今年は、白神にこだわって歩いた。左は、大川の難所タカヘグリ。右は、夏に赤石川を一周した時に撮影したヤナダキ沢に懸かるF2の滝。
 白神山地赤石川源流の風景。穏やかな流れが、すっぽりブナに覆われている。6月頃になれば、ブナの葉を食べるブナ虫が大量に発生する。風が吹くと、パラパラと水面に落ちる。イワナは、川虫だけでなく、そのブナ虫を口からあふれんばかりに食べる。7、8月になると、里から赤トンボが大量にやってくる。それも食べる。秋になると、落ち葉が大量に降り注ぐ。その落ち葉を食べて川虫が育つ。

 川虫を食べるカワガラスが飛び交い、時にはシノリガモの親子もやってくる。イワナを狙ってヤマセミが渓にダイビング。川ネズミは、淵を泳ぎまわり、イワナの稚魚を追い掛ける。見事な森の循環・・・歩くとイワナで水面が波立つほど群れている。けれども、かつては、イワナ一匹生息していなかった。
 その下流に大ヨドメの滝がある。ヨドメとは、魚止めを意味する言葉。この滝壷でイワナを釣り、滝上に放流したのは、西目屋村砂子瀬の工藤マタギ。わずか10数匹のイワナが、今や数千、数万匹に増えている。豊かな自然さえ残っていれば、イワナの繁殖は人間の想像力を超えるほど凄い。滝上にイワナが生息しているかどうかは、マタギの行動と深い関係がある。私がマタギに興味を抱いたのは、このことがキッカケ。
 現在、世界遺産核心部に群れるイワナは、マタギが放流した子孫である。白神山地は「手つかずの自然」などと言われているが、実は、狩猟採集を生業とする「暮らしの森」。
 写真を撮るのも趣味の一つ。絶滅危惧種1B類のトガクシショウマが大きな株となって咲いているのは珍しい。春、まだ芽吹かない林床を、桜を敷き詰めたように群生するイワウチワ。湿地を彩るミズバショウと並んで、黄金色の花を咲かせる大型のリュウキンカも好きな花の一つ。これは食べられる山菜でもある。絶滅危惧種1A類に指定されているオオサクラソウは、ある沢の20m大滝を大きく高巻いた渓谷に、希少種とは思えないほど群生している場所がある。
 ブナ林の山菜は、春から秋まで数多くあるが、ゼンマイは、すぐに食べられないので採ったことはない。最近は、山村の高齢化も著しく、中国産のゼンマイが大量に輸入されている。だから、ゼンマイを採る人が極端に少なくなった。
 ブナ林を代表するキノコの写真。春はヒラタケ、シイタケ、サワモダシ。夏はトンビマイタケ、キクラゲ、マスタケ。秋は、マイタケ、ブナハリタケ、サワモダシ。晩秋は、ナメコ、ムキタケ。この巨大なキノコの群生を見ただけで、自然の力、豊かさの凄さが分かる。山棲みの人たちは、こうした山から生活の糧を得ることを「さずかる」「山からさずかる」と言う。この敬虔な気持ちが大事だと思う。
 左上は、白神山地大川にあったマタギ小屋。残念ながら今年訪れたら朽ち果てていた。左下は、和賀山塊堀内沢のマタギ小屋。これは、県内で唯一現存するマタギ小屋。一時期、撤去騒動もあったが、保存運動が効を奏して今なお健在。右の写真は、ブナに刻まれたナタ目。「熊取り 午後から雨降り」と刻まれている。「マス」とか「イワナ」などと刻まれたナタ目も数多く出会う。

 北東北の源流イワナを追い続けて感じることは、自然と人間と文化が見事に調和した世界だということ。だから、人間と文化を排除し、自然だけ守るといった自然保護には、いつも疑問に思っている。自然も大事だが、そこに暮らす人間も大事、文化も大事だ。後世に自然だけ残すのではなく、森と共に生きた経験知、技術知、民俗知、文化もセットで引き継がないと意味がない。そういう思いが募って、10年以上前から「自然と人間と文化を考える」活動をしている。
 5年ほど前に、たまたま田園空間博物館構想を担当した。これはエコミュージアムの日本版で、簡単に言えば、自然と人間と文化を「屋根のない博物館」として保全しようというもの。矢島町でエコミュージアムの町づくりをやっていたこともあり、鳥海山麓8町に呼び掛け、田園空間博物館の計画づくりを行った。その時、環鳥海地域づくり研究会の「極楽鳥海」という本に出会い、地区名を「環鳥海」と付けたことがある。その後、この構想から2町が抜け、山形県側では、この構想がないということで「環鳥海地区」を断念、「鳥海山麓地区」に変更せざるを得なかった。そんなこともあって「環鳥海」という名前には、私自身思い入れは深い。
会場から質問・・・白神山地は世界遺産で特別な地域。そういう地域は、遺伝子貯蔵庫として入山を禁止し管理すべきではないか。

回答・・・入山禁止を巡る議論は、10年以上続いているが、いまだ結論は出ていない。秋田県側は、世界遺産に登録されると同時に、入山禁止、禁漁が決まった。しかし、青森県側は、自然と人間と文化を尊重する立場から入山禁止に反対している。そもそも、青秋林道の建設に反対した赤石川流域の住民は、入山禁止にするために反対したわけではない。自分の山に入れないというのは、家から出るな、というのと同じ。現在、青森県側は、指定ルートを定めて入山できる。東北自然保護の集いでは、「自然・人間・文化を一つに考えた管理計画にすること」が決議されている。こうした流れを受けて、入山も「許可制」から「届け出制」に緩和されている。
質問2・・・みんな菅原さんのようにマナーのいい人ばかりではない。外来魚を持ち込み放流されたら世界遺産地域も台無しになるのではないか。

回答・・・よく言われるのは、ゴミ問題やオーバーユースの問題。ゴミ問題で言えば、登録前より遙かに綺麗で、入山者のマナーも格段に良くなっている。これは入山者が世界遺産という特別な意識を持っているからだろう。オーバーユースの問題は、むしろ白神岳や二ツ森といった登山道のある山。道も山小屋もない源流部は、誰もが気軽に入れる場所ではない。一旦入れば、最低二泊程度泊まらない限り戻れない。それだけ白神山地の核心部は奥が深い。雨が降れば、停滞することもしばしば。そういう地形条件があるからこそ、物見遊山的な人は、入ろうと思っても入れない。ちなみに今年の夏、5泊6日で赤石川を30キロ歩いたが、誰とも出会わなかった。

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