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 2004年3月中旬、白神の春を追い掛けるべく、青森県岩崎村に向かった。目的は、ただの一点。白神に春の訪れを一番早く告げる草花・フクジュソウだ。情報によると、2月25日、岩崎村は3月下旬並みの陽気で、フクジュソウが咲きはじめ、このままいけば、3月に入ると一面に咲き誇るだろうとのこと。日本海から吹き上げる風はあいも変わらず冷たかったが、雪国・白神に「春という名の幸福」を呼ぶ黄色の競演に、しばし酩酊してしまった。
 北国の辛く厳しい冬は、年間の1/3にも及ぶ。それだけに、待ちに待った春を告げるフクジュソウに出会うと、何か幸せをもらったような気分になる。世の中、テロだとか、牛肉のBSE問題、鳥インフルエンザ騒動、秋田県が8年連続自殺率ワーストワンを更新、身の回りを見渡せば給料も年金も下がるばかり・・・右肩下がりの下界とは無縁の自然の中に入ると、そんなことはまるでウソであるかのように春の幸せを伝えてくれる。何ともありがたいことだ。
 大間越集落の庭先、斜面から顔を出したばかりのフクジュソウのアップ。咲きはじめたばかりなのか、花の色は、鮮やかな黄色というよりも、やや淡い黄色。地面すれすれに咲くフクジュソウは、最も可憐で美しい。春を喜ぶ天真爛漫な花姿を眺めていると、自分の人生にも春が訪れたような、何かいいことがありそうな気がするのだが・・・。

 写真の花に虫が写っているのが分かるだろうか。不思議なことに、虫媒花なのだが、蜜を出さない花だと言う。それでは何故、花に向かって虫が集まってくるのだろうか。殺風景な灰色の森に、一際鮮やかな黄金色の花に惹かれるからだろうか。それとも大きく花を広げて早春の陽光を受け止め、虫たちに唯一暖かい場所を提供してくれるからだろうか。いずれにしても、蜜を出さずとも虫が集まってくるというのは、春一番に咲くフクジュソウの特権に違いない。
 落ち葉に埋め尽くされた森の中に入る。まだ花は開かず、淡黄色のツボミが数株群れ、何とも可愛いい。ツボミを顔に見立てれば、そのすぐ下にある羽状の葉が、首に緑の襟巻きを巻いたようにも見える。白くスベスベした茎は、土から顔を出して間もないことを物語る。時折、頭上から陽が差し込めば、一斉に笑い出す。一転、小雪が散らつくと、寒さで震えているようにも見えた。
 広葉樹林内、うず高く降り積もった落ち葉から顔を出す。光や温度に敏感らしく、昼でも陽が遮られると花がしぼんでしまう。地面スレスレにローアングルで撮影。
 再び陽が当たると、一斉に可憐な花が開く。北国では、初春の山歩きで最もポピュラーな花だが、全国的には、個体数が危機的水準にまで減少している種で、環境省は絶滅危惧種2類に指定している。その理由の一つに「既知の全ての個体群がその再生産能力を上回る採取圧にさらされている」・・・ということは、落葉広葉樹林の減少による生育環境の悪化もさることながら、山野草ブームによる盗掘も大きな原因のようだ。山野草は「採るのではなく、撮る」だけにとどめたい。
 ツボミから花が開く頃になると、花の下だけでなく、茎の中間部にも羽状の葉が出てくる。春一番の陽光に、襟巻きと緑のスカートをまくり上げて、ダンスを踊っているようにも見える。

 フクジュソウの生息環境は、やや湿った落葉広葉樹林の林床で、特に石灰岩地を好む。沖縄を除く北海道から九州まで分布するが、寒冷地を好むらしく、北海道や東北に多く自生している。
 暖かい陽射しが降り注ぐ斜面は、花の開く角度も大きい。
 村の庭先斜面に群生していたフクジュソウ
 巨木の根元周辺を黄色に彩り、白神の森に春一番が訪れたことを告げる。こうした光景を眺めていると、「共生」「循環輪廻」といった言葉が脳裏をかすめる。
 岩崎村大間越の福寿草公園
 花にできるだけ近づき、様々な角度からアップ撮影をしていると、不思議なほど個性を持っていることに気づく。この写真から、私は湖沼に浮かぶハスの花を連想してしまった。
 下から逆光で撮影すれば、黄金色に輝くチューリップのようにも見える。

 フクジュソウ(福寿草)は、春一番に咲く身近な花だけに、様々な別名を持っている。元旦草、元日草、正月草、歳旦草、朔日草、長寿菊、長寿草、報春花、土満作・・・。ちなみに津軽では「マゴサグ」「マンサグ」と呼ぶ。
 地上から芽を伸ばした茎は、真っ直ぐ伸びるものと思い込んでいたが、写真のように右に左に折れ曲がっている株も見られた。春一番を自由気ままに表現しているようにも見え、見れば見るほどオモシロイ。
 こちらは、地上から真っ直ぐ伸びた株。全草が非常に危険な有毒植物で、死亡例もあるという。地面から芽を出したばかりの頃は、フキノトウと間違えて採取し、中毒を起こすらしい。症状は、嘔吐、下痢、呼吸困難、心臓麻痺など。一方、毒は薬になるらしく、昔からこの根を煎じて強心剤、利尿剤など薬草として利用されてきた。ただし素人が手を出せば、中毒を起こす危険も大きく、ただ鑑賞するだけにとどめたい。
 林内に円を描くように咲くフクジュソウ。

 フクジュソウの保全対策の項には、興味深い記述が見られる。「本種の生育環境となる二次林は、そのまま手をつけずに保全するよりも、むしろ除伐や草刈りなど、積極的な環境管理が必要である」・・・つまり、里山の手入れを怠れば、フクジュソウも絶滅の危機に瀕するということ。こうした人と自然の関係を理解できない自然保護論者も少なくないのは残念なことだ。

 写真は二次林の雑木林だが、ようく眺めてほしい。林床には、低木や笹がほとんど無いことが分かるだろう。これは村人が定期的に下草を刈っている証拠。だから日当たりもいいし、地面に落ちた大量の落ち葉でフカフカ状態を維持することができる。こういう場所は、フクジュソウにとっても天国なのだ。こうした村人たちのたゆまぬ維持管理を見落としてはならない。
 雪国に春一番を告げる花と言えば、バッケ(フキノトウ)も同じ。ところが、なかなか見つからない。やっと沢沿いの土手に芽を出したバッケを見つけた。それも群生というのにはほど遠く、ポツリポツリといった感じで、絵になる写真は撮れなかった。つまり、日本海側に位置し、いきなり白神岳稜線へせり上がる岩崎村では、バッケよりもフクジュソウの花が一足早く咲き誇る。村の花がフクジュソウという理由もよ〜く分かる。
 沢沿いに歩き、芽を出したばかりのバッケ(フキノトウ)を摘む。これをバッケ味噌にして食べたらしこたま美味かった。バッケ味噌(右の写真)の作り方は、少々面倒だが・・・

 まずバッケ特有の強いアクを抜くために洗った後水にさらす。次に沸騰した鍋に入れてサッと茹でる。すかさずザルに入れた後、冷たい水に半日から一日ほどさらす。水気を切り、刻んだバッケをごま油で簡単に炒める。すり鉢に、バッケと同量の味噌、その1/4ほどの砂糖、酢、ミリン、酒を少々入れ、炒めたバッケとともによくスリコギでかき回す。この時のコツは、バッケを磨り潰すように何回もかき回すこと。春の香り満点のバッケ味噌が出来上がる。保存性も高く、酒の肴、ご飯のオカズにピッタリだ。
雪解けの草花を連想させる写真
 眼に鮮やかな黄色い花を見ていると、山田洋次監督の名作「幸福の黄色いハンカチ」を思い出す。殺人罪の服役を終え、刑務所から出てきた男・健さん。その男を出迎える妻・倍賞千恵子が飾った「黄色いハンカチ」。何枚もの黄色いハンカチがはためく感動のラストシーンは、何株もの黄色いフクジュソウと重なるものを感じる。
フクジュソウ(福寿草)メモ
  • 雪解けとともに花を咲かせ、木々が芽吹く頃には枯れてしまう「春のはかない草花」(スプリングエフェメラル)の代表的な早春植物。同種に、カタクリ、キクザキイチゲ、ニリンソウ、イワウチワなどがある。
  • 花期は、3月から4月。雪解けとともに地表にツボミと芽を出し、数cmの高さで花を開く。この頃が最も美しい。やがて草丈は15〜30cmにもなる。
  • 花は光沢のある黄色で、20〜30枚の花弁は、日が当たると上向きに開く。
  • 葉は羽状に細かく裂け、花が咲き頃は小さいが、花後は大きく茂る。江戸時代から栽培され、園芸品種も多い。
  • 花言葉・・・永久の幸福、思い出、幸福を招く、祝福

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