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 ブナの森に包まれた水と緑の回廊

 白神山地で最も好きな場所はどこか、と訪ねられれば、私は迷わずこのサカサ沢だと答える。ブナの森は一級品、深緑に染まった穏やかな流れ・・・母なる慈愛に満ちた空間をのんびり歩けば夢心地に浸ることができる。赤石川大ヨドメの滝上流の穏やかな空間も素晴らしいが、こちらの方がブナ林のスケールもデカイ。白神山地のブナ原生林と清流を代表するスポットと言える。ただし渇水ともなれば、やや水量が少ないのが難点だが、本日は普段の倍以上の水量・・・これ以上ない美わしい光景を見せてくれた。 
 ところどころに快適なナメ床もある。しかし、侵食が激しく凹凸が目立つ。変化に富む渓谷美、イワナが群れる淵などを期待する人ならきっと落胆するだろう。流れは延々と平凡なままで、せせらぎの音だけが静寂の森に響く。
 不思議なことに、サカサ沢にはサワグルミがほとんど見当たらず、見渡す限りブナ林とチシマザサに覆われている。それは何故なのだろうか。沢は平らで広い。水の浸食は、均等に両岸を削り、森はちょっとした高台に形成されている。これが水辺を好むサワグルミの侵入を拒んでいるに違いない。
 二又から数百メートル下ると、左岸の高台にテン場がある。ブナの森に囲まれた素敵なテン場だが、洗い場が砂地になっているのが唯一の難点だ。右の写真は、そのテン場周辺に群生するウルイの花。
 ブナの巨木も目立つ。それは風と大きな関係があると思う。日本海から吹き降ろす強風は、ツツミ沢を走り追良瀬川本流へと吹き抜ける。サカサ沢は、不思議なほど風の影響を受けない地の利がある。残雪と新緑の頃、真瀬川三の沢を詰め稜線に躍り出ると、サカサ沢に広がる新緑の樹海と白い衣を纏った白神岳稜線の美しさは圧巻だ。
 緑のトンネル核心部。一列に歩いていた隊列が乱れるほど、旅人の心も開放感に満たされる。
 渓に張り出したイロハモミジ・・・秋、モミジの葉が真っ赤に染まると、この下を尺イワナたちが群れをなして上流に遡上することだろう。
 ムシカリ(オオカメノキ)・・・春に白い花をたくさん咲かせ、夏になると真っ赤な実をつける。渓を彩る代表的な落葉低木。
 ツツミ沢合流点が近くなると、ブナのトンネルも終わり、黒い岩盤が目立つようになる。水温と気温との落差が大きく、水面からモヤが立ち込めていた。下る旅人に驚いたイワナたちは、瀬尻から淵頭へ向かって走った。楽しい、楽しい・・・。
 夏の渓、至る所で見掛ける代表的な大花・シシウド
 サカサ沢唯一の落差のあるナメ滝。これぐらい緩い傾斜なら、イワナも楽々遡上できる。魚道もこうした天然の魚道に見習って欲しいものだ。
 追良瀬川源流二又。左がサカサ沢、右がツツミ沢。右のツツミ沢源流には、白神山地最大の滝、日暮しの滝(白滝)100mと黒滝がある。日暮しの滝は女性的で、黒滝は男性的な滝だ。黒滝の右岸を巻き、津梅川上流カンカケ沢へ抜けるルートは、かつてサクラマスを捕るために山越えをした道でマス道とも呼ばれている。ただし稜線は沢を一本間違うと、とんでもない場所に出るので要注意。
 日暮しの滝(白滝)・撮影:平成6年5月下旬・・・滝の真下からでは、白滝の全体を見ることはできない。対岸の斜面を登ると初めてこの巨大な滝の全貌を見ることができる。俗称・日暮しの滝は、日暮し眺めていても飽きないほど美わしい滝との意味がある。特に残雪と新緑の季節が、水量も多く、見る者を圧倒するほどの迫力がある。
 二又下流には、二箇所のテン場がある。左のテン場は、雨が降ると山際の湿地から水が流れ出すので快適とは言えない。右のテン場は、私たちが初めて開拓したテン場だ。春には、カタクリ、ニリンソウ、ヤマワサビなどの山野草に囲まれ夢心地の気分を味わうことができる。ただし唯一の欠点は、日本海から吹き降ろす風をまともに受ける。これまで強風に何度悩まされたか数知れない。それだけに、今ではほとんど使用することがなくなった。どこのテン場もゴミはほとんど見当たらず、入山者のマナーの良さは格段に良くなっていることが伺える。入山者のマナーの悪さが「入山禁止」の大きな原因として挙げられていたが、現場をつぶさに検証してみると全く根拠のない話である。
 靄に煙るマス止めの滝(マス止めの淵)・・・サカサ沢・ツツミ沢合流点からすぐ下流に落差1mほどの大きな淵がある。かつては、河口からここまでサクラマスが大量に遡上したという。美味な魚だけに岩崎村の人たちは、小又沢上流カンカケ沢を登り詰め、ツツミ沢を下って、このマス止めの淵までやってきた。さらに滝川支流ヤナギツクリの沢から五郎三郎の沢を下り、追良瀬川へ抜けるマタギルートもまた然りである。
 ノコンギクとマス止めの滝

 白神山地を流れる川の中でも、追良瀬川の秀逸している点は、河口から源流までサクラマスやアメマス、天然のアユなどの遡上を阻む滝が皆無なこと。現在は、発電用の追良瀬堰堤などで分断され、下流には魚道も機能しないような水量しか放流されていないのが現実だ。源流部に生息するイワナの魚影を赤石川、滝川、大川、粕毛川、津梅川などと比較してもナンバーワンである。つまり追良瀬川は、白神山地最大のイワナの楽園でもある。 
 水量は普段の倍もあり、初心者の渡渉は困難を極める。この後、私が上流、美和ちゃんが下流に陣取り、お互いのザックのベルトをしっかり持ってスクラム渡渉を繰り返した。「さあ気合を入れて」と叫んで激流を一気に渡る。スクラム渡渉は、二人、三人、四人と組めばかなり強力だ。安全なだけでなく、仲間の一体感を最も強く感じられる渡渉法だと思う。美和ちゃんは、この渡渉法に心酔していたようだ。しかし後で待っている金光さんから「早ぐ 行げ」とせかされてしまった。
 ナメ滝シャワーのマイナスイオンを全身に浴びて下る。夏の渓流ウォーキングは、これに勝るものなし。
 ウズラ石沢合流点左岸、高台のブナ林・・・広い河原状の追良瀬川は、ウズラ石沢合流点近くになると渓が急に圧縮される。水量が多い時は、左岸の高台を高巻き、ウズラ石沢に降りるルートが一般的に使われている。かつては、明瞭な踏み跡が残っていたが、今は歩く人も少ないのか、ほとんど薮と化していた。この高台にはテン場跡もあったが、水場が遠く、とても快適とは言えない。増水した場合、やむなくビバークするには最も安全な場所だが・・・。
 ウズラ石沢下降点は、連日の雨で泥壁がすぐに崩れた。安全を期し、ブナにスリンゲを巻き付け、布テープでウズラ石沢に降りた。
 ウズラ石沢が本流に合流する地点・・・追良瀬川最大の支流が合流するだけあって、この淵は深く大きい。天候に恵まれれば、ここで泳ぐ予定だったが、震えるほど寒く断念せざるを得なかった。
 本日の昼食は、夏の渓の定番「清流流し素麺」・・・素麺を大鍋で茹でた後、川虫捕り用の網に茹でた素麺を入れ、「清流流し」をしているところ。
 「白神清流流し素麺」を食べるポーズ。なかなか粋に見えるが、ウズラ石沢を吹き抜ける風は殊の外冷たく、柴ちゃんの全身は小刻みに震えていたのだった。
 白神の清流で冷やした素麺は最高の味・・・薬味にみょうが、万能ねぎを細かく刻み、ワサビを加えて冷たい素麺を食べる。借景も申し分なし、美味いことこの上ない。ただ気温が17度と極端に低く、とても夏と呼べるようなものではなく、秋風に震えながら食べている感じだったのが残念だ。この後、余りの寒さに全員雨具を着込んで食べた。この寒さに下流を下る戦意を完全に喪失、あっさり計画を変更することとあいなった。
 ウズラ石沢の入り口は、圧縮されたV字谷で、いつも暗く、冷風が吹き抜ける場所である。逆に暑い夏は、天然クーラーのように涼しい場所でもある。私と金光さんはウズラ石沢へ何度も来たことがあるけれど、柴ちゃんと美和ちゃんは初めて訪れるコース。二人が新鮮な感動を得られるのであれば、それで満足としよう。新人歓迎の沢歩きだから、どこへ行っても最高と言うべきだろう。・・・などと勝手な屁理屈をつけて楽チンモードに突入した。
 ウズラ石沢は、分水嶺の津梅川と並び花崗岩で大変美しい渓流だ。その名前の由来は、花崗岩の黒い斑点がウズラの卵に似ていることから名付けられた。ここのイワナは、その白い花崗岩に同化したのか、それとも水源である白神の衣を纏っているのか、不思議なほど白いイワナが生息している。
 ウズラ石沢入り口に荷を置き、快適なテン場を探す。これまでウズラ石沢に野営したのは、津梅川本流を詰めて、ウズラ石沢中間点に下降した時以来だ。記憶では、400m上流の右岸から流入する小沢上流に来ると、急に渓が開けてくる。そこをポイントに探したら、左岸にこれ以上ない素敵なテン場があった。
 テン場は、平らで、頭を上下交互にして寝ても全く問題なし。上段にもう一張りできるほど広い。周囲は、チシマザサが茂っているが、ブナの巨樹も見事だ。

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