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 2003年9月27日、久しぶりに家族で白神岳へ。車止め・標高200mから山頂・1232m、標高差1000mを超える登山は、決して楽ではない。所要時間は、上り約3時間半、下り約2時間であった。県外から世界遺産・白神岳を訪れる団体の登山者も多く、その人気の高さに驚かされた。しかし、初めて訪れる登山者たちから、「これがなぜ世界遺産なのか?」という落胆の声が漏れた。こうした失望の声は、どこに原因があるのだろうか。それを含めて紹介したい。
 車止めにあった白神岳案内板。ここでニコンクールピックスのメモリーカードを忘れていたのに気付いた。やむなく、娘に使わせようと持ってきたソニーCyber-shot Uを使うしかなく、ちょっと物足りない画像しか撮れなかったのであしからず。昨今の白神岳登山ブームを証明するかのように、驚くほど大きな駐車場とトイレができていた。
白神岳登山ルート拡大図
 白神岳登山ルート図はカシミール3Dで作成。拡大図はMAPをクリック

 車止め・標高200m-二股分岐(45分)-最後の水場(45分)-マテ山841m-977m-十二湖コース分岐点(1時間45分)-白神岳・1232m(15分)・・・コースタイムは、案内板に記された時間で、合計3時間30分。私の足でも、休憩を含めてほぼ同タイムで山頂に立つことができた。ただし初心者ならプラス30分〜1時間程度の余裕を見るべきだろう。
 旧白神岳登山道口・・・大駐車場から無味乾燥な舗装道路を歩くと、まもなく旧登山道口に達する。かつては車が数台しか駐車できない狭いスペースだった。世界自然遺産に登録されてから10年、隔世の感を抱く。
 登山道口を進むとまもなく、正面に仁王立ちしたブナの巨木が立っている。かつて、和賀山塊の日本一のブナ探訪を契機に、この巨木の幹周りを測定したことがあった。当時の測定値は幹周り5.3m、ブナの全国ベスト10に入る巨木だった。
 雨が降ればぬかるんで歩きにくい場所や急斜面でロープが張られていた場所などには、木製の階段が整備され、歩きやすくなった。けれども、杉に植林された貧相な景観が続くのは残念だ。
 二股分岐点に設置された案内図。
 最後の水場・・・急斜面から湧き出す湧水は、五臓六腑に染み渡る冷たさで、白神の名水の一つ。登山客は、その美味さに感服。わざわざペットボトルに入れてお土産に持ち帰る人も多くいた。
 最後の水場を過ぎると、急斜面が続く。次第にブナの森も深くなり、やっと白神山地らしい景観となる。
 ブナの森の散歩道をゆく。
 斜面はきついが、なかなか見事なブナ林に覆われている。しかし200年から300年もの苔生す巨木はほとんど見当たらない。日本海から吹き上げる強風をまともに受けるためだろう。鬱蒼とした原生林を形成するには、白神岳稜線より内陸部で風と雪崩の影響の少ない緩斜面でないと無理のように思う。
 急斜面には、ブナとブナの根元にロープが設置されている。中高年登山者が多いだけに、こうしたロープは大活躍しているようだ。
 急斜面を登り切ると、稜線沿いにブナが林立する穏やかな登山道が続く。
 ブナの木の根道・・・幹の太さに比べて、ブナの根が意外に浅いことがよく分かる。
 ブナの林床には、笹竹が生い茂っている。森の中には、風倒木も多い。6月にはタケノコ、秋にはキノコ採りも楽しそうだ。
 白神岳山頂まであと1.5km地点。
 早くも黄色に色づき始めたブナ。
 ナナカマドの真っ赤な果実・・・紅葉が美しい樹木の一つだが、焚き火の材としては不適。名前の由来が、燃えにくく、7回カマドに入れても燃え尽きないことから名付けられた。
 森林限界を越えると、主稜線がすぐそこにあるように見えるが、意外と遠い。紅葉初期といった感じだが、登るに連れて日本海側から雲海が激しく流れ出し、白神岳稜線をあっというまに覆い始めた。
 十二湖コース、白神岳コースの分岐点。奥に笹内川と追良瀬川の分水嶺が見える。
 左の稜線が十二湖コース・・・ちょっと歩いてみたが、歩く人は少ないようでブッシュに覆われ、大変歩きづらく、見晴らしもいいとは言い難い。しかも、このルートは、世界自然遺産の核心部・追良瀬川流域は見えず、保全利用地区の笹内川流域と日本海しか見えないのが残念だ。肝心の白神山地最高峰の向白神岳(1243)に至るルートには登山道がない。
 笹内川右岸、白神岳-向白神岳稜線は、美しい紅葉に染まっていた。この尾根を縦走できれば最高なのだが・・・。
 やっと白神岳が目の前に飛び込んでくる。右の日本海から吹き上げる雲海にピークは見えなくなってしまった。残念、残念・・・。
 見晴らしの良い主稜線登山道だが、一帯が厚い雲に覆われ、視界がますます悪くなった。
 手前に石碑、奥に小さな祠の白神神社が見える。
 白神岳から非難小屋(右)と登山者用トイレ(左)を望む。手前下の笹薮ルートが、ウズラ石沢に至るルート。
 白神岳山頂・・・山頂で昼食を楽しむ登山者。正面の雲間から向白神岳が顔を出す瞬間を待つが、晴れる気配はなかった。天候に恵まれれば、北東に岩木山、八甲田連峰、南に男鹿半島や鳥海山、森吉山、秋田駒ケ岳の展望が素晴らしいのだが・・・。
 白神岳山頂から世界自然遺産の核心部・追良瀬川の谷を望む。左の窪地を下ると白神岳へ至るゴールデンルート・追良瀬川支流ウズラ石沢の源流部に達する。流れる雲海が邪魔をし、残念ながら全貌を見ることができなかった。それでも、この谷の懐深く歩き回った者にとって、白神の盟主・白神岳から見下ろすブナの樹海と深い切れ込みを見せる谷の景観は、格別なものがあった。しかし、この谷底を歩いたことのない人が、この頂から世界自然遺産・白神山地の素晴らしさを想像することはちょっと難しいだろう。
白神山地の美わしさは、「ブナの森と清冽な渓谷」にある
 残雪とブナの新緑、その遥か頭上に白い雪をまとった白神岳稜線が聳え立っている。こうした神々しい絶景は、山の頂からでは決して見ることができない。「白神山地世界自然遺産の意味」を知るには、沢から沢へのルートを辿り、世界自然遺産核心部をスローに歩くことに尽きる。(追良瀬川源流部)
 早春・・・残雪とブナの新緑に酔いしれる。スノーブリッジに埋め尽くされた西の沢を転がるように下り、ブナの新緑と雪代で沸き返る滝川源流アイコガの滝へ。
 白神の素晴らしさは「ブナ林の恵みの豊かさ」にある。春から夏にかけて、アイコ、シドケ、ウド、タケノコ、ミズ・・・秋には、ブナハリタケ、ナラタケ、ナメコ、ムキタケ・・・山菜・キノコ文化と形容されるほど、その恵みは豊かである。
 夏・・・ブナの深緑と水の回廊をゆく。

 標高差1000m余りも登り、白神岳の山頂に立つ。けれども登山者からは「どこにでもある普通の登山と変わらない。なぜこれが世界自然遺産なのか」といった失望の声があった。白神山地の山々は標高がせいぜい1000m前後に過ぎない。さらに尾根は背丈以上の密生した笹薮に覆われ縦走もままならない。北アルプスや飯豊・朝日連峰などを例に出すまでもなく、残念ながら登山としては二流、三流の山と言わざるを得ない。その証拠に、世界自然遺産になる以前は無名の山だったことを考えると、登山者から失望の声が出たとしても、それは正直な感想のように思う。
 秋・・・清冽な渓谷とブナの風倒木に生えたナメコ。

 白神山地の真の魅力は、山の頂にあるのではなく、ブナの原生林に覆われた清冽な渓谷にあることを忘れてはならない。白神山地で登山と言えば、沢登りがメインである。それを知らずに、「世界自然遺産」というネームバリューだけに惹かれ、白神岳が何か特別な景観と感動をもたらしてくれるのではないか・・・と思い込んでいる人が意外に多い事実に、いつも驚かされる。世界自然遺産の登録から10年、白神が超有名になったとは言え、実は何も理解されていないように思う。
 晩秋・・・錦秋の渓谷美

 「白神山地・四季の輝き 世界遺産のブナ原生林」(根深誠著、JTB)には次のように記されている。「流域から分水尾根を越えて流域へ移動しながら釣り歩く山旅は、このブナの山々の原生的自然を楽しむに相応しい魅力的な山行スタイルである。

 しかしながら誰もが渡渉を繰り返して沢を遡行し、イワナを釣り、焚き火をを起こし、山菜やキノコを採取して料理できる、というものでもない。私の経験からすれば、山好きな人であってもできない方が多いのである。登山靴やハイキングシューズは履き慣れていても地下足袋には馴染まないのと同様、白神山地の魅力を楽しむには登山道を歩くのと違って、残念ながら誰でもというわけにはいかない

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