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ブナの森と渓流で出会った蘚苔類や地衣類図鑑 2003.8.27
 沢歩きで最も心惹かれる風景は、清冽な流れと瑞々しい苔の群れである。森の暗い林床や滝まわり、樹齢を重ねた巨木に着生した苔の緑は、清楚で美しい。苔のある風景は、古くから古色、永劫、森厳、静寂、隠逸、孤独といった情緒を象徴するものとされ、日本人の「わび」「さび」の思想や禅の心と深くかかわってきた。(白神山地の小沢)
 苔は、深山幽谷の風景に欠かすことのできない脇役、いや主役と言ってもいいかも知れない。「苔の衣」「苔の袂」「苔の袖」は、隠者や僧侶の衣服を表す言葉で、世捨て人の境遇を表現している。また「苔の庵」は、隠遁者が住む粗末な住居を、「苔の岩戸」は、行をつむ岩窟を表している。こうした苔と日本人の深いかかわりは、何となく山釣りと通じるものを感じる。(森吉・粒様沢)
 というわけで、これまで撮りためた写真をもとに、苔の種類を調べようと図鑑を眺めたが、これが何とも難しい。山野草やキノコなどと違って余りにも小さく、写真だけでは判別が困難だった。ここでは渓流でよく見掛ける代表的な苔を○○科程度のアバウトな分類にとどめるしかなかった。もしかして名前が間違っている場合もあるかと思うので、お気づきの方はご指摘いただければ幸いである。(太平山系・大蓋沢)
ハネヒツジゴケ
 代表的な苔のアップ・・・渓流沿いの風倒木などに群生するハネヒツジゴケ。苔はヒツジの毛のように分厚く覆い、細い赤褐色の芽のようなものがたくさん生える。これは苔の胞子体で、胞子体の上の胞子が入る部分を(さく)と呼ぶ。朔の下にある赤褐色の柄を剳ソ(さくへい)と呼ぶ。

 写真下の緑の部分は、一般に緑の苔として見える部分で、配偶体と呼ばれる。根、茎、葉の区別はない。やがて配偶体の上に寄生的に雌雄の生殖器官ができ、受精卵が成長して胞子体となってのびる。その先端に凾ェできる。つまり、苔は、配偶体と胞子体の複合体が大きな特徴である。(森吉・粒様沢)
 アオハイゴケ
 谷川の岩の側面などに水中から水面上にかけて暗緑色の群落をつくる。北半球に広く分布し、日本でも全土にみられる。(太平山系)

 苔は、なぜ岩や木の幹、風倒木などに生えるのだろうか。苔は体が小さく、シダ類や種子植物との生存競争に勝つことは難しい。そこでほかの陸上植物が生育していない場所、つまり岩や巨木の幹、風倒木など利用できそうなあらゆる場所を利用しているのである。こうした苔の生態を考えると、無用な競争を避けて「棲み分け」しているとも言えるだろう。
ミズシダゴケ
 渓流沿いで最も多く目にする苔で、渓流や滝のしぶきが当たる場所を好む。規則的な羽状の枝分かれしたシダを思わせる。

 苔類は、キノコやシダ植物と同様胞子で増える。また苔は、緑色から分かるように葉緑体を持ち光合成を行う。葉緑体を持たず、他の生物に栄養を依存しているキノコやカビの仲間とは大きく異なる。(白神山地追良瀬川・ツツミ沢源流)
ムチゴケ
 ムチのような細く長い枝を茎の下面から出す。左右二列に規則正しく広げる。その姿がムカデに似ていることからムカデゴケとも呼ばれている。(白神山地大川)
アソシノブゴケ
 一瞬、苔ではなくシダ植物ではないかと思うほど不思議な苔。日本全国、土の上、岩の上、木の幹などに黄緑色の美しい群落をつくる。主茎についている枝の先端は、糸状に延びるのが特徴。本種は、コケ庭の材料としてしばしば使われる。(白神山地追良瀬川支流ウズラ石沢)
ジャゴケ(蛇苔)
 低地から亜高山帯までの湿った地上や岩の上に生え、葉状帯は濃緑色で独特の香りがある。ゼニゴケに似ているが、表面に蛇のウロコのような模様があるのが一番の特徴。(白神山地追良瀬川支流ウズラ石沢)
コツクシサワゴケ(タマゴケ科)
 渓流沿いの明るい、湿った岩の上に生え、まるで岩の上に緑の絨毯を敷いたように群落をつくる。(白神山地追良瀬川支流ウズラ石沢)
クロカワゴケ
 渓流の流れの緩いナメ床や湧水の石周辺などに生える。茎はときに長さ1m以上になることがある。比較的寒い地方に多いが、河川改修や水質汚濁で絶滅が危惧されている種でもある。カワゴケとの大きな違いは、葉の付き方が平面ではなく立体的であること。(森吉山・ノロ川)
ヒシャクゴケ科
 深山の滝の近くなど、飛沫に濡れた岩の上に群生する。山釣りで最も馴染み深い苔と言えるが、日本産で3属約30種もあるらしい。(和賀山塊マンダノ沢)
 ムラサキヒシャクゴケ・・・亜高山帯の渓谷の水をかぶる岩上などに生え、緑色で、しばしば紅紫色となる。(八幡平小和瀬川源流)
サナダゴケ科
 湧水が滴り落ちる岩の上、木の根元などに大きな群落をつくる。(白神山地大川・大滝又沢)
 サナダゴケ科2・・・ブナの根元に群生していたサナダゴケ。天空を覆う葉で集めた雨水は幹を伝い、この根元を一気に走る。よくよく考えてみれば、湧水が滴り落ちる条件と似ていることがわかる。(白神山地岳岱風景林)
エゾスナゴケ
 低山から高山まで分布するごく普通の種で、河原の砂地などでは半ば砂に埋もれた格好で生えている。比較的大きな群落を形成する。乾燥に強い美しい苔の一つで、コケ庭の材料として利用されている。(写真は北海道日高)
ブナ林は地衣類の楽園
 ブナの幹は、木肌が見えないほど地衣類や苔に覆われている場合が多い。ブナ帯は、亜高山の針葉樹林帯と並んで地衣類、苔の豊富な地域である。こうした母なる木・ブナと苔、地衣類の共生の美は、多種多様で興味が尽きない。(白神山地岳岱風景林)

 ブナの森は、冬に葉を落とすため非常に明るく、また照葉樹に比べて葉が薄いため夏でも比較的明るい。地衣類はこうした明るい場所を好む種類が多く、ブナ林では、幹から枝まで地衣類に覆われていることが実に多い。ブナ林は、「地衣類の楽園」とも呼ばれている。
地衣類、カブトゴケ科
 ブナ帯の木の幹に着生し、葉状に生える(葉状地衣と呼ばれている)。地衣体の色は、種類によってかなり異なる。幹に着生する苔は、キノコやカビなどの菌類と同じ地衣類がほとんど。地衣類は、菌と藻からなる複合生物。体の中に藻類の細胞を取り込み共生している。この藻は光合成を行い、地衣類はその栄養をもらって育つことから共生藻と呼ばれている。(白神山地サカサ沢)
オオトリハダゴケ
 ブナの幹は、白や灰色、灰緑色など、さまざまな地衣類に覆われ、モザイク状を呈している。わずか30センチ四方に20種以上が認められることも少なくないという。灰白色でブツブツにイボ状に盛り上がった地衣体がオオトリハダゴケである。(白神山地)
ブナ林を代表する葉状地衣・ナメラカブトゴケ
 ブナの風倒木に生えていた大型のカブトゴケ。北海道から九州のブナ帯上部から針葉樹林帯にかけて、木々の樹皮に着生する。普通は長さ10〜20センチだが、集合すると長さ1m以上にもなる。(白神山地追良瀬川支流ウズラ石沢)  
アオゾメサネゴケ
 地衣体は灰色で目立たないが、被子器の先端が黒点となって見える。低山帯からブナ帯の落葉樹の幹に着生する。(白神山地)
ホテイシダ
 ブナの巨木の幹に植物が顔を出しているだけで驚かされる。ホテイシダは、深山の岩や木の幹に苔とともに生えるシダ植物。葉は薄く、中央より下が最も幅広い。(白神山地サカサ沢)
ブナの幹に生える蘚苔(せんたい)類
 蘚苔類は、体に含まれる水分量が変化しても生存できる特異な植物で、樹皮のように水分の少ないところで巧みに空気中の水分を利用している。ただし地衣類と競争しなければならず、時には負けてしまうこともある。特に明るい林冠部で分が悪いという。ブナの樹皮に着生する蘚苔類は150種が知られている。(白神山地サカサ沢)

樹幹の基部・・・ヤマトヒラゴケ、ミヤマギボウシゴケモドキ、エゾイトゴケ、オオギボウシゴケモドキ、コクサゴケ、ヒメクラマゴケモドキ、ケクラマゴケモドキなどがマットをつくる。

湿った日陰の樹幹中部・・・ヒナイトゴケ、イタチゴケ、イボヤマトイタチゴケなど蘚類が大きな純群落をつくる。乾燥した日陰には、ヒムロゴケ、エゾヒラゴケなどがややまばらなマットをつくる。日当たりの良い樹幹には、チャボスズゴケ、シダレヤスデゴケなどが地衣類に混じって生育する。

林冠部・・・地衣類が主で、蘚苔類はわずかしか生育していない。 
 ブナの根元は暗く、地面に近いため湿っている。それがために地衣類の着生は一般に貧弱で、蘚苔類に厚く覆われている場合が多い。(和賀山塊堀内沢)

 ブナの部位に特徴的な地衣類・・・根元には、ウラミゴケ、幹の中央部にはトリハダゴケ、幹の上部にはミヤマクグラやヨコワサルオガゼ、枝分かれした幹にはナメラカブトゴケ、枝先部分には、ヒモウメノキゴケ、アンチゴケ、カラタチゴケが着生している場合が多い。
 白神山地日本海側沿いのブナ林

 蘚苔類、地衣類は、雪の影響を強く受ける。ブナの幹が雪に埋もれる部分は、地衣類がほとんど見られないことから、積雪深を推定できる。白神山地の日本海側沿いは、積雪だけでなく激しい吹雪によって、地衣類がほとんど着生できないブナ林もある。つまりブナの樹皮そのものを見ることができる貴重な場所でもある。
ヒムロゴケ科
 ヒムロゴケ科・・・樹幹や岩壁に群落をつくる大型の苔。茎は一般に垂れ下がり、やや平らに密に分枝し、樹状になるが、乾くと先端が上向きに曲がる。撮影:白神山地津梅川
リボンゴケ
 ムキタケが生えていた倒木に群生していたリボンゴケ・・・日本各地の木や岩の上に普通に見られる苔で、平たい葉には強い光沢がある。撮影:白神山地大川
ノミハニワゴケ
 毛糸のような印象を受ける苔で、ナメコが生えていた倒木に群落を形成していた。撮影:白神山地大川
キノコと苔の共生美
 撮影:白神山地大川
 トチノキの樹幹を覆う緑のマット(和賀山塊堀内沢)
苔むす岩の造形美
 見る者によって様々な表情に見える巨岩と苔・・・白神山地追良瀬川支流ウズラ石沢で撮影したものだが、よく見ると右側に目と鼻、口、口髭、耳、頭の髪の毛などがある。サンタクロースのおじさんのようにも見える。さしずめ「白神サンタ岩」と命名・・・。
 不明?名前を教えてください・・・美しい苔類だと思って撮影したが、図鑑を調べてもそれらしい種が見つからなかった。もしかして蘚苔類ではないのだろうか。
 緑藻が生えていた小沢にイワナが走る。

 参 考 文 献
朝日百科「植物の世界12」(週刊百科編集部、朝日新聞社)
「ブナ林の自然誌」(原正利編、平凡社)
山渓フィールドブック14「しだ・こけ」(山と渓谷社)
「コケの世界--箱根美術館のコケ庭」(高木典雄ほか、東方書林)
参考HP コケ園芸と図鑑 コケの写真鑑

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